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2022年の動向

2 国内の動向

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1. バイオマス等利用の状況

環境省によると、2020 年度の我が国の温室効果ガス総排出量は、11 億 5,000 万CO₂トンで、前年度の総排出量比べて、5.1%の減少だった【*14】。エネルギー白書2022によると、日本で2020年度に利用されたバイオマスエネルギーは原油換算1,766万klで、一次エネルギー供給量46,395万klに占める割合は3.8%だった【*15】

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農林水産省令和3年木質バイオマスエネルギー利用動向調査結果によると、2021年にエネルギーとして利用された木質バイオマスのうち、木材チップの量は1,069万3,197絶乾tとなり、前年に比べ2.7%増加した【*16】。このうち、間伐材・林地残材等に由来する木材チップは411万3,674tで前年に比べ5.2%増加、製材等残材に由来する木材チップは177万6,774t、建設資材廃棄物に由来する木材チップは401万427tであった。間伐材・林地残材由来がこれまで最も多かった建設資材廃棄物由来を追い抜いた。

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矢野経済研究所のバイオマスエネルギー市場に関する調査によると、日本国内のバイオマスエネルギー市場規模は7,261億円で前年度比8.3%拡大の見通しで、2035年には1兆7215億円に増加すると予測している(図12)。

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図12:バイオマスエネルギー市場推移・予測

図12:バイオマスエネルギー市場推移・予測

出所:矢野経済研究所Website【*17】

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2. 政策等の動向(経済産業省の政策についてはトピックスも参照のこと)

政府は2023年2月、脱炭素の取組み、先行投資支援、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用などを含む「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行などを内容とする「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定した【*18】。金融庁は、グリーンウォッシュ対策として、ESG評価・データ提供機関に係る行動規範【*19】を公表した。2023年4月以降に自主的な排出量取引の施行などに取り組むGXリーグが本格稼働する予定である。2022年10月、国の財政投融資と民間からの出資を原資にファンド事業を行う脱炭素化支援機構が設立された。

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2022年6月に改正航空法が公布され、それを受けて同12月、持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進などを含む航空脱炭素化推進基本方針が策定された【*20】。2022年10月、自民党に「カーボンニュートラルのための国産バイオ燃料・合成燃料を推進する議員連盟」が発足した。

エネルギー供給構造高度化法に基づくバイオ燃料基準が改定され、LCGHG排出量基準は、ガソリンの60%削減に引き上げられる【*21】

2022年9月、政府は「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定した【*22】

みどりの食料システム戦略を受け、一定のシェアを国産バイオマスによる獲得を目指す新たなバイオマス活用推進基本計画が2022年9月、閣議決定された【*23】

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農水省は、2022年8月、バイオ炭などの「食料・農林水産業のCO₂等削減・吸収技術の開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画を策定した【*24】

2023年度、クリーンウッド法が川上・水際の木材関連事業者が合法性確認等(デューデリジェンス)に確実に取り組むよう義務付け、違法伐採木材を取り扱わないことを明確にする方向で見直しされる【*25】

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2022年6月、改正建築物省エネ法が公布された【*26】。木材利用を促進し、すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準「断熱等級4」の適合を義務付け、2025年以降はこれを下回る住宅は新たに建てられなくなる。

総務省は2023年2月、木質バイオマス発電をめぐる木材の需給状況に関する実態調査<通知に対する改善措置状況(フォローアップ)の概要>を公表した【*27】

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3. 国内の利用動向・事例等

群馬県太田市、千代田町、大泉町、邑楽町は組合で運営するごみ処理施設で発電した電気を、公共施設などで使用する協定を結んだ。「おおた電力」を通じ、太田市は、2022年4月から市立小中高校等の電気を賄う【*28】

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2022年8月、京都府福知山バイオマスセンター固形燃料化施設が完成した。枯草・剪定枝からペレットを製造し、ボイラーやストーブ燃料として製造・出荷する【*29】。青森県平川市の津軽バイオマスエナジーは、木質バイオマス発電の助燃材として使っていたPKSの代替に地元のもみ殻燃料を利用する【*30】

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石川県農林総合センターほかは、バイオマスボイラーから出る灰を肥料原料として再利用することに成功した。コマツ粟津工場で出た灰を原料に肥料メーカーの朝日アグリアが製造し、JAが販売する方向で調整を進める【*31】。愛知県の土木工事を手掛けるダイセンは、バイオマス発電所から発生する木質焼却灰のリサイクル事業のフランチャイズチェーン展開に乗り出す【*32】

