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トピックス

1 2022年のバイオマス発電の動向

1. FIT/FIP制度の概要

2022年度から、売電収入に「プレミアム(補助金)」を上乗せした金額が売電事業者に支払われるフィード・イン・プレミアム(FIP)制度が開始された。また、FIT制度が認められる区分・規模においても地域活用要件が課せられるようになった【*1】

2023年度から、一般木質バイオマス発電の区分は2,000kW~1万kWの規模ではFIPのみとなり、2024年度からは50kW以上の規模でFIPが選択可能となる。

2024年度の買取価格は、2023年度から変更されない。2023年度よりメタン発酵バイオガス発電の買取価格は、35円/kWhに変更される。

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図1:FIT/FIP・入札の対象(バイオマス)のイメージ

図1:FIT/FIP・入札の対象(バイオマス)のイメージ

出所:令和5年度以降の調達価格等に関する意見

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2. バイオマス燃料価格の高騰

2022年、ウクライナ危機や円安の影響で、エネルギー価格が高騰した。その前のウッドショックの影響などもあり、バイオマス燃料の価格も高騰している。

関電や兵庫県、朝来市などが協力し間伐材の利用を行う「兵庫モデル」を掲げていた、朝来バイオマス発電が稼働を停止した。燃料供給を担っていた兵庫県森林組合連合会が、木材価格が上昇し収益悪化したことから、事業継続が困難として撤退を申し出た。関西電力はこれを受けて2022年12月に稼働を停止、発電所の売却を含め検討するとしている【*2】

日本木質バイオマスエネルギー協会が2023年1月に行った燃料調達状況に関する臨時アンケートによると、4割近くのバイオマス発電所では計画通りに稼働できていないと回答した【*3】。調達不足の要因については、近隣の発電事業者との競合が最も多く、マテリアル向け需要との競合を挙げる回答も多かった。

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3. バイオマス持続可能性ワーキンググループにおける検討

バイオマス持続可能性ワーキンググループは、2022年度に7回会合を開き、そこでの検討結果として、調達価格等算定委員会へ報告を行った。

また、パーム油の持続可能性確認に関わる経過措置は、2023年3月末を経過の期限とすることとなった。

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表1:バイオマス持続可能性ワーキンググループからの報告

出所:令和5年度以降の調達価格等に関する意見に一部加筆

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図2:バイオマス発電のライフサイクル温室効果ガス規定値

図2:バイオマス発電のライフサイクル温室効果ガス規定値

出典:経済産業省 バイオマス持続可能性ワーキンググループ第21回会合資料3等より
NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク作成

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4. 新規燃料

業界団体から新規燃料として要望のあったバイオマス種のうち、非可食かつ副産物であることが確認できている、EFB(パーム椰子果実房)、ココナッツ殻、カシューナッツ殻、くるみ殻、アーモンド殻、ビスタチオ殻、ひまわり種殻、コーンストローペレット、ベンコワン(葛芋)種子、サトウキビ茎葉、ピーナッツ殻、カシューナッツ殻油については、一般木質バイオマスの区分として取り扱うこととなった。これらは2023年度からFIT・FIP制度におけるバイオマス発電の新規燃料として認めることとした。稲わら・麦わら・籾殻については、継続議論を行うこととなった。

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新規燃料の利用においては、検疫に関する事項にも注意する必要がある。表2は、農水省が作成した新規燃料の検疫条件について示したものである。バイオマス種によっては、輸入禁止となっているものもある。PKS利用の初期には、カビの発生や悪臭、雨が降った後の汚水が問題となったケースがあった。これまで大量に輸入されてこなかった有機可燃物であり、安全な取り扱いのための注意が欠かせないと考えられる。

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表2:FITバイオマス新規燃料の検疫について

※1 検査証明書の要否など取扱いは随時見直されていることから、輸入前に植物防疫所に確認することが必要。

※2 土は輸入禁止品であることから、土の付着や混入がない燃料を輸入することが必要。

※3 本表はバイオマス燃料用に使用される植物に限る。

出典:農林水産省

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コラム① バイオマスの石炭火力混焼の問題点

2050年カーボンゼロに向かう中で、石炭火力への逆風が強くなっている。対応策の一つが、バイオマス混焼あるいは専燃化だが、いずれもバイオマスの使い方として以下のような問題がある。

