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トピックス

2 バイオマスの産業用熱利用の推進

1. ドイツにおけるバイオマス産業用熱利用の現状と課題

ドイツバイオマスリサーチセンターは、総合的、自由競争、需要指向のエネルギー供給、バイオベース燃料の複合的な生産、高効率でクリーンな技術開発、包括的な持続可能性モニタリング、最適なバリューチェーンといった、バイオエネルギーに関わるあらゆる問題を研究する、世界最大規模の300名のリサーチャーを抱えるバイオマスに特化した研究機関である。

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さて、気候変動問題は待ったなしの状況であり、1.5℃目標を達成するために残された炭素予算は、もうわずかしかない。ドイツでは、2021年に気候保護に関する決定事項により、政治家が1.5~2℃目標を達成すべきと規定された。その対策を行わないと、人々の自由や人権が阻害される状況になりうる。産業プロセス熱供給を含め、エネルギー転換を加速しなければならないが、バイオマスエネルギーの持続可能性は量のバランスだけでなく生物多様性の問題も残っている。

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<緊急セミナー>バイオマス産業用熱利用国際シンポジウム
「2050カーボンゼロに向けたバイオマス産業用熱利用の課題と
今後の方向性を探る」

2050年カーボンゼロに向けて、最終エネルギー需要の半分を占める熱需要分野の脱炭素化は必須だが、日本の熱需要の55%は産業用の中高温の熱利用である。現状で中高温を供給可能な再生可能エネルギーはバイオマスにほぼ限られており、今後、脱炭素化のためには、限られたバイオマス燃料を産業用熱に向けていくことが重要だと考えられる。

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バイオマス産業用熱利用国際シンポジウム「2050カーボンゼロに向けたバイオマス産業用熱利用の課題と今後の方向性を探る」は、2023年1月13日、海外ゲストを迎え、バイオマスの産業用熱をめぐる現状の課題と今後の方向性について関係者の知見を集約し、議論することで今後の取り組みを加速化させる機会となることを目的に、NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク、NPO法人農都会議バイオマスアカデミー主催により、東京・日比谷図書館大ホールおよびオンラインで開催した。

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基調講演では、ドイツバイオマスリサーチセンター熱化学変換部部長、研究重点領域スマートバイオマス熱リーダーのフォルカー・レンツ博士が、「ドイツにおけるバイオマス産業用熱利用の現状と課題」について解説された。続いて、同じく基調講演として資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部省エネルギー課総括係長の中嶋佑佳氏が「省エネルギー政策について」講演された。

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パネルディスカッション「2050カーボンゼロに向けたバイオマス産業用熱利用の課題と今後の方向性を探る」では、司会のNPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長泊みゆきよりシンポジウム開催趣旨について説明した後、高山バイオマス研究所所長の谷渕庸次氏がバイオマスアカデミーベストプラクティス研究会蒸気ボイラ分科会についておよび事例について、辻製油株式会社会長の辻保彦氏が辻製油の産業用木質バイオマス熱利用の事例についてそれぞれ紹介された。最後に、東北大学大学院工学研究科の中田俊彦教授からコメントいただいた。150名余りが参加し、参加者からの質問もまじえ、非常に活発なディスカッションが行われた。

本章は、このシンポジウムでの講演内容・資料及び議論を、事務局の責任で再構成したものである。

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シンポジウム写真

シンポジウムの様子

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ドイツの最終エネルギー総需要の19%(2020年)が産業プロセス熱に使用されたが、再生可能エネルギーや再エネ電力はほんの一部に過ぎない。

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図5:産業用熱の世界的な分類

図5:産業用熱の世界的な分類

出所:レンツ博士資料

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図5の右端のグラフは、温度帯ごとの世界の産業用熱を示したものである。産業用プロセス熱をどう脱炭素するか。まず、効率を高める。太陽熱、ヒートポンプの利用。そしてバイオマス。500℃以上の高温ではバイオマス由来のガス、あるいは水素や再エネ電力を使う。

