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トピックスⅠ
国産材利用拡大と木質バイオマス利用
トピックスⅡ
バイオ燃料とランドラッシュ
2010年の動向
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3. 国産材の需要と供給を結ぶには

日本のバイオマスの利用拡大には、林産業の振興が不可欠である。国産材の加工と流通のマネジメントとマーケティングを進め、需要と供給を結ぶことが、今後の大きな課題となる。

(1)国内の木材加工・流通の現状

日本の木材自給率は2002年に18%まで落ちていたが、2009年約3割に上昇し、製材用材の自給率は4割を越えるようになった。住宅着工数の増減にかかわらず1960年代から木材自給率は下がり続け、国産材は、木材の利用分野から主役の座から落ちていたが、変化の兆しがある。

図:国産材の流通フローチャート(赤堀楠雄氏作成)

図:国産材の流通フローチャート(赤堀楠雄氏作成)

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木材流通が複雑だと言われてきたが、近年、変わってきた。従来は、森林所有者-素材生産者-原木市場-製材工場-製品市場-材木店と多段階(上図の緑の矢印)だったが、住宅に使う材をあらかじめ工場で加工するプレカットが普及し、製材工場の大規模化が進んだことで、最近の木材の流れは、森林所有者-製材工場-プレカット工場(上図の黄色の矢印)というシンプルなケースが増えている。

九州では、大規模製材会社が原木市場を通さず、協定取引、直送で丸太を購入し、近隣の原木市場より1,000円/㎥近く高く買うケースもある。

国産材大規模製材工場に共通する点としては、①脱原木市売市場、②脱製品市売市場(密プレカット流通)、③脱国有林(=脱良質材,ヒノキ材)(ただしその一方で国有林回帰の兆し→システム販売,公売参加)、④脱「和室(真壁構法)」である。その課題としては、①大径材(36cm上)のニーズに見合った効率的な製材システムの確立(かつての良質大径材とは違い並材の大径化)②小径木(6cm〜15cm未満)利用システムの確立などがある。効率的な大規模工場の出現によって、大手の住宅メーカーのニーズに対応できるようになり、これまでほとんど国産材を使ってこなかった大手住宅メーカーが、雪崩をうって国産材利用にシフトしてきている。

現在、すでに木材自給率向上、国産材時代に向けての流れが進みつつある。一つには、ロシア政府による木材の輸出税引き上げを契機に、ロシア産アカマツの人工乾燥された間柱(まばしら)が入らなくなり、代替品として人工乾燥した国産材の間柱の供給体制が進んでいることがある。スギ立木価格も底を打ち、上昇局面に入っている。上昇要因としては、合板向けB材需要(九州など)の増加などがある。

合板も国産材にシフトしてきた。合板は、システムキッチンやキャビネットなどさまざまなところに使われている。型枠用合板の国産材化も検討されている。合板用素材では、国産材のシェアが2001年の3.9%から2009年には63.7%になった。

一方、日本の林業の根本的問題は、林業が産業ではないことであり、市場の基本的な枠組みをつくる必要がある。市場メカニズムが働かない理由の一つは、国有林の伐採や補助金による間伐など官制伐採が、50%を占めていることである。また、赤字さえ出さなければという、財産処分としての丸太生産もある。需要とミスマッチが生じ、品質、性能を度外視して市場に出てくる。

間伐の場合、更新費用が必要ないため、収益を上げられなくても丸太が市場に出てくるようになり(立木価格が0円の場合でも、マネジメント費用が確保できれば、間伐は実施される)、国産材生産、加工、利用の機会は増え、供給量は増加しているが、森林所有者への還元は進んでいないという問題がある。このため森林所有者の経営意欲が低下し、皆伐後の造林(投資)が敬遠されている。

1990年代後半に国産材の丸太価格が15,000円/㎥を割り、再造林放棄が増えた。一つの仮定として損益分岐点が15,000円という価格だとすれば、そこまで押し上げるにはどうするべきか、議論する必要がある。

今後、力を入れるべきこととしては、長期間、木を育てて伐採する長伐期化で生産量が増加する大径材が高く売れるようにすることである。そのためには木材の良さが生かされた利用や、大径材の特性(幅広材・柾目材等)を踏まえた利用の促進が考えられる。その一方で、短伐期の人工林経営が成立するための検討も必要である。また、林業生産に際しての競争条件の平等化が図られることで、他産業が参入してくる可能性があり、地域の利益が確保されるようにしなければならない。

