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2020年の動向

2 国内の動向

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1. バイオマス利用等の概要

環境省が発表した2019年度の温室効果ガス排出量(確報値)によると、総排出量は12億1,200万トン(CO₂換算)で、前年度比2.9%減だった【*20】。減少要因としては、エネルギー消費量の減少や再生可能エネルギー電力導入拡大が挙げられる。資源エネルギー庁が発表したエネルギー需給実績(速報)によると、2019年度の発電電力量10,247億kWhのうちバイオマス発電量は262億kWhで、前年度比10.8%増加した【*21】

林野庁木質バイオマスエネルギー利用動向調査によると、2019年にエネルギーとして利用された木質バイオマスの量は、木材チップが942万絶乾トン(前年比1.3%増)、木質ペレットが99万トン(同35.4%増)、薪が5万トン(1.1%減)、木粉(おが粉)が43万トン(16.2%増)で、木材チップのうち間伐材・林地残材等に由来するものは303万絶乾トン(10.4%増)だった。また、木質バイオマスを利用する発電機の数は346基(前年から56基増)、ボイラーの数は2,069基(同5基増)だった【*22】

日本木質ペレット協会は、2020年12月、国内の燃料用木質ペレット製造事業者の現状についてアンケート調査結果を公表した【*23】。回答した56工場のペレット単価、販売先、JAS規格についての意見等がまとめられている。工場の稼働時間では、63%が1,500時間未満と回答している。

全国油脂事業行動組合連合会は、廃食用油のリサイクルの流れを更新した【*24】。それによると、2020年度の食用油国内消費量248.2万トンのうち廃食用油となるのが事業系で42万トン、家庭系で10万トン。事業系のうち38万トンが回収され、飼料原料に22万トン、工業原料に6万トン、燃料原料に1万トン、それとは別に燃料原料として9万トンが輸出されている。この他、動物油脂18万トンが飼料用油脂として利用されている。他のバイオマスと同様に、廃食用油もカスケード利用が望ましく、燃料として利用されるのは一部となっている。

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2. 政策の動向

2020年10月、菅義偉総理は就任後初の所信表明演説で、「我が国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことをここに宣言する」と表明した。2021年3月、2050年までの脱炭素社会の実現を理念とする地球温暖化推進法改正案が閣議決定された。第204回通常国会での成立を目指す【*25】

2020年12月、経済産業省は2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定した(P17-18参照)。2050年には発電量の約50~60%を再エネで賄い、残りは水素、アンモニア発電、原子力、CO₂回収前提の火力としている。これを参考値とし、今後は複数のシナリオで2050年のカーボンニュートラル達成の方法について引き続き議論を進める方針。同じく経済産業省は、2021年2月より世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会を開催し、炭素税など炭素排出に価格をつける政策、カーボンプライシングを議論している【*26】。環境省もカーボンプライシングの活用に関する小委員会を開催し、検討を行っている。カーボンプライシングは一国あるいは特定地域のみで実施すると、企業の競争力に影響することから、国際的な協調が求められる。欧州では国境調整措置を検討、6月までに制度詳細を公表し、2023年までに導入を目指しており、米国バイデン政権も公約の中で国境調整措置に触れている【*27】。また、温室効果ガス排出削減に資する技術開発の促進に向けて、新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)に2兆円規模の「グリーンイノベーション基金」を新設する【*28】

2021年3月、林政審議会が開催され、森林・林業基本計画の変更の骨子案が示された【*29】。2030年の燃料材の総需要量の見通しを1,600万m3、そのうち国産材利用量の目標を900万m3としている。経済産業省と林野庁は、「林業・木質バイオマス発電の成長産業化に向けた研究会」を2020年7月から10月にかけて開催し、木質バイオマス熱利用の推進や、広葉樹や早成樹の活用について強調する報告書を公表した【*30】

農水省と経産省によって推進されている地域内エコシステム事業の一環で、2021年「令和2年度地域内エコシステム導入の手引き」が発行された。これまで全国31カ所で木質バイオマスエネルギー利用の実現に向けた実現可能性調査や地域のビジョン共有、合意形成支援を行っている【*31】

2021年、環境省は令和2年度ばい煙発生施設影響評価検討会を開催した。検討の結果、大気汚染防止法によるボイラー規制について、政令改正により伝熱面積の要件が撤廃され、バイオマスボイラーの規制緩和につながると考えられる【*32】

2021年3月環境省などは、バイオプラスチッック導入ロードマップを策定した【*33】。バイオプラスチックに関係する幅広い主体に向け、持続可能なバイオマスプラスチックの導入方針と導入に向けた国の政策を示している。

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図7:バイオプラスチック製品の導入イメージ

図7:バイオプラスチック製品の導入イメージ【*33】

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3. 民間・新規ビジネスの動向

2020年11月、日本経済団体連合会は、2050年カーボンニュートラルを目指すべき社会と設定する「新成長戦略」を発表した【*34】

脱炭素社会の実現を目指す170社以上が参加する企業グループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップは2021年3月、「2030年までに国内のGHG排出量を2013年比50%以上削減」を掲げることを求める「日本の温室効果ガス排出削減の中期目標に対する意見書」を公表した【*35】

日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)は、2020年12月、次世代林業モデル実現へ政策提言を行った【*36】。木質バイオマス発電の熱が未利用であり有効活用の推進についてや、木質燃料のJAS認証の普及についても指摘している。

四電ビジネスは、2021年4月、バイオマス発電所の運転管理を主たる業務とするYBパワーサポートを設立した【*37】

IHIおよびIHIプラントは、2021年3月、矢代バイオマス発電所の設計、調達、建設業務を請け負うEPC工事および運転開始後20年間にわたる運転・保守業務を受注した【*38】

