スペーサー
スペーサー
トピックスⅠ
国産材利用拡大と木質バイオマス利用
トピックスⅡ
バイオ燃料とランドラッシュ
2010年の動向
スペーサー
スペーサー

3. ランドラッシュへの懸念

近年、世界中で、ランドラッシュあるいはランドグラビング(農地収奪)と呼ばれる、バイオ燃料、食料、炭素クレジット獲得などを目的とする大規模な土地取得のための投資が広がっている。2010年9月に世界銀行が発表したレポートでは、4,460万haという日本の国土を超える面積が投資対象となっており、約2割がバイオ燃料作物向けであるとしている【*1】。安価もしくは無償で数万ha単位の農地が所有移転あるいは貸借されているが、その中には地域住民に十分な情報提供や合意なしで進められ、土地に対する権利が尊重されず、立ち退きを求められるケースも多数、発生している(下 コラム③参照)。

日本で導入されるバイオ燃料を確保するための開発輸入が、こうした問題を引き起こさないよう、十分な情報収集や配慮が必要になって来ると考えられよう。


スペーサー
スペーサー
スペーサー

コラム2 バイオ燃料をめぐる国際動向:2010年

ここ数年、急成長を続けてきた世界のバイオ燃料産業が、今や超え難い壁を前に立ち往生している。

米国 エタノール産業がブレンド・ウォールに立ち往生

米国のバイオ燃料のほとんどすべてを占めるエタノールの生産は急成長を続け、2010年には再生可能燃料の義務的利用目標(RFS)である129.5億ガロンを超える130.4億ガロンに達した(下図)。しかし、この130億ガロンこそ、米国のバイオ燃料産業の超え難い壁なのである。米国の燃料エタノールは、ほとんどがオクタン価を上げるために最大10%までのブレンドを許されたガソリン添加物として使われてきた。このようなエタノール添加ガソリン(E5〜10)は、ガソリンと“実質的に同等”とみなされ、法的には“代替燃料”として認められていない。エタノール85%の代替燃料(E85)を使えるフレックス燃料車は、米国の2.4億台の車のうち、730万台にすぎない。

図:エタノール生産量と再生可能燃料基準(RFS)

図:エタノール生産量と再生可能燃料基準(RFS)

Renewable Fuels Association (RFA) による

スペーサー

これでは、燃料エタノール需要量はガソリン需要量の10%を超えることができない。2010年のガソリン総消費量は約1400億ガロンだから、現在のすべての給油施設がE10を給油するとすれば、燃料エタノールの最大利用量は140億ガロンになる。しかし、すべての地域、季節で10%をブレンドすることはできない。実際の最大ブレンド率は9%、エタノール最大需要量は126億ガロンにとどまるというのが大方の見方である。2010年のエタノール生産量はこれを超えている。実際、それはガソリン需要量の10%の壁にぶつかっている(下図)。しかも、燃費の改善によって将来のガソリン消費量は減るだろう。ということは、許容されるエタノールの最大ブレンド率が10%に留まるかぎり、エタノール産業には今以上に成長する余地がないということである。

図:米国の燃料エタノール生産量のガソリン需要量に対する%

図:米国の燃料エタノール生産量のガソリン需要量に対する%

スペーサー

エタノール産業等の強力なロビー活動で、環境保護局(EPA)は2010年10月、2007年以降モデル車についてE15の使用を認めた。2011年1月には2001年以降モデル車についてもこれを認めた。これで全車の半分ほどがE15使えることになるが、それでも最大消費量は170億ガロンほど、2014年のRFSをわずかに上回るレベルに増えるだけである。

これ以上の成長のためには、E85が使えるフレックス燃料車の普及とE85給油施設の増設が不可欠だ。しかし、パーデュー大学の研究者の最近の研究によれば、「360億ガロンという米国の2022年の利用目標を達成するためには、これまで年に100しか増えてこなかったE85給油施設を年に2000も増やさねばならない(事実上、不可能)。さらに、E85給油施設が整備されたとしても、E85では同じ量のガソリンに比べて3分の2ほどの距離しか走れないから、消費者がこれを使うためにはE85の価格がガソリンより大幅に安くなければならない」。ところが、バイオ燃料用需要の増大(2010年、米国で生産されるトウモロコシの実の40%近くがエタノール原料として使われるに至っている)も手伝って、原料トウモロコシの価格が高騰している今、エタノール価格(シカゴ先物)は、ひところのガロン1.6ドルほどから2.3ドルほどに急騰、ガソリン価格も高騰しているが2.5ドルで(ニューヨーク先物)エタノールと大して変わらない。原料価格高騰で、エタノールは経済的競争力を完全に失っている(下図)。

