第二次世界大戦中および戦争直後に日本の森林資源は収奪され、各地にはげ山が広がり、大規模な水害も頻発した。そのため戦後の拡大造林を行い、現在では、森林の成長量が年平均8,000万㎥以上となっている。だが、国産材の生産量は2,000万㎥程度で、2,000万㎥の切捨間伐が未利用となっている。円高で安価になった外材に引きずられ、木材価格は低迷し、40年かけて育てたスギが、1本800円にしかならない。1ha伐採しても100万円程度の収入にしかならないが、再造林費用が200万円程度かかる。そのため、補助金をもらって間伐をしてつないでいく時代が続いた。
戦後の拡大造林から50年がたち、収穫期を迎えたが、木材需要は低迷している。そこで安定した発電が見込める木質バイオマス発電が全国各地で計画され、林業サイドとしても、大量需要が短期間でできるのではないかと歓迎ムードがある。しかし、木質バイオマス発電は、大量の木質燃料を消費することから、森林・林業への影響が懸念されている。
発電だけの木質バイオマス発電には、大きな問題がある【*14】。エネルギー利用効率が20%程度で、小規模でも80〜90%以上の利用効率で使える熱利用と比べても、あまりにもムダが多い。机上の計算では、未利用木材資源がたくさんあるように見えるが、実際に利用できるかどうかは別問題である。日本の木材生産量の65%は、北海道、東北、九州で生産されている。どこからでも木材が出てくるというわけではなく、大量の未利用木材が集められる地域は、かなり限定される。
現状でも、木材生産量の1〜2割ぐらいは燃料用材として出せるだろうが、それ以上となると、全体の木材需要量を増やす必要がある。例えば東北地域の丸太価格は、スギで平均1万円/㎥程度だが、立木代金3,000円、伐出費用5,000円、運送費2,000円といった配分で成り立っている。それを、仮に製材用12,000円で50%、合板用10,000円で25%、チップ用5,000円で25%を積み上げると1万円ぐらいになる。木質バイオマス発電向けだと、3,500円/㎥、5,000円/生t【*15】あたりが相場だと言われているが、どれだけ出せるか。それは、製材用、合板用をどれだけ増やせるかに関わってくる。だが、新設住宅着工数は減りつつあり、この先、木材需要、特に建築用材、合板用材が飛ぶように売れる状況ではない。林業労働力の問題もある。生産年齢人口が半減するなかで、労働条件の改善が遅れてきた林業が、労働力を確保できるのか。発電向けの安い木材の生産に特化したときに大丈夫か。
森林の整備目標に関しては、森林林業・基本計画において、2020年までに600万㎥のパーティクルボード、木質バイオマスの需要量という目標が入っているが、市町村森林整備計画には意識されてないのではないか。また、偏っている林齢の平準化のため、主伐(皆伐)・再造林等を推進する方針が平成26年より示されており、地域ごとの森林管理目標を改めて確認する必要があるだろう。
九州の山村を考える上で、木質バイオマスが大きな影響を与えるだろう。FITの未利用材認定50件中、九州に11件あり、一般木材も含め6つが宮崎県に集中しているため、原料が集まらない、皆伐・再造林放棄が広がるのではないかという懸念がある。
2013年に稼働した大分県日田市の木質バイオマス発電、「グリーン発電大分」の事例では、全て未利用木材で、約10万㎥を調達している。日田地域の人工林では、スギの品種特性の影響で曲がり材が多い。森林経営計画策定率は92.4%と全国平均20%弱に比べて非常に高く、未利用木材を集めやすい条件である。
森林経営計画は、森林所有者または森林の経営の委託を受けた者が、自らが森林経営を行う一体的なまとまりのある森林を対象として、森林の施業および保護について作成する5年を1期とする計画である。基本的に、計画認定を受けることが補助事業の条件になる。相続税の納税猶予など様々な優遇がある一方で、計画が遂行されなければ補助金の返還が必要である。森林経営計画の対象林、保安林、国有林・官行造林からの材は、主伐(皆伐)でもFIT制度における「未利用材」となる。
