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トピックス 木質バイオマス利用をめぐる現状と課題

2 バイオマスの持続可能性

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1. 温室効果ガス(GHG)削減効果

これまでバイオマスは、カーボンニュートラル(炭素中立)とされてきたが、実際にはバイオマス燃料の生産・加工・輸送等に化石燃料が使われ、加工過程や燃焼の際にメタンガスやN₂Oといった温室効果ガスが排出することもある。場合によっては化石燃料以上の温室効果ガス排出となることもある。そのため、温暖化対策としてバイオマスを利用するのであれば、温室効果ガス排出を配慮した制度にする必要がある。

これまでFITのバイオマス発電にはこの温室効果ガス排出への配慮がなかったが、先述した通り、2019年4月から開催されているバイオマス持続可能性ワーキンググループにおいて、議論されることとなった。

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バイオマス燃料のライフサイクルGHG排出量試算

図:バイオマス燃料のライフサイクルGHG排出量試算【*9】

出所:経済産業省バイオマス持続可能性ワーキンググループ第1回資料5

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上図はワーキンググループの資料から抜粋したものだが、これを見ると、パーム油やキャノーラ(なたね)油による発電は、天然ガス(LNG)発電より温室効果ガス(GHG)排出量が多い。

木質バイオマスについても、北米東海岸産の丸太からの木質チップのGHG排出量は多い(上図の赤い〇)。輸送において大量のGHGが排出されており、こうした燃料は現地やより近い地域で利用されることが望ましいと考えられる【*10】

また、FIT開始以後、アブラヤシ核殻(PKS)やペレットの輸入が急増している(下図)。

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ペレットおよびPKS輸入量の推移

図:ペレットおよびPKS輸入量の推移

出所:On site Report No.357、358よりバイオマス産業社会ネットワーク作成

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欧州科学アカデミー諮問委員会(EASAC)は、皆伐した木材を丸ごと木質ペレットのような木質燃料にして燃焼させると、森林が回復して大気中のCO2を削減するために数十年から数百年がかかり、回復にタイムラグが生じるため、現在の温暖化対策として不適であると指摘しており、こうした点も考慮すべきであろう【*11】

さらに、2009年に国連環境計画(UNEP)が発表したレポート「バイオ燃料を評価する」において、「農業ベースの消費量を満たすために必要となる世界の耕作地が拡大し続ける限り、移動による影響、土地利用転換、およびそれに関連する直接的/間接的影響は、バイオ燃料の特定の生産基準では回避することはできないだろう」と指摘されているように、間接的影響を考慮すれば、利用量のコントロールがなくては、持続可能性は担保できない【*12】

FIT制度の目的は、温暖化など環境負荷の低減、エネルギーセキュリティ向上、地域経済への恩恵であり、電力料金に上乗せされているFIT賦課金によって、国民負担で賄われているものである。特にパーム油など植物油は、化石燃料と比較して温室効果ガス排出削減効果がなく、輸入バイオマスのためエネルギー自給にもならず、日本国内の地域経済への恩恵も限られる。こうしたバイオマス燃料は、FITでの支援対象として適切ではないと考えられよう。

さらに、2019年4月に改訂された事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)【*13】において、副産物(PKS、パームトランク)にも、持続可能性(合法性)を確保することが求められているが、燃料という付加価値の低い資源に対し、農園からのトレーサビリティを確保するハードルは非常に高い。つまりこうした燃料では、持続可能性の確認しつつ利用することが経済的に合理性をもちにくい、とも言える。

結局バイオマスは、主に地域の廃棄物や残材を高い効率(熱電併給か熱利用)で利用することが環境面でも、経済面でも適切だと考えられる(コラム③参照)。

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コラム① バイオマス発電に関する共同提言

2019年7月、バイオマス産業社会ネットワーク他の環境団体は、下記のような「バイオマス発電に関する共同提言を発表した。

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私たち気候変動や森林保全に取り組んできた環境NGO/団体は、気候変動防止や分散型で民主的なエネルギー源確保の観点から再生可能エネルギーの利用は重要だと考えています。しかし一方、現在多数存在するバイオマス発電計画の中には、特に海外において大規模な森林破壊や土地収奪、生物多様性の破壊、人権侵害を伴うリスクの高い燃料を使用すること、またライフサイクルアセスメント(LCA)でみれば大量の温室効果ガス(GHG)を発生させることに関して重大な懸念を抱いています。バイオマス発電事業には以下の要件を満たしていることが確認されているべきであり、それ以外については再生可能エネルギーとして定義づけたり、固定価格買取制度(FIT)の対象とすべきではないと考えます。

私たちは、本来、バイオマス発電は、海外からの資源を大規模に輸入して行うのではなく、廃棄物や未利用材などの地域の資源を活用し、小規模分散型、熱電併給で行われるべきと考えています。

パリ協定の1.5度目標とSDGs達成に向けて、人権尊重した上で、真に持続可能なバイオマス発電が推進されることを期待します。

1. 温室効果ガス(GHG)の排出を十分かつ確実に削減していること

燃料生産を含む全工程(土地利用変化、栽培・生産、加工、輸送、燃焼など)におけるGHGの排出量が、液化天然ガス(LNG)火力発電の50%未満であること。

2. 森林減少・生物多様性の減少を伴わないこと

燃料の栽培・生産過程で森林減少(産業植林地への転換を含む)を伴わないこと。生態系の破壊など、生物多様性への悪影響がないこと。

3. パーム油などの植物油を用いないこと

大規模な土地利用変化を伴い、森林減少などの影響がすでに指摘されているパーム油や大豆油、生産におけるGHG排出量が多く、食料との競合の恐れのあるキャノーラ(ナタネ)油などの植物油を用いないこと。

