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トピックス

3 バイオマスの産業用熱利用の進展

1. バイオマスの産業用熱利用

日本ではエネルギー=(イコール)電力、という考えが強いが、日本の最終エネルギー需要の半分が熱利用であり、その過半が中高温の産業用熱である。太陽光、風力など発電コストが低下しつつある再生可能エネルギー電力や、ヒートポンプ、太陽熱、地中熱などで供給が可能な100℃以下の低温熱と異なり、150℃以上の産業用熱を供給できる再生可能エネルギーは、現状ではバイオマスにほぼ限られる。こうしたなかで、バイオマスの産業用熱利用が次第に進展しつつある。

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NEDO技術戦略研究センター(TSC)は、は2023年12月、再生可能エネルギーの熱利用(再エネ熱利用)の普及拡大に向けて国内外の技術や政策動向について調査・分析を行った「再生可能エネルギー熱利用への期待と課題」 を公表した【*22】。経産省エネルギー需給構造高度化対策に関する調査等事業(工業炉及び産業用ボイラにおける二酸化炭素排出等実態調査)によると、工業炉で6.7%、産業用ボイラで6.5%の事業者がすでに切り替え済みあるいは将来のバイオマス燃料への切り替えの意向を示した【*23】。また、日経ESGは2024年6月号で『2030年に結果を出すなら今から動け 手つかずのリスク「熱」の脱炭素』という特集記事を掲載し【*24】、バイオマスボイラーの事例などを紹介した。

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2023年3月、日本木質バイオマスエネルギー協会は、蒸気ボイラー導入促進調査報告書を公表した【*25】。林野庁補助事業として実施されたもので、産業部門における脱炭素・非化石市場の状況や蒸気ボイラー導入の技術的課題等を調査した。また、自然エネルギー財団は、2023年12月、「バイオガスとグリーン水素の実用性」についての報告書を公表した【*26】。再エネ電力による産業用熱供給を考えた場合、165℃までのヒートポンプではガスよりもコストが低いが、それ以上の温度帯ではいずれも高くなる(図12)。

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図12:電気加熱と燃焼加熱(ガス)のコスト比較

図12:電気加熱と燃焼加熱(ガス)のコスト比較

出所:バイオマス産業社会ネットワーク第220回研究会【*27】

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各地で産業用バイオマスボイラーの導入も進んでいる。

総合繊維業のセーレン株式会社は、環境省SHIFT事業の交付を受けて二日市事業所(福井県福井市)に主に建築廃材等の木質チップを燃料とするバイオマスボイラーを2024年3月に稼働させた【*28】。同社は2016年に勝山工場(福井県勝山市)に10t/hのバイオマス蒸気ボイラーを導入しており、2026年には3機目の導入を予定している。今回のボイラー導入の投資額は7.4億円(うち補助金2.4億円)、CO₂排出削減量は4,400トン/年を想定している。

2023年10月、自動車部品製造業ダイナックスは、経産省の先進的省エネルギー投資促進支援事業の助成を受け、苫小牧工場に4t/hの木質バイオマスボイラーを導入した。建廃チップや自社で発生する木質含有の廃棄物を燃料とし、年間約3,500tのCO₂排出量削減を見込んでいる【*29】

キューピー株式会社の神戸工場では建築廃材を利用したバイオマスボイラーを導入している。パイプラインを通じて各工場に蒸気が供給され、ドレッシングのラベルを容器に圧着する工程などで蒸気を利用している。これらの取り組みにより、キューピー主力工場では熱も電気も100%コジェネで賄うようになった【*30】

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2024年5月、エア・ウォーター株式会社は、北海道十勝地方で家畜糞尿由来のバイオメタンの商用利用を開始した。バイオガスに含まれるメタン分を分離・液化し、LNGの代替燃料として脱炭素を推進する顧客に提供する【*31】

丸紅株式会社は二国間クレジット制度(JCM)により、ベトナムのバリア・ブンタウ省にIguacu Vietnam Co.,Ltd が新設するインスタントコーヒー工場に籾殻および木質チップを燃料とする気泡型流動床のバイオマスボイラー(30t/h×2台)を導入した【*32】

栃木県の製材大手株式会社トーセンは、2023年12月、同県矢板市のシャープ栃木工場跡地に製材工場やバイオマスの熱や電力を利用する経済圏構想「デカーレ矢板」計画を発表した【*33】