一方、ドイツにおける木材利用では、素材とエネルギー利用がほぼ同量である。ドイツで伐採される木材の半分が直接エネルギーに、特に暖房など低温機器や発電設備に向けで使用されている。ドイツでは近年、木材伐採量が成長量を超えている。森林を気候変動に強い混交林に転換し、森林に炭素を備蓄してマイナス排出とすることが必要になり、そのためには木材伐採量を2、3割減らさなければならない。

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この限られた木質バイオマスをどこに使うべきか。それは熱部門である。水素とバイオマスは、脱化石化のための重要なエネルギーキャリアである。ドイツで利用可能なバイオマスは1,000PJ程度で、エネルギー一次需要の7~8%に相当する。ゆえにバイオエネルギーは、エネルギー供給を変える上で重要な役割を果たせるが、それは一部にしか過ぎないし、適切な使い方をすることが必須である。

ドイツでは高額の助成をしてバイオマス発電を推進してきたが、政治家たちはバイオマスの資源量が限られることに気づき、ドイツを含む欧州レベルで、木質バイオマス発電から脱却する変化が見られる。将来は発電部門の木質バイオマスが大幅に減り、産業部門と中小企業部門での利用が増えると見込まれている(図6)。

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図6:ドイツにおける将来のバイオマス利用のシナリオ比較

図6:ドイツにおける将来のバイオマス利用のシナリオ比較

出所:レンツ博士資料

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図7は、ドイツにおける経済的観点から分析した将来のプロセス熱シナリオにおけるバイオマス利用の用途である。産業用プロセスに使った排熱を暖房に回し、調整電源としてのバイオマス発電がある。

結論として、バイオマスは貯蔵可能でフレキシブルに利用でき、入手可能だが、量に限りがありコストがかかる。ゆえに、付加価値のある特定の用途、特に高い熱に使用すべきである。木材はまずマテリアルとして使い、廃棄物をエネルギーとして使うことが重要である【*6】

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図7:プロセス熱シナリオドイツKSG45 バイオマス利用用途

図7:プロセス熱シナリオドイツKSG45 バイオマス利用用途

出所:レンツ博士資料

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2. 省エネルギー政策について

日本の省エネルギー政策は、省エネから需要サイドにおけるエネルギー転換を後押しする方向に転換しつつある。第六次エネルギー基本計画では、2030年度の最終エネルギー需要を2013年度より6,200万kl程度の削減を見込んでいる。産業部門は約1,350万klである。2050年カーボンニュートラルに向けては、徹底した省エネを進めるとともに、非化石電気や水素等の非化石エネルギーの導入拡大に向けた対策を強化していくことが必要である。

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2022年5月に省エネ法が改正され、2023年4月に施行される。省エネ法の「エネルギー」の定義を拡大し、非化石エネルギーを含む全てのエネルギーの使用の合理化を求め、エネルギー使用量が石油換算1,500kl/年以上の特定事業者等に対し、非化石エネルギーへの転換の目標に関する中長期計画及び非化石エネルギー使用状況等の定期の報告を求めることとなった。その非化石エネルギーへの転換の目標は、2030年度を目標年度とし、2030年度における数値目標を定めるとしている。非化石燃料の目標の目安として、例えばセメント業では2030年度における焼成工程における燃料の非化石比率を28%とする、製紙業における石炭使用量を30%削減するといったことが挙げられている。製紙業においては、所有森林の活用等によりバイオマス燃料の調達を増やすこと、ホワイトペレット及びブラックペレット等の製造や混焼に関する技術開発及び実証実験を進めること、黒液を最大限に利用することといった定性目標も掲げられている。

