2012年7月、いよいよ再生可能エネルギー電力買取制度(FIT)が始まった。バイオマス発電の認定数はまだ少ないが、木質系だけで、全国で60件以上が計画・検討されている。今に始まったことではないが、日本では再生可能エネルギー、あるいはエネルギー=電力、という固定概念が非常に根強い。特に、脱原発や電力不足の議論の中でその傾向が見られる。 だが、日本のエネルギー需要のほぼ半分は、空調(冷暖房)、給湯、調理、工場などでの熱利用であり、電力は20数%にすぎない【1】。北海道の電力ピークが冬なのも、暖房に電気を多用しているからである。小規模分散を得意とする再生可能エネルギーでは、小規模でも利用効率の高い熱の方が、経済性もよく使いやすい。例えば、世界的にも太陽熱利用システムの方が太陽光発電よりもはるかに普及している。
バイオマスでも、何度も繰り返して書いていることだが、熱利用ならボイラーやストーブのような小型燃焼機器でも、60〜95%と非常に高い利用効率で使える。だが発電効率は、5000kW規模でも20%台である。国内でポテンシャルの高い林地残材などの未利用材を、地域活性化に使うなら、マテリアル利用に向かなければ、熱利用が適している。2013年1月に盛岡で開催した「東北・木質バイオマスシンポジウム2013」で、地域で森林資源のバイオマス利用に取り組む方々に出演いただいたが、全員が口をそろえて「熱利用」を強調し、その迫力に圧倒された。現在、東北ではFITや復興予算の関係もあって大型の木質バイオマス発電がいくつも計画されており、それらへの懸念も非常に強かった。これまで長年、現場で苦労し工夫しながら木質バイオマスを利用してきた人々にとって、常識ともいえる考えである。
日本の近代的木質バイオマスは、10年ほど前に産声を上げ、試行錯誤を重ねながらようやく歩き始めたところである。さあこれから、すくすく育っていこうとした矢先に、いきなりフルマラソンの大会に放り込まれたようなものだ。燃料調達などの条件が合うところ以外で、大規模木質バイオマス発電施設が10年後も順調に稼働していけるのか、懸念がつのる。
ところで、最近、世界的に進んでいる幸福感や満足感の研究では、同じ収入でも仕事の段取りや内容を自分で管理できる人(自営業や幹部)とそうでない人では、前者の方が満足度が高い、という結果が出ている。同じ内容の仕事でも、自分で仕切るのと、上司の管理下で行うのとでは、まったくストレスが違う。伐採や搬出の林業作業もノルマを課せられた作業員として行うのと自伐林家として行うのとでは、柔軟性やペース配分の面で大きく違い、満足度も違う。
もちろん、自営であれば賃金保障はない。だが、定時も定年もない。さらに、決まった期間で一定の施業を請け負うのに比べ、自分所有の山だと長い目で持続可能な利用を行うインセンティブがより大きく働く。また、同じ面積でも小規模経営の方が雇用数ははるかに大きい。これまで世界的に農林業は膨大な労働人口を工業部門に移すため、機械化・効率化が進められてきた。だが、現在の世界では先進国でも途上国でも雇用創出が大きな課題であり、きめ細やかな農林業に活路があるのではないだろうか【2】。
そんなことも考えながら、持続可能なバイオマス利用の推進に向けて、今年も活動していきたいと考えている。
<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>