2019年4月、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)において、バイオマス持続可能性ワーキンググループが開催されることとなった。そしてその第1回会合で、バイオマス発電の燃料のライフサイクルGHG(温室効果ガス)排出量試算が示された(参照:2 バイオマスの持続可能性)。
2018年9月、IPCCは地球温暖化を1.5℃未満に食い止めるためには2030年までにCO₂排出量を45%減少させる必要がある、とする特別報告を出した【*】。日本の削減目標は2030年に26%減(2013年比)に留まっており、国民や関係者の危機感は薄いと言わざるを得ない。
だが、温暖化対策の数字合わせのために、安易にバイオマス利用拡大を行うことは、大きなリスクを伴う。バイオマスがカーボンニュートラル(炭素中立)というのは、もとの蓄積量が回復されればという条件付きであり、タイムラグもある。また、バイオマス燃料の生産、加工、輸送等に化石燃料が使われ、メタンガスやN₂Oなどの温室効果ガスが排出されることもあり、バイオマス利用による温暖化対策効果はケースバイケースで大きく異なる。
結局のところバイオマスのエネルギー利用は、1)地域の 2)廃棄物、残さ、副産物、未利用バイオマスを 3)熱・熱電併給利用する のが原則であろう。2 バイオマスの持続可能性のライフサイクルアセスメントの図にあるように、農作物残渣でも日本まで輸送することで、天然ガス発電と同程度の温室効果ガス排出となるケースがある。これらは無理にはるばる日本まで運ばずに現地で使い、そのために日本の資金や技術を供与して炭素クレジットとする方が経済的にも温室効果ガス排出削減の点からも合理的である。
国産のバイオマスを利用する際も、利用効率を考えれば、熱・熱電併給に優位性がある。間伐材を燃料とするバイオマス発電でも、熱利用をせず発電効率が低いと温室効果ガス排出量は天然ガス発電と大きく変わらないケースもありうる(参照:コラム③)。
また熱利用の場合、バイオマスは他の再生可能エネルギー熱と比べ、容易に高温を得られるので、今後は高温を必要とする産業用に振り向けていくのが望ましいのではないか(参照:4 バイオマスの熱電併給および熱利用)。
その一方で、多くの方々の尽力にもかかわらず、日本のバイオマス熱・熱電併給利用に様々な課題があるのも現実である。一つの突破口は、バイオマスボイラーの設置や燃料供給などを請け負う、エネルギーサービス会社を育成することであろう。この一年、企業はSDGs(持続可能な開発目標)やRE100、ESG投資への対応に取り組みつつある。自社工場にバイオマスボイラーを導入したいと考えた時、安心して導入を任せられるエネルギーサービス会社があれば、バイオマス熱利用は格段に進むだろう。
また、バイオマス燃料のトレーサビリティの問題も浮上している。これまでにも疑問が呈されてきたが、総務省が2017年7月に発表した「森林の管理・活用に関する行政評価・監視<結果に基づく勧告>」において、FITの木質バイオマス発電燃料に適用される「木質バイオマス証明ガイドライン」の運用に課題があることを示し、2019年2月経済産業省は、「木質バイオマス証明ガイドライン遵守の注意喚起について」において注意喚起を行っている。
輸入ペレットにおいても、FSC認証に関する知識不足等により、合法性の確認が適切に行われていないのではないかという指摘がある。言うまでもないが、FITは電力利用者が負担する賦課金によって支えられているものであり、ルールにのっとった運用が求められる。
そういったことを念頭に置きながら、今後も、志を同じくする団体や人々とともに、経済・環境・社会的に持続可能なバイオマス利用の促進に向け、活動を続けていく所存である。
<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>