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省エネ支援策としては、省エネ補助金の抜本強化や省エネ診断の拡充がある。省エネ補助金では、非化石エネルギーへの転換に資する設備も含め、省エネ性能の高い設備・機器への更新を支援する。図8にあるように4類型に分かれていて、Aの先進事業やBのオーダーメード事業のところでよくバイオマスを活用いただいている。変更点としては、要件を省エネ率+非化石割合増加率としたこと、上限額を20億円に引き上げたことが挙げられる。また、複数年の投資計画に切れ目なく対応できる新たな仕組みを創設し、今後3年間で5,000億円規模の支援となる。

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図8:省エネ支援策パッケージ 省エネ補助金の抜本強化

図8:省エネ支援策パッケージ 省エネ補助金の抜本強化(図をクリックで拡大)

出所:中嶋氏資料

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省エネ診断の拡充では、中小企業等がメニューを選択し、ESCO・エネルギーマネジメント事業者等を含む省エネ診断実施団体・企業等に申し込みをする仕組みを整備する。省エネ診断・アドバイスを行える専門人材の育成も実施する(図9)。

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図9:省エネ診断の拡充

図9:省エネ診断の拡充

出所:中嶋氏資料

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3. 2050カーボンゼロに向けたバイオマス産業用熱利用の課題と今後の方向性を探る

一般的に、バイオマス利用と言えば発電、というイメージが強いが、今後の状況を考えれば熱利用を中心に据えるべきである。

バイオマス発電は経済性を確保することがFIT等の支援がないと厳しく、希少性の面でも太陽光・風力の発電コストが世界的に低下している。温暖化対策効果で見ると、発電効率は30%程度以下で、効果は限定的である。一方、バイオマスの熱利用では、導入費が化石燃料ボイラーより高価であることがネックになっているが木質チップ価格は化石燃料より安い。150℃以上の中高温の産業用熱利用ができる再生可能エネルギーは、現状ではほぼバイオマスに限られる(図10)。温暖化対策効果の面でも、他の再エネに匹敵する効果がある。

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図10:熱の主な供給方法と熱の利用温度帯

図10:熱の主な供給方法と熱の利用温度帯

出所:経済産業省資料

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日本の最終エネルギー需要の半分が熱で、その55%が産業用であり、カーボンゼロに向けて取り組む優先度は高いと考えられる。400℃程度までの中温であれば、現在のバイオマスボイラーでも供給可能である。食品加工、繊維、パルプ、化学、非鉄金属などがある。

レンツ博士が言及されているように、持続可能なバイオマス資源量には限りがあり、2050年カーボンゼロに向けて、他の再生可能エネルギーで供給できる発電や100℃以下の低温度帯の熱利用ではなく、バイオマスでなければ供給が困難な中高温の産業用熱利用などにシフトしていくべきだと考えられる。

具体的には、栃木県那賀川で、トーセンがALC(軽量気泡コンクリート)製造工場に木質チップを燃料とする蒸気を熱売りしている事例などがある。地域活性化の点から見ても、トーセンでは2.5億円の導入時の補助金だけで、同等の規模のFITによるバイオマス発電への86億円と比較して、はるかに少ない社会的負担で効果がある。食品加工、製紙業、化学工場などで建築廃材や樹皮を燃料としたバイオマスボイラーが使われている。ヨーロッパでも、同じく食品加工や塗装、蒸留所などでバイオマス熱利用が行われている。

将来的には、工業団地等にバイオマスボイラーが設置され、高温~中温~低温の熱のカスケード利用が行われることが望ましい。エネルギー基本計画などにおいて、脱炭素化に向けて中高温の産業用熱はバイオマス、合成燃料や水素、CCSなどによって対処するとあるが、これらのうち現状で利用可能なのはバイオマスに限られる。バイオマスの熱利用には様々な課題があるが、官庁、産業界、関係者らがこれを一つずつ克服し、移行を実現させる必要があるだろう。