これまでの林野行政では、森林整備の過程で出てくる木材は川下(製材加工業者ら)が考えるという政策だったが、破たんした。10年前からプロダクトアウトからマーケットインへと言われてきたが、実際にはまだ進んでいない。中小の製材会社だけでなく、大規模製材会社から大手住宅メーカーへと続く大規模ルートでも、顔の見える関係は責任の所在を明らかにし、トレーサビリティ(追跡可能性)のために必要である。それには、NPO法人サウンドウッズのように川上から打って出る手法もあり、プレカット工場が核となる方法もある。プレカット工場では、製図や図面のデジタル化で供給側と需要側の情報を蓄積し、立木の段階からバーコードをつけてトレーサビリティを確保している例もある。ある大手住宅メーカーでは、6ヵ月前に材の発注できるという。そうした情報を例えばプレカット工場が山元に還元することで、ニーズに合った材を提供することが可能になる。

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木材シンポジウム「国産材の需要と供給を結ぶ」

NPO法人バイオマス産業社会ネットワークは、2010年1月、シンポジウム「日本の森林バイオマス利用を進めるには〜日本林業復活のための提案〜」を開催し、250名余の参加者を得て、非常に活発な議論が行われた(内容の概要は、バイオマス白書2010に掲載)。

この第2弾として、2011年1月13日、NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク主催、W-BRIDGE共催により、「国産材の需要と供給を結ぶ〜加工・流通のマネジメントとマーケティングをどう進めるか〜」が都内で開催された。赤堀楠雄氏(林材ライター)「国内の木材加工・流通の現状」、森田啓一氏(㈱トステム住宅研究所購買部係長)「住宅メーカーから見た木材加工・流通」、能口秀一氏(NPO法人サウンドウッズ、木材コーディネーター)「流通・加工の課題」、遠藤日雄氏(鹿児島大学農学部教授)「新しい国産材時代到来の予感-現状と課題-」、永田潤子氏(大阪市立大準教授)「最終ユーザーからの視点」の各講演が行われた。

パネルディスカッション「国産材の需要と供給を結ぶ〜加工・流通のマネジメントとマーケティングをどう進めるか〜」では、講演者の他、金谷年展氏(慶応大学大学院教授) 、岡田久典氏(W-BRIDGE)、相川高信氏(三菱UFJ リサーチ&コンサルティング)が加わった。林業・木材関係者、その他企業、マスメディア、官庁、自治体、研究者、NPOなど100 名以上が参加し、活発な議論が行われた。

本特集は、このシンポジウムでの講演内容・資料及び議論を、編集部の責任で再構成したものである。

シンポジウムの様子
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(2)住宅メーカーから見た国産材の加工・流通

各住宅メーカーでは、環境への取り組みを競っている。

例えば、年間約5000棟を扱うアイフルホームでは、合法木材(国産材とは限らない)を一定量以上使用して建築したモデルハウスに対して補助金が交付される国の支援制度「地域材活用木造住宅振興事業」を活用し、住宅フランチャイズ加盟店全体でモデルハウス7棟を建築した。合法木材供給事業者認定を取得した木材加工会社が、認証材(PEFC等)や産地証明のある国産材で、プレカット加工・供給することにより、木材の合法性を証明することが可能になる。以後、同社が合法木材利用を拡大する契機となった。また、木のいえ整備促進事業の地域資源活用型対象住宅(戸当たり120万円上限の補助金制度)にも適合させ、こちらも活用している。

同社では、強度や樹種群、グレードが同じなら産地等の指定はない。国産材を使わないということではなく、条件に合った材料の調達が困難なことが国産材導入の障害となっている。例えば同社では、耐震性の確保/担保や、引渡し後の不具合やクレーム低減のため、オリジナル金物工法を採用しているが、構造材は集成材が条件となり、使用できる樹種群や強度に一定の制約がある。国産材の構造用集成材では、ヒノキは高価、杉は強度・意匠性に難があり、カラマツやヒバは供給可能地域・量が限定的といった問題がそれぞれある。実際に、国産材製造メーカーに材の供給を依頼したが、供給能力を超えていると断られた事例もある。

その一方で、床合板は、安定供給が可能な国産材の合板を標準仕様とした。また、それまで天井の下地材である野縁材の主な樹種はロシア産のアカマツだったが、良材が不足してきており、品質の安定している杉LVL材に変更し、現状では国産材に変更した部位は全体の約25%である。

