7. 日本の森林・林業再生の狙いをどこに定めるか

それでは、日本の森林・林業の狙いをどこに定めるべきであろうか。一つには、官主導林政からの脱却を図ることである。地域それぞれの違いや急速な変化に対応するため、国から市町村に権限を委譲する。域内森林の総点検を行い、個々の状況に応じた森林の取り扱い(施業)・地域の森林の将来像を住民の総意で決める。自治体の職員が減っているが、管理形態については国や県とも協議する。森林のゾーニング(利用区分)を整理しなおし、地域で決める、といったことが考えられる。

森林計画制度、森林組合制度、保安林制度、国有林野制度等諸制度の多くは新たな時代に沿った見直しが必要となっている。さらに重要なのが、補助金依存からの脱却である。路網整備のためには補助金が必要だが、ビジネスとして自律的に展開する林業・林産業の確立には依存性を高める補助金は整理すべきである。

また間伐や択伐、さらには更新を伴う主伐を繰り返して木材を収穫する長伐期へと転換し、それと同時に森の健康を維持する「山を動かすしくみ」をつくる。その具体例は、日吉町森林組合の「提案型施業」である(8. 日吉町森林組合の取り組みを参照)。

そこでは、森林の多面的機能の持続的かつ高度な発揮という側面も非常に重要である。森林によっては複層林、針葉樹と広葉樹の混交林、天然林などへ移行させることが合理的な場合もある。木材や非木材林産物の利用だけを考えるのではなく、国土保全、水源涵養、温暖化対策や生物多様性など多面的機能が発揮できる森林を国民的議論の中でつくり上げていく必要があろう。

コラム2 持続可能な森林経営のための30の提言

2009年12月、加藤鐵夫氏(元林野庁長官)、梶山恵司氏、湯浅勲氏、相川高信氏らが参画する持続可能な森林経営研究会は、下記のような項目からなる「持続可能な森林経営のための30の提言」を発表した。現在の林業が抱える課題について整理したものとして、注目される。

【森林施業の基盤整備】

1. 森林情報の内容及び精度の向上と所有界の明確化、森林境界確定緊急措置法の制定
2. 森林情報のデータバンク化と森林情報整備法の制定
3. 実効性ある森林計画の作成
4. 森林の区分の適正化と面的管理の拡充

【森林の施業指針】

5. 新たな森林施業指針の作成
6. 森林施業規制の強化と保安林制度の見直し
7. 獣害対策の強化
8. 水土保全林等における管理・経営のあり方の見直し
9. 里山の天然生林の再活性化
10.人工林間伐技術の徹底

【生産の効率性向上】

11. 生産効率促進地域の指定
12. 森林施業の集約化の促進と将来の林業構造の構築
13. 路網整備の促進と作業道の位置づけの見直し
14. 適切な生産システムの選択と生産システム評価機関の創設

【木材の安定的な供給と新たな需要の確保】

15. 原木安定供給責任体制の確立
16. 木材情報の収集と提供
17. 多様な木材利用の提案と需要の確保

【森林・林業の担い手と支援体制の整備】

18. 森林組合の見直し
19. 素材生産業への新規参入
20. 現場重視と林業労働者の処遇の改善
21. 森林サポーターの全国的な配置

【助成の見直しと森林・林業行政の拡充】

22. 利用の時代にふさわしい助成の見直し
23. 林業経営の経済的分析の強化
24. 林業普及指導員の役割強化
25. 市町村森林・林業行政の強化

【森林経営を支える社会体制】

26. 大学等における森林・林業技術者の養成
27. 現場技術者養成専門機関の創設
28. 社会人教育及び資格制度の充実
29. 国際情報の把握、分析及び公開
30. 森林・林業への一般市民の参加


* 提言の詳細は、持続可能な森林経営研究会HP http://www.sfmw.net/ を参照のこと。同HPには、22回にわたる森林・林業についてのセミナーの概要などについても掲載されている。

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