2013年は、日本で利用可能なバイオマスの半分を占める森林由来バイオマスに大きな影響がある、林業の活性化政策に一定の前進が見られた。2009年に発表され、2012年から本格運用が始まった「森林・林業再生プラン」には賛否両論があったが、停滞し続ける日本の林業に抜本的な改革が必要なことは論を待たなかった。2010年に施行された公共建築物木材利用促進法や2013年度から開始された木材利用ポイント、直交集成板(CLT)のJAS規格認定など、従来の木造戸建て住宅だけでなく、公共施設や商業施設などへの木材利用が徐々に進みつつある。公共建築物木材利用促進法や木材利用ポイントでは、木質バイオマス利用も対象となっている。
そもそも木質バイオマスは、建材など木材のマテリアル利用の副産物、廃棄物利用である。国内の広大な人工林の適切な利用を行う上で、マテリアル利用が持続可能な産業として自立すれば、ヨーロッパの例を見ても、副産物としての木質バイオマスもおのずとして利用しやすくなる。
木材製品の商品開発およびマーケティングは引き続き強力に推進される必要があるが、迷走気味だった林業政策に一筋の光が見えてきたのではないかと考えられる。
現在日本国内では、100数十台以上のチップボイラー、500台以上のペレットボイラーが導入されている【*9】。熱利用は、薪ストーブのように小規模であっても80%以上の高い利用効率が可能であり、石油価格が上昇基調にある現在、導入しやすい方法である。しかし下表のように、日本ではバイオマスボイラーの導入費用がドイツに比べ6〜11倍と高価になっている。
表:日本におけるバイオマスボイラーの標準的な設備費(300KWの例)
費用項目 | 価格 | (参考)ドイツ(270kW) |
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ボイラー本体価格 | 3,000〜4,000万円 | 585万円(4万5,000ユーロ) |
工事費 | 2,000〜4,000万円 | 42.2万円(3,250ユーロ) |
サイロ・建屋 | 3,000〜4,000万円 | 351万円(2万7,000ユーロ) |
合計 | 7,000〜1億2,000万円 | 978.2万円(7万5,250ユーロ) |
kW単価 | 23〜40万円/kW | 3.6万円/kW(278ユーロ) |
その理由としては、顧客に最適なシステムを提案・導入できるエンジニアリングの会社がほとんどない、木質チップ市場がほとんどない、熱利用の状況についてのデータがない、といった普及のための基礎的インフラが未整備な状況にあり、これらの克服が課題である。
バイオマスボイラー、燃焼機器の現場の状況に合ったラインナップや、バイオマス流通システム、林地残材収集システム、熱供給事業体、ファイナンスの整備も重要である。また、バイオマスボイラー、ストーブなどの性能保証、規格、安全基準の整備も引き続き進めて行く必要がある。
土佐の森・救援隊や木の駅プロジェクトといった、自伐林家が材を搬出する取り組みが全国数十カ所で始まっているが、熱利用は低質材の重要な受け皿である【*11】。今後は、産業利用、暖房だけでなく、給湯器も含めた需要拡大も考えられよう【*12】。木材利用ポイントは2014年度の継続が決まったが、木材利用が定着するまでしばらく継続されることが望まれる。
神奈川県と接する山梨県道志村では、2012年に村内の温泉施設に薪ボイラーを導入、地域の切り捨て間伐材を「木の駅」方式で集め、燃料としている。森林ボランティアグループ、地域おこし協力隊、NPO、森林組合、山林所有者、役場などがうまく連携しながら、横浜水源地である民有林の整備にもつなげている。
図:道志村の薪ボイラー導入および木の駅導入による経済効果
また、長野県の薪ストーブ販売施工会社、DLDは、薪ストーブユーザー向けに、2007年から薪の宅配サービスを行っている。伊那市近郊では、新築住宅の2割に薪ストーブが導入されるなど、人気が高い。ただ、自分で薪の調達を行うのは手間がかかることから、導入をためらうユーザー向けにこのサービスを始めた。
森林組合、NPO、個人などから、6,000円/㎥で原木を導入、乾燥、玉切り、薪割り、乾燥し、配達する。配達はパート従業員が所有する軽トラックで行い、空き時間に顧客の軒下などに設置したラックに薪を補充し、伝票を郵便受けに入れ、月末に請求書を発行、口座引き落としで代金を回収する。2012年度は長野・山梨・仙台の950軒の顧客に17万束(1200絶乾t)を販売し、パート、アルバイトを含め50名以上を雇用している。
矢崎エナジーシステムの木質ペレット焚バイオアロエースは、冷房もできる木質ペレット焚吸収冷温水機である。バイオアロエースは、2014年2月時点で事務所、工場、学校などの施設に93台、ハウス用温風機として57台が販売されている。1リットルあたり90円と灯油価格の上昇により木質ペレットの価格が42円/kg以下であれば、ランニングメリットが出ることによりペレット消費機器の導入がしやすい環境である。暖房だけでは稼働日数が限られ、機器の減価償却が難しいが、冷房もできることで西日本でも導入メリットを見込むことができる。