(1)拡大するバイオマスプラスチック利用

 2005年は、トウモロコシを原料としたポリ乳酸の弱点であった難燃性や耐衝撃性の改善や用途に合わせた物性改良が進み、愛・地球博において社会実験を行った年といえる。
 また、自動車リサイクル法の施行(1月)、京都議定書の発効(2月)、(社)日本有機資源協会のバイオマスマーク第1回商品認定(7月)、定量的な製品環境負荷データの開示について規定したISO14025(06年2月発行予定)を受けて、一段とバイオマスプラスチックの普及環境が整ってきたといえる。 
 愛・地球博では、会場内のフードコートなどで世界初の大規模な社会実験の場となった。またソニーは、三菱樹脂との共同開発により02年にウォークマンで耐衝撃性、04年に携帯電話やDVDプレーヤー部品で難燃性、05年には、大日本印刷と開発した厚さ0.8mmのICカードの実現で薄さを実現。ポリ乳酸の用途開発が、確実に進んでいることが伺える。

 バイオマスプラスチック利用は、既に私たちの身近なところでも現実的な動きが始まっている。バイオマス産業ネットワークの呼びかけに応じたイオングループ、三井化学、伊藤忠飼料、ダイヤフーズなど12社・団体が農水省、千葉県の助成を得て実施しているEEP協議会(エコエッグパック)流通事業である。今年は卵パックだけでなく、野菜やイチゴの包装もバイオマスプラスチック化し、年間1000万以上のパックや包装の全国的流通を行っている。リサイクルなどさまざまな課題はあるものの、循環型社会を実際のものにするための重要な一歩となろう*1。

(2)「麻」と「竹」は日本のバイオマス・マテリアル利用

 2005年10月、バイオマス産業社会ネットワークは「日本のバイオマス利用を考える」シンポジウムを東京都、北海道北見市、京都市の三カ所で開催した。フランスのバイオマテリアル産業第一人者のピエール・ボロック氏は、1年草であるヘンプ(麻)より、従来から行われているタバコ巻紙へのパルプ原料としての供給から住宅用断熱材、メルセデスやBMWなどの自動車内装材、ヘンプ・コンクリート、天然繊維強化プラスチックへの新しい用途転換の事例等を紹介した。特に石油価格の高騰はもはや避けられない状況の中、汎用樹脂70%ヘンプ繊維30%のような合成ポリマー+天然繊維の製品がかなり増えていくことを期待できると報告*2。北海道北見市でも同様の講演を実施し、北海道におけるヘンプ産業化への布石になることが期待される。
 日本企業の中でも日本電気(NEC)は、2010年までにNECグループの素材使用量の10%をバイオマス由来に転換するという目標も紹介され、産業界への影響が期待される。また、携帯電話のケナフ添加ポリ乳酸の利用や形状記憶の機能をもったポリ乳酸も紹介された。松下電工は、マレーシアで生産された住宅用のケナフボードを開発し、さらに繊維マットやパーティクルボードへの応用を進めている。
 京都市においては、(財)京都高度技術研究所が中心となり、竹の複合素材としての利用研究が進み、その新しい活用方法に注目されている。竹繊維を爆砕処理して、ミクロファイバーを取り出し、生分解性樹脂と複合化することや、さらに磨砕によりナノファイバー化することでガラス繊維強化材の5倍もある強度をもち、従来技術で成形加工できる素材開発を行っている。
 日本で生育している、もしくは栽培されたバイオマスの利用には、安定的に供給できる「量」と工業製品が求める物性のでる「品質」がクリアできないと使えないが、その品質面での改善技術として期待できよう。


<バイオマス産業社会ネットワーク顧問 赤星栄志>

 
「日本のバイオマス利用を考える」シンポジウム


*1 この事業の内容はNPO法人バイオマス産業社会ネットワークのHPで詳細を見ることができる。
*2 ピエール・ボロック氏講演ツアー「日本のバイオマス利用促進シンポジウム」報告書頒布中。詳細・お申込みはこちら、Tel: 03-3445-5285まで。