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4. ベストプラクティス研究会蒸気ボイラー分科会の活動

NPO法人農都会議バイオマスアカデミーベストプラクティス研究会蒸気ボイラー分科会は、バイオマス熱利用のベストプラクティスを追求するなかで、産業用蒸気ボイラーの普及促進、産業育成を図るため情報収集や提言等の活動を行っている【*7】。バイオマス熱事業体、コンサル、学術、NPO等の10数人のメンバーが定期的に会合し、官公庁との意見交換・協議、政策提言、支援策の提案やシンポジウムの開催、制度化に向けた協議などを行っている。バイオマス熱利用事業支援として、企業等へのバイオマス熱利用導入可能性調査、導入計画作成、そして特に人材育成、事業のコーディネーションを担うプレーヤー育成に力を入れている。

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表4:蒸気ボイラー分科会の政策および各支援項目の考え方(部分)

出所:谷渕氏資料

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5. 辻製油の産業用木質バイオマス熱利用の事例

辻製油は、1947年に三重県松阪市において国産なたね油搾油専門工場から始まり、業務用のサラダ油等を製造してきた。現在は、搾油・抽出・酵素技術を生かし、大豆レシチンの製品開発や天然香料製造なども行っている。2003年のイラク戦争で石油価格高騰し、重油価格が23円/lから100円に上昇した。そこから地域産業の活性化に取り組み、2007年、松阪木質バイオマス熱利用協同組合を設立した。

当時、地域には手入れができていない人工林があり、切り捨て間伐されていた。ウッドピア木質バイオマス利用協同組合を設立し、山から間伐材を搬出しチップを3万トン生産する体制を整えた。松阪木質バイオマス熱利用協同組合には18t/hのバイオマスボイラーを導入し、発生した蒸気を辻製油の搾油工場に送っている。以前は9000kl/年の重油を使っていたが、今では工場で使う熱はほぼ100%がバイオマスによるものである。さらにその排熱の温水を使ってトマト栽培を行っている【*8】

導入は大きな決断だったが、重油に比べて木質チップの価格は低く、8億円の経済効果があった。設備費用の償却もできた。排熱を利用するトマト栽培を行う「うれし野アグリ」では、パートを含め地域に140名の雇用を生んでいる。最近は、燃焼前のヒノキチップからヒノキ精油を抽出し、除菌スプレー等を商品化した。

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写真:辻製油本社工場・関連会社

写真:辻製油本社工場・関連会社

出所:辻氏資料

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6. バイオマス産業用熱利用の課題

どういった経緯から、欧州では木質バイオマス発電への補助を辞めたか。ドイツなどでは、木質バイオマスの量的な伸びしろがなく、また生物多様性の問題が批判された。植林される以上の伐採はあり得ない。カーボンマイナスにするためには、森林の炭素蓄積を増やさなくてはならない。皆伐ではなく間伐にし、様々な樹種を植えることで、気候変動に対しても強くなる。木材はまず素材としての活用し、エネルギー利用では熱が適しているという判断から転換した。太陽光や風力が伸長し、大規模なバイオマス発電の買取価格を引き下げ、コジェネを促した。コジェネにすることで、チップ価格が上昇しても熱売りが事業を支える。ドイツのFITは2000年に始まっており、20年間の買取期間が順次終わりつつある。

ドイツの課題としては、バイオマスの産業用熱利用が製紙業などに限られていることが挙げられる。政府が戦略を法制化し補助金を具現化し、バイオマスを高温の熱に振り向ける、各業界が安心して投資できるよう促すことが重要である。

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日本国内でのバイオマスボイラー導入の課題としては、コストパフォーマンスがある。15年前、10万円/kWを切る温水ボイラーはなかったが、最近は6万円/kWぐらいに下がってきている。ただし、周辺設備についてはこの十数年、あまり変わっていない。常に、化石燃料ボイラーとの比較がついてまわる。ボイラー分科会での議論になるが、収支の考え方、エネルギーの価値も含めた教育、人材育成が重要になってくる。ヨーロッパと日本の最大の違いは、燃料の調達、特に規格。ヨーロッパなら木質ペレットでもチップでも品質規格が普及しており、規格を守っていれば現場で何かボイラーに不具合があっても機械メーカーの責任になる。それが日本にはない。チップも相対取引で、ボイラーを導入した後、別のチップ工場で調達を始める。そうすると、品質が違うものを使うことで不具合が生じる。燃料品質についての知識を普及していかないと、安心したバイオマスの利用形態がつくれない。