2022年5月、双日は、宮崎県川南町、山口県宇部市、岡山県美咲町で早生樹ハコヤナギの植林を開始した【*33】

エコマークは、合成燃料(バイオディーゼル・GTL燃料)を対象とする認定基準を2023年1月、制定した【*34】

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2023年3月、全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会は、「バイオディーセル燃料の製造・利用に関わるガイドライン」を改定した【*35】

トヨタ自動車ほか6社は、「次世代グリーンCO₂燃料技術研究組合」を2022年7月に設立した。福島県大熊町大熊西工業団地に植物を原料とした自動車用バイオエタノール燃料の生産研究設備を建設する【*36】

2022年8月、伊藤忠エネクスほかは、フィンランドのNESTE社の廃食油や動物油等を原料として製造されたリニューアブルディーゼルの給油拠点を愛知県飛島トラックステーションに設置した【*37】。2022年7月、日本郵船ほかは、NESTE社の舶用バイオディーセル試験運行を開始した【*38】。コスモ石油マーケティングは、2023年1月より、専属契約タンクローリー等の走行用燃料を、廃食油を加工したC-FUELを5%混合したコスモCF-5に全面的に切り替えた【*39】

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パナソニックは、バイオマス度90%以上のセルロースファイバーを開発した【*40】。従来製品と同等の強度物性と白色材料として使うことも可能。タイガースポリマーは、ポリ塩化ビニール製ダクトホース・透明チューブにバイオマス材料を採用した【*41】

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2022年10月、エイチ・アイ・エスはバイオマス発電子会社のH.I.S.SUPER電力(HSP)を南国殖産系列の九州おひさま発電に譲渡すると発表した。パーム油の価格が高騰し、FIT制度によって建設された5社8カ所のパーム油発電所はいずれも運転を停止している模様である。

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2023年2月、静岡県の建設中の御前崎港バイオマス発電所で、作業員11人が一酸化炭素中毒などの症状を訴え、一人が死亡する事故が発生した【*42】

2022年9月、福島県いわき市のいわき大王製紙のバイオマスボイラーが爆発し、清掃作業員の男性一人が火傷を負った【*43】。経済産業省はこの事故を受けて、発電用ボイラーに関する電気事業法の技術基準等について産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会 電気設備自然災害等対策ワーキンググループで審議を行う予定である【*44】

2023年1月、千葉県袖ケ浦市にある7.5万kWの袖ヶ浦バイオマス発電所の木質ペレットを保管する燃料貯蔵サイロで火災が発生し、2カ月もまだ鎮火が確認できていない(裏表紙下写真)【*45】。袖ヶ浦市内に異臭が漂い、市役所には200件以上の苦情や問い合わせが寄せられた。

2022年10月、宮城県登米市議会は、同市に建設予定のバイオガス発電所計画をめぐり、FIT認定を再審査するよう求める意見書を可決した【*46】。事業者が燃料調達に関する覚書を偽造していると河北新報が報じていた。

広島県庄原市の木質バイオマス事業が補助金不正受給によって頓挫したのは、前市長の注意義務違反が原因であり、市が国に返還した補助金2億3800万円を前市長に市の負担分を請求するよう市に求めた住民訴訟で、広島高裁は全額の請求を認めた【*47】

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コラム⑧ バイオ炭のJ-クレジット化

2022年6月に、日本クルベジ協会が申請したバイオ炭の農地施用により得られたCO₂排出削減量247トンが、J-クレジット制度認証委員会からクレジット認証を受けた。すでに2020年に「バイオ炭の農地施用」に関する方法論が策定されていたが、実際の削減量として認証を受けたのは日本で初めてである。さらにシナネンホールディングスが、この認証を受けたCO₂排出削減量10トンのバイオ炭によるクレジットを購入したことを発表。また、丸紅は日本クルベジ協会がバイオ炭で創出したカーボンクレジットの独占販売代理権の取得を発表した。丸紅はクレジット1トンCO₂当たり5万円以上で販売し、協力農家の経営収益の向上を支援するとしている。

