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トピックス
再生可能エネルギー電力買取制度(FIT)と木質バイオマス利用

2 未利用材を主とする木質バイオマス利用の目指すべき方向とは

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1. 木質バイオマス発電推進にあたっての基本問題の整理

(1)バイオマス利用の基本:残材の利用と熱利用

日本には、すべての再生可能エネルギー源が存在しており、賦存量も多い。欧州最大を誇るドイツの森林蓄積は34億㎥だが、日本は60億㎥とバイオマスのポテンシャルも大きい。日本林業が厳しかったのは、戦後の復興期に木を伐りつくし資源がなかったからだが、育ってきた。

バイオマス利用の基本は、残材の利用にある。ドイツとは違い、日本ではバイオマスを使えば使うほど疲弊しかねない。

ドイツの丸太からつくるチップ価格は日本より4割ぐらい高いが、発電コストは日本の方が高い。日本では丸太チップしか使えない発電所が多いが、ドイツでは、丸太チップよりはずっと安い剪定枝や枝葉などの林地残材を燃料利用しているからだ。発電用の大型ボイラーで丸太チップを使うことなど、あまりにももったいない。

工場残材、林地残材など残材はすでに大量に出ている。おおむね丸太の5割以上は残材になる。製材工場残材は、低い価格で販売するか、カネをかけて廃棄物処理をしている。残材をエネルギー利用することによって、ごみが宝になり、丸太価格を引き上げることが可能になる。

バイオマスのもう一つの基本は、熱利用である。エネルギーをいかに効率よく使うか。発電だけではエネルギー効率は2割程度で、8割は捨てることになる。熱利用なら、エネルギー効率は8割以上。日本の最終消費段階で使うエネルギーの5割は熱。温泉、ホテル、公共施設、プールなどが木質バイオマスボイラを導入しやすい。日本では、製紙用チップが低い価格に抑えられてきたが、バイオマス発電では製紙と同様の価格にしかならない。丸太のチップ価格は、熱に使えば発電よりもずっと高く買ってもらえる。熱は運ぶのが難しく、地域で消費する地産地消の典型である。発電は、コジェネレーション(熱電併給)できるところでやるのが筋だ。

(2)日本の木質バイオマス発電の現状

バイオマス発電のような大型ボイラーは、本来なら多様な燃料に対応できる、つまりごみを宝にできるが、日本では、主に丸太からつくる水分率の低い高品質チップを発電燃料にしており、熱利用をしていないケースも多い。これは森林資源に負担をかけ、資源のむだ遣いだ。再生可能エネルギー電力固定価格買取制度(FIT)で認定され、すでに稼働している木質バイオマス発電所の事例では、水分率の高い未利用材を建築廃材チップで乾燥させている。エネルギー効率26%とうたっているが、乾燥にかかるエネルギーを考慮すると、実質は20%程度になる。

同じくすでに稼働している別の木質バイオマス発電の事例では、チップ燃料代のうち林業への還元は1/3の5000円/tにすぎない。現在の日本で、木質バイオマス利用を「発電」ありきでやる必要があるのか、大きな疑問がある。

バイオマスは形状や水分が多様で、これをいかに効率よく燃焼し、熱を回収するかが重要になる。ボイラーの炉の構造や断熱構造、空気の送り方、灰処理などについて、オーストリアやドイツでは、20年以上の経験・ノウハウを蓄積してきた。一方、現在の日本のバイオマス発電ボイラーは、石炭火力の技術をベースとする循環流動層である。このため、多様なバイオマスに対応できず、高品質のチップが用いられる。また、木質ボイラーは焼却炉由来で、熱効率が低かった。

ドイツなどでは、バーク(樹皮)や水分の多いチップを燃やす技術が確立しているが、日本ではこれらの燃焼技術が普及していない。日本の製材所はバークの処理に困っており、これをエネルギー利用してはじめて、バークのもつ本来の価値を引き出すことができる(表紙写真参照)。残材利用ができなかったもう一つの理由は、林地残材収集の技術・理論のベンチマーク(基準)がなく、林地残材収集を前提とする路網・作業システムもなかったことにある。ドイツなどでは、林地残材を土場に置いておき、乾燥させ、10トントラックで運び、チップ化する。バークや剪定枝も利用している。