日田市の素材生産量は約23万㎥だが、製材工場が74社、原木市場が7つあり、33万㎥を取り扱っている、原木集荷型製材産地である。2007年から発電所事業を模索し、半径50kmで採算が取れる場所を選定、資源状況を踏まえた立地である。
総事業費21億円のうち県の補助が8億円、発電出力5,700kW。2014年には、339日の稼働日で、原木の買取条件、原料集荷の特徴は下図の通りである。日本フォレストという燃料製造・供給会社が、生チップを使い、発電燃料のチップを水分率35%まで乾燥させている。
図:グリーン発電大分の原料集荷の特徴
出所:佐藤宣子氏資料
日本の国土の2/3を占める森林は、生物多様性保全、土砂災害防止、水源涵養、木材その他の生産などさまざまな機能があり、日本に住むすべての人々は大きな恩恵を受けている。その森林が持続的に管理・保全され、適切に利用されることは、市民生活や経済活動にとって非常に重要である。
森林の4割を占める人工林では、戦後の拡大造林から50年以上がたって伐採期を迎えているが、境界や所有者の所在が不明であったり、木材を販売した利益で再造林費用をまかなうことが難しい、といった課題に直面している。
また、2012年から始まった再生可能エネルギー電力固定価格買取制度(FIT)開始後、100件170万kWの木質バイオマス発電事業が認定されているが、これは年間約3,000万㎥の木材が必要となるという計算になる。膨大な新たな木質資源の需要に、持続可能なかたちで対応していく必要がある。
林業や木質バイオマス利用を通じた安定した地域社会の創造に向けて、限られた資源を持続的に有効活用していくにはどのような方策が効果的か、議論し、今後の政策への一助となることを目指して、2015年7月3日、シンポジウム「日本の森林をどう守り、利用するか〜持続可能でバランスのとれた利用のために〜」が、東京都内で開催された。
伊藤幸男・岩手大学農学部准教授「日本の森林利用の現状」、佐藤宣子・九州大学大学院農学研究院教授「発電用バイオマス需要の発生による素材生産への影響〜大分県日田地域を中心に〜」、栗山淳・岐阜県郡上市農林水産部林務課課長「郡上市の山づくり〜未来につなぐ豊かで美しい山をめざして」の各講演が行われた。
パネルディスカッションでは、3名の講演者に大林ミカ・自然エネルギー財団事業局長が加わり、司会は泊みゆき・バイオマス産業社会ネットワーク理事長が務めた。官庁、自治体、企業、大学、NPO、メディアなど約100名が参加された。
本章は、このシンポジウムでの講演内容・資料及び議論を、事務局の責任で再構成したものである【*】。
日田市には森林組合が二つあり、それぞれ5万㎥ぐらいの取り扱いがある。組合員から受託した作業をほとんど民間や一人親方に請け負わせている。請け負わせ単価は、主伐で4,000円/㎥、間伐で5,000〜6,000円である。2014年の発電向け出荷量は7,000t〜7,500tで、そのうちの主伐由来割合は、60%〜65%。年間素材生産量のうち、約15%を発電用燃料として出荷している。発電用燃料を出荷する3つの民間素材生産事業体(合計で2.6万㎥)の調査によると、2014年は9割以上が主伐材となっており、森林組合分とあわせると発電用燃料の7割以上は主伐・皆伐由来と考えられる。
バイオマス発電用の請け負わせ単価の設定は、市場向け木材(建築用A材、合板用B材)を生産したときと同料金で、発電用原木は、1生t=1㎥として単価計算している。請負業者への伐採・仕分けの指示では、曲がりや腐れが1m程度見込まれるなら、2mに採材することで、発電用原木として出荷している。チップ会社から2m〜5mにという要請がある。製材用材と発電用原木は、土場で仕分けし輸送する。日田郡森林組合入荷材の場合、スギが9割で、そのうちA材5%、B材25%、C材40%、D材30%。曲がり材が多く、その売先が見つかり、底値ができたという点で評価をする声が多かった。
