一方、ドイツなどヨーロッパにおいて林業は産業として成立している。高い人件費、急峻な地形、小規模所有など日本と共通する条件をもつ場合もありながら、なぜこのように明確な違いが出てきたのであろうか。
ポイントを上げると、①木材資源の成熟 ②フォレスター(森林管理官)などによる地域の森林管理システム ③機械化による生産性向上 ④路網整備が完成している といった点が挙げられる。すなわち、ヨーロッパでは林業・林産業が産業として成立しており、大規模な投資も行われている。例えばドイツにおける森林・木材産業の売上高は約26兆円(GDPの5%)に上り、雇用数(132万人)は自動車業界(75万人)を大きく超えている。
1980年代、ヨーロッパも外材の流入で材価が下がる一方、賃金は上昇していた。危機感を抱いた関係者は、生産性の引き上げや路網整備に力を注ぎ、産業としての林業・林産業育成に成功したのである【*1】。
*1 ドイツの森林管理については、例えば 「ドイツから見た日本の森林・林業の課題」(農中総研レポート:ドイツ人フォレスター・シンポジウムの記録)等を参照のこと
http://www.nochuri.co.jp/skrepo/pdf/sr20081028.pdf
オーストリアは、ヨーロッパ内陸にある面積8万4000㎢、北海道ぐらいの大きさで気候も北海道と類似している国である。
ウィーンエネルギー社シマリング発電所では、ウィーン市に電力供給を行なう発電所(主にロシアからの天然ガス)の一角に、木質バイオマス発電施設を2006年に設置した。建設費は5,200万ユーロ(約68億円)で、13年償却。夏期は発電出力24MW、冬期は15MWに加えて37MWの熱を供給している。燃料のバイオマスは主に国有林から購入する間伐材チップで、年間60万㎥/年、約19万tを使用する。燃料価格は含水率40%で15セント(約20円)/㎥で、半径100km圏から8割を調達。バイオマス発電電力は13年間16セント(約21円)/kWhで買い取られる。
シマリング木質バイオマス発電所に搬入されるチップ
グラーツ市近郊にあるフランツ・マイヤーメルンホーフサウラウ森林事業社は、3万2400haを有するオーストリア国内最大手の民間林業企業で、旧伯爵家の所有地に作業員86名、事務職員62名が働く。主にトウヒ、カラマツ、ブナを収穫し、製材工場で板に加工している。木材の収集は、同社の社員以外に、近隣の住民に委託して行っている(35ユーロ/㎥の出来高払い)。所有林は、平均斜度63%の急傾斜地である。
実際の作業の一例では、森林管理者(フォレスター)が決めた場所にタワーヤーダー(写真左)を設置し、タワーを固定し、その頂上から下にワイヤーを引き(最長750m)、下の木に繋ぐ。作業員の一人は下でチェーンソーで指定された木を切り、ケーブルの昇降機につけて、上に搬送する。上の作業員はタワーヤーダーについたアームを駆使して材木の枝を切り払い、決まった長さの丸太に切る。タワーヤーダーは一台43万ユーロ(約5,500万円)。ミネラル分の豊かな場所なら、枝葉も山から降ろして熱利用する。人件費が高いため機械化により省力化を進めた。
所有林で取れた木材はトレーラでマイアーメルンホーフ社製材工場に運ばれる。大型の搬送機械で工場内に搬入された後は機械による流れ作業で、丸太は2台の選別機でより分けられ、計測され、板取を行い、乾燥して板材として国内の他、欧州、日本、東南アジアに輸出される。使用する木材量は年間150万㎥。従業員は250人。樹皮は熱併給発電(ORCプロセス23MWt、4.5MWe)の燃料として用い、熱は板の乾燥に使い、電力とともに周辺にも販売している。カンナくずは木質ペレットに加工して年間4万tを販売し、利益は20ユーロ/t。木片はチップとして販売している。
タワーヤーダー(写真撮影:本間文徳)
マイアーメルンホーフ社製材工場内、機械による流れ作業で製材された板(写真撮影:本間文徳)
* 参考:バイオマス産業社会ネットワーク第92回研究会資料