2008年、世界のバイオマス発電(およびコジェネレーション)は大小両規模で増加しており、約200万kWが導入され、累積のバイオマス発電容量は5200万kWに達した。特にフィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、スウェーデン、英国などEUにおいて増加し、中国ではバイオガスやわらなどの農業廃棄物からの発電が増え続けている【*1】。
世界のバイオマス発電容量(2008年までの累積推定値 100万kW)
(出所:自然エネルギー世界白書2009改訂版)
中国は2010年におけるバイオマスエネルギー発展目標として、バイオマス発電550万kW、バイオ液体燃料200万t、メタン発酵ガス利用量190億㎥、バイオブリケット燃料【*2】100万t、また年間一次エネルギー消費量に占めるバイオマスエネルギーの比率を1%にするとしている【*3】。
また、台湾では2009年6月、再生可能エネルギー法が成立。法案成立に伴い、経済部は再生可能エネルギー発電量を今後20年以内に650万〜1,000万kwへと増やすことを目標にした。1000億台湾元産業の誕生との期待も高まり、発電業者が台湾では手に入らない発電設備を輸入した場合は無関税とすることも決まった。
バイオマスなど自然エネルギー利用にも、経済危機の影響が出ている。国際エネルギー機関(IEA)によると、2009年の世界のエネルギー需要は最大2%減少した【*4】。国連環境計画(UNEP)が2009年6月に発表した「持続可能なエネルギーへの投資の世界的動向2009【*5】」によると、2008年の持続可能なエネルギーへの投資額(総額1550億ドル)は、経済危機により北米で前年から8%減少、欧州でも伸びが緩やかになった(2%)。一方、途上国では27%増加した。バイオ燃料は前年比9%減の169億ドルだった。
*1 自然エネルギー世界白書2009改訂版 http://www.isep.or.jp/GSR2009/GSR2009update_jp.pdf
*2 おがくずやワラなどのバイオマスを高圧で成形した燃料
*3 新華社2009年7月13日
*4 EA世界エネルギーアウトルック2009 日本語概要 http://www.worldenergyoutlook.org/docs/weo2009/WEO2009_es_japanese.pdf
*5 http://www.unep.org/Documents.Multilingual/Default.asp?DocumentID=589&ArticleID=6201&l=en&t=long
2009年5月、W-BRIDGEの研究委託により、マレーシアにおけるバイオ燃料の持続可能性調査を行った。その一環で、サラワク州ミリ市郊外のヤトロファ畑を計5カ所視察したが、乾燥地に強いと言われているヤトロファは5カ所とも、二次林を開拓してつくられた耕地に植えられていた。中には、樹齢数十年以上と見られる大木跡を焼いて整地された畑もあった。
現在、国際的に議論され定められつつあるバイオ燃料の持続可能性基準では、こうした元々森林であった土地を開拓して栽培された場合、土地利用転換に伴うGHG(温暖化ガス)排出を勘案して算定される。特に、森林から転換された土地では、多量のGHG排出を伴うため、ヤトロファなどバイオ燃料作物を植えても、温暖化対策効果は減少する。一方で、雨量のある熱帯地域では、放棄された耕地は多くの場合、しばらくすると植生が回復し、時間とともに二次林にもどっていく。その場合、耕作放棄地と見なすべきか、二次林と見なすべきだろうか。
2009年10月、スイスのローザンヌ市にある持続可能なバイオ燃料に関する円卓会議(RSB)事務局を訪問した際、この点について問うてみたところ、「開発時に炭素蓄積があれば、算定が必要」とのことだった。土地利用転換の問題は、今後、さらなる研究と検討が必要であろう。
<NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>
二次林を焼いて植えられたヤトロファ
バイオ燃料をめぐる2009年の最大のトピックは、バイオ燃料の持続可能性確保を目指す動きに大きな前進が見られた一方、バイオ燃料の経済的持続可能性への疑いが以前に増して強まったことであろう。