1)バイオマス混焼が、石炭火力の延命につながる

2021年4月に開催された国連気候サミットで、グテレス国連事務総長が「最も裕福な国(先進国)では 2030 年までに石炭火力を廃止する必要がある」と述べているように、国際的には石炭火力をいかに削減していくのかという段階に入っている。石炭火力発電の割合が高いドイツでは、脱石炭法により、補償を伴った閉鎖によって石炭火力を減らしつつある【*】。石炭火力自体を早急に削減・廃止していく必要があるが、バイオマス混焼が石炭火力の延命につながるのではないかと批判されている。

2)大量のバイオマスが必要であり、持続可能な方法で調達することが困難

英国のドラックス社は、石炭火力発電を改修しバイオマス専燃発電に転換した。その結果、調達先となった北米では、森林を伐採したペレットが大量生産され、大規模なペレット工場の周辺では、広葉樹林が純減している。英国は、こうした問題から石炭火力のバイオマス専燃化を促す政策を変更した。

3)熱利用の方が温暖化対策効果が高く、希少価値がある

新燃料として認められた作物残さも、現状では他の再エネでは供給が困難な中高温の産業用熱利用として使う方が社会的有用性が高いと考えられる(トピックス2 参照)。さらに、運搬するコストとエネルギーを考慮すれば、生産地近くで使う方が合理的である。

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以上のように石炭火力への混焼あるいは専燃化は、限られた量のバイオマスの使い道としては適切でないと言えよう。

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5. 2022年のバイオマス発電の状況

2012年に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が開始して以来、バイオマス発電の認定量・稼働量は急増した。2022年4月よりフィード・イン・プレミアム(FIP)制度も始まり、2022年6月時点でFIT/FIP制度により、計560カ所、361万kWのバイオマス発電所が稼働し、同じく895カ所835万kWが認定されている。稼働容量の2/3、認定容量の8割強が主に輸入バイオマスを燃料とする一般木材バイオマスの区分となっている(図3、表3)【*4】

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図3:再生可能エネルギー固定価格買取制度におけるバイオマス発電の稼働・認定状況

図3:再生可能エネルギー固定価格買取制度におけるバイオマス発電の稼働・認定状況

出典:資源エネルギー庁資料【*5】よりNPO法人バイオマス産業社会ネットワーク作成

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表3:FIT/FIPにおけるバイオマス発電稼働・認定状況

(新規 2022年6月末時点)

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出所:資源エネルギー庁Website

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一般木材バイオマス発電の稼働が相次ぐなか、アブラヤシ核殻(PKS)や木質ペレットの輸入がさらに増加した。PKSは2021年の435.4万トンから2022年の510.3万トンへ、木質ペレットは311.7万トンから440.8万トンへと増加した。伸びがやや鈍ってきたPKSに対し、ペレットは前年比41%の大幅な増加となっている。PKSの平均CIF価格は20.1円/kg、ペレットの平均CIF価格は30.5円/kgと2021年の14.8円/kg、19.7円/kgから大幅に上がっている。

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図4:PKSおよび木質ペレット輸入量の推移

図4:PKSおよび木質ペレット輸入量の推移

出典:On-site Report No.548ほかよりNPO法人バイオマス産業社会ネットワーク作成

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コラム② 2022-2023年に稼働した主な木質バイオマス発電

2022-2023年にかけて稼働した主な木質バイオマス等の発電事業は、下記のとおりである。経済産業省の事業計画認定情報Webサイトでの情報開示が進み、運転開始報告年月も閲覧できるようになった。近年稼働した案件では、2000kW以下の小規模と輸入バイオマスを主な燃料とする大規模発電にほぼ二分され、小規模では、当初から熱利用が計画される事例が増えている。