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BIN/ISEP木質バイオマスシンポジウム2014
未利用材を主とする木質バイオマス利用の目指すべき方向とは

2012年7月、再生可能エネルギー電力固定価格買取制度(FIT)が始まり、全国で未利用木質バイオマスを利用する発電が多数、稼働・計画されている。木質バイオマス、特に未利用材のエネルギー利用は、利用効率、温暖化対策、経済性、雇用創出、資源調達性などの観点から、熱利用も重要である。先行してFITを導入したドイツにおいても、総合効率の低い大規模専焼発電から、総合効率が高く地域分散型のコジェネレーション(熱電併給)へ誘導する制度設計が行われ、その効果が現れている。

規模別のFIT価格、コジェネレーション優遇、バイオマスの流通・市場の形成、地域における資源バッティングを防止するしくみ、持続可能な森林利用と両立する制度などについて議論し、今後の政策への一助となることを目指して、2014年2月20日、NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク(BIN)およびNPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)の主催により、「BIN/ISEP木質バイオマスシンポジウム2014 未利用材を主とする木質バイオマス利用の目指すべき方向とは」が東京都内で開催された。

梶山恵司氏(富士通総研上席主任研究員)「ドイツのFIT制度の変遷〜大規模発電からコジェネレーション誘導へ」、中坊真氏(九州バイオマスフォーラム事務局長)「九州の木質バイオマス発電計画とバイオマス利用の状況」、松原弘直氏(環境エネルギー政策研究所研究員)「日本のFIT制度への提言〜バイオマス発電の現状と課題」の各講演が行われた。パネルディスカッションでは、3名の講演者に、相川高信氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング副主任研究員)、藤枝慎治氏(全国木材資源リサイクル協会連合会副理事長)、久木裕氏(エックス都市研究所)が加わり、司会は泊みゆき(バイオマス産業社会ネットワーク理事長)が務めた。官庁、自治体、企業、大学、NPO、メディアなど約150名が参加された。

本章は、このシンポジウムでの講演内容・資料および議論を、事務局の責任で再構成したものである【*】。

BIN/ISEP木質バイオマスシンポジウム2014の様子
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(3)ドイツのバイオマス発電の実際

ドイツの再生可能エネルギー需要は、電力より熱の方が多く、熱の9割がバイオマスである。一方、発電では3割がバイオマスだが、その半分以上はメタン発酵のバイオガスである(下図)。

現在のドイツでは、コジェネレーションがFIT買取の前提条件となっており、熱利用をしない発電は対象外となる。熱利用先としては、500kW以下であれば、チップ乾燥、木材乾燥、汚泥乾燥、小規模地域熱供給、クリーニング、農家(温室等)などであり、それ以上なら、大規模地域熱供給や工業団地、木材産業などである。

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図:ドイツの再生可能エネルギー構成(2012)(梶山恵司氏提供)

図:ドイツの再生可能エネルギー構成(2012)(梶山恵司氏提供)
(出所)ドイツ再生可能エネルギー統計2012

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5000kW以上の大型の発電では、大量に発生する熱を有効に使うことは難しい。ドイツでは、大型発電の新規建設は事実上ストップしており、最近は小型が増えている。規模別の技術も確立しており、2000kW以上は蒸気タービン、800〜3,000kWはオーガニックランキンサイクル(ORC)、200kW以下は木質ガス化発電となっている。ドイツは、規模別価格や技術へのボーナスなどFIT制度設計によって、これらの技術革新を促してきた。

ドイツでは、近年、バイオマス熱利用が大きく伸び、農山村に新たな富をもたらした。10年間で木質チップ販売量は5倍に、チップ価格は2倍にと、チップの売り上げが10倍になって、林業サイドにも富が回っている。それでも熱量あたりのチップ価格は、灯油価格の約1/3であり、熱の利用者にとってもメリットがある。雇用創出の面でも、サプライチェーンが長いため、再生可能エネルギーの中で最大の12万人の雇用を生んでいる。

