2012年に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が開始して以来、バイオマス発電の認定量・稼働量は急増した。同制度により2020年9月時点で、計446カ所、244万kWのバイオマス発電所が稼働し、同じく709カ所822万kWが認定されている。稼働容量の6割強、認定容量の9割弱が主に輸入バイオマスを燃料とする一般木材バイオマスの区分となっている(図1・表1、図2)【*1】。
図1:再生可能エネルギー固定価格買取制度における
バイオマス発電の稼働・認定状況
出典:資源エネルギー庁資料【*2】よりNPO法人バイオマス産業社会ネットワーク作成
表1:再生可能エネルギー電力固定価格買取制度(FIT)における
バイオマス発電稼働・認定状況
(新規・2020年9月末時点)
メタン 発酵 |
未利用木質 | 一般木材 | リサイクル 木材 |
廃棄物 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
2000kW 未満 |
2000kW 以上 |
||||||
稼働 件数 |
195 | 36 | 43 | 59 | 5 | 108 | 446 |
認定 件数 |
241 | 102 | 51 | 179 | 5 | 131 | 709 |
稼働 容量 kW |
65,584 | 25,521 | 383,637 | 1,495,868 | 85,690 | 382,248 | 2,438,548 |
認定 容量 kW |
97,942 | 84,964 | 456,237 | 7,048,792 | 85,690 | 441,438 | 8,215,063 |
出所:資源エネルギー庁Website【*2】
一般木材バイオマス発電の稼働が相次ぐなか、アブラヤシ核殻(PKS)や木質ペレットの輸入が急増した。PKSは2019年の245万トンから2020年に338万トンへ4割近く増加し、木質ペレットは161万トンから203万トンへと大きく増加した。
図2:PKSおよび木質ペレット輸入量の推移
出所:On-site Report No.454 455他よりNPO法人バイオマス産業社会ネットワーク作成
(1)バイオマス持続可能性ワーキンググループでの検討
019年度から始まった、経済産業省総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会新エネルギー小委員会バイオマス持続可能性ワーキンググループ会合は、2020年度も8月から計4回開催され、食料競合、ライフサイクル温室効果ガス(GHG)、新たな第三者認証スキームの追加等について検討を行い、整理した内容を調達価格等算定員会に報告した【*3】。
表2:バイオマス持続可能性ワーキンググループからの報告
出典:調達価格等算定委員会 令和3年度以降の調達価格等に関する意見【*4】
検討項目 | 整理した内容(要旨) | 継続検討する内容(要旨) |
---|---|---|
食料競合 |
【判断基準】
|
|
ライフサイクルGHG |
論点を「算定式」、「排出量の基準」、「確認手段等」の3点に整理。 【算定式】
|
【算定式】
|
新第三者認証スキームの追加等 |
【新第三者認証の追加】
第三者認証機関における審査が想定以上に遅延していること等に鑑み、発電事業者が、第三者認証を取得したバイオマス燃料の調達のために必要と考えられる準備期間を確保するため、以下のとおり持続可能性確認に係る経過措置を延長。
|
【新第三者認証の追加】
|
この中では、食料との競合の観点から非可食かつ副産物のバイオマス種を食料競合の懸念がないものと判断している。すなわち主産物であるナタネ油、ポンガミア油、ジャトロファ油等はFITの新規燃料とならないと考えられる。
また、ライフサイクルGHG排出に関しても詳細な検討を行った。土地利用変化を含む炭素ストックの変化、栽培、加工、輸送、発電を算定対象とする【*5】とあり、例えば天然林から人工林に転換された場合の土地の炭素ストックの変化も考慮されるとみられる。
第三者認証スキームとしては、PKSとパームトランクに対し、GGLが新たに認められた。さらに詳細な検討は、2021年度に検討を行うこととしている。
(2)事業計画策定ガイドラインの改訂
バイオマス持続可能性ワーキンググループや調達価格等算定委員会での議論およびパブリックコメントを経て、2021年4月、事情計画策定ガイドライン(バイオマス発電)が改訂された【*6】。
先述以外の主な変更点としては、以下のようなものが挙げられる。
(3)FIPへの移行と地域活用要件
2020年6月に再エネ特措法の改正を含むエネルギー供給強靭化法が成立し、2022年4月からFIP制度が創設される。FIP制度の詳細は、経産省の二つの委員会の合同会議で詳細設計が行われている【*7】。
