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2023年の動向

2 国内の動向

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1. バイオマス利用の状況

2022年度の日本の温室効果ガス排出・吸収量は約10億8,500万CO₂換算tで、前年度比2.3%の減少となった【*49】

平成4年度エネルギー需給構造高度化対策に関する調査等事業(バイオマス・廃棄物による発電利用および熱利用の導入実績調査)報告書によると、2021年度のバイオマスの発電量は29,789.9GWh、熱利用量は83,660.1TJで、化石廃棄物の発電量は6,315.0GWh、熱利用量55,116.8TJだった【*50】。環境エネルギー政策研究所は、2023年の自然エネルギー電力の割合は25.7%で前年の22.7%から3ポイント上昇したと推計した【*51】。バイオマス発電の割合は5.7%だった。

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令和4年木質バイオマスエネルギー利用動向調査によると、2022年にエネルギーとして利用した木質バイオマスのうち、木材チップの量は1,062.1万絶乾tとなり、前年に比べ3.3%増加した。内訳は図13の通りである。チップ以外も含めたエネルギーとして利用した木質バイオマスは合計1441.8万絶乾tで、前年に比べ8.2%の増加であった【*52】

矢野経済研究所は、バイオマスエネルギー市場に関する調査(2023年)を実施し、2030年度の国内バイオマス発電量を45,988GWhと予測した【*53】

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図13:木質バイオマスの利用量(2022年)

図13:木質バイオマスの利用量(2022年)

出所:令和4年木質バイオマスエネルギー利用動向調査より
バイオマス産業社会ネットワーク作成

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2. 政策等の状況(FIT関連についてはトピックス1も参照のこと)

2024年5月、G7気候・エネルギー環境相会合は、2030年から2035年までに、あるいは各国の1.5℃目標が達成可能な期間内に排出削減対策のない石炭火力発電の段階的廃止年限を明記する閣僚声明を採択した【*54】

2024年5月、資源エネルギー庁とNEDOは省エネルギー技術および非化石エネルギー転換技術の研究開発や普及を促進するため、2050年カーボンニュートラル目標の達成等に向けて重要な技術分野を具体的に示した「省エネルギー・非化石エネルギー転換技術2024」を策定した【*55】

政府はバイオ戦略を改定した「バイオエコノミー戦略」において、バイオマス関連の市場規模を現在の約60兆円から2030年に100兆円にする目標を立てた【*56】

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2024年4月、2050年カーボンニュートラルに向けて脱炭素の仕組みによる電源への新規投資を促していく制度、容量市場長期脱炭素電源オークションの約定結果が公表され、木質バイオマスでは、苫東バイオマスステーション(10万kW)と石狩湾新港バイオマス発電所(9.9万kW)の2件が落札された【*57】

経済産業省第90回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会において、非FITバイオマス電源に対する非化石価値の認定においても、燃料の安定調達(持続可能性等)の確保の観点から、FITの事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)への準拠を求める方針が示された【*58】

2024年度から建築物省エネ法により、市町村が区域内において建築士から建築主に対する再エネ利用設備についての説明義務等を設置するといった「建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度」が開始された【*59】。令和5年度「地方公共団体における地球温暖化対策の推進に関する法律施行状況調査」分析結果によると、太陽光以外の再生可能エネルギーでは、バイオマス熱利用の導入数が計648件と最も多かった【*60】

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2023年、合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)の一部を改正する法律が成立し、2025年4月より施行される。川上・水際の木材関連事業者に対して原材料情報の収集、合法性確認、記録作成・保存、情報の伝達を義務付けるといった内容で、罰則も適用される【*61】

国土交通省は、未利用バイオマスの一つとして河川内樹木の利用を促進しているが、河道内樹木採取民間活用ガイドライン(案)を公表した【*62】。北海道では河道内樹木の伐採木の発生場所・量、時期などの情報を集約し、一元的に発信する「木材バンク」の取り組みを行っている【*63】。 

農林水産省は、木質ペレット燃料の日本農林規格(JAS)を2023年6月に制定した【*64】。林野庁は、バイオマス由来の新素材、スギ材を原料とする「改質リグニン」の社会実装のため、「改質リグニンの今後の展開に向けた勉強会」を開催し、とりまとめを発表した【*65】。日本特用林産振興会は、広葉樹を活用した成長産業化支援対策(特用林産物(薪)に関する情報の収集・分析・提供)事業において、薪の規格案を作成した【*66】

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3. 国内の利用状況・事例等

東京証券取引所は2024年4月よりカーボン・クレジット市場のJクレジット取引で再生可能エネルギー電力に新たに「再エネ(電力・木質バイオマス)」を新設し、2種類に細分化して取引を開始した【*67】

2024年、再エネ熱利用促進協議会が設立された。再エネ熱講座やシンポジウム、セミナーの開催などの活動を行っていくとしている【*68】

2023年9月、一般社団法人固体バイオ燃料標準化協議会【*69】が設立された。2024年3月、ペレットを含む木質燃料の国際的な規格を議論し、決定する、ISO/TC238(国際標準化機構/238技術委員会)の正規メンバーとなった。