持続可能性に関しては、第一に、11月に持続可能なバイオ燃料に関する円卓会議(RSB)の持続可能なバイオ燃料規格「持続可能なバイオ燃料生産のためのRSB原則および基準:バージョン1」が完成、一定のテスト期間を経て、2010年中には最初の持続可能なバイオ燃料証書が交付される運びとなったことである【*1】。民間規格とはいえ、初めての世界標準である。欧州連合(EU)・米国等各国・地域の持続可能性基準も、これとの一定の整合性の確保を迫られることになるだろう。
第二は、米国の持続可能性基準の重要な要素の一つであるライフサイクルGHG(温暖化ガス)排出の計算に、バイオ燃料拡大の土地利用への間接影響を含める方向が固まったことである。2007年エネルギー独立・安全保障法は、2022年までの各年に利用が義務づけられる再生可能燃料(事実上はバイオ燃料)の最低量(再生可能燃料基準=RFS、2022年には360億ガロン)を定め、この基準を満たすべきバイオ燃料は、ガソリン、ディーゼルに比べてのライフサイクルGHG排出量を、法執行後に建設される施設で生産される再生可能燃料については20%以上、バイオディーゼルまたは先進的バイオ燃料については50%以上、セルロース系バイオ燃料については60%以上削減するものでなければならないとした。
この法の執行にあたり、環境保護庁(EPA)は、このライフサイクルGHG排出の計算で土地利用変化への間接影響を考慮に入れる立場を明確にし、これを考慮した主要バイオ燃料のGHG排出量を試算した【*2】。間接影響とは、2022年のRFSを満たすためのバイオ燃料生産増産が原料作物の価格上昇を通じて世界中で農作物増産を促し、そのために森林や草地が耕作地に転換されて大量のGHGが放出されることを意味する。EPAは、牧草地の耕作地への転換を想定、転換直後のGHG大量放出はそこで生産されるバイオ燃料の利用を通じて長年をかけて回収されることから、これを差し引いた30年後、100年後の排出純増を計算した。
計算結果は惨憺たるもので、現在生産されているバイオ燃料の大部分を占める天然ガスドライミルのトウモロコシエタノールも、大豆ディーゼルも、間接的土地利用変化を考慮に入れた結果、すべて失格ということになってしまった。これでは米国バイオ燃料産業が立ち行かない。設定されたRFSを満たすことも非現実的な話になる。
そこで、EPAはGHG排出量の計算方法を改めた。たとえばトウモロコシエタノールについて言えば、既存の工場からの排出量の計算は省き、“先進的技術”を採用した(と仮定した)新・拡張工場かの排出量だけを計算、間接影響の評価方法も大きく変えた。今年2月に発表されたその結果は、一定の先進的技術を採用したり、現在は家畜飼料として販売している副産物の蒸留かす乾燥工程を減らしたりする「近代的工場」からの排出の平均削減率は、ほぼ20%に達するということであった。間接影響による排出量は最初の試算のメガジュールあたり60gから30gへと半減した。こうして、2022年にどれほどの比率を占めるか予測がつかない「近代的工場」は、何とか救われることになった。
大豆ディーゼルについても同様である。しかし、間接影響を考慮するかぎり、既存の工場はほとんどすべて失格となる現実には変わりがない。【*3】
図8 近代的天然ガスドライミル製トウモロコシエタノールと大豆ディーゼルのGHG排出量
(単位:CO2換算kg/mmBTU)
第三に、「持続可能なパームオイルに関する円卓会議」(RSPO)が、これに参加する企業や生産者が守るべき原則と基準にGHG排出に関する原則と基準を明示的に含めることに合意した。これが採択されればRSPO脱退も辞さないとしていたマレーシアとインドネシアの業界団体が、これら原則と基準を強制的なものでなく、自主的に守るべきものとすることで妥協したためだ。これらの原則と基準は、EUの再生可能エネルギー指令に含まれる持続可能なバイオ燃料のGHG排出基準を満たすためにつくられた。EUへの輸出向けパームオイルバイオディーゼルをつくるための熱帯林・泥炭地破壊が止まるとも思えないが、多少の抑制効果はあるだろう【*5】。
