日本の国土の2/3を森林が占め、その4割は人工林だが、8,000万〜1億㎥に上る年間成長量のうち、現在木材として利用されているのは約2,100万㎥にすぎない。この他に2,000万㎥が切捨間伐材として山に放置されている。この切捨間伐材等の未利用材の出口となることが、FITの未利用木質バイオマス発電に期待された。
だが、スギ皆伐主伐伐出・運材コストは7,000万円/㎥に対し、スギ間伐伐出・運材コストは11,000円/㎥程度である【*5】。木質バイオマス発電所の「未利用材」丸太の買取り価格は、5,000〜8,000円/生t程度【*6】であり、間伐材の場合、補助金などで底上げしないと、条件のよいところにある、限られた量しか集めらず、コスト高の間伐材ではなく、皆伐(主伐材)が主な発電燃料となる可能性がある(参照ページ)。
間伐材等由来の木質バイオマス利用量は2013年度で121.1万㎥であり、2020年の目標でも600万㎥である。未利用木材の現在の認定容量36.3万kWでは、700万㎥以上の木材が必要とされるが、認定された木質バイオマス発電は2015年から2016年にかけて本格稼働し始めるため、供給体制が追い付かない事態になるのではないかと懸念されている。
表:木質バイオマス利用量(間伐材等由来)
年度 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2020年目標 |
---|---|---|---|---|---|---|
㎥ | 31.5万 | 55万 | 71.7万 | 88.5万 | 121.1万 | 600万 |
出所:農林水産省 平成25年度実施施策に係る政策評価書 他
木材は、おおまかにA材(建材向け)、B材(合板向け)、C材(製紙パルプ向け)、D材(燃料向け)と分かれるが、燃料向けのD材を10万㎥集めるには、周辺に少なくとも10〜20万㎥のA材、B材の供給体制がないと、林道や林業労働者などのインフラ面から難しい。木材加工産業の蓄積がない地域で収集可能な未利用材は、概ね1〜2万t程度と推定されている。
山には膨大な資源があるが、それを利用可能な価格で大量に降ろせないのである。降ろしてくる手段(インフラ)は、建材などと一緒に形成しなければならないが、残念ながら多くの地域では実現していない。
木材加工産業の蓄積がない地域に未利用木質バイオマス発電所が建設された場合、バランスの取れた森林資源の利用ができず、必要とする量の未利用材を集められないため、製紙用など既存用途の資源も無理に集める【*7】か、補助金に頼るか、皆伐するか、パームヤシ殻(PKS)などを輸入するか、でなければ破綻するリスクが高い。特に5,000kW規模の専燃木質バイオマス発電は、採算ラインが厳しく、燃料価格のわずかな上昇や稼働率の低下で赤字に転落するおそれがある【*8】。こうした状況を受けて、木質バイオマス発電計画の規模縮小や計画断念が相次いでいる。
その一方で、他の再生可能エネルギーと同じく、FITによる木質バイオマス発電事業の拡大は、ファイナンス、保険、雇用創出等広範な分野に大きな経済効果ももたらしつつある。
一方、大規模については、現在のFITのバイオマス発電の電力買取価格は規模別の買取価格となっていない。このことは、FIT制度に関わる大きな課題の一つである。
バイオマス発電、特に直接燃焼技術における発電は、規模によって発電コストが大きく異なる。現在のFIT制度の木質バイオマス発電の買取価格は、5,000kWを基準にIRR(内部利益率)が計算されているが、2万kW規模であればIRRは20%に達するという試算もある【*9】。石炭火力混焼ではさらに発電コストが低いため、大規模なバイオマス発電事業が増加すると、過大な国民負担が増えるおそれがある。
例えば、80万kWの石炭火力発電で木質バイオマスを混焼する場合、発電コストは13円/kWh以下である【*10】。これが現状では、未利用材なら32円、一般木材(製材端材、輸入バイオマス等)なら24円で買取られる。仮に一般木材で100万kWの石炭混焼が行われると、1兆6000億円以上の利益が事業者に入る計算になる。これは過大な国民負担につながり、早急に規模別の買取価格を設定すべきであろう。
日本のFITで新しく、膨大なバイオマス市場が生まれたということで、海外のサプライヤーから「日本はシャングリラ(理想郷)【*11】」と呼ばれ、安価なバイオマスの売り込みが相次いでいる。
