国内のメタンガス利用がようやく、軌道に乗り始めてきた。もちろん、従来もビール工場や食品加工工場などで導入され、経済性をもって利用されてきた例はあった。また、下水処理場での導入も比較的順調に進んでいる。
一方、家畜糞尿や一般廃棄物の生ごみを利用する施設では、特にメタン発酵後の消化液の処理に苦慮する例が多かった。消化液は液肥とすることが最も望ましいが、農業者や地域住民の理解獲得は一筋縄ではいかず、試行錯誤が続いてきたとも言える。
行政主体で運営されるメタン発酵施設の成功例の一つ、熊本県山鹿市バイオマスセンターの計画・運用に携わった(独)農業・食品産業技術総合研究機構の薬師堂謙一氏は、メタン発酵施設導入における多数の課題を洗い出し、念入りな事前調査と検討を踏まえて導入を図った。同氏は、「液肥の農地還元の実証栽培は、メタン発酵施設完成の3年前から始めること。生ごみを投入すると異物分別機の導入などに付加的な経費がかかるが、施設建設に住民の理解を得やすい。液肥利用は、特別栽培とセットで推進するとやりやすい。地域で農地還元できる量が、メタン発酵施設の処理量を決める」と語る(下のコラムも参照のこと)。
山鹿市バイオマスセンター
エネルギー供給構造高度化法(2. 国内の概況参照)の施行により、メタンガス利用は加速すると見られる。また、メタンガスはトラックなど輸送用車両に利用することも可能であり、水分量の多いバイオマス利用の有効活用法の一つとして、今後、一層の発展が期待される。
メタン発酵消化液は、液肥利用(農地還元)するのが最も望ましい。堆肥では良質堆肥にするのが難しく、副資材が必要となる。浄化処理は高コストの浄化処理設備が必要であり、浄化処理には多量の電力を必要とするためエネルギー的にマイナスとなる。凝集剤が多量に必要であり、これも高コストである。(ただし、浄化処理を前提として有機物負荷の低減や汚泥の減量化をするためにメタン発酵を組み込むことはありうる。)
消化液の施用先としては、水稲(基肥、追肥)、飼料作物、飼料用稲、畑作物などが可能であり、消化液の農地還元量の考え方としては、消化液中の窒素、リン酸、カリ濃度をもとに、作物別の肥料要求量に合わせて施用量を決定する。
消化液利用では、地域の作物ごとの栽培面積から施用可能量を計算してはならない。消化液散布回数は、増やすことが望ましい。散布できない時期は貯留槽に貯めることになるため、貯留槽の容積を大きくしなくてすむよう、できるだけ複数の栽培作物を組み合わせる。また、施用適期に合わせてバキュームカーや散布車などの確保が必要になる。消化液促進のための対策としては、特別栽培の推進や、液肥の生産コストをゼロにする(設備のランニングコストを廃棄物処理料でまかなう)、運搬経費と散布経費のみを農家から徴収する(農家にとっての施肥の経済合理性を確保する)ことなどが重要である。
* 本コラムは、バイオマス産業社会ネットワーク第93回研究会「地域のメタン発酵施設を成功させるポイント」(講師・薬師堂謙一氏)資料を、編集部の責任で再構成した。さらに詳細は、同研究会資料(http://www.npobin.net/research/93thmaterial.pdfよりダウンロード可能)を参照のこと。