他方、2008年秋の金融危機以来の石油価格の落ち着きで、大量の補助金にもかかわらず、バイオ燃料はすっかり競争力を失った。米国では、ガソリンの60%しかエネルギー価を持たないエタノールが、ガソリンと大して違わない価格で売られている(図9)。生産地・中西部からトラックや鉄道で輸送コストをかけて運ばれてくる沿岸部ではもちろん、生産地の中西部でも競争にならない。それでも生産が減らないのは、オクタン価を上げるためのガソリン添加物・MTBE(発がん性が疑われる)の禁止が各地で続き、その代替にエタノールが使われているからである。2009年1〜9月、米国では678,000b/d(1日平均バレル)のエタノールが生産されたが、うち400,000b/dはMTBEの代替品として使われる。ガソリン代替燃料として使われるのは278,000b/dにすぎず、エネルギー価で換算すれば、ガソリン相当で185,000b/d、ガソリン総消費(900万b/d)の2%足らずが石油代替燃料として使われるにすぎない。将来の再生可能燃料基準(RFS)の実現は非現実的と見られる。
バイオディーゼルはさらに厳しい状況にある。米国のバイオディーゼル生産量は、08年の7億ガロンが09年には一気に3億〜3.5億ガロン(推定)に落ちた。割高なバイオディーゼルに対する需要はほとんどない。2009年12月17日、アイオワ選出グラスリー共和党議員は、景気後退と信用危機のために、バイオディーゼル産業は既に雇用の半分以上を失った、能力の15%ほどしか稼働していないと語った。
また、英国石油(BP)が、途上国でバイオディーゼル用ヤトロファ栽培を進めるD1oil社との提携を断ち切ったことも特記しておきたい。「非現実的な期待に基づくヤトロファへの突進は金銭上の損害につながるだけでなく、地方コミュニティの信頼を損なうという恐れ」(FAO食料農業白書2008【*6】)が現実味を帯びてきた。
図9 米国におけるガソリンとエタノールの小売価格【*7】
<北林 寿信(農業情報研究所主宰)>
*1 http://cgse.epfl.ch/page84341.html 日本語仮訳 http://www.npobin.net/Biofuel.htm
*2 http://www.epa.gov/otaq/renewablefuels/rfs2_1-5.pdf
*3 http://www.epa.gov/otaq/renewablefuels/rfs2-preamble.pdf
*4 バイオ燃料のLCAについては、2009年10月に国連環境計画(UNEP)が発表したレポート、Assessing Biofuelsでも詳細に分析が行われている。 http://www.unep.fr/scp/rpanel/pdf/Assessing_Biofuels_Full_Report.pdf
*5 詳しくは http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/earth/energy/news/09110601.htm 等を参照のこと
*6 世界食糧農業白書2008報告日本語訳 http://www.jaicaf.or.jp/fao/publication/shoseki_2009_2.htm
*7 出典:http://tonto.eia.doe.gov/oog/info/gdu/gasdiesel.asp , http://www.dtnethanolcenter.com/
ブラジルは世界第一位のサトウキビ生産国である。生産量の伸びも著しく、1961年に約0.6億トンであった生産量は、2007年には5.1億トンとなり、約8.5倍に増加している(FAOSTAT2008)。サトウキビのうち、エタノール向けに利用される量は50%程度である。2007年におけるサトウキビ栽培面積は780万haであり、農地・牧草地を含む耕作可能地の2.2%。生産面積は、1961年から2007年の間に約5倍の伸びを示している。ブラジル政府の国家農業エネルギー計画では、2030年までにサトウキビ・エタノールをブラジルのエネルギー供給の18%に割り当てる計画であり、これには約1,400万haの農地が必要とされる。
サトウキビ生産面積はサンパウロ州が大きく、全土の50%以上を占めている(Martinelli, Luiz A. et al.2008)。2008年において、南・中央部のサトウキビ農地面積は716万haにのぼる。サンパウロにおいてサトウキビ農地は、主として牧草地から転用されたものであると言われている。