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2. 地域の状況と関係者の動向

(1)九州の木質バイオマス発電計画と予想される影響

現在、九州にあまりにもたくさんバイオマス発電計画がある。FIT制度開始以来、報道されたもので17カ所の計画があり、1カ所がすでに稼働している(下図)。宮崎県の海岸沿いは、木質バイオマスの銀座通りでここだけでも80.7MWになり、九州全体では177MWになる。

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図:九州の木質火力発電計画 2013年10月現在(出所:中坊真氏資料)

図:九州の木質火力発電計画 2013年10月現在(出所:中坊真氏資料)

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これだけのバイオマス発電所を動かす木質燃料があるのか。バイオマスは、かさばるし運搬費用が高いので、地産地消が原則である。発電所計画のある九州4県(大分、宮崎、鹿児島、熊本)を供給源と想定して試算してみた。固定価格買取制度(FIT)は20年間の買取保証であり、20年以上の持続可能性を担保する必要がある。

年間の利用可能量は、821.1万㎥だが、すでに素材として380万㎥生産されているので、発電に利用可能なのは442万㎥となる【*6】。一方、発電に必要なエネルギーは357万㎥となり、かろうじて足りる状態だが、森林の90%以上の活用が前提となる。

九州全体のデータがないので、大分県竹田市の例だが、ここでは8割が民有林。人工林(民有林)の90%以上活用しようとすると、竹田市だけでも1万戸以上の山林所有者の同意が必要になる。

ロジスティクス(物流)の点でも、懸念がある。宮崎県の海岸沿いに80.7MWの発電所ができると、一日に4,796㎥の木質バイオマスを運び込む計算になる。一日240台の大型トラックがこの周辺を走ることになるが、1時間に20台以上のトラックが通過する場所も出るのではないか。これだけのトラックの確保ができるのか。船で港に上げる分もあるだろうが、海岸沿いの大型トラックが走れる道は限られており、渋滞が生じるのではないか。

次に、山から運び出してくるマンパワーの問題がある。林業従事者はこの4県で合計7,136人だが、高齢化が進んでいる。現状の木質バイオマス発電所がすべて実施されたとき、必要なバイオマスの量は4県の従来の素材生産量に匹敵する。このままの計画では、林業従事者の生産効率を倍にするか、生産体制を倍にする必要がある。そのとき、果たして適正な森林管理・労働環境が維持されるのか、だれもその疑問に答えられない。

一方、林業業界にとっては初めての売り手市場で、価格決定権を握れるのではないかと期待している人たちもいる。山のことを心配する人もいるが、これまでは木材がだぶついたり、売れなかったりで、木質バイオマス発電所計画に賛成している林業関係者が多い。

だが、木材生産には多くの税金が投じられており、森林資源の活用には、国民的議論が必要だろう。バイオマスは再生可能エネルギーだが、イコール持続可能とは限らない。持続可能なバイオマス利用が大前提であり、これをいかに浸透していくかが重要である。

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(2)地域別木質チップ市場価格の見える化

全国木材資源リサイクル協会連合会では、主に廃棄物木材を扱っており、繊維板(木質ボード)業界、セメント業界、製紙業界とも連携している。既存の業界に影響を及ぼさないというFITだが、現実には影響が及びつつある。

2015年度以降、全国規模でバイオマス発電設備が多数新設され、燃料用チップの需要が大幅に増加する。同連合会の行った調査では、新規需要は年間約200万t程度と想定される。この全量を、間伐材等の未利用材や一般木質バイオマス=生木類で供給可能な状況下にあるか。

林業従事者の不足、山林からチップ化までの人材・機器・路網等が潤沢ではない地域も多い。将来、未利用材利用の仕組みができ上がると、既存の板紙製紙業や合板業界もより多く利用できるようになるかもしれないが、発電用の量的確保は可能か。

