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トピックスⅠ
国産材利用拡大と木質バイオマス利用
トピックスⅡ
バイオ燃料とランドラッシュ
2010年の動向
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1. 再生可能エネルギー電力全量固定価格買取制度(FIT)

(1)日本で導入が検討されている制度の概要

再生可能エネルギー電力全量固定価格買取制度(FIT)とは、バイオマス、風力、(中小)水力、地熱といった再生可能エネルギー電力を、電力会社等が決められた価格で買い取る制度である。欧州各国などで導入されており、民主党政権の主要政策の一つで、経済産業省は2009年11月から検討を開始し、2010年8月に制度の大枠を発表【*1】、2011年1月に総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会・電気事業分科会買取制度小委員会報告書【*2】が発表された。2011年通常国会に法案を提出し、2012年4月の施行をめざしている。

導入案では、買取価格20円/kWh、買取期間15年(再生可能エネルギーの種類や条件に関わらず一律)、導入量増加(見込み)は3,200〜3,500万kWで、再生可能エネルギーの割合を2020年に10%にすることを目指す。新設設備に適用(石炭混焼では事情に留意)し、全量買取(自家消費部分にも適用)とする。電力会社は、FIT制度による負担を電気料金に上乗せでき、標準家庭の負担額は約150〜200円/月程度と試算している。すでに導入が始まっている太陽光発電は、別枠で扱われる。

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(2)買取対象としてのバイオマス発電の要件

バイオマスの特質を考慮して、同報告書では、買取対象としてのバイオマス発電の要件について、以下のように記述している。

「①既存用途から発電用途への転換が生じ、既存用途における供給量ひっ迫や市況高騰が起こらないこと、②持続可能な利用が可能であること(森林破壊や生物多様性に影響を及ぼさないこと)、③LCA(ライフサイクルアセスメント)の観点から地球温暖化対策に資すること、等に配慮する必要があり(例えば、賦存量のほとんどが未利用であり既存用途への影響も少ないと考えられる林地残材は、類型としては①〜③に適合しうると考えられる)、発電の用に供される個別のバイオマス燃料についてこうした要件をどのように設定、確認することが現実的であるかを踏まえた上で、その方法を具体化する必要がある。

このような確認を行うための判断材料として、個々のバイオマス燃料の由来等を特定可能とするような、トレーサビリティ(追跡可能性)確保の仕組み等を整備することも重要である。今後、経済産業省において、関係省庁と連携しながら、バイオマス発電の普及拡大に資するよう、適切な対象選定や具体的な仕組みづくりを検討していく必要がある。」

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(3)大枠および報告書の内容における疑問点

導入案についての疑問点として、以下のようなものが挙げられる。

①目的

制度の大枠では、FITの目的として、地球温暖化対策、エネルギーセキュリティの向上、環境関連産業の育成の三つを挙げている。しかし、FITはもっと広く、持続可能な社会構築の手段の一つとして位置づけるべきではないか。特にバイオマス発電に関しバイオマス資源の利用は、健全な林業、地域産業育成、雇用創出、生物多様性保全、森林の多面的機能などと深い関係がある。

②一律価格

再生可能エネルギーの種類によって、コスト、電力の質、利用可能量などが異なる。一律価格では、過剰な利益を得る施設が生じうる一方で、ポテンシャルがありながら進まないケースが生じうる。バイオマスにおいても、例えば自治体による清掃工場における生ごみ分(これまでのRPS制度では、バイオマス電力の7割程度を占める)と林地残材によるバイオマス発電を、同じ価格で買い取ることが適当かどうか疑問である。欧州各国の事例では、発電施設の規模、コジェネレーション(熱電併給)かどうか、バイオマスの種類などできめ細やかに買取価格を変えている。

バイオマス発電は、a)清掃工場でのごみ発電(生ごみなど) b)製紙工場、セメント工場などでの導入(建設廃材など) c)木質バイオマス専燃発電、コジェネレーション(製材廃材など)d)石炭火力発電への数%程度の混燃(輸入バイオマスなど) e)生ごみ、食品廃棄物、家畜糞尿、下水汚泥など水分量の多いバイオマスをメタン発酵し発電 等、燃料も発電方法も様々である。日本ですでに詳細設計が行われている太陽光では、条件によって価格差をつけている。ドイツが1990年代に一律価格で導入し、失敗しており、他の再生可能エネルギー推進者の間でも、一律価格への批判は多い【*3】。

③競合の問題

買取対象としてのバイオマス発電の要件に、「既存用途から発電用途への転換が発生し、既存用途の利用者に対して供給量ひっ迫や市況高騰が起こらないこと」とあるが、具体的な定義や認証のシステムをどう構築するか、実効性は担保されるか、(今後の)熱利用との競合にも有効なシステムかどうか、詳細は未定である。熱利用は、小規模機器でも60〜90%の高い燃焼効率で利用可能だが、バイオマスボイラー機器が重油/灯油ボイラーに比べて高価であることやバイオマスの流通などの問題で、廃棄物バイオマスを除けば現状での普及は、限定的である。しかし、発電よりも小規模でも高い利用効率が可能で、経済性に優れており、ヨーロッパにおいても、木質バイオマス利用の8割は熱利用であり、電気はおまけ的な位置づけである【*4】。

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表:木質バイオマスのエネルギー利用方法別特徴

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そうした課題に対する一つの方法として考えられるのが、地域協定による認証システム、森林再生ファンドの創設である。今後、利用可能なバイオマスの大きな部分を占める木質バイオマス利用において、生産地(森林)への還元がなければ持続可能性、炭素中立性は確保できない。