4. 人権侵害を伴っていないこと

土地取得を含む燃料生産の過程において住民や労働者の権利が侵害されていないこと。

5. 食料との競合が回避できていること

土地や水などの生産資源の競合も含め、食料と競合しないこと。

6. 汚染物質の拡散を伴わないこと

周辺住民の健康に悪影響を及ぼさないこと。人体に有害な重金属や放射性物質が含まれる燃料を用いないこと。これらについて適切なモニタリングが行われていること。

7. 環境影響評価が実施され、地域住民への十分な説明の上での合意を取得していること

発電事業における環境社会影響評価が実施され、地域住民に十分に説明がなされ、合意が得られていること 。環境社会影響の評価には、燃料生産・栽培についても含めること。

8. 透明性とトレーサビリティが確保されていること

1~7にかかる情報が開示されていること。また、燃料に関するトレーサビリティが確保されていること。

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コラム② パーム油発電等をめぐる動向

パーム油発電は、2014年にエナリスが北茨木市で運転開始したのを皮切に、福知山市での1,760kW、3.9万kWの神栖パワープラントなどが稼働している。2017年には460万kWものパーム油発電がFIT認定され、その後、大半は認定から外れたが、今も約180万kWが認定されている。

パーム油発電は現在、FITで認められているが、前述したように温室効果ガス排出や間接的影響などを考慮すれば、持続可能性を担保することは相当困難な事業だと考えられる。こうしたことから、気候変動や森林保全に取り組んできた環境団体らは、関係者にパーム油発電事業の再考を訴えてきた。

その一環として、宮城県の環境団体と共同で、宮城県角田市で4.1万kWのパーム油発電事業を計画する旅行会社大手HIS(実施主体は子会社のH.I.S. SUPER 電力)に対しても働きかけを行ってきた。近年、企業の環境・社会・ガバナンスに注目するESG投資が躍進し、2018年には世界で3,418兆円に達し、日本でも投資の約2割を占めるようになっている【*1】。このESG投資においてパーム油は、森林破壊の主要因の一つとして、最も繊細な扱いを要する品目である【*2】。環境団体が同社のパーム油発電に対し、事業取りやめを訴える署名活動を行い、内外から15万筆以上が集まったが、この背景には、パーム油の燃料利用に対する懸念が広がっていることがあると考えられる【*3】

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署名活動を行うウェブサイト

署名活動を行うウェブサイト

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一方、2017年に三恵観光が京都府福知山市において1,760kWのパーム油発電を運転開始した。この発電所は住宅地のそばにあり、耐えがたい悪臭や騒音があると近隣の住民から苦情が相次ぎ、住民のなかには健康を害する人も出ているとのことである。自治会を中心に騒音悪臭問題対策推進会議が組織され、事業者と交渉を行っている。2019年2月、発電燃料のパーム油7000リットルが流出し、隣接する住宅地の溝や下水道に流れ込む事故も生じている。

パーム油発電に限らないが、FIT事業が地域住民の不利益とならないよう、十分な対策が求められる。

また、京都府舞鶴市でも外資系企業による65,590kWのパーム油発電が計画されている。

宮城県石巻市では、10万kW規模の液体バイオ燃料発電が計画されている。アフリカのモザンビークで油糧作物を栽培し、日本に運んで発電するとのことだが、18万トンと見込まれる燃料栽培には5~10万haの土地を要し、実現すれば土地収奪のリスクが極めて高いと考えられる。

現在FITで認定されている180万kWのパーム油発電が20年間稼働すると、約4兆円の利用者負担となる。FTI法の目的に沿う、慎重な制度設計および運用が望まれよう。

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近隣住民が掲げる上り旗

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コラム③ バイオマス発電の利用効率と温室効果ガス削減効果

経産省のバイオマス持続可能性ワーキンググループにおいて、バイオマス燃料の温室効果ガス(GHG)排出についての議論が始まった。バイオマス利用においては、燃料のライフサイクルアセスメントと並んで、利用効率も、温暖化対策効果に大きな影響を及ぼす。

同じ燃料、例えば国産の間伐材チップであっても、発電効率が20%の発電所(熱利用なし)なのか、あるいは熱電併給で80%の総合利用効率になるかで、温暖化対策効果は大きく異なる。

下図は、既存のデータを用いて試算を行ったものである。ここでのバイオマスは、国内の主伐・間伐材チップを燃料とするものであり、国内の3つのチップ事業者の素材生産から製品輸送までをシステム境界とし、3社の加重平均によってGHG排出量を算出したものである。

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図:日本の発電種類ごとの温室効果ガス排出

図:日本の発電種類ごとの温室効果ガス排出

出所:平成23年度林野庁補助事業
株式会社森のエネルギー研究所:木質バイオマスLCA評価事業報告書(2012)、
電力中央研究所:日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価(2016)
等により泊みゆき作成

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現在、FIT制度の認定を受け建設された2,000kW未満の直接燃焼技術によるバイオマス発電(熱利用なし)は、発電効率が20%に満たないこともある。その場合、LNG(液化天然ガス)発電と比べ、3割程度の削減効果しかない。一方、熱利用や熱電併給のように80%の総合利用効率であれば、他の再生可能エネルギーと遜色ないレベルの削減効果が見込める。

ライフサイクルアセスメントは、ケースによって数割程度の差が生じることがある。間伐材等のチップの場合も、林業機械の効率や移動距離などによって大きく変わる。

こうしたことを考慮すれば、温暖化対策の面からも、今後のバイオマス利用は、熱利用のない発電から、利用効率のより高い、熱利用または熱電併給にシフトすべきと言えよう。

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