2013年は、世界的な石油価格の上昇リスクの備えという視点からバイオマスのマテリアル利用の研究や実用化が大きく進展した年であった。
バイオPET(ポリエチレンテフタレート)やバイオポリエチレン(PE)といった非生分解性のプラスチックが市場を牽引している。欧州バイオプラスチック協会によると、世界のバイオプラスチック生産能力は2012年140万tから2017年に619万tに拡大する見通しである。バイオPETは、サトウキビを搾った時に発生したかす(廃糖蜜)を発酵・精製してエタノール、エチレンを経てつくられている。豊田通商はブラジルからの原料調達から製造・販売までの一貫体制を確立させ、ペットボトル、容器、包装材料などの用途に使われている。バイオPEは、サトウキビの廃糖蜜から製造され、生産能力20万t/年をもつ南米最大の化学メーカーのブラスケンによって世界中に供給されている。
バイオコハク酸は、トウモロコシ由来のグルコースから製造され、複数の会社が参入している。日本では三井物産がカナダの化学会社バイオアンバー社と合弁会社を設立し、生産能力3万tのプラントを2015年から供給することを予定している。住宅断熱材や靴などに使うポリウレタン、自動車内装などに使う生分解性樹脂、合成樹脂などに混ぜる可塑剤などの原料を対象にしている。
トウモロコシ由来のポリ乳酸(PLA)は、最大手の米国のネイチャーワークス社の14万tの生産プラントによって製造され、さまざまな用途に使われている。特に新しい分野として家庭用3DプリンターでABS樹脂とともにフィラメントとして利用が拡大している。
従来からの植物樹脂で難しいとされてきたエンジニアニングプラスチックの分野においては、東洋紡がフランスのアルケマ社とヒマシ油由来のポリアミド樹脂「バイオアミロ」を開発し、生産能力を6000t規模に引き上げている。
また住友ゴムは、2013年に石油由来原料を全く使わないタイヤ「エナセーブ100」の発売を開始した。一般的なタイヤは石油由来が56%、石油以外の天然資源が44%であったのを徐々に代替比率を高め、タイヤに添加する薬品もトウモロコシ、松の木油、菜種油へ変えることで100%代替を実現した。
国内の間伐材から布をつくる木糸(もくいと)プロジェクトが大阪府木材協同組合連合会と、はんなん和紙の布工房協議会によって、日本で初めて実現した。天然繊維素材は全量輸入に依存しているが、大阪の泉州地域の中小企業と林業・木材産業との連携によって、杉とヒノキの間伐材をチップ化し、和紙を漉いてこよりから糸をつくり、生地にした。タオルやポーチなどの雑貨や服飾用の生地によってマテリアル利用の幅が広がることが期待されている。この取り組みが評価されて平成25年(2013年)度間伐・間伐材利用コンクールにおいて、林野庁長官賞(最優秀賞)を受賞している。
木糸を使った帽子
<NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事 赤星 栄志>
かつて生活用品の素材やタケノコ用として移植された孟宗竹は、近年、プラスチックなどに駆逐され、タケノコ生産も輸入の増加によって激減している。それにともなって全国で放置竹林の問題が広がり、竹林面積は16万haに上っている。放置竹林は、生態系の破壊や土砂崩れの原因にもなり、各地で竹林整備の取り組みが行われているが、燃料チップ化やパウダー化による土壌改良材利用は、高コストでなかなか普及していないのが現状である*。
そうした中で注目されるのが、中越パルプ工業の「竹紙」である。中越パルプ工業は、1998年に放置竹林対策に取り組む鹿児島県職員から相談されたことをきっかけに、竹の製紙原料利用に取り組んできた。国産竹利用の最大のネックは、「集荷」である。竹は内部が空洞のため、伐採、運搬、チップ化等さまざまな面で木材よりも効率が悪い。事業化には、一定価格内でまとまった量が調達できることが重要だが、切り捨て間伐材の収集と同様に、通常の人件費・経費で搬出費用を計算すると、資源の販売価格が低く、割に合いにくい。
同社が使う竹はタケノコ農家が間伐する竹が多いが、農家が軽トラックで山に入り、その帰りに竹を積んで帰るといった方法だと、手間とコストを省くことができる。鹿児島県薩摩川内市にある同社の川内工場では、九州各地の10カ所以上にある系列チップ工場に竹を持ち込まれれば、パルプ用広葉樹と同様の価格で買い取り、製紙原料に約2万t使っている。また富山県にある同社の高岡工場でも、森林整備で伐採される竹を買い取っている。
竹は、木材より堅いため、チップ工場では竹のチップ化に耐えられる刃を装備した。竹の繊維は広葉樹よりも長く、針葉樹よりも短いため、強くてしなやかという特徴がある。グリーン購入法の対象となるなどマーケティング努力を続けているが、竹100%の竹紙はまだ認知度が低く、価格も高めなため、生産量は限定的である。だが、通常のパルプ原料にも混合して使っているので、持続的に事業へ取り込むことができる。
中越パルプ工業の竹紙の製品
企業の社会的責任(CSR)の関係者の間では、最近、CSRからCSV(共通価値の創造)への移行、つまり本業そのものでの社会的価値をどう実現するかが議論されている。同社営業企画部長の西村修氏が「通常のCSRだと、業績が悪化すると継続できなくなることもありますが、竹紙の取り組みは、事業を続ける限り継続できます」と語るように、この中越パルプ工業の取り組みはまさに、社会貢献を「本業」のなかに取り入れた事例と言えよう。
中越パルプ工業の工場は2カ所だが、全国には製紙工場が100数十カ所以上ある。これらの製紙工場でも竹を引き取るようになれば、今、地域を悩ましている竹林整備にも、大きなてこ入れとなるだろう。関係者の尽力で、こうした取り組みが進むことが望まれる。