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バイオマス由来の炭素を地中貯蔵することでカーボンマイナスと評価することは、国際的にも認められており、IPCCの2019年改良ガイドラインに、農地・草地への投入バイオ炭の土壌炭素ストックへの影響の算定方法が追記されたことで、これに準じて日本のJ-クレジット方法論が策定されている。IPCCガイドラインではバイオ炭(biochar)の定義として「燃焼しないよう制限された酸化剤(oxidant)濃度の条件下でバイオマスを350℃を超える温度に加熱することで生成される固体材料」としている。空気量や酸素濃度を絞った木材の蒸し焼き(乾留)はこれに該当する。

写真は国内のJ-クレジットで算定対象と認められるバイオ炭の例である。

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バイオ炭の種類

写真:バイオ炭の例

農水省 J-クレジット制度におけるバイオ炭の農地施用にかかる方法論に関する説明会資料より

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一方日本では、過去より木炭や竹炭を土壌改良剤として施用してきた歴史がある。中部産業・地域活性化センター(2010年)発行「バイオ炭(炭の土壌改良材)の普及に関する実践的調査研究」に、バイオ炭の土壌改良効果が下記のようにまとめられている。

  • ① 土壌の透水性や保水性の向上
  • ② 保肥力の向上
  • ③ ミネラルの補充
  • ④ 土の保温効果
  • ⑤ 土壌の中和作用
  • ⑥ 水質浄化
  • ⑦ 土の団粒構造促進
  • ⑧ 土壌中の有用微生物の繁殖

特にこの中で、⑧の作物と有用微生物およびバイオ炭の関連が重要な要素と言及しており、植物と有用微生物の共生の典型的な事例としてダイズ の根粒菌とVA菌根菌との共生関係を挙げている。他にも土壌中の微生物と土壌有機物との関係は、多くの事例が報告されている。土壌中の肥料などの有機物が土壌微生物によって分解され、アミノ酸や無機化窒素の形で根から吸収され植物の栄養になると考えられている。このような微生物の繁殖場としてバイオ炭の役割が大きい。

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農水省は2019年度及び2020年度、バイオ炭の施用量上限の目安を把握するための農作物の生育への影響に関する調査研究を農研機構に委託し、その結果から、バイオ炭の施用にあたっての目安をホームページ上で公開している。(下表【*1】)

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表:バイオ炭の施用量上限の目安

pH6.5以下とする作物(注2) ph6.0以下とする作物 pH5.5以下とする作物
ほとんどの作物 ジャガイモ、サトイモ、ショウガ、ニンニク、ラッキョウ 等 茶 等
黒ボク土 圃場施用量 227t/ha 113/ha pH上昇に注意して施用
容積あたり施用量(注1) 20% 10%
未熟土 圃場施用量 22.7t/ha 施用しない 施用しない
容積あたり施用量 2%
その他土壌 圃場施用量 113t/ha 57t/ha pH上昇に注意して施用
容積あたり施用量 10% 5%

出典:令和2年度農地土壌炭素貯留等基礎調査事業報告書(農研機構農業環境変動研究センター)

注 1 容積あたり施用量は、苗床等を想定した値です。

注 2 一部の作物ではpH7 程度でも生育可能ですが、pH6.5までを許容するものとして上限を設定しました。

バイオ炭施用における注意点:実際に施用する場合は、上記の表だけではなく、土壌のpHや石灰等の施用状況等も踏まえて施用量を検討してください。
特にバイオ炭の大量施用を毎年行う場合にはpH上昇に気を付けてください。バイオ炭の施用量が多い場合には、量に応じて石灰施用量を減らすまたは石灰施用を行わないこととしてください。

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バイオ炭の品質に関しては、J-クレジット認証条件として、以下の①~③のいずれかの方法で固定炭素比率又は精煉度を測定することで品質を担保することが求められている。

  • ① 木炭精煉計等を用いて炭化の度合い(電気伝導度)を測定する。
  • ② 工業試験場等で「JIS M 8812:2004 石炭類及びコークス類-工業分析方法」に基づき固定炭素比率を測定する。
  • ③ 日本バイオ炭普及会規格「土壌炭素貯留用バイオ炭―測定法―」に基づき固定炭素比率を測定する。

以下に日本バイオ炭普及会ホームページで説明されているバイオ炭の品質管理とJ-クレジットの流れを掲げた。

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図:木質バイオマス温水ボイラーの規制緩和

図:バイオ炭の品質管理とJ-クレジットの流れ

出所:日本バイオ炭普及会 WEBサイト

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<日本工業大学教授 雨宮 隆>

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