同連合会では、木質バイオマス発電新設によるリサイクル材の新規需要は年100万tと想定している。だが日本の住宅構造の変化(木造率の減少)にともない、リサイクル材(主に建設系)の排出量は減少傾向にあり、今まででも需給バランスはほぼとれている。100万tの新規需要が、既存需要から引き抜かれることにないように調整しなくてはならない。

チップの獲得競争が燃料用チップ価格の上昇を招き、ユーザーの経営悪化や廃木材の獲得競争から処理単価競争になること、チップの品質が悪化するといった懸念がある。木質バイオマス発電ラッシュという状況で、混乱が起きないよう、生産コストの合理化、市場価格の見える化を進めている(下表)。

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表:木質リサイクルチップの区分【*7】

表:木質リサイクルチップの区分
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(3)ORC発電システム導入へ向けて

オーガニックランキンサイクル(ORC)発電技術とは、バイナリー発電の一種で、通常の水蒸気サイクルとは異なり、ボイラーで過熱したサーマルオイルを沸点の低いシリコンオイルなどの有機媒体と熱交換し、タービンで発電を行うシステムである。

熱電併給(コジェネレーション)型のバイオマス発電技術で、発電出力2000kW以下と小規模でも高い発電効率であり、圧力が低く安全性に優れ、また排熱も80〜90℃の温水として供給可能で全体としてのエネルギー効率が高い。欧州ではオペレーターの常時監視は不要でメンテナンス費用も安く、小規模でも採算面で優れた技術として、欧州全体ですでに300基以上の実績がある。

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図:バイオマスを熱源としたORC発電ユニットの仕組み

図:バイオマスを熱源としたORC発電ユニットの仕組み
(出所:久木裕氏資料)

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ドイツでは中小規模コジェネレーションに対する政策的優遇もあり、ORC発電の導入が進んでいる。ドイツでの導入例では、木質ペレット工場で製材廃材と未利用材を燃料とし、熱はペレット製造に使われている。発電プラントの規模は、所内の熱需要に合わせて設計されている。

日本へのORC適用上の課題としては、日本の電気事業法の技術基準にはORC発電の位置づけがなく、蒸気タービンと同じ扱いになり、電気事業法に合わせた設計が必要とされる。また運用面でも蒸気タービンと同様の対応が求められ、欧州と異なり常時監視が必要で、ボイラータービン主任技術者などの人件費がかかる。そのため、日本で導入しても、現状では採算上のメリットが少ない。

ORC規制改革の見通しだが、経産省が最も重視しているのは、安全性の検証である。事業者へのヒアリングや拡散シミュレーションなどを行い、電力安全小委員会で討議される。木質バイオマスエネルギー利用推進協議会を通して要望しているが、もっと関係者をあげて声を挙げていきたい。地熱の規制改革は、首相の鶴の一声でできた。今の電気事業法にのっとった形で導入して安全性の検証をすることも考えられる。日本への導入には、2〜3年ぐらいはかかるかもしれない。

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3. FIT制度の改善に向けて

(1)何のためのバイオマス利用か

政策の上位概念があって、バイオマス利用があって、その下の選択肢の一つに発電があるが、日本にはそれが欠けている。また、FITの議論のなかに利用効率という視点が抜けている。ドイツのようにコジェネレーションにボーナスをつけ、いずれ義務付けることも考えられる。そもそも、未利用材で無理して発電する必要はない。

地域においても、バイオマス利用の前に地域のグランドデザインやビジョンがない。再生可能エネルギー利用は、地域社会の発展の重要な手段だ。今できることの一つは、根本の理念、社会目標について、地域の人たちが同じような問題意識をもっている人たちで議論をスタートさせることだ。

企業誘致して木質バイオマス発電を建てて終わるのではなく、森林林業の再生や地域社会の再構築のなかで、限られた量の地域のバイオマスをどう活かすのか、きちんと考える必要がある。地域で考えるための、情報やネットワーク、地域が自ら考えるしくみが欠けており、それをサポートするしくみを中央でつくることも考えられる。

