(1)着実に増加するバイオマス利用事例だが

 2005年9月に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が発行したバイオマスエネルギー導入ガイドブック(第2版)*1では、現時点での全国バイオマス導入事例の把握を行っている。全てを網羅しているものではないが、十分に参考になる。これによると、木質バイオマスエネルギー利用は、直接燃焼熱利用が74件、直接燃焼発電61件、ガス化発電15件、ペレット製造21件、木質ペレット等利用36件、木質液体燃料4件、木質固体燃料6件で、重複があるが200件以上の利用例が報告されている。
 一方、畜産系バイオマスの利用については鶏ふん直接燃焼6件、メタン発酵(発電)42件、メタン発酵(発電なし)28件となっており、70件強の事例がある。
 件数自体は、着実に増加していると考えられ、しかもここ数年内にスタートしたものが圧倒的で、軽々に結論を出すことはできないが、やはり運用における苦戦は否めないところである。
 当然の話であるが従来、廃棄物処理費用には多額のコストがかかっており、自前でほとんどの資源が調達でき(しかも同一ヤード)、エネルギーや製品を自分で利用できる案件は非常に事業性が高い。またこれに類したものとして、ごみ発電などもそれなりの成果をあげることが可能である。一方でこれらの条件を満たさない大多数の案件は、とりわけ運用面で大きな壁にぶつかることが多く、最近、フィージビリティースタディや実施設計が終了しても、実際の事業開始を保留する事例も発生している。

(2)バイオマス利用インフラの整備が急務

 2005年11月、NEDOが発表したバイオマス賦存量と利用可能量の推計〜GISデータベース〜*2は、電力中央研究所が作成したものをベースに発表されたもので、関係者から大きな反響を呼んだ。細部の技術的な問題はあるが、このデータベースはわが国のバイオマス利用の重要ツールとして大きく機能するものと考えられる。
 とりわけこのデータベースでは、利用可能量が取り上げられたことが重要である。賦存量と違って、利用可能量は既に利用されているもの、実際利用が難しいものなどを取り除いた値であり、これからのバイオマス利用計画は利用可能量に基づいて進められることが望ましいと思われる。賦存量を安易に利用した過大な計画により問題が起こることも多く、(資源の取り合い、当てにしていた資源がすでに別の目的で利用されていたなど)その意味でも、こうしたインフラの存在は、バイオマスの利用にとって価値があるものと思われる。
 昨年からバイオマス産業社会ネットワークではバイオマス利用インフラの整備が急務であることを主張してきた。とりわけ資源量・資源所在データベースとGISと現実のロジスティックを連動させたシステムを保有し、広域においてバイオマスのロジスティックスを支援するシステム、熱利用、売電をサポートする組織の整備が必要だと考えている。
 同時にこれらの組織は、社会的合意形成の能力もあわせて持つ必要があると同時に、地方自治体や政府との連携さらには、NPOなどとの関係も重要である。今こうした機能を大学を中心としたネットワークが担おうという試みもある。
 官と民との縄張り争いが激しい中、まさにその中間にあるパブリックを誰が担っていくのか、バイオマス分野に限らず重要な課題となってこよう。


*1  http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/pamphlets/shinene/baiomass2_kai.pdfよりダウンロード可能。
*2 http://biomass.denken.jp/