アマゾン熱帯林が広がる北部においては、サトウキビ農地面積は21,000haにとどまる。これは、北部には十分にサトウキビの糖度を高めるだけの乾期がないことによる。中・西部のゴイアス州は主要な農地開発地域であり、マトグロッソ・ド・スル州、ミナス・ジェイライス州などにおいても、農地拡大が生じている。マトグロッソ州においては、セラードや森林などの自然生態系から大規模なサトウキビ農地転換が進んでいる(図10)。
図10 マトグロッソ州における農地拡大と森林減少(2001-2004)
(出典:Morton(2006))
「バイオ燃料の需要拡大により貴重な自然生態系の破壊が生じるのではないか」という国際的な懸念に応え、ブラジル政府は、2009年9月、サトウキビ栽培農地設定のためのガイドラインである「サトウキビ・アグロ=エコロジカル・ゾーニング(ZAE)」を盛り込んだ法令案(Decree No.6961)を議会に提出した。これは、「接続可能なサトウキビ生産の秩序ある拡大をめざした公共政策に技術データを提供」することを目的に、生態系や土地の地質・脆弱性などを総合的に判断し、農地の拡大にあたっての判断基準を提示していくもの。以下の地域は、農地の新規造成からは除外される。
12%以上の勾配を持つ土地/原生植生に覆われている土地/アマゾン及びパンタナール生物群系及びパラグアイ河流域/保護地域/先住民族に帰属する土地/森林保留地域/砂丘/マングローブ など
また、食糧生産との直接競合を回避する。これらにより、全国土の92.5%が農地新規開発から除外となる。一方でこれを除外したとしても、「まだ6,348万haのサトウキビ耕作拡大の余地があり、うち1,803万haは高い生産潜在力を持っている」(法令案付属文書より)。ブラジル政府は、このゾーニングは「工場設置などの環境ライセンス発行の際の基準となるだろう。また、融資の際の判断基準ともなろう」と話している(2009年7月FoE Japanによるヒアリング)。一方、環境保全戦略は優れていても、その実施能力は万全でなく、州によって監視能力に差異があることを指摘する声もある。
ブラジルが、「サトウキビ・アグロ=エコロジカル・ゾーニング」により、バイオエタノール生産拡大に際しての国際的な懸念に、説得力のある回答を示したことは間違いない。今後の実施が注目される。
<満田 夏花(国際環境NGO FoE Japan)>
* 土地利用転換をめぐる問題については、バイオマス白書2009「コラム◆バイオ燃料生産に伴う土地利用転換とその影響」等を参照のこと
<参照・引用文献>
OECD/FAO (2007). OECD-FAO Agricultural Outlook 2007-2016 Martinelli, Luiz A. and Filoso, Solange (2008) Expansion of Sugarcane Ethanol Production in Brazil: Environmental and Social Challenges, Ecological Applications, 18(4), 2008, pp. 885–898 by the Ecological Society of America Morton, Douglas C. DeFries, Ruth S., Shimabukuro, Yosio E., Anderson , Liana O., Egidio Arai, Fernando del Bon Espirito-Santo, Freitas, Ramon, and Morisette, Jeff. 2006. Cropland expansion changes deforestation dynamics in the southern Brazilian Amazon. Proceedings of the National Academy of Scientists of the United States of America Rodrigues, Délcio and Ortiz , Lúcia. 2006. Sustainability of ethanol from Brazil in the context of demanded biofuels imports by The Netherlands