メディア上では(特に経済メディア)、プラント建設やバイオマス関係の新技術の開発など華々しいニュースが躍ることがますます増えてきた。ただ、構想発表、学会発表や着工式のニュースは多いが、その後どうなったのか、運用はうまくいっているのかといったニュースはほとんど取り上げられることがない。バイオマスの本格的利用はまだ始まったばかりでやむをえない場合もあろうが、各事業のフォローアップも重要な視点となろう。
農水省の事業として構想されている「バイオマスタウンアドバイザー制度」の人材育成がスタートし、2006年10月上旬に「基礎研修」、その後全国各地で「バイオマスタウン構想作成実地研修」が実施された。研修対象者は約30名で、いずれも相応の経験を認められて選抜された。特にユニークなのは、バイオマスタウン構想を作成したいが労力やコストなどの問題で躊躇している自治体に対して、研修生を派遣し実際に構想案を作成するという試みだ。
一方、新エネルギー財団は、日本エネルギー学会の協力を得て、新エネルギー人材育成事業を実施している、こちらも実践的な人材育成に主眼を置いており、風力や木質バイオマスといった分野だけではなく事業家養成コースを設けているのが特徴である。
バイオマスの利用分野は多岐にわたっており、資源、プラント、運営、地域問題など多様な知識を持った「専門ジェネラリスト」の存在が求められている。こうした地道な取り組みが成果を生んでいくことに期待したい。
国の政策でもバイオ燃料関連がめだったが、それ以外としては、国土交通省が下水処理場を生ごみやし尿、剪定枝など地域のバイオマス利用の拠点とする施策に乗り出している。メタン発酵によるバイオガス利用や、汚泥を炭化させて火力発電所の燃料としての利用などを進める。農水省が進めるバイオマスタウン構想は、2006年12月末時点で60市町村が認定されている。また農水省、環境省などは、食品廃棄物の飼料化の動きを強めている。これまで堆肥化されることが多かったが、品質上の問題や需要量と合致せず、利用されないケースも見られた。
バイオマス産業社会ネットワークと、日本エネルギー学会バイオマス部会の共催による2006年度「バイオマス夏の学校」が、徳島県の上勝町「月の宿いっきゅう」で開催された。参加者は約70名で、バイオマスの専門家だけでなく、地元企業、地元行政関係者の参加が目立ったのが成果であった。木質バイオマスで沸かした良質な温泉につかりながら、上勝町の笠松町長や専門家、地元経済人などとの交流が活発に行われた。
またゲストとしてバイオマス分野で最近特に注目を浴びている、オーストリー大使館商務部のルイジ・フィノキアーロ氏による講演会も開催された。
<バイオマス産業社会ネットワーク副理事長 岡田久典>
項目 | 概況 | 問題点 |
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木質系 (廃棄物系) |
木材工場などでの残材利用は伝統的なシステムであり、着実に進んでいる。ただし多くの場合原料は輸入木材であることにも留意すべき。また住宅廃材などの利用は、一部で進んでいるが、収集コストや資源の奪い合いなどの問題が大きな障壁となっている。 | 大規模な計画の中には、地域の伝統的な木質リサイクルシステムを阻害する可能性が指摘されているケースも。 |
木質系 (未利用系) |
なかなか進んでいないのが現状だが、擬似排出権取引などの手法により、資金やマンパワーの確保に少しではあるが光明が見えてきた。 | 安易な計画の横行、日本の林業本体が弱体化しており、大きな制約となっている。 |
木質系 (ペレット利用など) |
木質ペレットの利用は、少しずつではあるが拡大の傾向にある。 | ただし、ある程度の普及を見ると原料ペレットの海外からの輸入シフトが確実に起こるのでせっかく築いたネットワークが崩壊する可能性も。 |
食品廃棄物 | 最も有望な分野のひとつであるが、「食品リサイクル法」などの制約があり、現在改正作業中であるが、今後も食品廃棄物のバイオマス利用(とりわけエネルギー転換)は、優先順位が低い見込みである。 | 一工場内での成果は上がっているが(ビール工場など)、地域での利用は課題が山積。 |
バイオマス・プラスチック利用 | わが国のバイオマス利用では家電製品や鶏卵パックなど最も実用化されているものの一つ。とりわけ食品包装資材分野では潜在的な需要量が巨大であり、今後の動向が最も注目される。ただし現時点では輸入バイオマスに依存している。 | 普及すると、大きな影響力がある分野であり、回収問題や資源調達時の問題など解決すべき課題は多い。 |
バイオマスを利用したまちおこし | 徳島県上勝町など、地域資源の有効活用に成功する事例も現れている。 | 地域の人材不足が深刻。かといって、都市部からの安易な人材移入にも問題が多い。 |
バイオ燃料 | 政府の「国産エタノール600万kl計画」をはじめ、さまざまな思惑がからみあい、経済メディアを中心に「持ち上げ」が目立った。新エネルギー導入目標達成のためには必要であるが、一方で慎重な検討が必要。 | 税制問題。事業規模が大きいと食糧問題とのバッティングも。国内ではコスト問題から、当面は実験的なものにとどまる可能性も。 |
バイオマスタウン | バイオ燃料の後ろに隠れてしまったが、バイオマス・ニッポン総合戦略の最も重要な柱であることは変わっていない。バイオマスタウンアドバイザー制度の構築に着手するなど、人材育成の動きも始まった。 | 地域経済や財政の悪化により、より低コストで効率的な仕組みが求められる。 |
下水道利用 | 食品残渣などをディスポーザーで処理して下水道に投入する等の構想を国土交通省等が検討を進めている。 | 都市バイオマスの有効利用には従来社会システムの変革が不可欠。 |
NPO | 経済・人的基盤は相変わらず弱小であるが、ネットワーク化などにより、活動のステージは確実に拡大しているほか、地域での資源利用の重要な担い手とみなされるようになってきている。 | 一部に見られた「株式会社至上主義」的な考え方か、新たな社会システム構築の担い手というよりも「コスト削減のツール」「団塊世代の受皿」といった近視眼的な見方があるのが懸念材料。 |
アジア | バイオマス資源が豊富な地域であり、さらにCDMの対象としても有望ではあるが、資源の不適切な利用により社会・環境問題が多く発生している地域でもある。 | 日本ではうまくいかないからアジアでといった安易なスタンスが懸念される。 |
<作成:NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク>