バイオマス産業社会ネットワークロゴ
スペーサー
スペーサー
スペーサー
スペーサー

2012年の動向

1. 国際的な動向

スペーサー

世界のエネルギー供給のうち、バイオマスは、石油、石炭、天然ガスに続く第4のエネルギーであり、自然エネルギーの中で最大の供給源である。

自然エネルギー世界白書2012【31】によると、現在の世界のバイオマス(エネルギー)需要は推計53EJであり、このうちの約86%が熱を生産するのに用いられている。またこれらのうち3/4近くが伝統的バイオマスエネルギーである。近代的なバイオマス熱利用の設備能力は、2011年に推計10GWth増加し、世界総計では290GWthとなった。2008年に熱生産を目的として建築や産業部門で用いられた近代的バイオマスは、3.4EJだった。固形バイオ燃料による熱供給は、世界的に急速に拡大している。2010年にヨーロッパの固形バイオマスによる熱供給は2.8EJを占め、このうちの約半分は、フランス、ドイツ、スウェーデン、フィンランドで消費されている。

ヨーロッパにおけるバイオガス由来の熱消費は、2010年には63PJだった。ヨーロッパの9カ国で、バイオメタン(生成されたバイオガス)が天然ガス供給網に送られている。米国では、2011年に埋立地からのメタン回収を行うプロジェクト(ランドフィルガス)が576運用されており、62PJの熱と電気が生産された。

発展途上国では、家庭用規模のバイオガス発酵槽が多数あり、調理や小規模な給湯、照明(ガス灯)のために利用されている。2011年、中国では4300万、インドでは440万の家庭用バイオガス発酵槽があり、ネパールやベトナムでも相当数に上っている。

2011年末までの世界のバイオマス発電容量は、2010年の推計66GWより増加し、約72GWで、内訳では、EU27カ国が26GW、米国が13.7GW、ブラジルが7.8GW、中国が4.4GWとなっている。EUの固形バイオマス(都市廃棄物を除く)による発電量は、2010年に17.3TWh、バイオガスによる総発電量が30.3TWhであった。

2011年にペレットの世界における生産量は、1,830万トンだった。主な生産国は米国、カナダ、ドイツ、スウェーデンなどである。

2011年の世界のエタノール生産量は861億リットルであり、バイオディーゼル生産量は214億リットルであった(バイオ燃料の動向について詳しくは、コラム④参照)。

2011年米国は、バランスのとれた木材のエネルギー利用を目指す、国家レベルの戦略的ロードマップを公表した【32】。森林での木材生産は、マテリアル利用とエネルギー利用、環境の3本の足で支えられた椅子のようなものであり、一本の脚だけが突出するとバランスが崩れる、としている。

また、バイオマス白書2012で紹介した、日本企業の出資によるフィリピンでのバイオエタノール事業に関連して起きた農地収奪の問題は、日本企業の介入もあって状況は改善に向かいつつあるが、土地所有権等の問題が確認されたにもかかわらず、エタノール用に植えられたサトウキビの撤去が終わらないため、農民が食用・飼料用のトウモロコシを植えられないといった問題が依然として続いている(写真参照)【33】。

フィリピンの撤去されないサトウキビ

収奪された土地のエタノール向けサトウキビの撤去が終わらないため、
食用・飼料用トウモロコシを植えられないフィリピン サン・マリアノ町の農民
(写真提供:国際環境NGO FoE Japan)

スペーサー
スペーサー

スペーサー
スペーサー
スペーサー

コラム4 バイオ燃料をめぐる国際動向:2012年

今世紀に入っておよそ5年後、「ゴールド・ラッシュ」を彷彿させるようなブーム【1】で幕を開けたバイオ燃料の時代が、早くも黄昏を迎えつつある。食料への脅威、喧伝されるような温室効果ガス排出削減効果も怪しい、バイオ燃料の金メッキはすっかり剥げ落ちた。手厚い政策的支援の追い風は弱まり、3人の先頭ランナー(米国、ブラジル、EU)はゴールのはるか手前で失速した。「ランドラッシュ」の見る影もない。ザンビアでバイオ燃料事業のために180万haの土地を借り上げた中国企業も、撤退を決めた【2】。ジャトロファブームを生み出した英国“D1 Oils”社も、ジャトロファ・オイルの需要が全然ない、去年後半の半年でたった23トンが売れただけだと報告する始末だ【3】。

米国の燃料エタノール事情

バイオマス白書2011年版2012年版でも書いたとおり、米国の燃料エタノールの生産・消費は2010年以来、ガソリンの10%という『ブレンド・ウォール』に突き当たっている。この壁を乗り越えるために環境保護局(EPA)は一部の車についてE15(エタノールブレンド率15%のガソリン燃料)の使用を許したが、エンジン損傷の賠償責任を恐れる自動車業界・石油業界の抵抗で、その普及は一向に進まない。2012年には、国内消費はほとんど増えないままにブラジルへの輸出が減ったために総需要量が初めて減少に転じた(図5)。それに西部・コーンベルトを襲った記録的干ばつによるトウモロコシ(大部分のエタノールの原料)の価格高騰が追い討ちをかけた。

