2012年に再生可能エネルギー固定価格買取制度( FIT )が開始して以来、バイオマス発電の認定量・稼働量は急増した。同制度により2019年3月時点 で、計358カ所、171 万kWのバイオマス発電所が稼働し、同じく649カ所901 万kW が認定されている。稼働容量の6割弱、認定容量の9割弱が主に輸入バイオマスを燃料とする一般木材バイオマスの区分となっている【*1】。
図:再生可能エネルギー固定価格買取制度におけるバイオマス発電の稼働・認定状況(2018年12月末時点)
出典:資源エネルギー庁資料より泊みゆき作成
表: 再生可能エネルギー電力固定価格買取制度(FIT )における
バイオマス発電稼働・認定状況( 新規・2019年3月末時点)
メタン 発酵 |
未利用木質 | 一般木材 | リサイクル 木材 |
廃棄物 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
2000kW 未満 |
2000kW 以上 |
||||||
稼働 件数 |
156 | 24 | 39 | 48 | 3 | 88 | 358 |
認定 件数 |
220 | 64 | 49 | 199 | 5 | 112 | 649 |
稼働 容量 kW |
52,922 | 16,438 | 356,927 | 1,006,650 | 11,290 | 263,737 | 1,707,964 |
認定 容量 kW |
83,678 | 62,960 | 442,577 | 7,962,316 | 85,690 | 372,716 | 9,009,937 |
出所:資源エネルギー庁Webサイト 【*2】
FIT制度は太陽光など他の電源を含め、急速に再生可能エネルギーが拡大する契機となったが、一方で初期の制度設計に大きな問題があった。バイオマス発電においても、当初は 1)規模別の買取価格となっていない 2)温室効果ガス排出基準がない 3)熱電併給への配慮がない といった課題があった【*3】。
日本のバイオマス発電の買取価格は海外に比べ割高であったため、外資による事業を含め輸入バイオマス等を燃料とする一般木質バイオマス発電の認定が集中するようになり、2017年10月より2万kW以上の規模では電力買取価格を24円から21円に引き下げられた。引き下げを前にした2017年前半に駆け込み認定の申請が集中し、2030年の政府のエネルギー基本計画における見通し、最大400万kWを大きく超える約1,200万kWもの認定がなされた。
さらに、この大量に駆け込み認定されたバイオマス発電の4割弱がパーム油、4割強がパーム油の収穫の際に出るアブラヤシ核殻(PKS)であった(上図参照)。パーム油は、農園開発がボルネオ島などの熱帯林減少の最大要因であること、泥炭林開発などにより大量の温室効果ガスを排出すること、土地をめぐる紛争や深刻な労働問題を引き起こしていること、食料と競合することなど、発電燃料としては多大な問題を抱えていた。パーム油に認定申請が集中したのは、合法性を厳しく問われる木質ペレットや、調達ルートが確立されていなかったPKSのような燃料調達の制約が少なく、国際的に大量に流通している商品であり、発電形態もすでに確立している技術であるディーゼル発電であることから、パーム油発電事業が容易だと見られたからであろう。
一般木質バイオマス発電の大量認定に対し経済産業省は大幅な改定を行い、系統連系への接続契約の締結や燃料安定調達などの条件を強化した結果、現在の一般木質バイオマス発電の認定量は796万kWとなっている。これでもまだ過大だと考えられるが、バイオマス発電事業者協会は、燃料調達や発電所建設期限の理由から、実際に新たに建設される一般木質バイオマス発電は220万kW程度になると推定している。
1万kW以上の規模の一般木質バイオマス発電は2018年度から入札制となったが、2018年の入札では、入札の上限価格を下回って落札した案件は1件にすぎず、その1件も事業者が辞退している。入札ではバイオマス発電事業の利益が十分に確保しにくいと発電事業者が判断した模様で、今後、大規模なバイオマス発電の新規の認定は少なくなると考えられる。
FIT制度では、毎年、調達価格等算定委員会において制度の変更などの議論を行っている。2018年度の調達価格等委員会では、新規の石炭混焼バイオマス発電は発電コストが低いことからFITの対象から外すこと、既にFIT認定されている石炭混焼も容量市場との併用は認めないこと、バイオマスの燃料変更に一定の制限を設けることで意見がまとまった。
また、バイオマス発電事業者から出された、ココナッツ殻、くるみ殻、ジャトロファ種子、大豆油等の新規燃料をFITの対象とすること、パーム油に関しRSPO(持続可能なパーム油に関する円卓会議)以外の認証制度も対象とする要望について議論された(下図参照)。
新規燃料については、トレーサビリティ、合法性・持続可能性、食料など他用途との競合の回避、安定調達などの条件を満たすことが求められることとなり、詳細については、2019年度に持続可能性基準について検討する場を設けることが決まった。また、パーム油のRSPO以外の認証制度についても、同じく専門家によって討議されることとなった。
これらの議論の結果は、調達価格等算定委員会「平成31年度以降の調達価格等に関する意見」にまとめられ、それに基づき、経済産業省から事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)の改正案が提示され、パブリックコメントを経て、2019年4月に改定された【*4】。
業界団体から要望のあった新規燃料とコスト動向【*5】
改定された同ガイドラインでは、農産物の収穫に伴って生じるバイオマスは主産物(パーム油)だけでなく、副産物(PKS、パームトランク)のいずれについても、持続可能性(合法性)を確保することとした。
また、パーム油の持続可能性認証の書類の交付は、持続可能性(合法性)の確保に関する事業者の自主的取組を行い、取組の内容及び燃料調達元の農園の情報を自社のホームページ等で情報開示することを条件として、2021年3月末まで猶予すること、としている。
2018年度のFIT調達価格等算定委員会にて、バイオマスの持続可能性について詳細に議論するワーキンググループ(WG)を開催することが決まった。
WGのメンバーは5名の専門家で、2019年4月に第1回会合が開催され、以降、月1回ペースで秋まで開催し、意見をまとめ、それをベースに2019年度後半に始まる調達価格等算定委員会で議論される予定である【*6】。
第1回会合では、主に全体像とバイオマス燃料のライフサイクルGHG(温室効果ガス)排出について議論が行われた。下図の通り、論点はかなり広範囲かつ詳細な内容にわたることとなる。
図:バイオマス燃料の持続可能性の論点:全体像(案)【*7】
燃料の持続可能性を見る視点としては、第1回会合での相川高信委員の資料にある図が全体の構造をよく示していると考えられる。
図:燃料の持続可能性を見る視点【*8】
第1回会合において、日本のバイオマス発電燃料のライフサイクルGHG(温室効果ガス)のデータが初めて示された(参照)。事務局からは、新規燃料を含め石油による電力のGHG排出よりも低い、と説明があったが、委員からは、天然ガスよりもGHG排出が高い燃料が持続可能と言えるのかどうか、という疑問が次々に出された。
5月に開催された第二回会合では、関連団体および、政府主導によるパーム油の認証制度であるMSPO、ISPOに関しマレーシア、インドネシア両政府へのヒアリングが行われた。7月に開催された第3回会合では、人権問題などについて議論された。事務局から「バイオマス発電事業者にその調達燃料に関わる全ての事業者の法令順守を求めてはどうか」との提案があった。第三者認証の存在の確認を行うことで実施することを想定している。
WGの論点はかなり多岐に渡るが、どのように議論が収束されるのか、注目される。