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表:2022-2023年に稼働した主な木質バイオマス発電

所在地 発電事業者名 規模 稼働時期 FIT
認定
備考
北海道
網走市
合同会社網走バイオマス第2発電所 9,900 2022年
10月
未利用 WIND-SMILE、石油資源開発他 道産木質チップ 20.9着工
北海道
苫小牧市
勇払エネルギーセンター合同会社 74,950 2023年
2月稼働
一般 日本製紙勇払事業所、双日。国内外の木質チップ、PKS、未利用材
岩手県
花巻市
紫波グリーンエネルギー株式会社 45 2022年
2月
未利用  
宮城県
大崎市
株式会社ウェスタ・CHP 49 2022年
2月
未利用  
山形県
上山市
山形バイオマスエネルギー株式会社 1,960 2022年
7月
未利用 間伐材、剪定枝。ニュートラスト
福島県
平田村
平田バイオエナジー合同会社 1,990 2022年
6月
未利用 四国電力、岩堀建設工業
福島県
いわき市
エイブルエナジー合同会社 112,000 2022年
4月
一般 エンビバ社木質ペレット約44万トン エイブル、関西電力、九電工
茨城県
大子町
大子リニューアブルエナジー株式会社 1,166 2022年
4月
未利用 エジソンパワー だいご森林の発電所
茨城県
神栖市
大林神栖バイオマス発電株式会社 51,500 2022年
2月
一般 木質ペレット、PKS
新潟県
村上市
株式会社ミナミインターナショナル 50 2022年
7月
未利用  
静岡県
裾野市
株式会社裾野グリーンエナジー 165 2022年
5月
未利用  
静岡県
富士市
鈴川エネルギーセンター株式会社 112,000 2022年
7月
一般 木質ペレット 2016年石炭火力として運転開始
富山県
高岡市
伏木万葉埠頭バイオマス発電合同会社 51,500 2022年
7月
一般 木質ペレット等。東京ガスが取得
岐阜県
瑞浪市
株式会社都市整備 300 2022年
5月
未利用  
愛知県
名古屋市
名古屋港木材倉庫株式会社 1,990 2022年
1月
廃棄物 廃木材、剪定枝が主燃料
愛知県
武豊町
株式会社JERA 1,070,000 2022年
8月
一般 石炭混焼 17%木質アドバンスドペレット50万t 武豊火力5号機
兵庫県
加古川市
ベナート株式会社 1,920 2022年
11月稼働
廃棄物 廃食油
和歌山県
新宮市
株式会社エフオン新宮 18,000 2022年
3月
未利用 18万t 
和歌山県
有田川町
有田川バイオマス株式会社 900 2022年
10月稼働
一般  
鳥取県
境港市
合同会社境港エネルギーパワー 24,300 2022年
10月
一般 東京エネシス。PKS、バーク、木質ペレット
鳥取県
米子市
米子バイオマス発電合同会社 54,500 2022年
4月
一般 マレーシア、インドネシアからPKS23万t、木質ペレット
島根県
津和野町
津和野フォレストエナジー合同会社 480 2022年
9月
未利用  
山口県
下関市
下関バイオマスエナジー合同会社 74,980 2022年
2月
一般 木質ペレット約30万t 九電みらいエナジー他
山口県
周南市
周南パワー株式会社 300,000 2022年
6月
一般 混焼 丸紅参画 トクヤマ
愛媛県
内子町
株式会社内子龍王バイオマスエネルギー 363 2022年
10月
未利用 廃熱は温泉、プールに
高知県
本山町
エフビットコミュニケーションズ株式会社 1,990 2022年
4月
未利用 間伐材。電気、熱、CO₂のトリジェネレーション 2021年4月着工
福岡県
苅田町
バイオパワー苅田合同会社 74,950 2022年
2月
一般 木質ペレット等 関西電力
熊本県
八代市
株式会社日奈久バイオマス 1,750 2022年
8月
未利用 イワハラ 廃熱で果物ハウス栽培、フグ養殖
熊本県
菊池市
九州再生エナジー株式会社 6,250 2022年
3月
未利用 未利用材、製材端材、建設廃材 22.4竣工