FIP(フィード・イン・プレミアム)制度とは:再生可能エネルギー発電事業者が電力卸市場への売却など市場価格で電力を販売する際に、プレミアムを上乗せする制度。売電単価に市場変動の要素を加味しつつ、プレミアム分だけ売電単価を高くすることで再エネの事業性を高め、かつ段階的に市場原理に近づけようとするもの。
調達価格等算定委員会では、2021年1月、令和3年度以降の調達価格等に関する意見をまとめ、バイオマス発電においても、2023年度以降早期に1,000kW以上をFIP制度のみ認めることをめざすこととしている。
また、一定規模未満のバイオマス発電等にFIT制度が適用される地域活用型要件について、自家消費型・地域消費型および地域一体型の具体的要件についても検討が行われた。(以下は、事業計画策定ガイドライン(2021年4月改訂版)からの抜粋。出典に下線はない。)
(1)自家消費型・地域消費型の地域活用要件
地熱発電、中小水力発電及びバイオマス発電の2022年度及び2023年度のFIT制度の新規認定に設定される地域活用要件は、次の①~③のいずれかを満たすこととする。
(2)地域一体型の地域活用要件
地熱発電、中小水力発電及びバイオマス発電の2022年度及び2023年度のFIT制度の新規認定に設定される地域一体型の地域活用要件は、次の①~③のいずれかを満たすこととする。
(4)バイオマス発電の今後の導入見込み量
総合エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会では、2050年も見据えて2030年の目標や政策の在り方についても議論を行った【*8】。2021年4月の第31回会合では、バイオマスのFIT既認定案件の導入見込みについて、以下のようにまとめた。
表3:2030年のバイオマス発電の導入見通し
出典:再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会第31回会合資料2
区分 | ①現時点導⼊量 | ②FIT既認定未稼働 | ③新規認定分の 稼働案件 |
合計(=①+②+③) | 現⾏エネルギーミックス⽔準 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
努⼒継続 | 政策強化 | 努⼒継続 | 政策強化 | ||||
⽊質系 | 184万kW | 211万kW | 31万kW | 39万kW | 426万kW | 434万KW | 335〜461万kW |
メタン 発酵ガス |
6万kW | 2万kW | 9万kW | 18万kW | 16万kW | ||
⼀般廃棄物 その他 バイオマス | 30万kW | 14万kW | 6万kW | 49万kW | 124万kW | ||
FIT前 導⼊量 |
230万kW | 127万kW | |||||
合計 | 4.5GW (451万kW) 262億kWh |
2.3GW (227万kW) 135億kWh |
0.5GW (46万kW) 27億kWh |
0.5GW (54万kW) 32億kWh |
7.2GW (723万kW) 431億kWh |
7.3GW (731万KW) 436億kWh |
6〜7.3GW 602〜728万kW) 394〜490億kWh |
再生可能エネルギー全体では、2030年の努力継続のケースで2,707億kWh、政策強化ケースで2,903億kWhとしている。
再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)のバイオマス発電の認定量の約9割は、輸入バイオマスを主な燃料とする一般木質バイオマス発電である。一般木質バイオマス発電の認定量の半分に当たる370万kWの発電所が稼働した場合、約6.5兆円の国民負担が生じる【*1】が、輸入バイオマスであるため地域経済への恩恵は限られ、エネルギー自給とならない。さらに、天然林を伐採した全木ペレットなども含まれ、遠距離を輸送することから温暖化対策効果にも疑問が持たれている。
こうした点を踏まえて、以下のような今後のFIT/FIPシナリオを提案する。
1)天然林を伐採した木材由来燃料はFIT対象としない。土地利用転換を伴うバイオマスは、石炭以上の排出となる(右図)。天然林を転換した植林地からの木材由来燃料についても、炭素ストックの減少や生物多様性の損失の観点から、FITでの支援対象から外す。
2)農産物と同じく、主産物の燃料(全木)は、バイオマスのカスケード利用の観点や炭素ストックの回復について確実性に欠けることから、FITの対象から外す方向で検討する。
3)輸入木質バイオマスの持続可能性を担保する方法として認証制度を用いる。持続可能性の内容については、パーム油の持続可能性基準に準じたものとする【*2】。
