2009年は世界的なCO2削減の動きを受けて、バイオマスのマテリアル利用の研究や実用化が大きく進展した年であった。
バイオマス・プラスチック分野では、ポリ乳酸の高機能化と、多様な原料からの製品化の試みが進展した。ポリ乳酸は、従来からの高温と高湿度の環境に弱いという課題があったが、帝人では結晶構造を変えることで石油系ポリエステル(PBT,PBT)に匹敵する融点、200℃以上を有し、マツダの水素ハイブリット車のシート素材にも採用された。また、平和化学工業所では、耐熱性を高めたポリ乳酸を重量比で4割使った樹脂ボトルを発売開始した。
トウゴマから採れるひまし油由来のポリアミドは、デンソーのラジエータタンク等に使われ、石油由来の15%をひまし油由来のポリオールに変えてウレタン発泡させたものは、トヨタのクッションシートに使われている。研究開発では、三菱化学が植物の糖類の一種グルコールからできた「イソソルバイド」を利用した樹脂を、東レが微生物の発酵技術を使って植物繊維の主成分であるセルロース原料を出発点にして石油製品と同等の強度をもつ植物由来ナイロンをつくることに成功している。リコーは、ポリ乳酸ではない植物由来トナーを、京セラミタは、植物由来ポリエステルを使ったトナーを開発している。バイオマスと食料との競合の観点からトウモロコシ由来ではない植物原料からのプラスチック開発が今後増えていくものと考えられる。
バイオマス・マテリアルの最も身近なものの一つに木材由来の紙製品がある。製紙業界は、古紙リサイクルや製造過程で出る黒液のエネルギー利用によって環境負荷を減らしてきたが、巨大な装置産業のために小規模に発生するバイオマス原料からの紙製造に不向きであった。
小規模で紙をつくる試みが優良パルプ普及協会で行われている【*1】。地域の間伐材、企業の廃棄物、古着、バナナやトウキビの茎などの非木材資源から無薬品・非加熱パルプ装置でパルプをつくり、独自の紙製品をつくっている。企業や学校の廃棄物の利用先として紙に再生するという選択ができたといえよう。
古着ジーパンからできた紙
また、国の構造改革特区の北海道版である「北海道チャレンジパートナー特区」として、北海道北見市が「産業用大麻特区」の認定を一昨年に受けている。これは、酩酊作用のあるTHC含有量の低い産業用大麻を休耕地で栽培し、新しい産業を生み出すための試みである。同じような取り組みが十勝地域であり、こちらの作物は、「亜麻(フラックス)」を対象とし、食品、建築、敷料、観光などの領域を想定している。北海道では、次世代の作物の開発が強く求められており、日本での農業から工業製品をつくるモデルになることが期待されている。
<赤星 栄志(Hemp-revo,Inc. COE)>
*1 優良パルプ普及協会 http://www.kenaf.jp/