バイオマスがカーボンニュートラル(炭素中立)と想定されるためには、利用量と同等の炭素が森林や農地において固定される持続可能性が担保される必要がある。また、ペレットやチップなどのバイオマス燃料の生産、加工、輸送に化石燃料が使われれば、その分、温暖化対策効果は減少する(詳細はコラム③、バイオマス白書2012等参照のこと)。
比較的安価なPKS(パームヤシ核殻)の世界的ポテンシャルは1,000万t程度だが、全量を日本が輸入できるわけではない。数百万kWのバイオマス発電を稼働させるためには、大量の木質バイオマス輸入が必要になると考えられる。持続可能なバイオマス利用のため、トレーサビリティの厳格化や、固体バイオマスの持続可能性基準の導入などが求められよう【*12】。
また、国内においても、「未利用」と「一般木質」を区別するトレーサビリティのどのように担保するかが課題となっている 。予算、マンパワー、責任と権限、抜き打ち検査や罰則など、実効性のある対策が必要だと考えられる【*13】。
パームヤシ殻(PKS)は、世界最大の生産量の植物油、オイルパーム(アブラヤシ)の農産物残さである。オイルパーム農園開発は、経済的恩恵が多大である一方で、ボルネオ島の森林破壊の最大要因であり、農地開拓の際の泥炭林破壊による大量のCO2排出、オラウータンやゾウが生息する貴重な生物多様性損失、あるいは先住民や地域住民との土地利用をめぐる紛争など、大きな環境・社会問題をはらむ作物でもある。そのため、国際的に持続可能な利用が議論となり、持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)が2004年に設立された。
数年前のバイオ燃料ブームの際には、パーム油をバイオディーゼルに利用する動きがあったが、上記のような問題が浮上し、EUでは間接的影響を考慮すれば、温暖化対策としての有効性には疑問がある、として、パーム油のバイオ燃料利用は沈静化している。
ただPKSは残さであり、価格的にも低いため、新たな農園開発への影響は少ないと考えられる。PKS、あるいはアブラヤシ空果房(EFB)の現在の世界的ポテンシャルはそれぞれ、1,100万t/年、4,400万t/年【*1】程度であり、世界的に貴重な未利用バイオマス資源である。このうち、PKSはそのままで扱いやすい形状だが、EFBはかさばるためペレット化しなければ輸出することは難しい。2014年のインドネシアからのPKS輸出は73.2万tであり、この他、インドネシア国内での利用が行われている。
PKS
アブラヤシ果房
アブラヤシ空果房(EFB )
写真提供:On-site Report
PKSの利用が温暖化対策として有効かどうか(輸入資源なので、エネルギー自給にはならない)は、そのPKSの利用状況によって変わる。つまり、それまで未利用であったなら、資源の有効活用となる。しかし、すでにパーム油工場で使われており、PKSを輸出する代わりにそのパーム工場で石炭を使うようになるなら、日本までの輸送にかかるエネルギーの分、むしろ世界的にはCO2が増えることになる(PKSは石炭よりもエネルギー密度が低いため、輸送に余計にエネルギーがかかる)。
一般に、カーボンニュートラル(炭素中立)と言われるバイオマスだが、実際には生産、加工、輸送において化石燃料が使われることが多く、また、生産地での土地利用転換や間接的土地利用転換(ILUC)の影響など、温暖化対策としての実際の効果は慎重に比較する必要がある【*2】。一般論としては、輸送エネルギーが少なくて済む生産地周辺で消費する方が、化石燃料よりかさばるバイオマスの利用方法としては合理的である。
日本へのPKS等の輸入量は2013年が12.6万t、2014年が23.4万tと推定されている【*1】。単価は11〜12円/kgだが、高めに推移している。一方、FIT開始以来、PKS等 を燃料として使用する可能性のある発電所は、On-site Report誌によると、26件145万tに上る。
PKSは国際商品であり、韓国が500万t輸入する計画があるなど、今後、各国の温暖化対策が活発化すれば、引き合いがさらに激しくなる可能性がある。PKSの最大の難点は調達ルートの確立であり、現在急ピッチで進められている。化石燃料に比較すると資源量が限られており、今後価格が上昇すると予想される。安定調達には工夫が必要だと考えられる。