4)ライフサイクルGHGの目標値を国際エネルギー機関(IEA)のパリ協定の目標を実現させるためのSD(持続可能な開発)シナリオで2040年に世界全体で達成される必要がある値とされる27.1gCO₂-eq/MJ-Electricity(=97.6gCO₂-eq/kWh)【*3】とする。
5)以上を踏まえ、未稼働の輸入燃料による木質バイオマス発電は、できるだけ稼働しないよう誘導する。FIT一般木質バイオマス発電(1万kW以)に関し、GHG基準が検討中であることをふまえ、開始期限を当面、延長する。
図:土地利用転換を含む熱帯林アジア大陸産チップおよび
ペレットによる電力のCO₂排出量と化石燃料による電力のCO₂排出量
(出典より著者作成)
※樹種はユーカリ。ペレットの加工は生チップボイラ
1)発電事業者が、発電した電力のkWhあたりのGHGを毎年測定し、経産省に報告し算定根拠とともに公表する。
2)持続可能性WGでライフサイクルGHG目標を年限を区切って設定し、段階的に引き下げる。
当初は、ライフサイクルGHG排出をLNGコンバインド火力比50%とし、将来的には国際エネルギー機関(IEA)のSDシナリオで2040年に世界全体で達成される必要がある値とされる27.1gCO2-eq/MJ-Electricityを目安とすることが考えられる。(図2)
3)燃料は加重平均とはせず、基準値を超えた燃料はFIT対象としない。
図:バイオマス燃料のライフサイクル温室効果ガス排出試算
※経済産業省バイオマス持続可能性ワーキンググループ第1回資料5に著者加筆
1)EUのように一定規模(例えば1万kW未満)については、GHG目標値を努力目標とする。
2)新規についてはデフォルト値を設定した上で、GHG目標値を設定する。(熱電併給により達成可能なレベル)
3)2000kW未満は、地域の残材を積極的に活用するため、農山漁村再生可能エネルギー法の枠組みを活用し、未利用木質の枠をはずす。
特に新設について熱利用の拡大を促す。(廃棄物のためGHG排出量は低いと考えられるが、利用効率は上げた方がよい。またこれらは、熱電利用だけでなく、将来的には輸送用燃料としての利用も考えられる)
<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>
2020年-2021年にかけても、多数のバイオマス発電所が稼働した。2020年から2021年にかけて稼働した主な木質バイオマス発電は、下記の通りである。
表:2020-2021年に稼働した主なバイオマス発電
都道府県 | 市町村 | 事業主体 | 規模kW | 規模* | 稼働 時期 |
FIT認定 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 釧路市 | 釧路火力発電所 | 112,000 | 34,720 | 2020.12 運転開始 |
一般木材 | 石炭混燃 IDI、 釧路コールマイン他 |
宮城県 | 大崎市 | サステナヴィレッジ鳴子 | 49 | 49 | 2021.11 稼働 |
コジェネ。 熱は住宅の 冷暖房・給湯に利用 |
|
山形県 | 上山市 | 山形バイオマスエネルギー | 1,960 | 1,960 | 2021.4 試運転 |
未利用材 | 間伐材、剪定枝。 ニュートラスト 19.2爆発事故 |
福島県 | いわき市 | 小名浜バイオマス発電所 | 75,000 | 75,000 | 2021.4 営業運転開始 |
一般木材 | PKS、木質ペレット (北米、東南アジア、国産等) 他32~35万トン |
福島県 | 田村市 | 田村バイオマスエナジー | 6,950 | 6,950 | 2021.春 営業運転開始 |
未利用材 | 未利用木材、一般木材 タケエイ |
千葉県 | 市原市 | 市原バイオマス発電 | 49,900 | 49,900 | 2020.12 商業運転開始 |
一般木材 | PKS、木質ペレット 大阪ガス、 伊藤忠商事、 三井造船 |
長野市 | 安曇野市 | エア・ウォーター | 1,960 | 1,960 | 2021 稼働 |
未利用材 | ガス化コジェネ40台。 廃熱は農園に、 CO₂も利用 |
長野県 | 塩尻市 | 信州F・Power | 14,500 | 14,500 | 2020.10 運転開始 |
未利用材 | 製材端材、未利用材。 木材加工施設を新設。 熱利用も 征矢野建材他 |
岐阜県 | 瑞穂市 | 岐阜バイオマスパワー第2号 | 6,800 | 6,800 | 2020.10 稼働開始 |
未利用材 | |
兵庫県 | 赤穂市 | 赤穂第2バイオマス発電所 | 30,000 | 不明 | 2021.1 稼働 |
一般木材 | 23.5万t PKS、樹皮、間伐材他 日本海水 |
広島県 | 海田町 | 海田バイオパワー | 112,000 | 62,720 | 2021.4 営業運転開始 |