2024年5月、一般社団法人バイオマスボイラ工業会(JBBA)が発足した【*70】。日本のバイオマスボイラ普及のために規格の整備・調査研究・普及活動や技術ノウハウのコンサルティングを行う。

2024年6月、バイオマスボイラーユーザー協会準備会が発足した【*71】。2024年度中に協会を設立する見込みである。

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長崎県雲仙市は、し尿処理施設「市環境センター」に公募により木質バイオマスボイラーを導入した。燃料は重油から間伐材や建築廃材に転換する【*72】。佐賀市は、新設された圧送管および既存の下水道管を使って味の素九州事業所から出た汚泥や汚水を市下水浄化センターに投入し、メタン発酵による発電を開始した【*73】。汚泥は処理して肥料とし、市民に販売する。また味の素は、発電した電力をグリーン電力証書として購入する。

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エア・ウォーターは2024年5月、LNG代替燃料として家畜糞尿由来のバイオメタンの製造から販売に至るサプライチェーンを確立し、よつば乳業十勝主管工場への納入を開始した【*74】

中外テクノスは、木質ペレットなどバイオマス燃料の発熱特性試験及び発熱シミュレーションなどの各種試験サービスの提供を開始した【*75】

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コラム⑥ 九州における木質バイオマス燃料を取り巻く状況

木質バイオマス発電事業を取り巻く環境は厳しさを増している。九州で既に稼働している木質バイオマス発電所は2024年4月末現在で87件、合計発電出力は1,169,700kWに達する。現在すでに燃料供給が逼迫している状況にもかかわらず、さらに未稼働のFIT認定案件は94件、合計発電出力498,356kWあるとされており、今後、さらなる燃料の競合が予想される。

燃料調達の厳しさに拍車をかけているのが、中国を中心とした丸太輸出である。現在、丸太の状態で約160万㎥/年が輸出されており、そのうち約74%にあたる118万㎥が九州から輸出されている。素材生産業者へのヒアリングによると、輸出用の丸太は木質バイオマスと同等の品質で港着価格11,500円/㎥(2024年2月時点)となっている。木材価格の上昇や需要増大は林業界にとっては好ましいことであるが、丸太輸出には木材の由来証明等が不要である点が課題である。輸出先で要求されることがないため、違法伐採された木材の受け皿になっている可能性を否定できない。

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また、事業環境の厳しさは燃料費以外の事業費からも見て取れる。木質バイオマス発電事業は規模から収入が決まっているため、ランニングコストの増大は直接事業性に影響する。近年の物価高騰や半導体工場進出等により、部品代、人件費等が高騰しており、メンテナンス費用も5年前と比較して20%上昇しているという発電所もある。

こうした状況を受けて、2021年6月に「九州木質バイオマス発電連携協議会」が設立された。当協議会は発電規模10MW未満、国産材を主燃料とする九州の木質バイオマス発電所の有志で設立されたものであり、発電所の運転や燃料に関する情報共有、制度理解を深める勉強会を年に2回実施している。また、2024年6月には「宮崎県木質バイオマス発電協議会」も設立され、地域での木質バイオマスの課題解決に向けた取り組みも始まっている。筆者は九州と宮崎県の両協議会の事務局長を務め、木質バイオマス発電所の安定運用に向けて日々尽力している。

<株式会社 森のエネルギー研究所 九州営業所長 佐藤 政宗>

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関西電力は、大栄環境の商業施設から排出される産業廃棄物を同社のバイオマス発電の燃料の一部として利用し、同発電所由来のFIT非化石証書を「再エネECOプラン(トラッキング付帯)」として当該商業施設へ提供することを開始した【*76】

東光電気工事は、風力発電建設現場においてユーグレナ社の廃食油由来のバイオディーゼル燃料「サステオ」の使用を開始した【*77】。環境エネルギー等は、NEDO事業により持続可能な航空燃料(SAF)の国際規格ASTM D7566のAnnex2に適合したバイオジェット燃料の製造に成功した【*78】。丸紅等は、バイオマス系廃液と木材パルプ製造時の副生物から回収生成されるグリーンメタノールを原料とする船舶用バイオ燃料による安全航行に成功した【*79】

神鋼環境ソリューションは、木質バイオマス灰とCO₂を攪拌して炭酸カルシュウムとして安定化させCO₂を固定化する木質バイオマス灰高速炭酸化ユニットを販売した【*80】

テイカ株式会社は酸化チタンの表面に籾殻由来のシリカを被覆したバイオマス酸化チタンを開発した【*81】。日本製紙は、バイオマス発電所で発生する焼却灰由来肥料の本格的な販売を2024年1月から開始した【*82】。グリーン・エネルギー研究所は、バイオマスボイラーで燃焼させた際に生じる溶融し多孔質な塊状になった木灰(クリンカ)を路盤材として製品化し、販売を開始した【*83】。NPO法人九州バイオマスフォーラムは、肥料用の灰の販売を行っている。木灰の調達先は製材所だが、木質バイオマス発電所への拡大も視野に入れる【*84】