主伐の場合の収支を比較すると、市場流通の製材用材の場合、山土場から原木市場へ輸送し、市場の入札価格が11,000円/㎥、伐出コストが4,000円、輸送コストが1,000円、市場取引の際に積む椪積(はえづみ)料が1,200円、組合手数料が770円で所有者収入は4,030円。一方、バイオマス発電材は、山土場から発電所に直送して、発電所着価格が、7,000円/t。伐出コストが4,000円、輸送コストが1,000円、椪積料は0円、組合手数料が490円、所有者収入は1,510円という計算になる。
こうしたなかで、森林組合では主伐の施業提案が増加した。発電所稼働前は風倒木や雪害、手入れ不足などの林分は、採算があわず主伐ができなかったが、発電所稼働後は、木材を発電所用で出し、いくらか所有者への還元もできるようになった。林地残材が搬出され、再造林がしやすくなった。ただし、市場向け(建築材)と発電燃料向けで請負単価が同じなので、市場向け(A・B材)比率を高めるインセンティブが低い。曲がり材が多いところでは、仕分けするコストの方がかかるので、主伐の全量を発電用原木として搬出する事例も出ている。
課題は、皆伐が広がっていることである。一方、10年ぐらい前は、九州で20ha以上、時には100ha以上という皆伐があったが、県の伐採届や保安林許可申請が厳しくなり、ポスターによる広報や、伐採現場には届け出を出したという旗を立てたりし、無法な伐採は減ってきている。ただし、コストのみを考えた搬出路の開設など、持続的ではない方法での皆伐の増加によって水土保全面での影響が懸念される。
バイオマス発電ができて原料は集まり、当事者は評価している。だが、2014年12月に13,500円/㎥だったスギの価格が、4カ月で10,200円に下がり、最近は、8,000円台になった。A材がバイオマス材(D材)とあまり変わらなくなった。発電用原木比率が高まり、A〜D材のバランスが壊れている。C材D材だけ増えて、AB材価格が下落する、という懸念が現実化している。
行政対応としては、大分県では実質的なゾーニング(環境林と経済林)の提案、低コスト造林の推進がある。伐採届を徹底させ、伐採届が出たら、積極的に民間事業体に公表することも行われている。日田市は再造林の際、広葉樹を一定比率造林することに対して補助を上乗せしているが、国からの造林補助金が減額されたというのをよく聞く。
一般国民が未利用材、と聞いて受けるイメージと、現実の未利用材があまりにかい離がある。日田地域の場合、集めている「未利用材」の7割以上は、主伐材という状況である。根元材や枝条はあまり使われていない。チップ業者にとってコスト高になること、枝条は有機物を残すべきという意見からというが、科学的に検証すべきだろう。発電規模が大きく、熱利用がしきれないこと、発電所で1日10tの水が使われることも問題だろう。日田市には自伐林家もいるが、認定事業体としての書類の管理の問題などから、発電所へは出荷していない。だが、自伐林家は出しても300〜500㎥、主伐しても小面積であり、出荷できるように位置付ける必要があるのではないか。
今後、多数の木質バイオマス発電が稼働する宮崎県でのバイオマス需要への懸念としては、宮崎県は経営計画認定率が5割程度であること、直材(A材)比率が高いことがある。今後、調査考察が必要だが、全ての発電需要に供給できない可能性があり、計画外の皆伐が増加するのではないか。