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(2)持続可能な森林経営とバイオマス利用

森林の生物多様性保全機能や水源涵養機能などのゾーニング(用途別配置)を行いながら、持続可能な森林経営と木材資源の利用を両立させなければならないが、現実にはそうなっていない。人工林が戦後、急速なスピードで伸びてきた。高度経済成長で木材需要量が増加すると見込んでいたが、実際の需要は、現在ではピークの1973年の半分ぐらいに低迷している。

人工林の蓄積は増えているが、国内の木材需要が今後増える見込みはない。また、深刻化する大雨等の災害リスクを最小化する努力も必要になる。健全な形で森林を管理することがますます重要になっている。森林所有者は、建築用材のために木を育ててきたが、早めに在庫処分する動きが出ているのではないか。

混交林など人工林の一定割合を自然林に戻す「縮小造林」を今後長期にわたって行っていくことになるだろうが、今後、林業経営と森林管理の両方から大量の木材が出てくる。これを上手に木質バイオマスとして使うことが重要だ。持続可能な森林経営や、国土保全とすりあわせていく必要がある。

地域の森林資源利用についてつくられた、市町村森林整備計画や森林経営計画と整合性のある木質バイオマス発電計画が必要だと考えられる。FITで32円/kWhの高い価格のついた「未利用材」だが、この未利用材とされるのは、実質、森林経営計画の対象林からか、保安林・公有林からの材になる。「森林・林業再生プラン」で私有林助成に原則必要となったこの森林経営計画の認定の状況だが、北海道と大分県が一番高くて4割以上、その他の地域はそれ以下になっている。森林経営計画の中身、質の問題はまた別にある。

日本の私有林では、数haの小規模所有者が多く、かつ境界がわからない、相続人がどこにいるかわからないというケースも多い。今後、人工林の利用を進めていくには、所有者の同意を得て管理、伐採していかなければいけないが、大変な手間と時間がかかる。

FITの木質バイオマスについて規定した、「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」の実効性についてだが、違反した場合のペナルティ(罰則)は検討されていないようだ。材のトレーサビリティについても、事業者を認定しその事業者が誠意をもって取り扱うとなっており、制度として甘いものになっている可能性がある。この制度をどうモニタリングするかが問題である。第三者機関による抜き打ち検査といったことが効果を上げるかもしれない。

皆伐の問題だが、法的な枠組みの中で禁止されているわけではなく、森林経営計画に入っていれば補助の対象にもなる。エネルギー利用は枝葉や根っこなど使われていなかった残材が原則だが、皆伐された質の高いチップが発電燃料として使われる可能性がある。

また、輸入バイオマスについても、生産地の生態系保全の問題や、遠距離を運搬するとバイオマスのもつエネルギーが相殺されるといった問題がある。持続可能性基準を設けるといった対策が行われるべきであろう【*8】。

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(3)ドイツなどの経験を活かす

ドイツで最初にFITが導入された際には、木質バイオマス発電では、廃材を燃料とする5000kW以上の大型のものが増えた。2004年の改正で規模別に格差をつけ、熱需要にボーナスをつけると、コジェネレーションが増えていった。2012年にボーナス制度を廃止して、買取の前提にコジェネレーションを義務付けた。また、大規模な設備への歯止めとして、FIT買取に発電規模の上限を設けることも考えられる。

FITの制度設計は重要であり、こうしたドイツなどの経験を生かさない手はない。また、ドイツは、2007年にドイツバイオマス研究センターを設立、400人がバイオマスのリサーチを行い、モニタリングや調査を行い、発表している。政策目標に照らし合わせて現状を分析し、発電規模や種類などが違う方向に行っているとなれば制度を変える、というトータルなシステムができている。今の日本の研究体制は、一貫した研究がしにくくなっているが、不十分な点をどうするかが課題である。

日本では、再生可能エネルギーはエネルギー政策上、重視されてこなかった。ドイツでは、2004年ぐらいから再生可能エネルギーの統計を整備し、環境省で電気、熱の統計を集めている。FIT設備の一覧や、設備認定の際の建設コスト、運用コスト等の公表が求められる。

