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トピックス 再生可能エネルギー電力買取制度(FIT)の開始

2 東北の持続可能な木質バイオマス利用に向けて

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2. 東北各地の事例と今後に向けて

(1)釜石市の石炭混焼

岩手県南部の釜石地方森林組合は、2007年から国のモデル事業で提案型集約化・森林施業計画に取り組み、路網整備、新規雇用拡大や作業システムの確立などを行ってきた。実証実験の結果、間伐の生産性が3.2㎥/人から5.2㎥/人に向上。2010年度から釜石市にある新日鉄石炭火力発電所への木質バイオマス混焼に向け、年間5,000トンを目標に木質バイオマスの収集を開始し、乾燥期間を見込んで、8,000トン以上を納入した。

翌2011年、東日本大震災の津波によって、組合長を含む5名が亡くなり、組合事務所が全壊という甚大な被害を被った。しかし同年7月より作業を再開し、5,000トン以上を納入、2012年度は9,000トン以上を納入した。釜石地区の間伐由来・皆伐由来木質バイオマスは、12,570トン程度と推計されており、7割以上を収集していることになる。

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表4:半径100km範囲における木質バイオマスの賦存量の推計

表4の岩手地図
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以前、台風によって山に放置していた切り捨て材が海に流れて、被害が出た。山をきれいにし、かつ売り物にならなかった材がバイオマスとして現金化したということで、山林所有者から非常に喜ばれた。

FITは、森林・林業再生に向けての追い風になりうるが、注意が必要である。バイオマス発電所での販売単価が13,000円/トンのチップであれば、材の価格は5,700〜7,300円/㎥程度となろう。この価格では、木質バイオマスはあくまで建築用材の副産物であり、集材経費を乗せると赤字になる。現在、岩手県では大型木質バイオマス発電が5カ所で計画されているが、100km圏内で行政が調整しないと、資源のバッティングが起こる。

石炭混焼向け木質バイオマスの納入は利益を生んでおり継続していくが、小集落単位の熱利用のバイオマス施設が利用効率も高く、地域の経済にも役立つのではないかと考える。その際には、地域のLPガス事業者等が、チップの委託販売をするといったことも考えられる。何があっても熱が分断されない地域、避難する場所があれば、みんな安心して戻れるのではないか。

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(2)日本の森バイオマスネットワーク【12】の活動

NPO法人日本の森バイオマスネットワークは、2008年の岩手・宮城内陸地震を契機に設立された。事務局は宮城県栗原市にある。地域の森林資源の活用、新しい産業と雇用創出を目的に、環境教育団体、製材所、工務店などが会員となり、森林環境教育、国産材利用の推進、排出権取引、木質バイオマス燃料の普及啓発などの活動を行っている。

東日本大震災の際には、避難所にペレットストーブやペレットを提供し、地域産材をつかった「手のひらに太陽の家」で、放射能への不安を抱えながら暮らしている福島県の親子の保養滞在を受け入れている。つながり・ぬくもりプロジェクトにも参加し、手のひらに太陽の家でも、太陽光パネル、太陽熱温水器、ペレットボイラを導入した。

「手のひらに太陽の家」に導入されたペレットボイラ

「手のひらに太陽の家」に導入されたペレットボイラ

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現在推進されている高性能林業機械を使った大規模林業と異なり、雇用をつくる林業を促進するため、土佐の森方式の小規模林業(コラム③参照)を「副業的土佐の森方式林家養成塾 実践的キコリ養成講座みやぎ版」として、間伐、木材・林地残材の搬出、運搬などの林業技術を学べる連続講座の開催などを行っている。

国産材を使った住宅を建てて住宅資材が動かないと、木質エネルギーの利用もできない。エネルギーはまず、熱利用である。ペレットも、製材所で出るおが屑でつくっているが、間伐材でつくると採算が合わない。薪が使えるなら、薪の方が誰でもつくれる。一方、都市部の住宅地ではペレットストーブでないと導入しにくいので、そうした住み分けはあるだろう。バイオマス燃料の課題は、運搬コストがかかることと流通体制の整備である。今ある事業者、地域のガソリンスタンドやLPガス事業者が少し事業を広げて、木質ペレットや薪を扱ってもらうよう、働きかけを行っている。置いてもいい、という事業者もいる。

地域資源をつかった産業は、林業だけでなく、農業や中小水力など百業【13】として複合的な産業構造で行うという視点も大事だ。311以降は、木質バイオマス燃料を使うほとんどの人が放射能の問題を気にしている。ペレットのセシウム濃度などの情報を提供している。この問題は、様々な団体と連携して取り組んでいく必要がある。

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(3)福島県ほかの木質バイオマス利用の状況

阿武隈・八溝木質バイオマス協議会【14】は、福島県県南地域、茨城、栃木の八溝山系を中心に、山林が8割を占めるこの地域をバイオマスで活性化することを目的に、村町議会議員、木材関係者などによって2010年に設立した。地域の自治体の一つ、福島県鮫川村や古殿町では堆肥づくり、廃食油リサイクル、薪の循環利用、未利用資源の活用などに力を入れてきた。鮫川村の村営温泉施設に薪ボイラーを導入し、薪供給市場「薪ステーション」を設置して利用を行ってきた。しかし、原子力発電所の事故による放射性物質の問題から、現在利用は止まっている。