一般木材 | 未利用材、林地残材、 輸入材 広島ガス 中国電力 |
愛媛県 | 四国中央市 | 愛媛製紙 | 16,800 | 不明 | 2021.3 稼働 |
木質バイオマス、RPF。 自家用 |
|
鹿児島県 | 枕崎市 | 枕崎バイオマスエナジー | 1,990 | 1,990 | 2020.10 運転開始 |
未利用材 | 樹皮等 |
鹿児島県 | 錦江町 | 45 | 45 | 2020 稼働 |
田代支所敷地内。 コジェネ。 熱は農業利用 |
2020年10月に稼働した枕崎バイオマスエナジーは、樹皮を主な燃料としている。エア・ウォーターは、長野県安曇市にドイツ製バイオマスガス化熱電併給設備40台計1.960kWを導入し、廃熱は農園の温度調節に、排ガスを作物の成長促進に使う次世代農業モデルの構築に乗り出す【*1】。
また既存のバイオマス発電所においても、新しい試みが行われている。山口県周南市は、公園の剪定枝を東ソー㈱南陽事業所の自家発電所燃料として使用する協定を結んだ【*2】。2021年1月、サーラeパワーは、愛知県の公共施設から出る剪定枝を東三河バイオマス発電所の燃料とする取り組みを始めた【*3】。敦賀グリーンパワーは、主要燃料の一部を輸入木質チップから福井県南部の嶺南地域の間伐材に切り替えた【*4】。
大規模な輸入バイオマスを燃料とするバイオマス発電の計画、着工、稼働も相次いでいる。イーレックスは、ENEOSとの共同事業により、新潟県聖籠町に30万kWの大型バイオマス発電を計画している【*5】。燃料として、ロシアからの木質燃料、ベトナム、フィリピン等で試験栽培をしている燃料用ソルガムを検討している。30万kWのバイオマス発電では、乾重量60万t/年程度の燃料を必要とするが、ソルガムの収量を20t/haとすると、半分の30万tを調達するために1.5万haの土地を必要とする。開発途上国において短期間に広大な面積の農地を確保しようとすると、日本企業にその意図がなくとも、土地収奪の問題が生じるリスクがある。過去にも、伊藤忠商事がフィリピンで関わったバイオエタノール事業において、農民が土地を詐取されたり、深刻な労働問題が生じ、悪臭などのトラブルもあって両社は撤退している【*6】。
エンビバ社は2021年2月、再生可能エネルギー電力の利用やBECCSなどにより、2030年までにネットゼロ操業の目標を発表した【*7】。その一方で大量の日本への木質ペレット輸出が予定されている(下図参照)。
図:2025年 エンビバ社の長期供給契約【*8】
米国の林業において天然林を皆伐し、天然更新する施業は一般的に行われている。この施業による木質バイオマス利用は、
1)森林の炭素蓄積の再生が担保されるか
2)森林が再生する場合も数十年から百年以上かかる
といった問題が生じうる。一定の地域において森林資源が増加しているとしても、バイオマス利用の要因がなかった場合と比較して大気中へのGHG排出への影響を測りつつ、利用を検討すべきであろう。
経済産業省の石炭火力検討ワーキンググループは、2020年8月から非効率石炭火力のフェードアウトについて検討を行った【*9】。従来、41%(他の電源との合算が可能)の発電効率目標を合算なしで43%に引き上げる方向で議論をまとめた。将来的には、石炭火力設備でアンモニアや水素による発電へ移行することを想定しており、それまでのつなぎとしてバイオマス混焼を位置付けている模様である。つまり、発電効率が38%未満の非効率な石炭火力を休廃止するのではなく、バイオマス混焼などによって見かけ上の効率を数%上昇させ、引き続き稼働を認めるものである。
しかし、バイオマス混焼によって発電効率が向上すると見なすことには、無理があるように思われる【*10】。バイオマスのライフサイクルGHG排出や持続可能性への配慮も必須だが、そもそも貴重なバイオマスは今後、発電以外の用途に向けるべきである(P18の表4等参照)。それよりも、kWhあたりのGHG排出を社会経済的なコストをかけずに削減する方向を目指すべきではないか。ドイツのように一定の補償金を払いつつ、石炭火力の早期撤退を図る方法もあろう。
バイオマス発電事業者協会は2030年以降、非効率石炭火力発電所の半数をバイオマス専燃に転換(Non-FIT/FIP)を新たな取り組み目標としている【*11】。これが実現されると、数千万トンの木質ペレット等が必要となるが、現実的にこの量の持続可能なバイオマスが調達できるのか懸念される。
2021年4月の気候変動サミットにおける2030年温室効果ガス排出46%削減の表明により、石炭火力のフェードアウトの方向性が変更となる可能性もある。引き続き注視が必要となろう。
