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はじめに  あるべきものを、あるべきところに

いよいよ、日本も2050年カーボンニュートラルに向けて動き出した。2021年4月の気候変動サミットで菅首相は、温暖化ガス排出を2030年に2013年度比で46%削減をめざすと表明した。

気候変動は世界大戦なみの甚大な被害を及ぼす、人類にとって最大の課題の一つであり、こうした動きは歓迎すべきである。だが、精査された政策が行われないと、むしろ逆効果となるおそれがある。水素やアンモニア発電、CCSといった新技術に頼る前に、再生可能エネルギー熱や徹底した断熱など、既存技術でも普及が進んでいない、効果の高い対策がある。

例えば、現在のFIT制度では、2000kWの未利用木質バイオマス発電に対し、約3万トン/年の木質チップが使われ、20年間で120億円程度の賦課金が支払われる。4000kWの産業用バイオマスボイラーの事例【*1】では、2.5億円の補助金を得て導入され、使われる木質チップの量は1.1万トン/年だが、2000kWのバイオマス発電の発電効率よりボイラー効率が3~4倍であることから、利用できる熱量はより大きく、CO₂削減効果もより大きい。3万トンの木質チップがあれば、こうしたバイオマスボイラーをあと2基程度導入できる計算になる。このように費用対効果等を精査しながら、限られた資金を振り向けるべきではないか。

そもそも日本では、従来エネルギー=(イコール)電力、という考え方が強く、これまで再生可能エネルギー導入も電気が先行したが、最終エネルギー需要の半分を占める熱需要の再エネ化なしに、カーボンニュートラルは実現できない。2030年の目標達成のためにも、「脱炭素化に向けた熱ロードマップ」の策定は有効ではないかと考えられる。(【*2】 再生可能エネルギー熱普及に向けて参照)

さて、2020年は経済産業省の持続可能性ワーキンググループでの議論に進展が見られたが、より加速させていく必要があろう。5万kW、7万5000kWといった大型バイオマス発電所が次々稼働し、木質ペレットなどの輸入も急増している。廃棄物や残渣ではないバイオマスの利用が、持続可能性の推進という目的にかなうのか、慎重に判断しながら取り組んでいくべきだろう。

その一方で、バイオマス熱利用のためのビジネススキームの広がりも見えた一年だった。(P24)ESCO事業や熱売りなど、様々なビジネスが広がり始めており、こうした動きが一層広がることが望まれる。

国内の広葉樹の利用にも注目されるようになってきたが、森林資源の数ある利用方法のなかでエネルギー利用は最も価値の低い利用であり、地域の雇用や活性化のためであれば、より付加価値の高い利用法に優先順位をおくべきだろう。例えば北海道の大西林業では、ほとんど補助金に頼らず、薪、木酢液、木炭、森林管理、キャンプ場、ハンティングツアーなど広葉樹林を活用したビジネスを展開し、12名を雇用している(コラム⑦)

海洋プラスチック問題の広がりから、バイオマスプラスチックへの関心が高まっている。ただ、バイオマスプラスチックは生分解性とは限らない。海洋プラスチック問題の解決は、人間や生態系にとって重大な影響のあるものから優先順位をつけて取り組むべきであろう【*3】

このように、あるべきものをあるべきところに配分しつつ、コストパフォーマンスよく持続可能な社会への道筋をたどるべく、今年も活動を行っていきたいと考える。

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<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>

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