国内におけるバイオマス利用事業は、ごく限られた場合以外、バイオマス利用だけを見ていては成り立たないように思われる。つまり、化石燃料や鉱物資源の外部経済の内部化や、農林業の振興などである。具体的にどのような方策が考えられるかのヒントは、持続可能な地域づくりにまい進する取り組みの中から出てきている。
徳島県の山間部にある人口2000人の上勝町では、町の温泉施設に木質バイオマス・ボイラーを導入した。地域の残材などを利用するため破砕機を購入し、町民が間伐材を持ち込むと温泉施設の入場券と交換する一種の地域通貨の試みも行っている。また「彩(いろどり)」事業として、料亭などの料理に添えられる紅葉の葉や桃のつぼみの流通システムを整備し、キログラムあたり数万円という究極の付加価値化に成功した(表紙写真参照)。そうした商品を供給する担い手は高齢者が中心となっており、年収1000万円を越えるおばあちゃんも出現している。
ごみ処理施設の建設に窮した上勝町では、全国最多のごみの34分別リサイクルを実施している。その中で、日本の廃棄物処理の問題点も明らかになってきた。また、木材価格が1/2に低下して間伐が難しくなったため、上勝町では限られた町の予算の中から人件費の補助金を出し、森林管理にあたっている。
「日本のごみ問題、資源問題はたった一つの法律をつくれば、ほぼ解決される。製造業者がすべての商品について消費者が不要になった場合に、有価で買い取る(引き取る)、有価で回収できないものは製造販売を禁止するという法律を、2020年もしくは2030年から施行すると決めれば、それまでによい知恵が出てきて、ごみの発生量は劇的に減ります。産業革命と流通革命がおこり、リサイクルよりリユースという動きも出るでしょう。資源の輸入もほとんどしなくてよくなる。」と笠松和市町長は述べる。また、「山林の手入れを20年以上行っていない場合は、管理権が自治体に移譲される」法律ができれば、山林の管理はずっとしやすくなる、と提案する。「持続可能な社会構築のためには、よいことをすると得するシステムにしなければなりません。」
四国で最も小さく、住民の47%が65歳以上という町から、日本と世界を見通す哲学が生まれてきている。
上勝町長 笠松和市氏
上勝町が導入したチップ破砕機
町の温泉施設に導入されたオーストリア製木質バイオマスボイラー
チップサイロ
「彩(いろどり)」事業でパソコンでデータを確認する女性
最近、国内エネルギー資源等におけるバイオマスの価値を、市場原理とは違う原理で捉え直さなくてはいけない時期にさしかかっているのでないかと、不安を感じている。もしかするとこの不安は、バイオマスに携わる方々なら、少なからず感じているものかもしれない。
まずは、この不安の背景について、以下の視点から考えてみたい。
一つめの視点は、我が国の経済社会を支えるエネルギー事情における不安である。我が国の経済社会は、そもそも約4%という低いエネルギー自給率(原子力除く)の上において成立している。またその海外依存の多くは中東の原油に依存し、かつその中東においてはこのところ情勢が不安定化しつつあるという現実がある。また、原油の将来的な枯渇観測や、中国・インド等での高度経済成長に伴うエネルギー消費量の急拡大による需給の逼迫により、原油価格の高騰につながっているという現実がある。つまり、我が国における安定的なエネルギー供給での長期的なスパンでの不安である。
二つめの視点は、最近、急拡大しているバイオ燃料とそれに関連する穀物供給における不安である。このところ地球温暖化対策等の影響を受け、石油代替燃料として、トウモロコシ・大豆・サトウキビ・小麦など、バイオマス資源作物によるバイオ燃料の生産が世界的なトレンドとして急拡大しているが、一方で、地球規模の気候変動等の影響を受け、小麦などの穀物類の生産が減退し、穀物の需給が世界的に逼迫し始めているという現実がある。そしてこの結果として、最近、穀物市場での価格が急騰し始めている。つまり、エネルギーのみならず、我が国穀物の自給率28%という現実の中で、バイオ燃料生産に絡む穀物供給における長期的なスパンにおける不安である。
そして、第三の視点は、国際市場経済の中における国内バイオマス資源の事業競争力における不安である。我が国の農林業は残念ながら、過去、国際市場競争におけるコスト競争において敗退した現実がある。この現実から推測するにおいて、農林業から派生する多くの国内のバイオマス事業構築においては、残念ながら高い市場競争力は期待できない。つまり、国内バイオマス資源の活用事業が、またもや過去の我が国の農林業がたどったと同じ運命、市場原理の中での敗退の道をたどってしまうのか、といった予測に対する不安である。
現在、バイオマスは、地球環境保全、農村農林業の活性化等の大きな期待と役割を担い、その有効な資源の利活用のあり方が目下模索されている。しかし、エネルギーや穀物の需給環境が逼迫してきた社会的緊張感の中で、有効な国内バイオマスビジネスモデルが構築できずにいるジレンマが現在続いている。これこそが、市場経済の中で感じているバイオマスにおける不安の背景といえるのではないだろうか。はたして国内バイオマス資源を利活用できる有効な原理などはないのだろうか。
ここでひとつ提起したい。経済には元々、市場経済原理以外にも、住民参加型の互助(共助)経済といった、地域全体の利益を目的とした経済原理があるとする主張である。農村地域などで古くから行われてきた入会地や山林などの地域共有資源の管理といったことがこの経済活動に入る。最近ではこの考え方は、地域ガバナンスにおけるコモンズ論としても着目されている。またこの原理における地域ガバナンスの発展形として、地域の住民だけでなく、広く地域住民以外のNPOや企業、大学組織などが参加するマルチパートナーシップ型の互助(共助)経済スタイルも提起され、いくつかの地域でもその試みが始まろうとしている。
NPO法人えがお・つなげての大豆オーナー制度参加者による収穫風景
バイオマス資源は、地域に薄く広く遍在する。この資源を、市場原理に基づくビジネスモデル化だけで対処することへの無力感を、そろそろバイオマス関係者も感じている頃と思う。ましてや、国際経済規模におけるエネルギー・穀物供給環境において、エネルギー危機、穀物供給危機といった状況がいよいよ見え隠れし始めた現在、国内地域の貴重なバイオマス資源の利活用に向けて、地域にあった有効な経済原理や行動原理を真剣に見つけなくてはいけない時なのだろうと思う。
<NPO法人えがお・つなげて代表理事 曽根原久司>