3. マテリアル利用の動向

2007年から2008年前半までの続く石油高騰を受けて、バイオマスのマテリアル利用の研究や実用化が大きく進展した。

財団法人 地球環境産業技術研究機構(RITE)が米化学最大手のダウ・ケミカルと共同で、雑草や農業廃棄物から遺伝子組み換え微生物を使って、プロパノールをつくり、石油化学の基礎原料であるプロピレンをつくる量産技術の開発に取り組みはじめた。1kg当たり200〜300gのプロパノールをつくり、石油1バレル60ドル以上であれば採算と取れるという。バイオ燃料の採算性が90ドル以上というハードルを考えれば、マテリアル利用の付加価値が高いといえよう。

2007年度に当団体が新しいバイオマス利用の海外事例として取り上げていた住宅用の木質断熱材が、株式会社 木の繊維によって2009年8月から製造開始する【*1】 。木質ペレット利用拡大等により木質バイオマスの供給不足感がある本州ではなく、供給能力のある北海道の間伐材利用となる。これは、従来の木材利用の角材、板材、繊維板などとは異なり、木材チップを繊維化させ、それを積層させることによって、空気層を含む高性能な断熱材になることが特徴である。断熱材分野は、グラスウール、ロックウール、ポリスチレンフォームが製造量及び価格面で競争力がある中で、間伐材利用の拡大とエコ住宅のニーズをうまく結びつけることがカギとなるであろう。

木質断熱材

木質断熱材

また、国の構造改革特区の北海道版である「北海道チャレンジパートナー特区」として、北海道北見市が「産業用大麻特区」の認定を受けた。これは、酩酊作用あるTHC含有量が低い産業用大麻を休耕地で栽培し、新しい産業を生み出すための試みである。産官学連携組織である産業クラスター研究会オホーツクが数年前からの試験栽培、研究開発、海外視察などの取り組みから生まれたものである。北海道では、次世代の作物の開発が求められており、この特区認定をきっかけに、プロジェクト推進の環境整備が進み、日本での農業から工業製品つくるモデルになることが期待されている。

バイオマス・プラスチック分野では、地域の林業・農業廃棄物を混合させた国産原料入りのプラスチックの実用化が進んでいる。特に千葉県では、県内にある木質バイオマス新用途開発プロジェクトを展開しており、団扇、プラモデル、玩具、ボールペン、温度計、学習教材などが各企業によって開発されている。これらの製品の原料を製造している株式会社 佼和テクノスは、スギの樹皮や竹などを使い、バイオマス率70%、バインダーにPP(ポリプロピレン)を使った射出成形用ペレットをつくっている【*2】。

同じように国産原料を使ったバイオマス・プラスチックの先駆けであるアグリフューチャー・じょうえつ株式会社では、廃棄された備蓄米から樹脂をつくり、弁当容器、ごみ袋、トレーなど各種製品をつくっている。この分野の需要増加に対応するために、新潟の工場の製造能力を増やす計画であり、東京に関連の営業会社を設け、京都府に研究所を設立し、鳥取県にも同様の新会社を立ち上げている【*3】。

石油価格が下がっているものの、各地で政策的に推進されてきたバイオマスタウンの中で、地域のバイオマスを使った付加価値商品の開発は魅力的であり、環境学習教材やノベルティ商品として事業化しやすいため、今後もユニークなアイデアで様々な商品が出回ることであろう。

<赤星 栄志(Hemp-revo,Inc.COE)>

コラムアグロフォレストリー・マーケティングの必要性

近年、消費者の地球環境問題への関心の高まりから、市場には様々な環境対策商品が発売されるようになった。しかし、大半が省エネ型か寄付方式、新しい手法ではカーボンオフセットなどがあるが、どれも消費者には分かりづらく、企業宣伝のように映っているのではないだろうか。経済活動が環境負荷のもとに成り立つ構造が変わらない限り、前述の手法は延命作業にはなるものの、抜本的な解決には至らないということを直感しているのかも知れない。一方で、誰にでも理解できる「エコバッグ」は消費者に参加意識をかきたて、一般化したようだ。察するに、消費者は環境問題と積極的に取り組みたいが、何をするのが効果的なのか迷っているように見える。

その点、アマゾンに入植した日系移民の開発した「熱帯型アグロフォレストリー」は注目に値する。生物多様性に逆行する単一栽培と決別し、多様性を保ちながら多種の農林産物をあたかも「森を作る」ように混植する農法は、持続的で、農薬や肥料が不要で、最終的に高さ35メートルの森林が蘇る。経済活動と環境が共存共栄する未来形といえる。

この素晴らしいシステムをいかに普及拡大させるかが当社の使命でもある。その鍵は「消費市場」にある。それは市場側の「消費多様性」のデマンド創造であり、その購買力がアグロフォレストリーシステムを拡大させる原動力となる。これを実現させるため、独自のアグロフォレストリー・マーケティングを実践しているが、下記に主な戦略を紹介する。

(1)天然サプリ戦略

生物多様性の環境下で、植物が本来のチカラを取り戻し、天然の栄養素を蓄積する仕組みは、トマトやリンゴで近年注目を集めており、その集大成といえるアグロフォレストリーを「天然サプリ工場」、そこから採れるフルーツを「天然サプリ」と定義している。嗜好性のフルーツ販売は単一性を生みやすいが、サプリは多様性が標準であることがサプリ戦略の大きな特典である。

(2)企業コンソーシアム(アグロフォレストリー連合)

アグロフォレストリー産物を各業界のリーダー企業で分業してスケールアップを図る。該当原料使用した商品を専門独立機関が認証し、数値化して消費者にアピールできる仕組みを構築する。メーカーは無農薬やトレーサビィティ、持続性というCSRのメリットがあり、すでにカカオとコーヒーの分野で準備作業がスタートしている。

アグロフォレストリーの発展には市場開発が不可欠であり、そのための手法がアグロフォレストリー・マーケティングである。消費革命ともいえる。

図:アグロフォレストリーマーケティング

図:アグロフォレストリーマーケティング

アグロフォレストリーの生育

アグロフォレストリーの生育:1

アグロフォレストリーの生育

アグロフォレストリーの生育:2

アグロフォレストリーの生育

アグロフォレストリーの生育:3

<長澤 誠(株式会社 フルッタフルッタ【*】代表取締役)>

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