出所:経済産業省事業計画認定情報Webサイト他より NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク作成

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コラム③ カナダにおける木質ペレット生産の現状と課題

日本の木質ペレット輸入量は2012年のFIT開始後、2022年までに61倍の441万トン超にまで増加した。カナダは2019年にベトナムに抜かれるまで日本の木質ペレット輸入先第1位で、それ以降も輸入量第2位を保っている。カナダのイメージは、広大な森林や氷河、野生動物など豊かな環境に恵まれ、「自然と調和した生活をしている国」が一般的ではないだろうか。

実際カナダは世界第3位の森林面積を持ち、特に日本向けにペレットを輸出している西海岸のブリティッシュコロンビア(BC)州では、日本の3倍もある広大な土地に沿岸部の温帯雨林、高地の砂漠、北方林、世界的にも貴重な内陸温帯雨林など極めて多様な自然環境が発達している。林産業が主要産業で輸出額の3割を占めるBC州では、1980年代から原生林(Primary Forest:樹齢に関わらず工業的伐採を受けたことのない森林)や老齢林(Old Growth:内陸部では140年生以上の樹木が含まれる原生林)の皆伐が問題となってきた。日本ではほぼ報道されていないが、近年でも原生林伐採に反対する大規模なデモが繰り広げられ、多くの逮捕者が出るなど、環境保護と林産業の間に深い軋轢がある地域でもある。

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日本で活動する日米NGOメンバー5名がブリティッシュコロンビア州のペレット生産現場を訪問したのは、2022年9月半ばである。前半はバンクーバーで環境NGOから解説を受けたのち、カナディアンロッキーから西の原生林の様子や製材向け伐採現場、原生林の伐採に反対している地域コミュニティや元林業労働者、先住民族のリーダーと交流し、ペレット工場を視察した。後半はプリンスジョージを拠点に3日間かけて原生林や老齢林、ペレット企業による伐採予定地や伐採跡地などを訪問した。近年ペレット工場が次々建設されているのは主に内陸温帯雨林エリアで、州全体では13カ所あり、合計の生産能力は200万トン、原料となる木材は520万立米に上る。生産量は15年で4倍に増えている。

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Drax社のウィリアムズレイク(年産21.5万トン)とメドウバンク(同23万トン)のペレット工場を訪問したが、事前に申請した内部の視察は認められず、外側からの視察となった。ウィリアムズレイクは街中にあり、工場の規模も敷地も小さく原料はチップのみを利用していた。対象的に、付近に森と牧草地しか存在しないメドウバンクのペレット工場では、広大な敷地内に大量の丸太が積み上げられていた。丸太は小径のものが多く、いわゆる未利用材と思われた。Drax社のペレット原料の約8割は製材端材だが、残る2割程度は「低質材・未利用材」であるとして、森林から直接ペレット原料を得ている。米国南東部で聞いたような、ペレット工場周辺のコミュニティからの粉塵や大気汚染被害といった公害は、BCでは問題となってはいないとのことだった。

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製材か丸太、あるいはチップを積んだ多くの大型トラックとすれ違いながら、プリンスジョージを起点に原生林の残る地域へ向かい、伐採反対の運動により森林が保護されたAncient Forest Trailに着いた。そこでは樹齢1000年~2000年以上と推定される巨木を見るために森の中に木道が整備され、たくさんの倒木と苔生した林床、様々な大きさの若木が守られていた。

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市民の手で守られた老齢林からさほど離れていないところに、ドラックス社に吸収されたパシフィック・バイオエナジー社の伐採予定区画があった。1000年とはいかないまでも、樹齢150~200年ほどの木々があり、倒木や分厚い苔に覆われた林床、何者かにかじられたキノコなど自然のままの森の様子は、保護区とさして変わりはない。

