日本の2009年度の温室効果ガスの総排出量(速報値)は、景気悪化の影響などにより、前年比では、5.7%減少の12億900万tで、京都議定書の規定による基準年の総排出量と比べると、4.1%の減少となった【*1】。また、エネルギー白書2010によれば、2008 年に日本国内で利用されたバイオマスエネルギーは原油換算で510.87 万㎘、国内供給量に占める割合は、0.85%。 電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)に基づくバイオマス発電は、32.23億kWhで、新エネルギー電力の36.3%である。
2010年通常国会で廃案になった温暖化対策基本法案は、2011年通常国会に再提出されることとなった。再生可能エネルギー電力全量買取制度(FIT)、炭素税、排出量取引の再生可能エネルギー促進のための三つの主要政策のうち、FITについては、委員会での議論をまとめ、報告書を発表した(トピックスⅠ 1.再生可能エネルギー電力全量固定価格買取制度(FIT)を参照のこと)。
地球温暖化対策税(炭素税)は、平成23年度税制改正大綱(平成22年12月閣議決定)に盛り込まれた。2015年までに引き上げる税率は、CO2排出量1t当たり約300円。原油・石油製品は1㎘当たり760円、ガス状炭化水素(天然ガスなど)は1t当たり780円、石炭は1t当たり670円、税収増は約2,400億円となる。ただし急激な負担増とならないよう経過措置を講じるとしており、2011年10月に引き上げられる税率は前記した税率の約1/3で、2013年4月および2015年4月に段階的に引き上げるとしている。一方、排出量取引については、2013年度の導入は先送りとなった。
2010年6月、新たなエネルギー基本計画が閣議決定された【*2】。この中で、再生可能エネルギーや原子力といったゼロ・エミッション電源比率を、現状の34%から2020年に約50%以上、2030年に約70%にするという目標を掲げた。今後の原子力発電の増大は社会環境から容易でないと考えられ、またコスト高や風況などの制約がある太陽光、風力などに比べ、場合によっては大量のバイオマス輸入による拡大が可能なバイオマス発電への圧力が増大するおそれがある。
2009年に制定されたエネルギー供給構造高度化法【*3】の政令、省令、基本方針及び判断基準が、2010年11月に施行された【*4】。この中には、バイオ燃料の持続可能性基準(トピックスⅡ 1. エネルギー供給構造高度化法とバイオ燃料の持続可能性基準の施行参照)の他、バイオガスについても、ガス業者が2015年に受け入れに必要な要件を満たすバイオガス量の80%以上の利用を目標とする内容も含まれている【*5】。
また、グリーンエネルギー認証センターは、バイオマス熱と雪氷エネルギーのグリーン熱証書の認証事業を2011年1月より開始した【*6】。
2002 年末に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が策定されて以来、国は1,374億円以上をかけてバイオマス政策を行ってきた。しかし総務省は、2011年2月に公表したバイオマスの利活用に関する政策評価【*7】において、「バイオマス関連事業214事業中、効果が発現しているものは35事業で、これらにも施設の稼働が低調なものが多い。複数の省や部局が類似の事業を実施し、非効率な例がある。CO2収支を把握しているものは132施設中3施設にすぎず、政策の有効性や効率性を検証するためのデータが把握されてこなかった」とし、これまでのバイオマス政策の8割で効果が上がらず、多数の課題があると指摘している。
2010年秋に実施された事業仕分けの結果でも、バイオマス関連事業の多くで廃止、見送りまたは予算半減となった【*8】。
2010年12月、バイオマス活用推進基本計画【*9】が閣議決定された。これまでの批判を踏まえて検討されたものだが、その内容は基本的に従来の路線を踏襲しており、同計画が今後推進されていくとしても、今後十分な成果を挙げうるかどうか検証が必要であろう。
図:主なバイオマスの賦存量(経産省資料)
※素材原料等への利用は、一部海外への輸出分も含む。
※賦存量(原油換算万㎘)は、バイオマス活用推進専門家会議のデータを基に資源エネルギー庁が試算。
地域のためにと考えてバイオマスプロジェクトを導入しても、結局ほとんどのお金が東京に戻って行ってしまう、そういうジレンマを抱えているのは私だけではあるまい。こうしたジレンマを打破するには、大きな仕組み自体を改革する必要があるのではないか。そういう目的でスタートしたのが、総務省が所管する「緑の分権改革」である。
個々人の生活や地域の経済等における地域主権を目指すためにはどうすればよいか、「緑の分権改革」という名が示しているように、地域資源(豊かな自然環境、再生可能なクリーンエネルギー、安全で豊富な食料、歴史文化資産、志のある資金)を最大限活用する仕組みを地方公共団体と市民、NPO等の協働・連携により創り上げ、地域から人材、資金が流出する中央集権型の社会構造を分散自立・地産地消・低炭素型に転換し、「地域の自給力と創富力(富を生み出す力)を高める地域主権型社会」の構築を実現しようという目的のもと、全国約170の地域で試行が始まっている。
特にエネルギーの分野では、①地域を巻き込んで調査を進める ②地域エネルギー事業を支援する基礎づくり ③事業を担う「芽」や「核」づくり ④地域の「あるもの探し」と身の丈にあった事業づくり〜適正技術の見極めと事業化〜 等を重視した事業展開が求められているところである。バイオマスの分野では一部に、このようなある意味当たり前のことが無視された事業づくりが強行され、結果としてプラントはできたけれども、垂れ流しの赤字を地域が負担するという本末転倒な状態が続いているのは、残念としか言いようがない。
一方、東京都は、全国の自治体に先駆けて、2010年4月から、「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」の大規模事業所における削減義務の運用を開始した。詳細は、東京都のHP【*】を参照頂きたいが、注目すべきは5か年の計画期間中の削減義務未達成(自主努力や生グリーン電力の購入、グリーン証書購入などの代替措置を行っても削減量が不足する)の場合、不足量を削減するよう措置命令(義務量の1.3倍)が出され、命令履行期限以降は、罰金及び命令不足量を知事(都)が調達し、その費用を請求するという部分である。
東京都は代替措置や不足量調達の大きな部分として、都市と地域の連携を念頭に置いており、風力、太陽光、太陽熱、小水力、バイオマスなどの再生可能エネルギーの「地産都消」が重要なテーマとなってくる。これは現在、政府で検討されている再生可能エネルギー電力全量買取制度(FIT)とともに、安定需要家の出現という意味で地域の再生可能エネルギー事業に一定の追い風となることは確実である。
しかし、再生可能エネルギーとりわけバイオマスエネルギーの市場化には大きな障壁が残っている。これは取りも直さず、採算度外視の事業は容赦なく淘汰されるということであり、適性技術の導入による確実な事業化が求められるということである。また、地域の資金、人材の活用など、真に地域に還元される事業計画が求められるという、ある意味当然のことがバイオマスエネルギーの分野にも求められるということではないだろうか。
<岡田 久典(バイオマス産業社会ネットワーク副理事長)>