米国のエタノール需給

図5:米国のエタノール需給
出所:RFA、EIA

スペーサー

トウモロコシ価格の高騰は、畜産・食品業界の再生可能燃料基準(RFS、石油精製業者や卸売業者に年々増加する一定量のバイオ燃料利用を義務づける制度)の適用免除の要請を引き起こした。この要請はEPAにより拒絶され、エタノール業界は、ひとまず逆風を回避した。しかし、需要低迷で製品価格が低迷するなか、トウモロコシ価格高騰は原料コストの上昇となってエタノール産業そのものを直撃する。エタノール以外の補完的収益源を持たないエタノール工場は次々と閉鎖に追い込まれ、2012年のエタノール生産は史上初めて減少に転じた(図6)。

トウモロコシとエタノールのシカゴ先物相場とエタノール生産量

図6:トウモロコシとエタノールのシカゴ先物相場とエタノール生産量
出所:CME Group、EIA

スペーサー

他方、ガソリン販売が低迷、E15拒否で義務を果たせない石油業者は、バイオ燃料製造者に与えられる「再生可能識別番号」(RIN)の購入という代替手段(クレジット)でこの差を埋めに走る。競ってのRIN購入でその価格は急騰、2012年末の5.25セントから2013年3月初めには1ドルと20倍にも跳ね上がった。これではほかに方法はないと、石油業界は石油の輸入を減らし、エタノールのブレンド義務のない輸出を増やすと言い出した。これは原油価格の動きと相反するガソリン値上げにもつながる。いまやバイオ燃料は、食料だけでなく石油燃料とも対立している。

ブラジルのサトウキビ・エタノール事情

ブラジルのサトウキビ・エタノールは、産油国の石油が演じているような役割を将来の世界燃料市場で演じることになろう。こんなブラジルの壮大な夢は、2008年の世界金融危機でもろくも潰え去った。金融・経済危機はサトウキビ・プランテーション更新投資をくじき、2008年にはヘクタール当たり115トンあったサトウキビ収量は、2012年には69トンまで落ちた。ブラジルのサトウキビ・エタノールの生産コストは米国のトウモロコシ・エタノールをはるかに下回っていたが、その関係があっという間に逆転した。この2年、米国から輸入するありさまだ。エタノールは高価な燃料となり、消費は激減、インフレ退治のために政府が決めた石油燃料の価格凍結が追い討ちをかけた。

2012年のエタノール消費は2008年より30%近く減った。この間、およそ400あったエタノール工場の1割ほどが閉鎖された。収穫されたサトウキビのより多くが砂糖の生産に向けられ、砂糖国際価格の下落につながった。バイオマス白書2012で述べたようなエタノール生産拡大計画の成否も、砂糖とエタノールを取り巻く市場条件にかかっている。

EUのバイオ燃料事情

バイオマス白書2012で述べた事情から、新たに書き加えることはほとんどない。ただ一つ付け加えておきたいのは、2012年10月、欧州委員会がバイオ燃料生産のための世界の土地転換―間接的土地利用変化(ILUC)の影響を制限することを主眼とする「エネルギー指令」および「燃料品質指令」の改正案【4】を提案したことである。その主内容は次のようなものである。

  • ① バイオ燃料生産過程の効率を改善し、また温室効果ガス(GHG)排出削減効果が低い施設へのさらなる投資をくじくために、新たな施設に要求されるGHG排出削減比率を最低60%とする(従来は35%、2017年からは50%)。
  • ② 燃料供給者と加盟国によるバイオ燃料のGHG削減に関する報告にILUCの要因を含める。
  • ③ 輸送用燃料中の再生可能エネルギー比率が10%という2020年目標の計算にカウントできる作物ベースバイオ燃料の量を、現在の消費レベルである5%に制限する。
  • ④ ILUCによる排出が皆無か少なく、また特に追加土地需要が生じない原料(アルガエ(藻)、わら、諸種の廃棄物など)から生産される第2、第3世代バイオ燃料の市場奨励策を提供する。
EUのバイオ燃料消費量とバイオディーゼル生産量

図7:EUのバイオ燃料消費量とバイオディーゼル生産量
出所:Eurobarometer、European Biodiesel board

スペーサー

この指令が採択されれば、EUバイオ燃料産業は、作物ベースのバイオ燃料(今はそれがほとんどすべてである)を2020年まで、今以上に生産する道を閉ざされることになる。

<北林 寿信(農業情報研究所【5】主宰)>


スペーサー
スペーサー
スペーサー
スペーサー

このページのトップに戻る▲

スペーサー
スペーサー