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資源の効率利用の観点から、住宅解体時の建築廃材や製材所・合板工場などから出される端材やオガクズなどの木質系バイオマスのエネルギー・マテリアル活用は、きわめて重要である。ただし日本では、その木質原料そのもの8割までが輸入品であり、その絶対量において世界貿易の約2割、丸太では4割を占め、米国、中国に次ぐ世界第三位の輸入大国である点が、環境問題の観点から問題となるのである。
すなわち、木質系バイオマスの有効利用は必要だが、原料そのものが十分な環境・社会上の配慮にもとづいて入手されたものだろうか。適切な土地利用計画にもとづく育林と伐採の結果として得られたものだろうか。原料そのものの「氏素性」が問題となるのである。「氏素性」が怪しければ、たとえば盗品であったり、強盗・略奪の結果として得られたものであれば、いかに優れた原料であり、とことん灰になるまで使い切っても、どことなくむなしい感じがする。「知らぬが仏」的な間抜けな感触を禁じえない。
これが「原産地」の持続可能性の問題である。木質系バイオマスの利用は、「原産地」である森林地域におけるマネジメント(管理)の問題を抜きにしては考えられない。農業系バイオマスにおける農地利用においてもしかりだ。バイオマスは、再生可能資源であり炭素中立(持続的に利用すれば大気中の二酸化炭素(CO2)を増やさない)であるという長所を持つ。ただし、その利用自体を自己目的とするのではなく、持続可能な循環社会を構築するための「手段」としてとらえるならば、バイオマス利用は、「原産地」である森林や農地の持続可能な利用を損なうことなく、むしろ推進するものでなければならない。
1980年代後半から、とりわけ多様な動植物種と伝統的な地域社会や文化が息づいてきた熱帯林地域における商業伐採がもたらす環境・社会上の影響が世界的に問題となった。世界の熱帯木材貿易の丸太ベースで約半分(金額ベースで3割)を占めていた日本の熱帯木材貿易は、環境のみならず、先住民族を含めた地域社会に対する人権・生活侵害に加担しているとして問題視された。
そこで90年代に入ると、東南アジアを中心とする南洋材からカナダ・米国・ロシアの温寒帯地域からの針葉樹合板への原料転換が進んだ。現在では、合板原料向けに輸入される丸太の4割が、極東ロシアからの北洋材で占められている。しかし「原産地」における持続可能性への視点を欠いた、単なる原料供給地の転換によって、熱帯材輸入の場合と同様の問題が生じている。
原産地であるロシアでは、1991年のソ連邦の崩壊以降、98年までほぼ一貫して国民総生産が前年比マイナスとなった。経済再建の柱として石油・天然ガス・木材などの天然資源の開発依存が進んだが、予算不足のため、適切な管理計画の策定・実施のないまま、森林分野では略奪的な採取業が行われている。極東ロシアにおける不法伐採は2割〜4割に達するものとされる。そうしたなかでの日本のロシア材輸入の拡大は、持続可能性を欠く資源管理を助長する結果を招いている。
日本では欧米に比べてFSC(森林管理協議会)などによる認証木材製品の輸入・流通の割合は、きわめて少ない。木材製品を含めた日本の木質系バイオマスの利用には、「原産地」における生態的・経済的・社会的な持続可能性を担保する認証制度の導入が望ましい。
〈明治学院大学経済学部助教授 原後 雄太〉 |
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