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はじめに 「危機」をチャンスに変えるために

再生可能エネルギー電力固定価格買取制度( FIT )開始以来、日本の木質バイオマス発電をめぐる混迷は、危機的状況に陥っている。未利用および一般木質バイオマス発電のFIT認定は100件、170万kWを超え、必要な木材は単純計算で3,000万㎥以上にのぼるが、これは日本の現在の木材生産量の1.5倍に相当する。一方、「現状で出てくる未利用材は、木材生産量の1〜2割」でしかなく、すでに動き始めた未利用木質バイオマス発電所の事例では、「未利用材」の7割以上は主伐・皆伐材である。というのも、細くてふぞろいな未利用材より、まっすぐな主伐材の方が伐出コストは低いからである。

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かくして、日本の山に膨大にある「未利用材」はあまり使われず、大量の主伐・皆伐材と輸入バイオマスが発電所で燃やされる。しかも、発電規模に関わらず電力買取価格が同じため、大規模、石炭混焼での事業者利益は大きく、輸入製紙用チップを使っても事業が成り立つ。さらに「2030年の長期見通し」では、安定電源となりうるバイオマス発電に過大な期待がかけられ、一般木材バイオマス発電に最大400万kWという数字が挙げられている。海外から日本の木質バイオマス発電市場は、「シャングリラ(理想郷)」と呼ばれ、このままでは、、意図せぬ混乱が激化しかねない。

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早急に、打つべき手段としては、以下のようなものが考えられる。

1) 規模別の買取価格の設定(大規模):特に石炭火力混焼では、発電コスト13円/kWhに対し買取価格は24円/kWhであり、規模別買取価格が設定されなければ、事業者利益は1兆6000億円に上る。
参照ページ

2) 森林管理体制の整備:多くの山間部の自治体の林務課のマンパワーは1名程度であり、木質バイオマス発電需要等のための皆伐が増えても、事前・事後のチェックを十分に行うことが難しい。県職員によるフォローなど体制の整備が必要である。現状では皆伐後に再造林(植林)されないケースも多く、これができないと、時間がたってから水害などが起こる可能性がある。
参照ページ

3) 持続可能性基準の導入:海外から大量のバイオマス輸入が予測されている。液体バイオ燃料や、海外の例のように固体バイオマスの持続可能性基準を策定・実施し、日本のバイオマス利用が海外の環境・社会に悪影響を及ぼさないよう配慮すべきである。
参照ページ 1参照ページ 2ほか

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そもそも、5,000kW規模の未利用木質バイオマス発電は、事業モデルとして非常にリスクが高い(参照ページ)。現在の「木質バイオマス発電バブル」が数年を経ずしてはじけることについて、木質バイオマス関係者の意見は一致している。必要とする資源を、採算がとれる価格で集められるところは少ないからである。

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繰り返し主張していることだが、未利用材を使うなら、熱利用が適している。ボイラーなら、10万㎥も集めなくても、事業が成立しうる。熱利用にもさまざまな課題があるが、それを乗り越えながら条件が合えばコジェネレーションを行う、というのがまっとうな戦略だろう。

『ドイツの市民エネルギー企業』(参照ページ)で、著者の村上敦氏は、地域内における省エネルギー対策、再生可能エネルギー対策のリスト、カタログを作成し、最も費用対効果に優れる対策から順に手をつけることを提唱している。地域の熱利用の実データを取り、省エネから始め、太陽熱を使い、次にバイオマスの熱利用という経済性に優れる順番に、条件に合うところから導入すれば、社会的コストを最小にしながら普及が進むだろう。今後も、こうした観点から、「危機」をチャンスに変える活動を行っていきたい。

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<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>

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