建設技術研究所とくりこまくんえんが出資するウェスタ・CHPは、宮城県で木質燃料製造販売、乾燥用熱供給、住宅用熱供給、FIT売電のバイオマス事業を開始する【*39】。熱200kW、発電90kWのコジェネレーションを行い、熱は住宅に供給し、電力はFITで東北電力に販売する。

秋田県三種町では、もみがらエネルギーが初期費用を負担し、燃料で回収するエネルギーサービス契約により、町の負担なしで町所有の温浴施設「砂丘温泉ゆめろん」に、もみがらを燃料としたバイオマスボイラを導入した【*40】。災害時には、避難住民に対し温浴施設を開放する。

ダイセンは、北海道でバイオマス発電所から発生する木質焼却灰を採石場の埋め戻し材などに再利用するリサイクルプラントを2022年に稼働させる予定である【*41】

鹿児島県錦江町と京セラ、おおすみ半島スマートエネルギーは、2021年、木質バイオマス発電を活用した公共施設間の自己託送に関する実証実験の協同研究を開始する。これまで夜間に余っていたバイオマス電力を、錦絵町役場本庁舎へ自己託送する【*42】

オリックス自動車は2020年11月、木質バイオマス発電所の再エネ価値を証書化した「トラッキング付非化石証書」を活用した電力供給を受けることで、本社ビルで使用するすべての電力の100%再エネ化を実現した【*43】

ENEOSホールディングスは、2020年11月、ENEOSバイオパワー室蘭のバイオマス発電所建設資金のファイナンス資金としてグリーンボンド150億円を調達する。利率は0.02%【*44】

豊橋市、JFEエンジニアリング、豊橋信用金庫は、地域新電力「穂の国とよはし電力株式会社」を設立し、2021年2月より電力小売り業を開始した【*45】。新会社は、豊橋市バイオマス利活用センターでの下水汚泥、し尿・浄化槽汚泥および生ごみのメタン発酵によるバイオマス発電電力を中心とする地域内の再生可能エネルギーを調達し、市内の公共施設に供給する。

テス・エンジニアリングは、2021年1月、ドイツのボイラーメーカーのコールバッハ社と同社製バイオマスボイラの日本での販売・アフターサービス提供に関するパートナーシップ協定を締結した【*46】。同社のボイラーは樹皮(バーク)の燃焼も可能である。

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4.バイオマス導入事例

大分県日田市では、日田資源開発が日田地区の製材工場や原木市場からバーク(樹皮)を集めて蒸気をつくり、それを協同組合KD日田へ販売し、木材の人工乾燥機に利用している。従来の重油に比べ半分のコストですみ、KD製材品の生産量が増加した【*47】

埼玉県飯能市にある学校法人自由の森学園は、2021年1月、244kWの薪ボイラーを導入した。地域の製材工場で発生する端材、間伐材、剪定木等を購入し、薪に加工して学生寮の給湯用に使う。中高生が薪をくべる実践型環境教育と、災害時における避難者受け入れ態勢を構築する【*48】

北海道当別町では、町と町内事業者・団体などにより「当別町木質バイオマス地域アライアンス」を設立した。西当別小学校・西当別中学校に木質チップボイラーを導入し、2022年に開校するとうべつ学園でも木質チップボイラーを導入する予定で、「エネルギーの地域循環」がスタートする【*49】

エア・ウォーター北海道は、牛をつなぎ飼いしている小規模酪農家から出る、わら入りのふん尿を使う乾式メタン発酵プラントを共同で開発した【*50】

東北おひさま発電は、2020年10月、米沢牛のふんで発生させたメタンガス発電を行う「ながめやまバイオマスガス発電所」を稼働させた。発電規模は500kW。肉牛のふんは水分量が少なく発酵が難しいとされてきたが、液肥を混ぜることで課題を克服した【*51】

パナソニックは、白色で顔料着色も可能なセルロース繊維の含有率を70質量%に高めたプラスチックを家電部品やコップなどに実用化している【*52】。日本製鋼所は日本製紙と共同で、木材を高配合した樹脂複合材料(トレファイドバイオコンポジット)を開発した。従来よりも耐熱性や成形性に優れ、プラスチック使用量を50%以上削減できるとしている【*53】

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コラム⑦ 広葉樹の活用

日本の面積の2/3を占める森林のうち、6割は広葉樹を中心とする自然林である。かつては薪炭林として使われていたこの広葉樹林は、製紙用チップやシイタケのホダ木をのぞくと、ほとんど利用されない時代が続いていたが、近年、この広葉樹林の利用への関心が高まっている【*1】。

日本木質バイオマスエネルギー協会が林野庁事業で行った調査によると、民有林の広葉樹林のうち国立公園の指定や保安林等の制度による伐採制限がないのは、日本の森林面積の約19%、約15億㎥の材積(幹部分)があると推定される【*2】。岡山県の真庭木材事業組合が、伐採が進んでいない広葉樹の発電向けチップ化を行っているように、民間事業者による広葉樹活用も行われている。

北海道白老町の大西林業では、ほとんど補助金に頼らず、薪、木酢液、木炭、森林管理、キャンプ場、ハンティングツアーなど広葉樹林を活用したビジネスを展開し、12名を雇用している【*3】。チップと比較してシイタケのホダ木は4.8倍、薪は6.8倍の販売価格であり、同社の製品で最も利益率が高いのは、木酢液である。

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薪
ホダ木

薪(上)とホダ木(下)

(写真提供:大西林業)

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常々言われているように、バイオマス利用は木材の最も価値の低い利用であり、地域ビジネスを展開するのであれば、そうしたより付加価値の高い利用から進めるのが王道であろう。

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