図:トウモロコシ(米)とナタネ(欧)の先物相場の推移

図:トウモロコシ(米)とナタネ(欧)の先物相場の推移

2008年1月〜2011年1月12日:各週末

スペーサー

それを補うためのブレンダ―への補助金(ガロン4.5セント、つまりエタノール価格の20%から30%)は2010年末に廃止されるはずであったが、何とか1年延長にこぎつけた。しかし、財政難の折、2012年にどうなるかは見当がつかない。アメリカ最大の農業者団体であるナショナル・ファーム・ビューロー連盟は、風当たりが強いこの補助金を廃止、E85給油施設やエタノール輸送パイプラインなどのインフラ整備に振り向けるように主張を変えた。バイオ燃料政策も大きな転機を迎えている。

スペーサー

EU 政策後退、原料価格高騰で急ブレーキ 持続可能性基準が追い打ち

EUの主要バイオ燃料であるバイオディーゼルの消費増大に急ブレーキがかかっている(下図)。

図:エタノール生産量と再生可能燃料基準(RFS)

図:EUのバイオ燃料消費量と輸送用燃料総消費量に対する比率

Sorce: Biofuels Barometers

スペーサー

最大消費国のドイツでは、減少さえしている(2008年238石油換算t→2009年224石油換算t)。その原因は、バイオ燃料の環境影響への懸念から、議会が利用目標を2008年以来切り下げ、同時にバイオディーゼル燃料(B100)への課税を大幅に引き上げたことにある。出遅れたフランス、スペイン、イタリアなどは奨励策を強化、消費は増加しているが、輸送燃料消費中に占めるバイオ燃料の比率はまだ小さい。全体としての消費量の増加速度は急速に低下、2003年のバイオ燃料指令が各国に義務づけた利用目標は、達成できそうにない(下図)。

図:EUのバイオディーゼル生産量

図:EUのバイオディーゼル生産量

スペーサー

生産の増加速度も落ちた。ドイツでは減少さえしている。EU全体では、生産能力の40%ほどしか稼働していない。理由としてはアメリカ、アルゼンチンなどの不当廉売輸出、政府の税制措置の後退(背後には環境影響などへの懸念がある)が挙げられるが、バイオ燃料産業自体に一部の原因がある原料価格の高騰の影響も大きい。

さらに、2010年12月5日には、再生可能エネルギー利用促進指令が定める持続可能性基準の適用が始まった。今後は、この認証を受けたバイオ燃料しか事実上利用できないことになる。しかし、認証は遅々として進まない。ドイツは、EU内でこの認証を受けたナタネ生産者はほとんどいないと、認証ナタネの利用を半年延期せざるを得なかった。域内生産はますます減速、南米のサトウキビエタノールの輸入が大きく増えると見られている。しかし、それ自体が奴隷労働などの社会的持続可能性基準に抵触することにもなりかねない。

さらに2010年12月、欧州委員会はバイオ燃料に関連した間接的土地利用変化に関する報告を発表した【*1】。その中心的結論は、2020年に達成すべき道路輸送燃料中の再生可能燃料のシェア10%のうち、農作物由来の”第一世代バイオ燃料”のシェアを5.6%以内にとどめることができるならば、すなわち、残りが再生可能資源から生産される電気や水素エネルギー、廃棄物・リグノセルロース質バイオマスなどからの”第二世代バイオ燃料”(これは1%が2%としてカウントされる)で賄われるかぎり、間接的土地利用変化によるCO2の追加排出を考慮しても、バイオ燃料はCO2排出削減に役立つというものである。しかし、これには多くの不確実要因があるとも指摘する。欧州委員会はこの研究を参考に、2011年7月までに、必要ならば指令を改めるための立法提案も行うという。バイオ燃料産業は、なお不安定な規制にさらされ続ける。