今後の取り組みとして、各地域の状況、林業の状況を含めた省庁や専門家による横断的な研究会を設けることが考えられる。FITの枠を超えて、再生可能エネルギーを拡大するために何が必要か、どのように行うべきか検討する。例えば、ORCの実証実験を民間ベースで行うのは難しい。風力でも、洋上風力について国が力を入れて、浮体式、着床式で実証しデータを集め、価格を決めるにあたっての研究会を開き、実績や海外の実績を調べて、商用化されたときの予測値を出し、FIT買取価格を打ち出している。木質バイオマスの規模別の価格もそうして出さないと、小規模が育たない。

木質バイオマスには、用材、パルプなど既存の利用がある。地域によって利用の状況は違う。地域でどんな価格でどんな量がどう流通しているのかをリサーチして、横の情報交換を行うしくみをつくることも重要である。

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(4)規模別調達価格等へ向けての見直し

5000kWの木質バイオマス発電に必要な、6万〜10万㎥の燃料を安定的に集められる地域は少ない。中小規模のバイオマス利用を育てる必要があるが、それが成り立つ買取価格を設定する必要がある。一方、石炭火力混焼では、今の買取価格は高すぎる。

今の日本の発電技術では丸太チップでないと使いにくいが、バークのFIT買取価格は安い(24円/kWh)ので、バークを使うインセンティブが働きにくい。バークのような未利用バイオマスをもっと高いFIT価格にすれば、バークなどを使える発電技術のイノベーション圧力になる。

乱立する木質バイオマス発電の資源バッティングの問題については、県庁の林業の担当職員が、地域の実情を踏まえて権限と予算をもって調整を行うということも考えられる。また、地域の関係者がざっくばらんに話す場も必要だと考えられる。

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(5)熱の利用

日本の一人当たりの薪の消費は、先進国で最も少ない。オーストリアの木質バイオマス利用の4割は薪だ。日本でも可能性があると考えて、薪を電気、ガス、水道と同じインフラになるよう、地域で薪とペレットがどこでも手に入るよう活動している。薪を使うことで、地域で捨てられているものが資源になって、意識が変わる。

熱の潜在的なポテンシャル調査や熱利用の経済効果の研究も進める必要がある。日本の産業用熱利用は蒸気が中心だが、ベルトドライヤーを活用した木質ペレット乾燥、温水を活用した製材・集成材品の中温乾燥、温室の冷暖房、地域熱供給など、中低温の温水利用を進めることで、熱利用側の産業にコストダウン、生産性向上、品質向上、環境負荷削減といったイノベーションをもたらすことが望まれる。

我々自身に、イノベーションが求められている。

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コラム1 パブリックコメントの提出

このシンポジウム等での議論を踏まえ、2014年3月、FIT調達価格等の改正に対する意見募集に、下記のような意見を提出した(要約)。

バイオマス発電の調達価格の別区分化を、是非、進めるべきである。また、以下のような対策を検討すべきである。①バイオマス利用においてバイオマス発電をどのように位置づけるかの戦略策定 ②木質バイオマス発電について経産省、林野庁、専門家、ステークホルダーによる研究会を設置し、情報収集や議論を行い、その結果を調達価格等算定委員会へ提示 ③諸外国のFIT制度の詳細などについて充分な調査研究 ④コジェネレーション調達価格の上乗せ(ボーナス)を検討すること。バークのより高い調達価格の検討。石炭火力混焼の適正な調達価格の検討 ⑤バイオマスの持続可能性基準の設定 ⑥「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」に、協議会の開催を付加。市町村森林整備計画との整合性を未利用バイオマス発電のFIT認定の要件にすること。⑦FITに関するデータ(FIT認定設備一覧、設備認定の際の建設コスト、運用コスト等)をできるだけ公開すること【*1】。

また、環境エネルギー政策研究所も2014年1月にFITに対する提言を行っている【*2】。


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