計画・認証・監視、事業遂行のスキームとして、それぞれの構成要素の代理人的な立場となる、国、県、地方自治体、(地域自治区)、NPO、地域団体、大学など教育機関、地域企業、経済団体、地方新聞社、金融機関、(ISO26000対応型)地域と関連する大企業などが横並びで構成する地域委員会(首長直結)を組織し、FITに関し地域協定を締結する。排出量取引や環境価値システムとも連携する。ヨーロッパのエネルギー事務所のような地域資源活用事務所も設置する。これらは旧郡単位に概ね一つ設置し、それぞれの事務所は全国や地方ごとに緩やかなネットワークを形成し、独自のシンクタンクやアドバイザーや人材を共有する、というものである。

④石炭混焼におけるバイオマス買取価格の問題

20円/kWhという買取価格であれば、新規設備がほとんど必要ないバイオマスの石炭混焼発電において、木質バイオマスの買取価格(チップ工場あるいは市場)は10,000円〜12,000円/原木㎥程度と試算される【*5】。この10,000円/原木㎥という価格だが、切り捨て間伐材の搬出費用は、8,000〜25,000円/㎥程度であり、10,000円で出てくる切り捨て間伐材は少ないと考えられる。つまり、林地残材利用への効果は限定的で、輸入に頼ることになる可能性が高い。一方、現在のスギ丸太材の価格は製材用が9,000〜13,000円/㎥、パルプ材が5,000〜6,000円、燃料用が3,000〜4,000円程度であり、10,000円という価格では他用途の原料と競合し、製材や合板、パルプ原料となる木材が、発電に回る可能性がある。認証システムがつくられても、この価格差は大きく、実効性を持つためには相当強固な制度が必要になると考えられる。

こうしたことから、詳細な制度設計および実施体制が整うまで、影響が特に大きいと考えられる石炭混焼については、制度の導入をペンディングにすべきではないか。あるいは、少なくとも石炭混焼を行うバイオマス発電事業者に、当該地域における他の用途の利用を妨害するようなバイオマス買取価格としないことを、FIT制度に盛り込むべきではないか。また、森林バイオマスが再生可能であるためには、森林の再生のための費用が山元に還元される必要があり、バイオマス発電事業者が支払う森林バイオマス買取費用の一部は、再造林費用等森林資源の再生に回される制度とすべきである。

なお、石炭混焼以外のバイオマス発電では、20円/kWhの価格では採算がとりにくく、普及は限られると考えられる。地域でのバイオマス発電は、地域資源の循環利用に役立ち、コジェネレーションであれば、利用効率も高い。振興のためには、より高価格の設定が必要であろう。

⑤輸入バイオマスの問題

EUの違法木材法や米国のレーシー法など、欧米での違法伐採対策は着実に進行しており、近年では、形式的な合法性だけでなく実質的に持続可能な木材利用へと取り組みが移行している。今回のFITにおいて、バイオマスの持続可能性に焦点が当たったことは、日本の政策における前進であると考えられる。報告書で挙げられた森林破壊、生物多様性への影響、温暖化対策に資することに加え、現地の土地をめぐる紛争など社会的な持続性も配慮事項に入れるべきであろう(具体的項目案については下枠内を参照)【*6】。

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(輸入)バイオマス利用における持続可能性で配慮すべき項目

(バイオマス産業社会ネットワーク他による案)

  • 1.バイオマス発電の燃料となるバイオマスの種類、生産地、量を報告し、公開すること
  • 2.原料調達に関係する国内法・国際法を遵守していること
  • 3.温室効果ガス(GHG)収支およびLCAの値が基準を満たしていること(土地利用転換を含む)
  • 4.目的のバイオマス採取が、森林や既存の植生の減少・劣化とならないこと
  • 5.天然林(とりわけ保護価値の高い森林)由来の木質原料、および天然林を転換して造成された人工林からの木質原料でないこと
  • 6.生物多様性保全に配慮していること
  • 7.地元社会の土地・森林利用とコンフリクト(紛争)を生じていないこと。新規開発を伴う場合は、十分に情報を供与した上で、地元社会の合意が得られていること。現地需要との競合に配慮していること
  • 8.以上についての情報を公開すること

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国際的には、未だに天然林の乱開発が生じており、また東南アジア等では、天然林を皆伐したパルプ生産用のプランテーションが急ピッチで進行し、その一部は日本に輸入されている。これによって、生物多様性に深刻な影響が及んでいるだけでなく、大量の温室効果ガスが大気中に放出されている(表紙写真参照)。

図:石炭混焼原料バイオマスの割合

図:石炭混焼原料バイオマスの割合

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現在、石炭混焼における輸入バイオマス利用が拡大しており、全体に占める割合も約8割となっている(上図)。FITにおいて輸入バイオマス利用を明示的に排除することはWTO上難しいが、エネルギーセキュリティや地域振興上のメリットが国産バイオマスと異なりながら国民負担となることを考えると、輸入バイオマスが主流となる事態は回避すべきではないか。そのための一つの方法として、前述した地域における認証システムが考えられる。

また、ポスト京都議定書における森林・木材等からのGHG排出カウントについても考慮(国産バイオマスと輸入バイオマスで差が生じる可能性がある)すべきであろう。

現在、日本が輸入している木材すべてを仮にバイオマス発電に向けても、日本の電力需要の数%にしかならない。その一方で、新規の大規模なバイオマス利用は、間接的な影響を通じて認証制度で持続可能性を確保することが難しいことにも注意すべきである【*7】。

FITは炭素税、排出量取引制度と並んで化石燃料の外部不経済を内部化する重要な制度だが、適切な制度設計でなければ、むしろ目的に対する害となりかねない。社会と環境にとってより好ましい制度が実施されるために、今後も関係者らによる様々な努力が必要となろう。


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