スペーサー

その他世界の動向

バイオ燃料産業に直接かかわる問題でとくに目立つのは、原料不足と原料価格の高騰である。パームオイルは需要増大に生産が追い付かない。タイは原料不足から、バイオディーゼルの混合比率を2011年から5%に引き上げる(今は3%)計画を断念した。パームオイル価格は2008年のピーク並みに暴騰しており、これを原料とするバイオ燃料の商業生産は成り立たないだろう。ジャトロファラッシュの勢いも衰え始めたようだ。例えばカンボジアでは、バイオディーゼル生産量を3倍に増やすことを計画していた企業が、ジャトロファ種子が調達できずに生産停止に追い込まれた。これまで原料を供給していた農民が、ジャトロファ種子の低収量のために他の作物への転換を余儀なくされたということである。

バイオ燃料生産拡大が引き金の一つとなったランドラッシュについては、世界銀行が昨年9月、グローバルなランドラッシュに関する最も包括的とされるサーベイの結果を発表したことだけを伝えておく。詳細は筆者のHP【*2】を参照されたい。なお、筆者のランドグラブ(土地収奪)データベース【*3】から集計したバイオ燃料関連プロジェクト面積はアフリカだけで982万ha、うちパームオイル関連が148万ha、サトウキビ関連が102万ha、ジャトロファ関連が368万ha、ジャトロファ・サトウキビ等関連が91万haとなっている(作物不明のものがあるために合計は一致しない)。

<北林 寿信(農業情報研究所【*4】主宰)>


スペーサー
スペーサー
スペーサー
スペーサー

コラム3 土地収奪に直面するコミュニティ
〜カンボジア経済土地コンセッションとプランテーション開発〜

コンセッションの拡大

土地収奪(ランドラッシュ)という衝撃的な言葉とともに、外国資本などによる大規模な土地の囲い込みの問題が伝えられてきているが、アジアもその例外ではない。多くの国々で大規模なプランテーション開発、あるいは開発名目のもとの土地の囲い込みが進行しており、農民や先住民族の生活を脅かしてきている。

カンボジアでは、1990年代の初頭から、「経済土地コンセッション(Economic Land Concession、ELC)」と呼ばれる制度により、内外の民間企業に対して最大99年の土地の使用を認可し、キャッサバ、サトウキビ、ゴム、アカシア、アブラヤシ、チークなどの大規模なプランテーションへの民間投資を促進してきた。2011年1月に発表された林業局の年次報告によれば、現在までに130万ha以上の土地が経済土地コンセッションに割り当てられている。この数値は、現在のカンボジア全土の7%、耕地面積の30%以上にも上る。法令に基づけば、経済土地コンセッション面積は1万haを超えてはならないのだが、数万〜数十万haにも及ぶコンセッションも少なからずある。

この結果、地元住民の農地や牧草地が奪われ、コミュニティが何世代にもわたり食物や非木材林産物(NTFP、いわゆる森の幸)を採取してきた森林が破壊され、強制移転までが生じている。住民の人権や暮らしが脅かされるという事態に、NGOばかりでなく、国連もたびたび強い懸念や警告を発してきている。

スペーサー

奪われるコミュニティの森

カンボジアでは、農山村住民の森林への依存が高く、たとえば、農山村においては収入源の2/3が、樹液などの非木材林産物とも言われている。また、現金収入以外の面でも、きのこ、タケノコ、ラタン、果実、薬草、木の根、ハチミツ、建材などが村々の暮らしを支えている。

コミュニティ・フォレストリ(=住民主体の森林管理の制度)で土地を防衛する村人たち

コミュニティ・フォレストリ(=住民主体の森林管理の制度)で土地を防衛する村人たち

スペーサー
コミュニティ・フォレストリ(=住民主体の森林管理の制度)で土地を防衛する村人たち

囲い込まれる森林

スペーサー

「村人たちは、自分たちの土地をさまざまな脅威から守らなければなりません。村人が長年、伝統的に利用してきた森に、突然、企業によるゴムやキャッサバ、サトウキビの農業プランテーションのコンセッション設定がかかることもあるのです」と、カンボジア東北部のストゥントレン州でコミュニティ支援を行っているカンボジアのNGO、CEPAのヴァナラさんは説明する【*1】。

「2000年に、ある日突然、企業が村人との協議なしに伐採をし始めました。材木が目的です。誰からもサポートを得ることができませんでしたが、村人200人でデモを行いました」(ストゥントレン州ウスヴァイ・コミューンの村人)

同州では、国が発給しているものだけで10の経済土地コンセッションがあり、約18万haにのぼる。この地域は、米作、非木材林産物、狩猟など、土地や森林に生活の基盤を持つ様々な先住民族が暮らしており、影響は深刻である。

