バイオマス発電の問題の一つは、発電効率が30%台以下と低く、温室効果ガス削減効果も限られることである(コラム③参照)。この問題は、利用効率がより高い、熱電併給や熱利用であれば回避できる。また価格的にも、灯油や重油と比較して木質バイオマスは価格競争力を持ちうるため、今後、木質バイオマスは熱利用中心に使っていくことが望ましいと考えられる。
木質バイオマスの熱電併給では、ここ数年、木質ガス化コジェネレーションやORC(オーガニックランキンサイクル)といった機器が導入され始めている。木質ガス化コジェネでは、乾燥チップを使うボルタ―社、シュパナー社あるいは、木質ペレットを使用するブルクハルト社の機器がヨーロッパで多数導入されており、日本でも稼働している。ただ、15%未満の含水率の木質チップやA1規格のペレットといった高い品質の燃料が要求され、熱利用とのマッチングも含め、現在試行錯誤が続いている【*17】。2019年、バイオマスを使ったORCが熊本県関南町のバンブーエナジー㈱に導入された(写真)。
バンブーエナジー㈱に導入されたORC
日本では、エネルギーというと電力、と捉えられることが多いが、実際には最終需要の半分は熱利用である。温暖化対策の点からも、熱分野の再生可能エネルギー化はかかせない。
現在、日本の熱需要の用途は下図の通りで、空調、給湯、厨房と産業用で、産業用が最も多い。
図:日本最終エネルギー需要に占める熱需要の用途(2014年度)
出所:木質バイオマスエネルギーデータブック2018
熱利用も需要によって温度帯が異なるが、下図のように、バイオマスは高温を必要とする産業用熱に向いていることがわかる。暖房(空調)や給湯は、50℃程度の低温で可能で、太陽熱、地中熱、ヒートポンプなどで供給できるが、それらでは高温をつくることは難しい。
図:熱の主な供給方法と熱の利用温度帯
出典:経済産業省資料
日本の木質バイオマス熱利用機器の導入数は近年増加してきたが、ここ数年は足踏み状態にある(下図)。その理由としては、導入費が化石燃料に比べ著しく高いこと、化石燃料ボイラーと運用維持管理の方法が異なり手間がかかること、補助金によって導入したが故障などによりそのまま使われなくなるケースもあること、化石燃料の価格変動によって木質バイオマスの経済性が確保できない場合があること、木質バイオマス燃料の安定的な供給体制が整っていないこと等が挙げられる。
図:木質資源利用ボイラー数の推移
出典:平成30年森林・林業白書
一方企業は、SDGs(持続可能な開発目標)やRE100【*18】など再生可能エネルギー導入の取り組みに積極的になっている。だが、バイオマスボイラーの導入は、まだ普及段階の技術となっていないことや、燃料供給システムが整っていないことなどから、ハードルが高い。そこで、工場などへのバイオマスボイラーの導入を提案・設置するエネルギーサービス会社や、あるいはバイオマスによる熱供給会社を育成することが、バイオマス熱利用拡大に役立つと考えられる。
これは従来のESCO事業や、他の再生可能エネルギー導入などとも合わせて、総合的なエネルギー利用を適正化する観点から、バイオマスボイラーの導入が顧客にとってメリットがあれば提案する、という形がより望ましいと考えられる。
当面、木質バイオマスの熱利用は、温泉施設や病院、福祉施設、あるいは家庭用の給湯・空調需要向けの導入も可能だが、将来的には、産業用熱を主に考える方がよいだろう。さらに、熱も高温から低温へと順にカスケード利用されると効率がさらに高まる。
日本には膨大な森林資源が存在するが、経済的に持続可能な価格で利用できる木質バイオマスの量には限りがある。この貴重な持続可能なバイオマスを、社会的なコストパフォーマンスよく、経済的に利用する戦略が求められよう。
林野庁の委託により、木質バイオマスエネルギー協会は2019年、木質バイオマス産業用等熱利用導入ガイドブックを作成した【*1】。
バイオマスの産業用熱利用では、数十年前から製紙工場での黒液利用が普及しており、2000年代の原油高騰の時期に、セメント工場等にも広がった。本ガイドブックでは、食品加工、化学、繊維、機械などの工場での利用事例について詳細に紹介している。
例えば、じゃがりこなどを製造しているカルビーポテト帯広工場では、CO₂排出削減などを目的に、重油ボイラーからバイオマスボイラーに転換、じゃがいもを蒸す、乾燥させる、油で揚げるなどの工程に利用している。燃料は建設廃材および流木チップ。導入費用は約4億8,400万円、半額補助を受けた。燃料代にかかる費用は1億円程度の節減となった。
木質バイオマスによる産業用等熱利用をお考えの方へ 導入ガイドブック
また、盛岡市の兼平製麺所では、麺のゆで上げ等に使うため、2007年に1/3補助を受け、バイオマスボイラー1号機を導入した。その経験を活かし、2011年には、補助を受けず2号機を導入している。
ガイドブックに掲載されている事例を概観すると、導入目的としてはCO₂対策、燃料代削減のほか最近は、リスクマネジメントとしての導入も見受けられる。燃料は、安価な建廃チップを使っている事例が多いが、樹皮など木質未利用資源の利用例もある。
同ガイドブックでは、導入のポイントとして、熱需要(ピーク負荷、付加変動等)を考慮した熱利用システムの設計、コストに見合う木質バイオマス燃料の安定的な調達、粉じん等の発生抑制などを挙げている。搬送におけるトラブルに悩む例も多く、注意が必要である。いずれにしても、化石燃料ボイラーとは異なる特徴があり、その特質を理解しながら、導入することが重要であろう。
このガイドブックに紹介されている以外の産業用木質バイオマス利用の成功例では、例えば千葉県のパーティクルボード工場において、1500kWのストーカー炉直接燃焼の熱電併給設備を導入し、良質な建設廃材をボード原料に、低質の建設廃材を燃料とする事例がある【*2】。この工場では、ステラ社のベルトドライヤーを導入し、コジェネの廃熱、80℃の温水を使って原料チップの乾燥などを行っている(写真)。
千葉県のパーティクルボード工場に導入された熱電併給設備【*2】
この事例では補助金もFITも使っていない。FITでの建設廃材を燃料とするバイオマス発電の買取価格は13円/kWhであり、FITで売電するよりも、自家消費した方が経済性があるという判断である。このように熱利用の規模が大きく、条件が合うなら熱電併給にすることも考えられよう。