「枯れ木はそれが立ったままでも倒木でも、生きている樹木と同じように複雑な生態系の一部であり、昆虫、鳥、哺乳類など、多くの生き物にとって重要な役割を担っている。」現地を案内してくれたボランティア団体Conservation NorthのMichelleが話してくれた。苔に覆われた林床は、歩くとふかふかと柔らかい弾力がある。いつ倒れたのかわからない古い倒木の上にも苔が生え、その上に小さな木が育っている。倒木は長い時間の間に様々な生き物を育てながらゆっくりと土に還っていく。数百年かけて樹木が蓄えた炭素は大気に戻る部分もあれば、次世代の生き物たちの体に取り込まれ新たに生態系を支えていく部分もあるのだ。その循環にどれくらいの時間がかかるだろう。

いつ伐採されるとも知れない森の中に作られた伐採道の水たまりに、子熊の足跡が残っていた。数日前にミシェル達が下見に来た際に見かけたブラックベアの親子のものだろうという。伐採が進めば、クマたちの生きる場所はさらに小さく、分断されていくことになる。

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翌日ミシェル達の案内でドラックス社の伐採跡地を訪問した。プリンスジョージから3時間ほど北に走り、道沿いにはまばらな林とマツの植林地、湿地帯と湖などが交互に見える。町や村からだいぶ離れ、伐採道を進んだ先に皆伐地が現れた。緩やかな裸の斜面は細長い木々がたくさん倒れている。無造作に集められた巨大なキャンプファイヤーのように見えるものもあれば、地面にそのまま放置されているものもある。「ペレットの原料は林地残材だとペレット産業は言うけれど、ここに残されているのは林地残材そのものです」とミシェル。今後集材に来る予定があるならば、残材はもっと整理されているはずで、林地に放置されている現状からは、集材予定があるとは考えられない、という。

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ペレット企業によって伐採されたカナダの老齢林

ペレット企業によって伐採されたカナダの老齢林

写真提供:地球・人間環境フォーラム

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伐採地の間に小さな谷があり、沢の両側が数十メートル、伐採されずに以前の森の姿を残していた。沢まで下りるにはいくつもの倒木を跨ぎ、苔に覆われた柔らかな林床は昨日歩いた森と何も変わりはない。細いが樹高が高く、やはり100年以上この場所に立っているであろう木々の間に獣道があり、苔の上にヘラジカの大きな足跡が残っていた。

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この1,2年の間に伐採されたという皆伐地の斜面を登っていくと、少し前まで沢沿いの森とあまり変わらなかったであろう地面は、短い間に石がむき出し、ヤナギランなど森の中には生えないパイオニア植物が増えてきている様子がうかがえた。苔や地衣類や森の湿った林床を好む植物たちは、水分がたまりやすいわずかな窪みに辛うじて生き残っていたが、寒さや乾燥にさらされていつまでも生き延びられるとは思えなかった。

斜面の上で振り返ると、250ヘクタールほどあるという広大な皆伐地がモザイク状に広がっているのが見える。ところどころにコットンウッドという広葉樹が伐り残されて旗竿の様に立っていた。広い伐採地に不釣り合いに小さな、15センチほどのマツやトウヒの苗がまばらに植えられていた。既に黄色や茶色に変色して枯れているものもある。BC州では森林伐採後の植林が義務付けられており、苗のモニタリングと補植も行われると聞いた。しかしこの小さな苗が、伐採される前の森、苔生して自然に再生を繰り返す森林に回復するには数百年はかかるだろう。激化する気候変動の影響で、カナダでも森林火災や洪水が頻発している。そういった災害を越えて生き残り、本当に森が再生するのか疑問をもつ光景だった。

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BC州の内陸温帯雨林は通常は雨量の少ない内陸部に発達した、世界的にも貴重な生態系であり、森林トナカイなど森に依存した大型野生動物の生息地としても重要な役割を担っているだけでなく、樹木と地下に膨大な炭素をストックしている。図にあるように、天然林と人工林の炭素ストック量は3倍以上違う。しかしBC州では生物多様性や土壌保全よりも木材生産が優先されており、2020年に政府の専門家がまとめた「老齢林戦略レポート」で提言された、老齢林の保全と健全な生態系の管理をめざすパラダイムシフトは3年経った現在も実施されていないという。またBC州の木材生産量は1980年代の年9000万立米から4割減となり、今後も減少が見込まれるなど、森林資源が枯渇しつつあると指摘されている。