2023年2月、清水建設はバイオ炭コンクリートを実工事に初適応した。コンクリート1㎥あたり炭化したおが粉(バイオ炭)を20~80kg混入し、バイオ炭の混入量1kgあたり2.3kgのCO₂を固定化でき、強度性能も普通コンクリートとそん色ないとしている【*85】。株式会社ユー・イー・エスは、木質バイオマス発電から排出されるバイオ炭をペレット化し、土壌改良用や床下調湿用として製造している【*86】

福島大学は、未利用材等のバイオマスの炭化プロセスにおいて生成する可燃ガスを燃料とする熱電供給によるエネルギーシステムを開発し、同時に製造されるバイオ炭を農地施用することにより炭素貯留するネガティブエミッション技術の構築を開始する【*87】

広島県庄原市は、頓挫した木質バイオマス事業に関わる住民訴訟での市の敗訴に伴い、滝口季彦前市長に請求した約2億3,800万円が未払いとして提訴した【*88】

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コラム⑦ 一般廃棄物発電への未利用材混焼の可能性

FIT開始以来、林地残材等の未利用材の利用量は約1000㎥に達した。これにより地域経済への恩恵などがもたらされたが、FITによる買取期間が終了すれば、多くの未利用木質バイオマス発電所は事業を続けるのが困難になると考えられる。熱利用への移行が望ましいが、発電所稼働の終了とバイオマスボイラー導入が同時に進むとは限らない。そこで、地域の未利用材生産・流通システムの維持のため、すでに存在する公共インフラである一般廃棄物発電施設を未利用材の一時的な受け皿として活用することが考えられる。

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一般廃棄物発電は、建設費や維持管理費が廃棄物処理費で賄われるため、すべての費用を売電収入で賄うバイオマス発電より事業性に優れると考えられる。一般廃棄物発電において燃焼を安定化させる助燃剤として未利用材の使用を検討したところ、法、技術、事業性いずれの点からも可能性はあるとの結果となった。10年以内にFITによる買取期間が終了し始めるが、このような手段も今後の選択肢の一つとして考えられよう。

<NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>

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  • *  泊みゆき,幡建樹,井上雅文. 一般廃棄物発電における未利用木質バイオマス混焼の可能性. 日本森林学会誌. 2024年 106巻 2号
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コラム⑧ バイオガスをめぐる最近の状況

日本国内におけるメタン発酵バイオガス発電は、2000年頃から家畜排せつ物、食品廃棄物、下水汚泥等を原料としたメタン発酵プラントが各地で運営され始め、2012年7月から施行されたFIT制度(再生可能エネルギーの電気の固定価格買取制度)により、全国各地でメタン発酵バイオガス発電プラントの普及が大きく加速された。

FIT制度での買取価格は、制度当初の2012年度から2022年度までは39円/kWhだったが、2023年度からは35円/kWhとなり、2025年度からは発電規模1,000kW以上はFIP制度が適用されることになっており、FIT制度からFIP制度への誘導が顕著になってきている。

このような中、メタン発酵プラントで生み出されるバイオガスについては、FIT制度を活用した電気としての利用がほとんどだったが、最近は、小型のバイオガス発電設備を活用した取り組み、電気やバイオガスをエネルギーとして自家利用する取り組み、バイオガスをLPガスとして利用する取り組みなど、様々な用途での活用が進んできている。それぞれの取り組みを簡単に紹介する。

㈱ビオストックの「超小型バイオガスプラント」は、原料1t/日から導入可能*で、オンサイト設置・無人運転を実施することで、食品残さや下水汚泥等の廃棄物処理コストを削減できる(裏表紙写真)。現在、民間企業をはじめ地方公共団体など、全国各地での納入実績が増えてきている。

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滋賀県竜王町は令和4年度にバイオマス産業都市に選定されており、その事業化プロジェクトの一つにバイオガス化プロジェクトがある。このプロジェクトは、地元の重要産業である近江牛肥育のふん尿からエネルギー(バイオガス)を取り出し、民間工場の稼動エネルギーとして使用するものである。脱炭素化を進めると同時に、残渣は有機肥料として農地に還元する。耕・畜・工連携によるバイオマス資源循環を目指して、事業化に取り組んでいる(図)。

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図:竜王町バイオマス産業都市構想 バイオマス活用イメージ

図:竜王町バイオマス産業都市構想 バイオマス活用イメージ

(出所:竜王町ホームページ)

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古河電気工業㈱は、触媒金属の固定技術を応用し、家畜のふん尿から得られるバイオガスを原料に、貯蔵・輸送が容易なLPガスへ変換できる技術を開発した。現在は、北海道鹿追町と家畜ふん尿由来のバイオガスからLPガスの開発を共同で行う包括連携協定を締結し、実用化に向けた実証に取り組んでいる。

このように、バイオガスは発電のみならず、熱源等への活用にも広がってきており、今後更なる普及展開が注目されている。

<一般社団法人日本有機資源協会 理事・事務局長 嶋本 浩治>

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