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2. 廃棄物処理熱の産業利用

環境省は、廃棄物処理施設を核とした地域循環共生圏構築促進事業において、地域エネルギーセンターとしての整備、施設で生じた熱を製造・加工に利用した後、温室などへの熱のカスケード利用を推進している【*34】

国立環境研究所等は、国土計画の視点から産業部門のカーボンニュートラルについての研究を進めている【*35】。一般廃棄物処理施設では主にエネルギー利用として発電が行われてきたが、廃棄物処理施設の発電効率は25%以下である。産業団地においてバイオマスを含む廃棄物焼却熱を産業用に利用できれば、資源のより効率的な活用となり、産業用熱の気候変動対策となる。シナリオ分析では、3つのシナリオすべてで事業性を持ちうるとの結果となった。

JFE環境サービスは、岡山県南部の水島コンビナートにおいて廃木材による蒸気供給事業を行っている【*36】。建築廃材や廃パレット、剪定屑、災害廃棄物等の産業廃棄物、一般廃棄物を破砕し横煙管式排熱ボイラ(5t/h)で燃焼、蒸気を発生させる。蒸気はコンビナートの既設蒸気ラインに投入され、同じ敷地内にあるJFEスチール等で使われている。

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コラム⑤ 今後のバイオマス利用等に関する提案

2050年脱炭素化に向かうにあたってのバイオマス利用等について、以下を提案する。

1. FIT/FIP制度において、バイオマス発電の新規認定は、「熱電併給」とする

  • 1)「バイオマス発電のみ」では発電効率は30%台以下である
  • 2)熱電併給なら60~80%程度の利用効率が可能である
  • 3)熱電併給であれば、パリ協定の目標達成が可能なGHGの値となる【*1】
  • 4)EUでもREDⅢより発電のみは助成対象外(例外あり)としている
  • 5)FIT/FIPで発電のみが認められていることにより、地域のバイオマス燃料が発電に向けられ、経済性や気候変動対策効果に優れる熱利用(表参照)が進まない一因となっている
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表:バイオマス発電と熱利用の比較

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  発電 熱利用
経済性 FIT等の支援がないと、廃棄物以外ではコスト高 化石燃料よりもバイオマス燃料の方が熱量当たりの価格は低い(現状では導入費が高価)
希少性・
代替性
太陽光・風力の発電コストが劇的に低下中 短中期的には中高温の再エネ熱として貴重
気候変動・
対策効果
発電効率は概ね30%台以下、気候変動対策は限定的 利用効率90%以上も可能。他の再エネに匹敵する削減効果
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2. 脱炭素化における今後のバイオマス利用等についての政策の整理が必要である

  • 1)税収中立(税収を減税/給付によって還元する)のカーボンプライシングの導入
  • 2)省エネ等の既存技術の活用を優先すること【*2】
  • 3)素材、マテリアルとしてのカスケード利用の徹底
  • 4)バイオマスのエネルギー利用では発電から熱、特に中高温の産業用熱からの熱のカスケード(多段階)利用へシフト
  • 5)既存技術の利用、変換ロスや将来のコスト低下を見込んで、重点的な脱炭素政策を
  • 例:太陽光、風力の再エネ電力→水素等に変換→合成燃料
  • 変換ロスがあり、コストも高い:電力でできるものは電力で
  • 国内での太陽光、風力等の大幅な拡大が必要
  • 例:木材をエタノール等に変換してSAF(持続可能な航空燃料)に使うより、製紙工程の副産物である黒液をSAFに使う方が効率的【*3】
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3. 今後のバイオマス利用について

  • 1)バイオマスは種類も利用法も多様で注意点も多く、発電のみの事業への助成を含む適切に設計されていない補助金や支援制度は、むしろ持続可能な利用を阻害する
  • 2)バイオマス政策立案の際には、広く関係者の意見を募ることが重要
  • 3)脱化石燃料において化石燃料と類似した利用が可能なバイオマスは非常に貴重だが、持続可能な利用可能量は限られている
  • →今後バイオマスは他の再生可能エネルギーでは供給が困難な分野(産業用熱、液体燃料等)にシフトすべきではないか
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参考資料

図12:電気加熱と燃焼加熱(ガス)のコスト比較

図:那珂川バイオマスの事例(栃木県那賀川町)

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<NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>

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