図:「アイフルホーム」での使用部位別の木材の仕様

図:「アイフルホーム」での使用部位別の木材の仕様

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同社では、一棟ごとに耐震等級、梁のたわみといった構造計算を実施しており、計算には強度等級の信頼できるJAS【*1】材が必要だが、無垢材のJAS材はまだ少ない。また構造用集成材で接合金物の強度試験を実施しており、現時点では無垢材は使用できない。

施主にとっての国産材導入のメリットが明確に出せれば、住宅メーカーでの採用は進むが、現状では強度や価格のメリットが出せない。住宅エコポイントが効果を上げているが、例えば、国産材利用に補助金が交付されるなどすれば、活用が進むと考えられよう。

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(3)山元と施主をつなぐ木材コーディネーターの取り組み

2009年12月に発表された「森林・林業再生プラン」など、木材の大規模流通化、量を確保する政策が進んでいる。山元が量的な供給問題に対応する一方で、質に対応できる材が途切れようとしている。

良質な森林の原木価値に見合った木材利用、森林資源の高付加価値化、供給と需要をきめ細やかにつなぎ、適した住宅に提供する取り組みの一例が、兵庫県丹波市に拠点を置くNPO法人サウンドウッズ【*2】である。

同団体副代表理事の能口秀一氏は、10年以上製材会社の原料調達を行った経験から、森林所有者(自伐林業家)と最終消費者(建築主)をつなぐ顔の見える立木販売、家づくりを山から始めるストーリーを商品とすることを行っている。

まず山元で、座標、樹種、胸高直径、樹高・枝下高、品質(用途・枝打ち・欠点など)、玉切り位置といった、商品化に必要なデータベースづくりのための森林調査を行う。樹齢70年から120年の意欲的に山の手入れをしてきた森林所有者は、立木基本価格+品質価格:杉9,500円/㎥+αといった固定価格で販売している。当初、森林所有者は価格を決定する際、いくらにすればいいか決められなかった。というのは、立木価格+伐採費+輸送費の経費の明細と、流通加工段階の商品価値の情報を持たないからである。通常、森林所有者は、自分の山の木が誰の家に使われているかを知らない。これを、木材コーディネーターが建築主の希望を聞きながら、オーダーメードで最も効率のよい木取り(丸太から建築材を取り出すこと)を行い、つなぐのである。流通の中抜きにより経費を省くことで、価格を抑えることができ、建築主の満足度も高い。

また、木材コーディネーターは、小規模でも確かな建築製材技術を持つ製材所を、良質な森林を活かす協力工場として選出し、森林の品質に見合った造材が可能な伐採業者の人材育成、流域ごとの製材・乾燥・加工・品質管理・流通管理等の設備と品質管理システムの構築も行っている。

サウンドウッズでは、地域材を使った公民館、学校づくりなど公共建築における地域産木材調達コンサルティングも行っている。2010年10月に公共建築物木材利用促進法【*3】が施行されたが、その実施には様々な課題がある。その一つが、通常の公共事業において木材調達の発注時期が遅くなるため、大規模生産地以外では材の供給が困難であることである。公共建築では、JAS製材や集成材の需要が高いが、品質管理された木材が供給できない地域も多い。そこで、木材コーディネーターが発注者側に入ることで、設計事務所をサポートしながらスケジュールを管理し、どのタイミングで発注すべきかを見極め、地域木材分離発注コンサルティングを行う。山の現状と商品価値の理解し、規格品と建築主選木品を予算に合わせ、コーディネートしている(下図)。

さらにサウンドウッズでは、一級建築士、構造設計士、工務店経営、木材販売、大工、行政担当者ら実務者対象の木材コーディネーター養成講座も実施している。

図:地域産木材利用公共建築における木材コーディネーターの役割

図:地域産木材利用公共建築における木材コーディネーターの役割

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(4)最終ユーザーからの視点

消費者に住まいで重要なことを尋ねるアンケートを行うと、回答の上位には、災害や治安などの安全性、次いで周辺環境、住宅の広さや間取りといった順になる。国産材かどうか、というのは一般の調査のアンケート項目にすらない。唯一、林野庁による「木材利用と林産物貿易に関する意識アンケート」では、木材の原産地明示についての問いに対し、63%の回答者が原産地を明示してほしいと答えている。また、国産材と輸入材のどちらを選ぶかという問いに対しては、品質やデザイン、価格に違いがなければ、約8割が国産材を選ぶと答えている。

住宅に限らないが、消費者は高いから買わないのではなく、価値の説明があり、納得すれば買っている。また6割前後の人が、社会や地域、環境に「お金をかけずに貢献したい」と答えているが、8割を超える人が「家族や仲間との時間」や「健康管理」は「お金を払っても」大切にしたいと考えている。