この問題は、ずっとあったが、ようやくそろそろ改善の兆しが見えてきたようにも思われる。

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現場の立場からの最大の課題は、燃料の安定供給である。周辺のバイオマス発電所も燃料不足で苦労している。一部、海外からPKSなど輸入する向きもある。我々も7,8年前一時検討したが、当時1.2万円/tだったが今では3万円している。FITでは売電価格が決まっていて、発電所は経営が成り立たなくなる可能性がある。

兵庫県の朝来バイオマス発電所がチップ価格高騰のため停止した。FIPは、対応策の一つとなるだろう。ドイツでは熱電併給にすることで、チップ価格の上昇を熱売りでカバーしている。

日本ではボイラーやヒートマネンジメントメーカーが育っていないことが課題、という指摘もある。林野庁事業で海外の技術の国産化支援をしていると聞いているが、一社しかない。そういったところが市場の不安定さにつながっているのではないか。

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辻製油のようなよい事例が拡大していかないのはなぜか。熱需要、森林資源、未利用の農地の条件がそろってできた。

バイオマスボイラー導入の際には、熱需要先と供給先の両方を検討する。近くでチップがつくられていれば、どのようなチップか。それを確実に抑えた上で、需要先の機器を選定する。なければ、工場で最適なボイラーを選び、そのボイラーの燃料生産のため地域内でチップ工場を建設する。その両輪の検討が必要である。日本の既存のチップ工場で乾燥を行っているところはまずない。チップの含水率を確認するのはきわめて重要で、それができなくて失敗している事例は多々見られる。

また、国産ボイラーメーカーやヒートマネジメント関連メーカーの育成支援も課題だろう。

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7. 今後の見通し

ドイツでももっと強力なドライブをかけた政策が必要で、そうすれば産業用利用が増えるだろう。

バイオマスは、重要でかつ複雑である。たくさん使えばいいというものではなく、炭素ストックの維持、人権問題、食料との競合、生物多様性などの持続可能性を考慮する必要がある。

近年、気候変動対策として廃材や残さなど廃棄物系バイオマスから、バイオ炭をつくり土壌改良剤として使うことが注目されている。バイオ炭を製造する際の熱を産業用に使う、そのための技術開発が重要だ。

地方では山や田畑が荒れていくのを日々、目にしている。地域資源を生かし、少子化対策と気候変動対策を、省庁の枠を取り払って組み合わせて考えていくことが必要だろう。

今後の対策としてエネルギーサービス会社の育成がある。エネルギーサービスの形態には三つある。①熱を販売するだけの形態 ②熱需要先が施設を導入しているが、燃料の専門家がいないためエネルギーサービス会社に運営を委託するという形態 ③エネルギーサービス会社が施設を持つが、運転人件費を節約するために、運用はユーザーが行うという形態である。

これらは事業の難しさによって選択ができるものと考えている。例えば②のケースは、バイオマスの消費量が数千トンレベル以上の場合が多く、燃料確保や品質の知識と判断が重要になるので、これをサービスとして提供することが求められる。もう一つは、バイオマスを導入した後の、安定稼働に至るまでの問題解決に対する支援といったものがこれから重要になる。

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1979年にできた省エネ法を、バイオマスに適合させていかなくてはならない。バイオマスは複雑で、研究機関で言っても、森林総研、産総研、農研機構がある。ドイツのバイオマスリサーチセンターのように融合した機関が必要ではないか。日本の研究分野では、制度や政策が欠けている。

