バイオマスのエネルギー利用では、エタノールなどの液体燃料や発電に注目が集まっているが、実際は、熱利用が最も利用しやすい方法である。熱利用は60〜90%と利用効率が高いため、化石燃料代替効果や経済性が高く、家庭用ストーブのような小規模でも利用可能である。EU諸国でも、木質バイオマスの8割は熱利用されている。しかし、日本のバイオマスの熱利用は、まだまだ途上なのが現状である。熱利用は、チップボイラー、木質ペレットによるペレットストーブ、小規模のペレットボイラー、薪ボイラー、薪ストーブ、熱電併給のコジェネレーションなど様々な形態があり、適する形態での導入が重要である。
表:各種木質燃料の短所と長所
メリット | デメリット | |
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薪 | 製造が最も容易 | 燃料効率を上げにくい、煙が多い、火力の調整が困難 |
炭 | エネルギー密度が高い、煙が出ない、火持ちがよい、用途が多い | 歩留まりが40%と製造効率が悪い |
チップ | 製造が比較的容易 | 利用機種が複雑になり小規模の利用機器では不可 |
ペレット | 自動供給や発熱量調整がやりやすい:取り扱いが容易。小型機器でも燃焼効率がよい。エネルギー密度が比較的高い(チップに比べてエネルギー密度は3倍以上)。バーナーで使用可能:利用用途が多様化し応用が広い | 製造工程がやや複雑:製造コストが比較的高く手間がかかる。水湿に弱い |
日本でバイオマスの熱利用があまり普及してこなかった理由としては、①原油が安価だった ②重油・灯油への課税が低かった(2.24円/リットル) ③高性能チップボイラー等が入手しにくかった(生チップ不可、10cmを超えるチップの自動供給不可、70%以下と低い熱効率) ④初期投資が高く大きなスペースが必要(例えば、1,400kW出力の重油ボイラーが550万円程度であるのに対し、チップボイラーは6,000万円程度) 等が挙げられる。
代表的な熱需要としては、病院やホテルなどの滞在型施設、工場やクリーニング店など店舗型施設、家庭用給湯(風呂)需要・暖房需要、温浴施設、融雪装置などが挙げられる。
出力500kW〜18MWのボイラー設置数は、全国で2万を超えており、このうち10%がチップボイラーに置き換わった場合のチップ需要は、380万生t程度である。これは、現在の切り捨て間伐を除く林地残材の年間発生量の多くをカバーする数字である。
もっとも、地域で持続可能な範囲で利用できるバイオマスには限りがあり、かつバイオマスは運搬や蓄積が可能で、他の用途にも利用できる。熱需要のうち断熱性能の強化やパッシブソーラー、太陽熱、排熱、地中熱、地熱などでも供給可能な暖房需要や給湯需要については、これらと組み合わせながら、考えていくべきであろう。
今後のバイオマスの熱利用普及拡大のためには、化石燃料への炭素税課税あるいは化石燃料の価格上昇、高性能バイオマスボイラーの輸入や改良、バイオマスボイラー導入への助成などが重要であると考えられる。もちろん、燃料となる林地残材(土場残材)の経済的な収集・供給が不可欠であり、各地で実験が行われている。また、燃料チップ、木質ペレットの品質規格も必要である。小・中・大規模ボイラーそれぞれで、チップの出所(建築現場、製材工場、森林)、含水率、製造方法、サイズなどの適性が異なる。EUでは燃料チップの規格が整備されており、チップボイラー利用普及の一要因となっている。
実際のバイオマスボイラー導入においては、全熱需要をバイオマスボイラーで賄うよりも、初期投資が高くランニングコストが比較的安価という特徴を生かして、ベース需要に充て、ピーク需要には併設の重油ボイラーを充てると、採算がとりやすいといった点にも注意を払うべきであろう。
岩手県雫石町にある県営屋内プール「ホットスイム」では、2007年より、いわて型チップボイラー200kWを2台、同100kWを1台、地下水利用型ヒートポンプ200kWを1台導入し、稼働している(写真)。チップ消費量は4,000㎥/年で、燃料費は重油ボイラーと比べて4割以上低く、年間約1,800万円程度の燃料費を削減。稼働状況の確認は毎日行っているが、原則、無人運転が可能。
バイオマス利用においては、バイオマスの安定供給がスムーズな利用の鍵となるが、岩手中央森林組合が、組合内の製材所で発生した廃材等をチップ化し、ストックヤード(写真)で保管、含水率等(100%相当以下)を管理した上で、供給している。契約により、チップの価格も保証している。
盛岡市の食品加工会社、㈱兼平製麺所【*1】は、原油価格高騰を受けて、木屑焚ボイラを導入した(表紙写真参照)。燃料の木屑は、隣接する製材所から安価に、端材や建築廃材チップを搬入。また、スクリュー式小型蒸気発電機も導入し、工場内の電力の一部も賄うようになった。初期投資は、地元金融機関によるリースで、従来の重油焚ボイラーのランニングコストを下回る額での返済金額ですんでいるとのことである。
大阪府吹田市の万博記念公園では、220haの公園管理地域で発生する剪定枝等の木質バイオマスは年間約160tに及び、マルチング材、堆肥、炭のほか、除去木幹材等をコジェネレーションシステム燃料として利用している。
事業を受託しているNPO法人里山倶楽部【*2】は、残材を薪割り機で薪とし、園内で乾燥。これを薪ボイラ「ガシファイア」(定格出力14kW、燃料消費量は5〜10kg/h、熱効率85%。写真)に投入し、発生した熱は足湯に利用、スターリングエンジンで発電し、イベント時には電動カートの充電に利用している。