家庭における購買決定権の7割から9割は、女性が持っている。女性は日々のくらし目線でものを見る傾向があるが、くらし目線と社会目線の両方が必要である。

女性たちは、森林の保護や日本の山林が外資に買われているのを危惧していても、自分たちが家を買うことと結び付いてはいない。現在のところ、ほとんどの消費者(施主)にとっては、なぜ住宅に国産材を使うのがいいかわからない。国産材は高い、というイメージも残っている。あるいは、床板や柱をヒノキでと要望したが、大手住宅メーカーに対応できないと言われた例もある。国産材の主要な用途が戸建木造住宅であることや、どうすれば国産材主体の家が建てられるのか、ほとんどの消費者に伝わっていないのが現状である。

また、マンションの施工現場では、製造物責任(PL)法によりクレーム対策を優先し、過度な寸法安定性が求められ、無垢材はほとんど使われていない。建築現場にはリサイクルできないごみがたくさん出、取り壊した時の環境負荷も高い。こうしたことが、消費者に知られていない。木材は環境負荷の低い素材であり、自然の素材を生かす方が社会全体として好ましい。木材は、経年美化すること、狂っても安全性に問題がないことなど、木という素材についての消費者教育も必要であろう。

国産材利用推進を消費者にアプローチするなら、住宅購入を考えた時では遅く、もっと前、例えば結婚式場とタイアップして新たに夫婦となった人たちに、時間をかけて材料の話、森林のことを伝えていくことも考えられる。気軽なアドバイザーに何度でも足を運んで聞けると効果的である。マーケティングでは頻度、強度、継続度が重要で、顧客の情報量が増えていく。

最近の消費者の環境意識は高く、危機感もあり、環境配慮型商品の認知度も上がっている。多くの女性たちは手軽な環境行動は実践しているが、ライフスタイルの転換には至っていない。もう一つは、生産者や流通とのコミュニケーションを求めていることである。消費者は、「市民の顔」と「消費者の顔」があり、アンケート結果が実際の購買行動と食い違うこともある。

こうした中で、住宅に関しては、ダイレクトに森林と国産材の話から入るより、健康や快適性などを入口として、そこから素材の話、材の生産地の話に進めるのが効果的と考えられる。環境を前面に出すより、家族との語らい、ほっとすること、自然素材の気持ちよさ、シックハウス、室内空気の安全性など健康面から入ると、共感性が生まれて、それから森林の問題に入っていきやすい。また一般消費者にとっては、国産材より地域材の方が理解しやすい。自分たちの地域を支える上流の山を守るために、買い物代金の一部を還元するしくみなどもある。

木材に限らず、生産者と消費者は直接的につながる機会はほとんどない。情報があることで消費者は学べるが、住宅展示場、ハウスメーカー、建築事務所といった情報をつなぐ場所が情報提供の機能を持つことが重要である。また、マスメディアや専門家だけでなく、ローカルな仲間うちの口コミも、購入する上で重要である。

図:生産者・流通・消費者の関係性のつくり直し

図:生産者・流通・消費者の関係性のつくり直し

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その一方で、消費者の意識改革だけに頼っては時間がかかりすぎる。政策と並行して行う必要がある。

木材業界側は、間伐材利用促進といったキャッチフレーズから脱却し、地域のためになるだけでなく、消費者目線で、どうくらしがよくなるかを伝える必要がある。自分たちがつくっている商品にどういったメリットがあるか表現力を磨かないと、森林再生につながっていかないのではないかと考えられる。

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(5)まとめ

木材の生産地である山村には、地域のくらしが成り立つ総合的アプローチが必要である。中部ヨーロッパでは、農業では環境直接支払いで収入の3割を得、副業として林業や観光を行う林家農家がある【*4】。こうした方式も一つ考えられる。

また、住宅や住まい方についての情報提供や考える場づくりも重要である。若い時は一戸建てで、年をとると駅の近くの集合住宅へといった住み替えが始まっている。新しい住まい方に林産業が対応していけるのか、地域資源をそうした変化に応じてマネジメントできる人材育成が重要になってくる。その一方で、どういった住まい方をするのがいいのかといったモデルについての情報が少ない。小学生が自分が住む家の間取りを考える、といった機会をつくることも意味がある。

これまで、林業や木材業界は、施主や消費者とほとんどつながっていなかった。持続可能な社会構築の有力な一つの手段として国産材利用推進を行う上で、生産者・流通・消費者の関係性のつくり直しを行っていくことが、今後、不可欠となってくるだろう。


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