バイオマス利用を促進するには、3つのポイントがあって、一つめが税金。二つ目が補助金。三つめが技術開発。日本はそれなりにやっているがそれだけではうまくいかない。うまくいっているのは、本業があってそれを上手に利用していたり、山を自ら所有している、という人はうまくいく。

バイオマスは自然界の賜物で、システム、シナジーといった組み合わせのビジネスプランが必要だが、どの政策を見てもそこまでやってない。

また、東京と地域の差もある。こうしたシンポジウムを地方で開催することも重要だ。産業用の中高温の熱の排熱利用も重要で、低温熱を使う仲間をいかに集めるかも鍵である。

バイオマスもNPOをサポートする制度が必要だろう。もう一つ、バイオマスの賦存量データ整備も進めていく必要がある。

まだ気候危機の解決は、間に合うと考えている。よい実践例がある。政策では長期的視点に立つルールが必要である。今まで蓄積した知識を生かして、将来は化石燃料の利用をゼロにしていかなければならないが、廃棄物系バイオマスを中高温に使うことは、重要な解決法となる。世界的に実施していく必要がある。

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コラム⑤ ヨーロッパにおけるバイオマス及び廃棄物熱の産業利用

2022年10月、ヨーロッパのバイオマスおよび産業用熱産業利用について調査・視察した。

オランダでは、バイオマス発電と都市暖房用バイオマスの補助金を段階的に廃止する。インフラ・水管理省への助言レポートは、バイオマス利用について「再生可能エネルギーの目標を達成するためにバイオマスのエネルギー的利用が避けられない場合、できれば代替案が実行不可能か、利用できない状況に限定すべきである」【*】と指摘している。

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オーストリアのバイオマスボイラーメーカー、コールバッハ社は出力150~12,000kWの蒸気ボイラー、温水ボイラー、サーモオイルボイラーなどを26カ国に2000基以上販売し、導入されている。欧州のバイオマス産業用熱利用政策は国によってばらばらであり、高温熱の重要性についての理解はまだこれからのことであった。熱は食品加工等で利用されており、工場の排熱を地域熱供給に使う事例もある(表)。

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オーストリア西部で事業を行っているバイオマス・ヴォルフスベルク社は、バイオマス熱を売る地域エネルギー会社である。コールバッハ社の800kW、1,000kW、1,500kWの3台のバイオマスボイラーを導入し、地元材を使った地域熱供給と食品加工工場への産業用熱供給事業を行っている(目次上 左写真)。チップは10km圏内の林家から購入している(目次下 左写真)。

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ドイツ東部のシュタースフルト市にあるEVZA熱処理・リサイクルプラントREMONDISは、廃棄物焼却施設からソーダ工場に蒸気を供給している。23MWの発電も行っており、プラント効率は60~80%である。最大265,000MWh/a23barのプロセス蒸気を供給している。

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ベルギー、アントワープ市のECLUSEは、廃棄物熱処理工場であるIndaver/SLECOと、Waasland港にある多くの企業を結ぶ蒸気・復水配管のネットワークである。各企業はそれぞれのニーズに応じて熱を購入することができる。主に化学工場が蒸気を生産工程で利用している。160MW、高圧(40bar)・高温(400℃)の過熱蒸気を供給し、10万トンのCO₂削減となっている。

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ヨーロッパのバイオマスおよび廃棄物熱の産業利用はまだ十分ではないが、今後さらに増えていくと考えられる。