線量が最も高いのが山であり、山からもってきた木質バイオマスにセシウムが含まれる。焼却灰では100倍に濃縮されるが、この焼却灰をどうするかが、現状の最大の課題である。製材所でもバーク(樹皮)を焼却すると高濃度の灰が出ることが悩みである。家庭で出る焼却灰は、市町村のルールにのっとって行うようにとのことだが、各市町村で答えはまちまちである。焼却灰の処分地が決まらず、木質バイオマス利用は前に進めないでいる。

また、セシウムは検出されなくても、福島県産というだけで農産物が売れない。今後は、放射線量の低いところのペレットの販売など、放射線の低いもので関わっていく。

ふくしま薪ネット【15】は、2004年から薪割りクラブ(深澤光氏提唱)の支援等を行ってきた。薪割りクラブは、薪ストーブユーザーが森の手入れで出た薪を使うという活動である。だが、311の原発事故で福島県全土が放射能で汚染された。林野庁の出した基準では、8,000ベクレル/kg以上の灰が出る木質バイオマス(薪では40ベクレル)は利用を避けるべきとあるが、福島県産材は材で200-300ベクレルぐらいと基準を超えてしまう。福島県においては、循環型社会が否定された。放射性物質は、水素爆発後、降った雨を受けたところで高い濃度が検出される。立木は皮をむくと濃度が低くなり、利用できる可能性が高まる。大変厳しい状況だが、森づくりをやめるわけにはいかないということで、活動を続けている。悩みながら知恵をもちよって、続けていきたいと思っている。

NPO法人吉里吉里国【16】は、つながり・ぬくもりプロジェクトなどの支援を受けて、避難所に導入された薪ボイラーを使った入浴設備の管理を、被災者自身がその薪づくりも含めて行ったことをきっかけに岩手県大槌町吉里吉里で設立された。311以前に顧みられていなかった地元の山林の手入れをすることで自立をめざし、林業技術の研修を受け、ボランティアを受け入れながら、林業を開始した。津波による立ち枯れ杉の撤去や、地元の民有林の間伐を行っている。馬による木材搬出も試みている(写真参照)。建材として出せないものは、薪として販売している。

馬による木材搬出

馬による木材搬出(写真提供:NPO法人吉里吉里国)

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岩手県遠野市を拠点とする遠野エコネット【17】も、深澤光氏の提唱をきっかけに2009年ごろから活動を始め、薪の駅プロジェクトとして、間伐や木材搬出の研修を行っている。山林所有者でも作業を行ったことのない人は多くいる。遠野・薪づくり倶楽部として、搬出した間伐材を薪とし、参加者に薪の引換券を渡す活動も行っている。薪ストーブだけでなく、風呂用にも薪需要がある。かつての五右衛門風呂だけでなく、石油と併用できる新しいタイプのふろがまや給湯器もある(写真参照)。森林ボランティア養成講座も行っている。

石油マキ焚兼用ふろがま

石油マキ焚兼用ふろがま(写真提供:長府製作所)

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(4)今後の東北の持続可能なバイオマス利用に向けて

FITは、結果的に様々な問題が出ている。民主的なプロセスが十分でなく、ごく一部の関係者の間で計画が立てられ、その自治体の担当者でさえ発表されるまで知らない、というケースすらある。大型の木質バイオマス発電を計画したが、地元で材を集めるのが困難なことから、輸入バイオマスに頼るという話が各地で出ている。話がすり変わった。

国のエネルギー計画にも、地域の視点が欠けている。あらゆるエネルギーセクターが関わり、地域の産業、地域政策を考え、モデルをつくる。小規模でも利用効率が高く、経済効果のある熱利用で化石燃料を代替し、資金を域内で循環させる。過疎債や交付税で熱利用を行うと効果が高い。

東北の家庭のエネルギー消費のうち、電力は3割で、4割が暖房、3割が給湯と7割が熱利用である。給湯は太陽熱温水器でまかない、暖房をバイオマスにするというのが、経済性が最も高い再生可能エネルギー利用だろう。優先順位があって投資をしていく、税金にしろ、地域や家庭の資金にしろ、限りある資金を効率的に使う視点が必要だ。

熱供給では、岩手県ではすでにペレットおよびチップボイラーが70〜80台導入されていて、かなり実績がある。ほとんどが公共施設に補助金で導入したものだ。供給する業者との間でチップの価格を決めている。岩手・木質バイオマス研究会では、民間での導入を幅広い選択肢の中で導入をと考えていたところに震災が起き、提言【18】を出した。

岩手県では、木質バイオマスについて行政の理解も進んでいて、新しい施設を建設する際は、バイオマスボイラーの導入が検討され、状況で折り合えば導入されるようになってきている。このように、地域で目に見える事例があると導入しやすいが、そうでない地域では、関心のある人を集めながら時間をかけて理解を形成することも大事だろう。