郡上市では、岐阜県森林づくり基本条例の策定と地域の意見を反映した森林づくりを推進すべきとの岐阜県の指導をきっかけに、2006年に「郡上市森林づくり推進会議」を設置した【*16】。委員には、公募参加の市民、森林所有者、林業事業体、森林組合、学識経験者、市議会議員、林野庁、県研究機関などの20名で、座長の森林文化アカデミーの教授にリーダーシップを発揮していただいた。
同会議では、長期的な視点で広大な森林を計画的に管理・保全していくための方向性を示す森林・林業ビジョンの策定に着手し、総勢32名の作業部会を7回、先進地域視察4回、地域集会7回、パブリックコメント、市議会での承認をへて、「郡上市山づくり構想」を2010年に策定した。この構想は、郡上市の山づくりの基本理念や基本方向を定めたもので、森林の持つ多面的機能の維持向上と豊富な森林資源を活かした地域の活性化を進め、郡上市の豊かで美しい山を未来へ引きつぐこと、「山美しく、水清く、幸巡るまち」郡上を創り伝えることを目的としている。
市民の安全・安心な生活を守るため、最重視すべき森林の機能を水源涵養機能と産地災害防止機能とし、「災害に強い山づくり」を全ての山の基本とした。人工林では、木材生産を重視し、路網整備の推進等により、持続的・安定的木材生産を図るが、林業経営に適さない場合は天然林化する。天然林では、自然環境の維持を重視し、主に自然の推移にゆだねる。この構想のもと、市は具体的な施策を実施している。
2011年、郡上市への大型製材工場進出が明らかになった。市内の木材需要が増え、皆伐施業が増すと考えられるが、皆伐は自然環境へのインパクトが大きく、無秩序に行われると、保水力の低下、景観の悪化、土砂災害の誘発等、森林の公益的機能への悪影響がある。
皆伐の現状や皆伐跡地の植生回復状況を把握し、皆伐施業の基準及び天然更新の可能性を検証することを目的に、皆伐跡地調査を実施した。対象は過去5年の伐採届から、皆伐で面積が3ha以上のものから抽出した。地形、地質、伐採作業状況などの現況の把握、植生の状況、天然更新の可能性、植栽木の状況など植生の把握で、2012年に23カ所、13年に11カ所、14年に10カ所実施した。
伐採15年後に、ササが侵入している皆伐地もある(上写真)。伐採面積も大きくなく、保残木も多く条件的に問題はないと思われる所でも、シカの食害を受け更新できていない箇所がある。あるいはスギの大径木林の皆伐地では、長年、下層植生がない状態であったと推測され、尾根筋および林内に母樹が残されていないので更新が難しい箇所もあった(下写真)。
ササが入った皆伐地
母樹が残されていない皆伐地
出所:栗山淳氏資料
郡上市は降水量も多く、生態系の回復力は高いのではないかと言われているが、皆伐跡地調査結果では、見込みを含む更新完了が62%、未更新が38%だった。ちなみに2012年は目視で行ったが、13年、14年は県の指導で天然更新完了基準書に従って行った。未更新の箇所については、所有者への指導を行う。
未植栽の要因は、•森林所有者が高齢で、将来的な山の管理や費用に不安がある ●伐採届出前に伐採事業者と立木売買契約(伐採後の対応なし)をしている ●木材需要が発生すると、素材生産が優先されてしまう ●大面積の伐採は、不在村所有者の森林が多い ●素材生産のみを事業として営む事業者が伐採を請け負った場合に、跡地が未植栽となるパターンが多い その他、シカによる深刻な食害が更新の阻害要因となっている。一方、伐採前や伐採時の施業の配慮により、天然更新による森林回復を促進できることがわかった。
これらの状況を踏まえ、皆伐を実施する際の留意事項をまとめた「皆伐施業ガイドライン」を策定した。急傾斜地・岩石地等災害の危険性がある、標高1,400m以上、積雪深2.5m以上、水源地、シカ等による食害が想定される、環境保全や観光資源として重要な森林は皆伐を控える。1ha以上の皆伐を行う場合は、伐採区域、保護樹帯、作業路の開設箇所などの内容が分かる「作業計画書」を作成すること とする。伐採届が出た時点で、市から皆伐ガイドラインについて説明し、チェックリストを示している。