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表:コールバッハ社のバイオマスボイラー導入事例

会社・組織名 国名 業種 用途 熱媒体 燃料 バイオマスボイラー規模
COOP Gen スイス 食品・飲料 大規模ベーカリー用オーブンの加熱 サーマルオイル 生の木質残渣チップ、穀物屑 2,700kW
Habermaaß GmbH ドイツ 家具・玩具 加工用熱 加熱水 廃材チップ 2,000kW×2台
Multicolor GmbH ドイツ 着色および塗装 塗布型表面処理用生蒸気および電力 過熱水蒸気と電力 建設廃材 2,500kW
Steinicke GmbH ドイツ 食品および飲料 ハーブの乾燥、包装資材の殺菌 飽和蒸気 建設廃材 8,000kW
6 Leiber GmbH ドイツ 食品および飲料 酵母製品の製造のための乾燥・殺菌・調整用蒸気 飽和蒸気 建設廃材 9,000kW
Scherzer Gemüse Nürnberg ドイツ 温室 温室の加温および地方空港の暖房 温水と電力 建設廃材 5,000kW×2台
Nc'Nean Distillery イギリス ウイスキー蒸留所 ウイスキー蒸留工程の生産熱 飽和蒸気 生チップ 800kW
Ketterer Brauerei ドイツ ビール醸造所 ビール醸造用蒸気 飽和蒸気 地域の林地残材チップ 1,200kW
Namibia Breweries ナミビア ビール醸造所 ビール醸造用の過熱水 過熱水 農場から出る木質チップ 5,000kW
Greenspark / Parkers Nurseries イギリス 温室 温室用の熱と電力 温水と電力 生チップ、建設廃材 5,140kW
Top Clean Textilreinigungs GmbH ドイツ ランドリー 産業用ランドリー向け蒸気 飽和蒸気 木質ペレット 2,000kW
Heizwerk Uri AG スイス 産業用温冷熱供給 地域産業向けのグリッド経由の蒸気供給 飽和蒸気 地域の林地残材チップ 3,000kW
Ligna d.o.o. クロアチア 木質ペレット 木質ペレット製造のためのベルト乾燥 温水と電力 製材端材チップ 5,140kW
Arco Clean Energy GmbH ドイツ 醸造所および地域熱供給 ビール醸造用の蒸気および地域熱供給用熱 飽和蒸気 地域の林地残材チップ 1,500kW
Steinwerke Kaidar ドイツ 建築資材 石灰石・ドロマイト製造用乾燥機 熱風 地域の林地残材チップ
20 Moßandl ドイツ 建築資材 建材用砂の乾燥 熱風 建設廃材
Symrise マダガスカル 食品と飲料 バニラエッセンスおよびフレバー製造向け生蒸気 飽和蒸気 剪定枝チップ 1,000kW

提供:コールバッハ社

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<NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>

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コラム⑥ 木質バイオマス熱利用に関わるボイラーの規制緩和と
計画実施マニュアルの作成

我が国の木質バイオマス熱利用が進展しない原因としては、色々な要因が絡み合っているが、その一つに、我が国においては、木質バイオマス熱利用の特徴を踏まえた効率的なボイラーシステムが確立できていなかったことがある。

欧州においては、熱需要の中心となる暖房需要に対して木質バイオマス化が検討され、2,000年代の初めに、そのための効率的な温水ボイラーシステムがQM Holzheizwerkeとして標準化され普及された。それに基づき、ボイラーメーカー等において技術の開発が進められ、コストダウンと利便性の向上が図られてきた。一方、我が国では、従来の化石燃料の技術が援用され、木質バイオマスに即した技術展開がなされないまま推移してきた。

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欧州で開発された技術の導入が我が国で進まなかった理由の一つとしてボイラー規制の違いが挙げられる。我が国の労働安全衛生法では、「ボイラー」には機器の検査やボイラー技士の配置等が義務付けられており、これらの規制が緩和される「簡易ボイラー」として取り扱われるのは極めて例外であるのに対し、欧州では温水ボイラーについては、100℃以下の温水では爆発の危険性が高くないということから、おおむね我が国の「簡易ボイラー」並みの規制に拠っている。そのため、我が国ではこの規制に該当しない無圧式温水機等が開発されてきたが、無圧式温水機等では、欧州で考案されたシステムの導入が難しかった。化石ボイラーに比べて木質バイオマスボイラーは、負荷変動に即時的に対応することが困難であり、欧州のシステムでは蓄熱タンクをボイラーに接続するとともに、蓄熱タンクの熱変動(成層管理)により、ボイラーの発停等を制御するシステムが考案されたのであるが、無圧式温水機等では蓄熱タンクによる制御が難しい。このようなシステムを実現するためには、規制のあり方を見直してもらうことが必要で、(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会として規制緩和を政府の規制改革推進室に要望した。その結果、2022年3月から、「簡易ボイラー」区分の拡大が実現することとなった(下図)。

