はじめに『等身大のバイオマスを』

2008年、原油価格は1バレル147ドルの史上最高値を記録した後、30ドル台まで急落した。レギュラーガソリンが1リットル180円まで値上がりした2008年8月、国内のガソリン販売量は前年同月比で14%減少した。その後、原油価格の急落によってガソリン価格も100円を切ったが、消費者のマインドは低いままである。原油価格高騰は、建築廃材など廃棄物系木質バイオマスの需要を逼迫するまでに急増させた。こうした中で、バイオマス利用に関わるさまざまな課題があぶりだされた一年であったように思う。

バイオマスは持続的な利用をすれば、永続的に利用可能なエネルギーであり、廃棄物の有効利用、気候変動対策や地域振興にもなりうる…というメリットは枕詞となっているが、実際には、日本国内で地域振興策や雇用対策として実効を挙げている例は、まだ少ない。もちろん、化石燃料の気候変動や大気汚染の原因となるといった外部不経済が内部化されていない、法や規制が未整備であるという理由もあるが、根本にはエネルギー利用は、バイオマス(有機資源)の利用法として最も価値の低い利用法である、という動かしがたい事実が横たわっている(特集1「1.バイオマス利用の目的と位置づけ」参照)。

現状では、日本国内で経済性のあるバイオマスは、その多くが廃棄物であり、廃棄物を資源としていかに有効利用するかという視点が廃棄物処理に必要となってくる。その一方で、一般廃棄物の生ゴミのようなものを無理に利用しようとすると、エネルギー収支や経済性で割が合わないことになりかねない。地域振興なら、食品加工や木材製品の付加価値化、環境負荷を分析するLCAなどを実施した上で、地域の農林産物を「グリーン購入」としたり、グリーンツーリズムなどの方が、ビジネスとしての可能性ははるかに高い。

先日訪ねた石川県珠洲市では、従来、別々に処理していたし尿、浄化槽汚泥、集落排水汚泥などを下水処理場に設置したメタン発酵施設に集約し、事業所からの食品廃棄物も投入し、自治体の廃棄物処理費用を抑制できる見込みである。またこの施設では、全国初の国土交通省と環境省の両方の助成制度を活用している。「エネルギー利用」にとらわれずすぎずに、廃棄物処理の選択肢の中で有望であったのでバイオマス利用を行なう、というまっとうな判断が、成功の秘訣のように感じられた。

今後、また原油価格が上昇してゆけば、地域のバイオマス利用が割に合うケースが増えてくるだろう。公共施設や民間において、廃棄物処理施設の更新や改築などの機会にでも、バイオマス利用を検討し、見込みがあれば導入する、そうした「等身大のバイオマス利用」を広げるために、排出権取引や炭素税、法制度、品質規格や安全基準の整備などソフトインフラ整備を行なうことに、行政は力を注ぐべきではないだろうか。

「危機」は同時に、変革のチャンスでもある。日本も世界も、持続可能な社会へとハンドルを切らなければ、我々の生活はますます危ういものになる。バイオマスに限らず、ハコモノ、ハード中心からソフト主導への移行をうながしながら、限りある資源を「欲望」ではなく「必要」にもとづき公正にシェアしつつ、より暮らしやすい社会構築のため、今年も活動を行なっていきたい。

<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>