人工林の皆伐で条件が木材生産に適している場合は、植栽の計画を指導する。伐採時の注意事項としては、①大面積の皆伐は避ける ②人工林の伐採地は植栽する ③伐採区域等を分散させる ④保護樹帯・保残木を配置する ⑤天然更新地は母樹を残す ⑥枝条類は適正に処理する ⑦植栽、更新を考えた施業をする ⑧看板設置・地域への連絡をする である。
2011年に森林法が改正されて、森林計画制度の見直しにより、新たな区分によるゾーニングが必要になった。所有者の理解を得ながら、実効性のあるゾーニングとなるための考え方を示した。水源涵養機能、災害防止、快適環境形成機能、保健・文化機能、木材生産機能の5つの区分のうち、郡上市の地域特性から特に、水源涵養機能、保健・文化機能の景観機能に重点を置くことが望ましいと考えている。
その他、市内から納入される木材について、一定額(例:100円/㎥)を基金として積み立て、再造林費用を助成する基金制度の創設を検討中である。
2000年の東海豪雨で、岐阜県、愛知県は大きな被害を受け、ダムには100年分の流木が流れてきた。この流木には根っこがついており、間伐が足りず、大雨で土砂崩れが起こり流れてきたと考えられるが、国にも県にも自治体にも、間伐がどのくらい足りないのかというデータが見つからなかった。であれば、自分たちで調べようということで、丹羽健司氏らが市民による森林調査、「矢作川森の健康診断」を始めた【*17】。
東海豪雨の際、ダムを埋めた木材
写真提供:丹羽健司氏
専門家もまじえ、10年間広範囲にわたって調査を行い、その結果、矢作川全域の5〜8割で間伐が必要な過密な状態だということがわかった。この結果が一つのきっかけとなって、郡上市や豊田市といった流域の自治体での森林管理の取り組みが始まった【*18】。また、間伐してその材をどう利用するか、ということで「木の駅プロジェクト」を立ち上げた。
各地で木質バイオマス発電所ができ、未利用材の大需要が生まれ、皆伐が進む可能性が高い。伐採届や再造林、天然更新のチェックをしていく必要がある。どう持続可能な森林を利用する体制をつくっていくか。最低限必要な処置を、どう担保するかが問題である。
木質バイオマス発電所本体をつくるときには原則、補助金がつかないので、行政が口出ししにくいなかで発電所の計画が進む。木材燃料の流通は、50km〜100km圏内であり、県レベルでの対応、調整が必要だと考える。市町村レベルでは、木質バイオマス発電で誘致企業がやってきて、雇用が生まれる、林業もよくなると歓迎ムードもあるが、中長期にわたって大丈夫かという情報が伝わっていない。住民や自治体がかやの外で、発電所ができるのが決まってから知らされる。自治体の議員が敏感に反応して、さまざまな意見交換をするというのが必要だ。
九州では熊本県ではバイオマス発電は2つまでだとか、宮崎県でも調整しているが、見込みが甘く、発電所計画が乱立している。議員には、大きな需要がどかんとできるというのが好まれ、誘致合戦になっているところはある。どんな資源があるのか、冷静に見極めて考えてもらうために、データにもとづく説得力のある県職員が必要だろう。
郡上市では、林務課に8人+兼務がいるが、業務も多くてこれでも足りない。財政難や人員削減で一人しかいない自治体も多いが、とても手が回らないだろう。市町村の職員は専門職員ではない。林業行政を行う上で、県の専門職員、普及委員、フォレスターの協力やアドバイスをいただいて進めている。バイオマス熱利用を進めていきたいが、異動のある行政職員だけでは難しい。日本でバイオマスが進みにくい理由の一つは、行政職員が数年で異動することもあるだろう。