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図:木質バイオマス温水ボイラーの規制緩和

図:木質バイオマス温水ボイラーの規制緩和

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このような動きと合わせ、当協会では、欧州のQMを参考にしながら、我が国における効率的システムを実現するためのマニュアルの作成を進めてきた。これについても同年8月、「木質バイオマス熱利用(温水)計画実施マニュアル(基本編、実行編)」として刊行している。効率的な木質バイオマス熱利用システムを構築するためにはボイラーシステムに即した回路設計等が必要で、その内容を明らかにするとともに、燃料、ボイラー及び機器等の説明、事業計画作成から施工管理、メンテナンスのあり方までを網羅した我が国で初めての総合的マニュアルになっている。

今回のボイラー規制の緩和とマニュアルの作成により、効率的な木質バイオマス熱利用を進めていくための基盤が整ってきたということができる。

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<一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会顧問 加藤 鐵夫>

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コラム⑦ 地域エネルギーサービス会社の展開

バイオマスボイラーは、一般のユーザーにはあまりなじみがなく、しかも化石燃料のように燃料調達が容易ではない。脱炭素化の切り札になりうるが、ユーザーが一から調べて自ら導入することには大きなハードルがある。

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そこで、ユーザーのニーズを把握し、地域で供給可能なバイオマス燃料に合ったボイラーを導入したり、熱売りやESCO事業として行うエネルギーサービス会社が地域にあれば、バイオマスボイラーの導入の難易度は大きく下がる。導入するボイラーが決まっていればボイラーメーカーが導入支援を行うことは可能だが、バイオマスボイラーには内外に様々なメーカーがあり、多くの場合、ユーザーにとっての最適なメーカーを選択するところから検討が始まる。こうした地域エネルギーサービス会社が、しだいに増えつつある。

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北海道紋別市では、市営温水プールに地元の民間事業者が150kW×4基のチップボイラーを整備し、市は初期投資を負担しない代わりにその事業者にエネルギーサービスの対価を15年間支払う契約を結んだ【*1】。バイオマスボイラー導入により、年平均で212万円の経費節減とCO₂削減につながる。

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2022年3月、カルビーは、新宇都宮工場において排水処理工程で発生するバイオガスによる発電の自家消費を開始した。東京ガスエンジニアリングソリューションズがエネルギーサービス方式でバイオガス発電設備を提供する【*2】。

海外では、バイオマスや廃棄物熱を複数の工場に供給している事例もある(コラム⑤参照)。

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バイオマスアグリゲーションは、長崎県対馬市で木質バイオマス熱利用の官民連携ESCO型事業を行っている。バイオマスアグリゲーションの他、地元の燃料供給会社2社とメンテナンスを行う企業が共同出資して地域エネルギー会社を設立。地域エネルギー会社が需要家施設内にボイラーを設置し、燃料調達、ボイラーの運転管理を行い、熱エネルギーを需要家に販売する。ノウハウを伝授し、今後は地域エネルギー会社がバイオマスボイラーの面的導入を図っていくことで、地域主体の普及が進むことが期待できる(図)。

このように、地域エネルギー会社が各地に広がることで、バイオマス熱の普及を加速させることができると考えられる。

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図:ESCO型サービスによるバイオマス熱利用のビジネス化、地域面的導入

図:ESCO型サービスによるバイオマス熱利用のビジネス化、地域面的導入

出所:バイオマス産業社会ネットワーク第209回研究会資料(PDF)

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