バイオマス・ニッポン総合戦略が策定されて3年が過ぎた。日本のバイオマス利用は、ゼロに近かった状況から、関心、認知度、取り組み件数、予算などが一本調子で上ってきたが、ここに来て、踊り場に来た感がある。地域活性化や未来のエネルギーの万能救世主として過剰な期待を寄せられることもあったが、次第に適正なレベルに落ち着きつつあるとも言える。

 ところで、何のためのバイオマス利用かといえば、持続可能な社会構築のためであるはずだが、残念ながら、そうでないバイオマス利用が散見されるようになってきた。広い意味でも採算の取れない「経済的に非持続的な」バイオマス利用事業。現在の日本のシステムでは、バイオマス利用事業の採算を取り利益を上げることは、決して簡単ではない。地域のバイオマス賦存量と利用可能量は大きく違い、特に農林系バイオマスにおいては、概して1割以下になる。(そのため、「地域の未利用資源の4割を利用」というバイオマスタウンの目標を拙速に追求すると、事業が破綻するおそれが高い。とりわけ、回収ルートを一からつくるのはリスクが高い)。また、貴重な天然林を乱伐したり強制労働・児童労働を使っての大規模農園での資源作物生産のように、社会的・環境面で非持続的なバイオマス利用にも注意を払う必要がある。

 じたばたしても化石燃料はいずれ使えなくなり、そうなればバイオマスが主要なエネルギー資源になろう。問題はその過程で、生態系という「金の卵を産むニワトリ」を死なせないようにすることである。すなわち、気候変動、生物多様性の損失、土壌の疲弊などにより、生態系を再生不可能なまでに痛めつけてしまえば、半永久的に利用できるはずのバイオマスが使えなくなってしまう。その意味で、「持続可能なバイオマス利用の促進」は、まさにこれからが正念場である。そのためにも、数十年後の人口、食糧、エネルギー、社会を見据えた持続可能な国家戦略(および世界戦略も)が必要であろう。例えば30年先からバックキャスティング(振り返って)で考え、目標を設定し、総合的な対策をとっていくべきであろう。

 また、本書の中でも繰り返し述べられているように、バイオマス利用ではいかに熱利用を行うかが肝要である。EUの木質バイオマスの8割以上が、家庭用を主とする熱利用というのは、参考になる*1。しかし一方で、先進的な木質バイオマス利用で有名なスウェーデンのベクショーにおいても木材の半分程度が建材に、40%がパルプ用チップとなり、エネルギー利用されるのは10%にすぎない。「バイオマスで地域活性化を」というのは、きっかけとしてはありうるが、順番としては、農産物や建材などもっと価値が高いものの付加価値化の中に、有機廃棄物の有効利用としてエネルギー利用は位置づけられるべきものであろう。バイオマスエネルギーは、木材の最も利用価値の少ないもの1割程度の利用法でしかない。

 ところで、バイオマスの魅力の一つは「楽しさ」である。蜜蝋ろうそくのほのかな灯りや、薪ストーブや炭火の暖かさ、そしてごみが資源になる楽しさもある。ススキや生ごみがエネルギーになり、雑草が自動車部品になる。「バイオマスは宝の山。毎日、新しいことが起きて退屈しない*2」。そしてバイオマス利用は、持続可能な社会づくりの最前線である。日本の社会構造の問題点が見えてくる、自分の成したことが社会をいくらか動かしているという実感を、バイオマスに関わる多くの人が感じている。
 2006年もこの楽しさにどっぷりと首までつかって過ごすことになりそうである。

<バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊みゆき>

*1参考:NEDO海外レポート
*2中坊真氏(NPO法人九州バイオマスフォーラム事務局長)の言