吉里吉里に導入したボイラーのように100万円程度のバイオマスボイラーもある。簡易なものからスタートする方がやり易い。木質バイオマスのネックの一つは、機器が高いことだ。岩手県紫波町のラ・フランス温泉館のように、事業者が熱を売るビジネスモデル【19】というのも、リスク分散しながら普及していくのに有力な手段だろう(写真参照)。

岩手県紫波町のラ・フランス温泉館

紫波グリーンエネルギー㈱による
木質チップボイラ熱供給サービスを利用している
岩手県紫波町のラ・フランス温泉館

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熱は動かせないので、つくった場所で使う、つまり必然的に小規模分散になる。大手がやりにくく、一見効率が悪いが、地域の色々な方に関わってもらいながら、熱の供給を担っていける。

復興住宅を高台に建設する際に熱供給できればいいと考えていたが、実際にはそういう方向にはいっていない。最終的には、熱が一番地域の産業になりやすい。製材所が木材乾燥の余った熱を供給するような複合的な産業ができればいい。森林ツーリズムで温泉旅館に泊まってもらう。アラブにお金を払うのではなくて、地域でお金が回るようになるといい。

今後は、連携、共有を重ねていく。大学との連携も、自治体が適切な情報を得られるようにしていくことも大事だ。震災で、自分たちのエネルギーについて考えた。チップボイラーを導入するとして、燃料供給を誰が担うのか。地域で出せる資源量は限られている。バイオマス発電は、もう一度検討した方がいいのかなと思い始めている。

放射能の問題だが、基準をどう満たすのか、悩ましい。ヨーロッパがどのようにつきあっているのかも知りたい。正しくおそれるために、科学的な情報がほしい。

また、森林の持続可能な利用についても注意する必要がある。今は、間伐も進まず、木材を使わないことで起きている問題の方が大きいが、今後FITで大量のバイオマス需要が生まれたとき、周辺の森林が過剰に伐採される可能性がある。保続の原則を守りながら、森林を次の世代にわたしていくことが重要だ。

また311以降、住宅再建や生活資金のために、三陸沿岸で民有林を皆伐するケースが増えている。森林組合としては間伐を薦めているが、所有者の意向であれば逆らえない。釜石森林組合では、森林保全でJ-VER制度の4,200トンの排出権を獲得し、その資金で再造林を行っている。そうしたJ-VERの認証支援なども、今後被災地の復興に役立つだろう。

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コラム1 つながり・ぬくもりプロジェクト東北【*】の始動

東日本大震災発生直後から、20以上の団体により、バイオマス、太陽光、太陽熱といった再生可能エネルギーによる被災地支援を行う「つながり・ぬくもりプロジェクト」が始まった。

環境エネルギー政策研究所が事務局となり、バイオマス産業社会ネットワーク、岩手・木質バイオマス研究会、日本の森バイオマスネットワークなどが、避難所や仮設住宅集会所などに薪ボイラーやペレットストーブなどの支援を行った。

2012年秋、311から1年半が経過したのを契機に、被災地が中心となって復興のための再生可能エネルギー普及を目指し、活動拠点を東京から東北へ移して、新たな活動をスタートした。2013年3月時点で、91,794,474円の寄付金・補助金を受け、233件のバイオマスボイラー、ペレットストーブ、太陽光発電パネル、街灯、太陽熱給湯器の支援を行っている。

これまで行ってきた直接支援に加え、今後は教育・人材育成、普及啓発、事業化などの活動を行って行く予定である。

仮設住宅集会所に支援されたペレットストーブ

仮設住宅集会所に支援されたペレットストーブ

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コラム2 放射能とどう向き合っていくか

福島第一原子力発電所事故により、大量の放射性物質が飛散した。汚染された被災材や木材を燃焼させると、灰に濃縮される。環境省は、廃棄物焼却灰の放射性セシウムの濃度が8,000ベクレル/㎏を超えないものは、一般廃棄物最終処分場(管理型最終処分場)での埋立処分が可能とし、それ以上のものについての指針を2011年8月にまとめた【1】。林野庁はこの基準にのっとり、薪40ベクレル/㎏(乾重量)、木炭280ベクレル/㎏、全木ペレット40ベクレル/㎏、バークペレット300ベクレル/㎏を当面の指標値としている【2】。環境省は、薪ストーブの排煙による推計被ばく量なども発表している【3】。

チェルノブイリ直後にスウェーデンで、バイオマスプラントの主灰(火格子を通して落下した灰)、サイクロン飛灰(排ガスをサイクロンにかけて粗い粒子をふるい落とした灰)、フィルタ飛灰(さらに微細な粒子)のセシウム濃度を測った研究例では、外部に飛散したセシウムは1%未満(その他計測上の誤差などが10%程度ある)とのことである【4】。バイオマス発電施設やボイラーでは、機器によって放射性物質の挙動が異なるので、それらを計測しながらより安全な対処が行われることが望まれる。

なお、これまで日本の省庁が発表した木質バイオマス利用に係る放射能関連リンク集が、ふくしま薪ネットのHP【5】に掲載されている。

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