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図4:PKSおよび木質ペレット輸入量の推移

図:米大陸温帯山系地上部のバイオマス量

出典:IPCCガイドラインよりバイオマス産業社会ネットワーク作成

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BC州の木質ペレット原料の8割は製材残材であるとしても、原生林や老齢林が製材原料となっており、残り2割は「製材としての価値が無い」ことで未利用材・低質材とされる森林からの一次原料である。このようなペレットを「再生可能エネルギー」として木質バイオマス発電所で燃やし続けることは合理的だろうか。現地NGOは言う「木を植えることはできても、森を植えることはできない」。再生可能エネルギーの定義を見直す必要がある。

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<地球・人間環境フォーラム 飯沼 佐代子>

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コラム④ 米国のペレット産業の現状と課題

現在、米国南西部において、年産50万トンを超える大規模なペレット工場が次々に建設されている(図)。米国の世界最大の木質ペレット製造企業エンビバ社は2025年の長期契約の約半分350万トン以上を日本企業と締結し、さらに電源開発と石炭混焼向けに最大500万トンの供給の覚書を交わしている。

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図4:PKSおよび木質ペレット輸入量の推移

図:米国南西部の木質ペレット工場(図をクリックで拡大)

作成:Southern Environmental Law Center, SELC
原図

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筆者らは、2022年5月に米国南西部を視察したが、いたるところで小規模の皆伐が行われていた。これらには製材向けやパルプ向けのための伐採も含まれるが、今後、エンビバ社が850万トン以上の木質ペレットを日本に輸出するのであれば、そのほとんどの原料を、ペレット工場の半径50~100km圏内の森林から調達することになる。エンビバ社のペレット工場周辺では自然林(広葉樹林)が純減している【*1】。天然林伐採後、マツなどが植林されることが多いが、炭素蓄積量や生物多様性に劣る人工林が拡大している【*2】。炭素蓄積は減少していないという別の研究もあるが、現在は森林の炭素蓄積の増加が必要とされており、生産・加工・輸送でも温室効果ガスを排出し、燃焼によってCO₂が一瞬で大気中に放出される木質ペレット利用が温暖化対策として適切かどうか、再度検討する必要があろう。

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米国大西洋岸平野は生物多様性ホットスポットで、ボブキャットなどの大型哺乳類、鳥類、爬虫類、昆虫、魚類、植物など多様な生態系があるが、絶滅の危機に瀕している種もある。木質ペレット生産のための大量の木材調達が、この地域の生物多様性にもたらす影響が懸念されている【*3】。年間850万トンのペレット生産には東京23区より広い8万haの森林にある木材が必要であり、FITによる買取期間の20年間、調達が続くことが予想される。

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ペレット工場は24時間操業で動いており、ペレット工場には、数分ごとに木材を満載したトラックが出入りしていた(目次写真)。ペレット工場の敷地内にはおがくずが山のように積まれているが、防塵カバーがかけられていない。ペレット工場は黒人などマイノリティのコミュニティ、つまり所得が低く、大学進学率が低く、トラブルがあっても訴訟などについての知識が乏しい人々のそばに主に建設されており、「気候正義」の観点からも持続可能性の問題を有していると考えられる。近隣への騒音や粉じんの被害が生じており、近隣住民は、不眠、悪臭、のどの痛み、喘息の悪化などを口々に訴えた。エンビバ社やドラックス社は大気汚染違反で何度か罰金を科せられているが、健康影響を定量化する研究およびそれに基づく規制が早急に必要だと考えられる【*4】。これは米国の問題であると同時に、輸入し利用する日本もまた認識し対処すべき問題であろう。

<NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>

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