3. 2008年バイオ燃料 国内の動向

(1)政策の動向

2008年3月、経済産業省と農林水産省が連携し、石油業界や自動車業界など国内大手16社及び大学等・独立行政法人の研究機関からなるバイオ燃料技術革新協議会は、「バイオ燃料技術革新計画」を策定した【*1】。この中で、バイオ燃料の開発において配慮すべき点として、

1. CO2排出削減効果
2. エネルギー生産(化石燃料エネルギー収支)
3. 経済的機能(経済性)
4. 安定供給
5. 資源の有効利用
6. 自然環境との共生
7. 食料との競合
8. 既存産業構造との競合
9. 地域社会での受容性
10. 文化の尊重

を挙げている。

2008年10月、国産バイオ燃料の生産拡大を推進する法律上の仕組みとして農林漁業バイオ燃料法が施行された【*2】。また、揮発油等品質確保法が改正され、バイオ燃料を混入する事業者の登録、出荷・消費時の品質確認が義務付けられた【*3】。改正揮発油税法も成立し、これにより、混合されるエタノールについてガソリン税が免税されることとなる【*4】。

(2)バイオエタノールの導入

石油連盟は2007年4月より首都圏の50店舗でETBEを配合したバイオガソリンを一般向けに販売開始し、2008年度には100店舗に拡大。石油精製・元売9社で構成されるバイオマス燃料供給有限責任事業組合(JBSL)は、バイオETBEの原料に使用するバイオエタノールの安定確保に向け、年間約20万klを購入する長期契約を2008年10月に締結した。JBSL後藤一郎事務局長によれば、「調達にあたっては、食糧との競合、CO2削減、生態系保全、労働条件などのサステナビリティに配慮している」とのことである【*5】。

2008年8月、大阪府5ヵ所、兵庫県1ヵ所のガソリンスタンドで、E3(バイオエタノール3%混合ガソリン)の一般販売が始まった。販売価格はレギュラーガソリンと同程度。大阪府堺市のバイオエタノール・ジャパン・関西が廃材から製造したエタノールを中国精油(岡山市)でガソリンと混合し、供給している。

バイオエタノールGS

バイオガソリンを販売するガソリンスタンド

(3)バイオディーゼル利用

2008年秋、全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会は、国内のバイオディーゼル利用事業2007年度実績調査を行い、117事業者より回答を得た【*6】。製造量合計は6,229kl、回答事業者平均の製造コストは124円/lだった。廃食油などを原料とするバイオディーゼルは、エタノールよりも日本国内での製造事業が容易だが、飼料や工業原料など既存用途との競合、原料回収システムの構築、廃水処理などの環境対策、製品品質の確保などに特に注意しながら推進する必要があろう。

コラム廃食油由来のバイオディーゼル(BDF)を
製造・販売するにあたっての所感

バイオマス事業のコンサルティングを行なっている私達の経験において、BDFについてのバイオマス・ニッポンに参加している6省庁の統一的な判断が曖昧であることに直面し困惑させられ、BDFについて省壁のあることに驚かされました。

廃食油のもとである食用油を生産する所管は農林水産省であり、油脂工業など食品工業を所管するのも農林水産省のはずです。そして、廃食油を原料としてBDFを製造する際にもっとも困難な点は、廃食油の回収でありますが、その中でも家庭から排出される廃食油については、データを農林水産省と環境省は保有をしておらず、各種交付金を使った事業についての目標値や成果は判明しにくいのが現実です。

我々は実際にバイオ燃料地域利用モデル実証事業を企画してみましたが、家庭の廃食油は回収が大変困難であるにもかかわらず、それに対しての的確なツールや対策、交付金についての基準が全くないことには驚かされました。例えば、農林水産省のバイオ燃料地域利用モデル実証事業では、事業認定決定のプレスリリース発表のあとで、事業主体が事業を辞退するということが起きました。原因は、廃食油が計画通り回収・供給される見込みがなかった点にあります。そのためにこのBDFの事業をしている際によく聞く話は、海外のヤトロファに対する期待です(ヤトロファについては、環境省は対象としていないにもかかわらず)。廃食油は、必ずしもエステル化してBDFにすることがベストとはいえません。むしろ、レダリングを行ってエコフィードの油脂分の栄養として畜産に利用することも大切な方法です。また、軽油代替の溶剤としての使い道もあり、エステル化反応を行ってBDFにする必要性は、ケースバイケースで考えられるべきです。

天ぷら油から自動車用の石油代替燃料になるということで「菜の花プロジェクト」等がNPOやボランティアの人によって、活発に行われています。この方々の廃食油を回収するボランティア活動には、頭が下がります。またその崇高なる意思については、地球環境を守るエネルギーとなることは間違いありません。

BDF製造は、エステル化反応に伴う化学工業ジャンルの仕事ですが、一定の廃食油の量が確保される合理的なシステムが完成していないという難点もあります。特に、メタノールと強アルカリである苛性ソーダ、カリウムの化学反応が必要であり、残留するメタノールや副産物として発生する強塩基のグリセリンの処理については、地球温暖化どころか処理を誤ると、環境破壊の物質になります。この点についても環境省・農林水産省・経済産業省の足並みは、具体的な指針もなく揃っておりません。粗悪で安価なシステムによって製造されたBDFが使用された中古のバスから黒い排気ガスが出ているのを見るたびに、胸が痛みます。また、グリセリンが農地に垂れ流しされている事例も少なくありません。

また、廃食油以前の食用油・資源作物の共通の菜の花やヒマワリ油脂植物の作付けに対しては、もっと積極的に取り上げられなければならないと考えます。農林水産省の所管する耕作放棄地は、資源作物を生産する最高の適地です。しかしながら、この耕作放棄地に対応するBDF作物の作付け・搾油・食用利用・廃食油の回収のシステムの構築は、農林水産省から一顧だにされておりません。農林水産省の省是である自給率の向上は、バイオマス事業となると霧散するでしょう。

最後に、BDFは、国民の善意が発揮され、これほど有効、身近な地球温暖化対策はないのです。ボランティアの善意に頼るバイオマス産業政策の劣悪さに頭を悩ましているのは、この事業に企画し、参加する人々の共通項ではないでしょうか。

<森本 洌(仮名)>