森林経営計画では、成長量以上を伐らないとあり、20haという伐採面積上限もある。成長力上限、持続可能な森林利用ができるようにという建前になっているので、一定の担保にはなるだろう。ただし、皆伐促進というなかで、高性能林業機械が入ってきて、コストだけを考えたような作業道をつくると、上限の20haでも大きい。今年20ha、次の年すぐ横、翌々年そのすぐ横、と集中して皆伐されている地域もある。法律的には適合しているが、それをいかに分散させるか。県、市町村でチェックしていく必要がある。
民有林の所有者と境界を特定する地籍調査を、できるだけ早く行うことが重要だ。林地の6割近くが不明のままでは、間伐などの管理もままならない。森林法改正で、市町村に権限が降りてきたが、補助金の使い方は国で決まっている。市町村に専門家を配置すると同時に、造林の補助金制度を見直さないと、地域にあった持続的な資源管理ができないのではないか。
郡上市では中小規模の山林所有者が多く、森林経営計画策定率も20%に留まっている。2015年秋の大型製材工場の稼働による木材需要の高まりが予測されるなか、策定率がまだ低い森林経営計画を前提とした林業施策に不安がある。そのため、森林経営計画制度の見直しにより、「区域計画」で認定が可能になったので、森林整備計画に「区域」を定め、森林経営計画未策定者に説明し、促進している。森林施業プランナー等からなるワーキング組織を設置し、木材生産量等を十分に検討したうえで、経営計画策定箇所を木材生産区域とする。この区割りの案を策定中である。自分で手入れするという人も研修などで取り込みながら、進めている。また農地集約化の中間支援組織の林地版のようなものも考えられるかもしれない。
ヨーロッパ的な視点から見れば、日本の木質バイオマスがなぜうまくいかないのか。オーストリアでは木材生産の44%を農家林家が行っているなど、山村社会の基本に違いがある。また、日本はヨーロッパと違い、バイオマスを一回捨ててしまった。薪ストーブ一つとっても、燃焼効率の表示や性能保証など欧米では当たり前のことができていない。薪ストーブユーザーの存在は、木質バイオマス利用の裾野だ。また、日本はスギが多いが、含水率が高く、ヨーロッパのボイラーをそのまま導入してもなかなかうまくいかない。
企業の役割については、都市部や、企業自身の省エネルギー、再生可能エネルギーの大転換に取り組んでほしい。大きな部分での転換が進まないと、他での利用が進まない。ヨーロッパで木質バイオマス利用が進む理由の一つは、地域熱供給などのインフラがすでにあったことも大きい。盛岡の県庁あたりで地域熱供給をやったら、効果が高い。また、地域におカネがもどってくる仕組みをアイデアなどで支援し、人材育成、人脈を活かし、持続可能な資源管理や地域が自立するためのパートナーになってほしい。あるいは、持続可能なバイオマス電気を優先的に買うといったことも考えられる。豊田市では、水源林を守るために、水道料金に1㎥あたり1円を上乗せしている。恩恵を受けている人たちが負担をするということは考えられるだろう。
行政が主導となって取り組むことは重要だが、行政だけでは進めることができない。山林所有者、森林組合、製材業、下流域住民等山全体で協力して取り組まなければならない。市民共同による新しい山づくりを進めること、それが持続可能な山づくり、地域づくりに結び付く。郡上市のようなの取り組みを、全国に普及させることも重要である。
林業や森林管理について、様々な取り組みが行われ、少しずつではあるが改善している。今後、輸出の増加も含め、資源を有効に使う、A〜D材のバランスの取れた利用を進める必要がある。ドイツは森林管理がしっかりしていて、多数の木質バイオマス発電ができても森林は荒れなかったが、周辺の東ヨーロッパの管理の甘いところが荒れた。日本では、しっかり管理できていないところが危ないのではないか。木質バイオマス発電という再生可能エネルギーのために、水害などで人が死ぬというのはあってはならない。短期と中長期の課題について、それぞれの役割を果たしていきたい。