ある村では、コンセッションの設定に伴い、村人は森林の利用ができなくなり、また保有していた樹液を採る木も切り倒された。コンセッションに雇われた武装した警備員が、村人たちが今まで森に行っていた小道をふさいでしまったと報告されている。村人たちは、自分たちの森がすべて開発されつくされ、消滅してしまうことを恐れ、2005年および2006年に、コミュニティ・フォレストを設定する手続きを開始。しかし、これはまだ実現に至っていない【*2】。

スペーサー

外国資本と土地なし農民

カンボジアにおける先住民族や地元の住民の土地や森林に対する権利は、2001年の土地法や2002年の森林法および関連法の中で、コミュニティの集団的な土地所有権やコミュニティ・フォレストリの権利等の形で限定的ながら認められてきている。また、経済土地コンセッションはState Private Landにしか設定されないことになっており、また、住民協議や環境社会影響評価が必要とされることとなっている。

しかしながら、これらの住民の権利は、プランテーション開発、あるいは開発名目での木材伐採の利益の前にやすやすと踏みにじられてきた。住民は自らの権利を知らぬまま、あるいは抗議しても有形無形の脅しを受けて否応なく、土地を奪われてきた。住民協議や環境社会影響評価は、実施されたとしても事後的なものであった。

コンセッションの多くは、中国、ベトナム、タイ、米国、韓国などの企業に与えられてきている【*3】。最近は、クウェートが、水力発電ダムの建設への借款の見返りにカンボジア政府から5万haの土地の99年リースを受けるというような報道もされている【*4】。カンボジアにおいては、農村世帯の少なくとも60%が、土地をまったく持たないか、0.5ha以下の土地しか持たない状態である。土地なし農民の増加は農村部における貧困の主な原因となっている。

図:ラタナキリ州における土地収奪(2006年1月)

図:ラタナキリ州における土地収奪(2006年1月)

注)この図は複数のレポートをもとに、先住民族の土地が収奪されている状況に関して、NGO Forum on Cambodiaが作成したもの。経済土地コンセッションによるものだけではない。

出典:INDIGENOUS PEOPLES IN CAMBODIA, NGO Forum on Cambodia, April 2006

スペーサー

立ち上がるコミュニティの代表たち

2009年8月、300以上のコミュニティの代表が、国会、閣僚評議会および3つの省に対して請願書を提出し、彼らの土地20万ha以上が経済土地コンセッションおよび土地収奪に脅かされていることを訴えた。コミュニティの代表者は下記のように述べている。

「私たちは、政府やドナー(開発援助などの資金提供者)に何が生じているのかを知ってほしい。私たちが生活の基盤を築いてきた土地、森、漁業が失われていく。これにより、私たちはますます貧しくなり、富める者はどんどん富んでいく」

さらに、2010年5月、人権や土地問題などに取り組むLicadho、NGO Forum on CambodiaなどのカンボジアのNGOグループが、ドナー向けに、経済土地コンセッションに関する憂慮を表明する書簡を送っている。書簡では、ドナーグループが、カンボジア政府に対して、①すでに発行されているELCを、法の遵守および人権上の観点から見直すこと、②ELCの発行を一時停止(モラトリアム)措置とすること――等を促すことを求めている【*5】。

なお、日本はカンボジアにとっての最大のドナー(援助国)である。土地問題や立退問題など、カンボジア社会の構造的な問題に対し、日本はこれまでカンボジア政府に対して積極的に働きかけを行ってはこなかった。ドナーグループがカンボジアのこうした土地収奪問題に一致して動くとき、日本政府がどのような対応をとるのかが注目される。

<満田 夏花(国際環境NGO FoE Japan、メコン・ウォッチ)>


  • *1 2009年8月の調査における聴き取り。
  • *2 UNOHCHR, Special Representative of the Secretary-General for human rights in Cambodia, Economic Land Concessions in Cambodia, A Human Rights Perspective, 2007
  • *3 *2と同じ
  • *4 2009年4月23日付エコノミスト誌「Cambodia, Kuwait and farmland - Petrodollars v smallholders- Disputes erupt over plans to invest millions in rice farming」
  • *5 メコン・ウォッチ「カンボジア土地問題>NGOが支援国政府に対して経済土地コンセッションによる被害を強調」(メコン開発メールニュース2010年6月24日)
スペーサー
スペーサー

上に戻る▲

スペーサー