2006年は、あいかわらず各地で頻発する異常気象に加え、ピークオイル論の浮上や漁業資源の危機など、持続可能性が危うくなっているニュースが相次いだ。
米国の生物学者ジャレド・ダイアモンドは、著書『文明崩壊』の中で、世界中の10近い文明についてその崩壊の要因を克明に分析している。多くの文明に共通するのは、人口増加→薪・木材需要増大や耕地拡大などによる森林減少→乾燥化→土壌流出 というように持続的な地域資源管理に失敗し、そこに社会的混乱が生じて崩壊するサイクルである。振り返って現在の世界を見ると、人口増加、森林減少、乾燥化などはまさに急速に進行しており、近いうちに方向転換しなければ近代文明もまた崩壊することは明らかなように思われる。
ダイアモンドは、それぞれの文明がなぜ、崩壊を食い止められなかったのかの分析も行っている。環境問題の予期・感知が難しいことや短期的視野に基づく行動などを挙げ、時代の変化に合わせて価値観を変えることができたかどうかが死活を分けると述べている。
20世紀は、化石燃料の大量消費によって経済活動が増大しつづけ、(一部の人々が)物質的な豊かさを謳歌した時代だった。しかし、永久に続けることが可能なシステムではなく、いずれ転換せざるをえない。金属資源の逼迫、ピークオイル論の浮上、漁業資源の危機的減少など、すでにその兆候は現れている。
持続可能な社会への転換において、(持続可能な)バイオマス利用は、有力な手段である。しかし、温暖化対策、エネルギー安全保障、農山漁村の振興、持続可能な地域社会の構築などのさまざまな問題は、決してバイオマス利用のみで解決できるわけではなく、まず化石燃料の大量消費によって成り立っている現在の産業社会システムの変革から取り組んでいく必要がある。
エネルギーや食糧の自給をどの程度目指すのか、そのためにどの程度の負担がかかると予測され受容するのか、国民的議論が必要となってこよう。バイオマス・ニッポン総合戦略の前提となる、「持続可能な日本戦略」の構築である(「持続可能な世界戦略」や「持続可能な地域戦略」も必要であろう)。その中で、50年後、100年後の日本は、どのくらいの人口を目指すべきなのかといったことを含めて議論していく必要がある。
よくバイオマス等再生可能エネルギー利用の先進国として挙げられるドイツでは、エネルギー税(環境税)導入、再生可能エネルギー法制定と並行して、「エネルギー対話2000」という1年以上に渡る国民的議論を展開した。
日本でも「持続可能な日本像」について英知を結集し、幅広い議論の上で社会システムの賢明な転換を早急に図っていく必要があろう。
<バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>
*ジャレド・ダイアモンド 『文明崩壊〜滅亡と存続の命運を分けるもの 上・下』 草思社