カナダは、日本にとって最大の木質ペレットの輸入国の一つであり、2019年、日本はカナダから約59万トンの木質ペレットを輸入した。近年、輸出用の木質ペレット生産のための伐採の拡大がカナダの森林生態系に大きな影響を与えていることが指摘されている。
カナダは世界有数の森林大国であり、広大な原生林を含む北方林を有する。森林面積は、3億4,700万ヘクタール(2017年)で【*1】、カナダ政府の公式見解では、1990年から2017年にかけて、森林減少はほとんど生じていない【*2】という。しかし、それに関しては異論もある。
グローバル・フォレスト・ウォッチ・カナダは、リモートセンシングや衛星画像の解析等を通じて、ブリティッシュ・コロンビア州(以下BC州)の内陸温帯雨林の1989年から2001年の変化に関する調査を実施しており、木材の皆伐や採掘の影響が見られること、影響は絶滅が懸念されるマウンテンカリブーの生息地にも及んでいることを報告している【*3】。
自然保護団体シエラ・クラブBCは、「ブリティッシュ・コロンビア州の2005年から2017年の間に皆伐された地域の総面積は360万ヘクタールで(うち原生林は190万ヘクタール以上)バンクーバー島よりも広い」と指摘する【*4】。また、伐採により年間4,200万トンのCO₂が排出され、本来森林が吸収するはずだった年間2,650万トンのCO₂が大気中から回収されるのを妨げられたとしている。これは、BC州が公式に報告したCO₂排出量(森林からの排出は含まない)の約6,500万トン(2017年)を上回るという。シエラ・クラブBCは、政府統計をレビューし、2003年から2012年の森林伐採による年間のCO₂排出は5,000万トン近くに及び、これはBC州の年間排出量の4分の1に相当するとしている。米・環境団体ナチュラル・リソーシズ・ディフェンス・カウンシル(The Natural Resources Defense Council)は、カナダの北方林では、皆伐後、伐採により放出された炭素を回収するまでに、30年かかるとしている【*5】。
米・環境NGOスタンド・アース(Stand.earth)によると、2000年以降、カナダは森林被覆の9.2%を失い、15億トンのCO₂を大気中に放出してきた。森林減少の主たる要因は、パルプ産業および輸出用の燃料ペレット生産が挙げられる。BC州は、カナダの木質ペレット輸出量の約80%を占めている。輸出先は、2018年は英国がトップで150万トン、2位は日本で63万トンである【*6】。企業側は木質ペレット生産には製材所の端材を使っていると説明するが【*7】、実際には、拡大する輸出に製材所の端材の量が追い付かず、近年丸太の利用が増加している。BC州最大のペレット企業であるパシフィック・バイオエナジー社とピナクル・リニューアブル・エナジー社はいずれも、自社のペレット工場の一部で全木を使用している。スタンド・アースの調査では、工場に丸太を積載して運び込むトラックや鉄道車両、丸太の山などの写真が撮影されている【*8】。木質ペレットの原料を得るための企業による大規模な伐採は、「虫に害された樹木を収穫する」という名目の下に行われており、国による補助金も支払われている。
写真:Pacific BioEnergy社のペレット工場に運び込まれる木材
写真提供:Stand. earth
ピナクル・リニューアブル・エナジー社、パシフィック・バイオエナジー社のペレット工場の伐採エリアには、カリブーの生息地や先住民族のために計画されている保全地域も含まれていることが指摘されており、影響が懸念される。
2020年12月、京都府福知山市でパーム油発電を運営する三恵観光は、市や地元自治会に対し、今後は稼働しない旨を通知した。2017年に稼働して以来、住宅に近接した発電所からの騒音や悪臭で深刻な公害被害が発生し、健康を損ねた住民が転居するといった事態に陥っていた。住民は活発な反対運動を展開し、市と事業者に府公害審査会の調停を申請していた。事業者は、「新型コロナウィルスの終息が見込めず、さまざまな観点から判断して決定した」とのことである【*1】。
一方宮城県角田市では、HISスーパー電力の4万1,100kWのパーム油発電が2021年1月、稼働した。ただ新型コロナウィルスの影響もあってか、燃料貯蔵タンクの工事は遅れている模様である。
2020年10月、米国税関・国境取締局は、労働者への身体的・性的虐待や脅迫、賃金不払いが判明したことから、マレーシアのパーム油生産大手企業、FGVホールディングスからパーム油を輸入することを禁止したと発表した【*2】。パーム油生産においては、こうした深刻な労働問題等が今も続いている。
宮城県石巻市では、G-Bioイニシアティブ社による10万2,750kWの液体バイオ燃料発電が計画されている。計画地の近くには小学校などもあり、住民は生活環境の悪化や輸送に伴う交通事故、排水を流す下水路が未整備であることなどを懸念している。2020年7月、同事業の撤回を求める「環境を守る住民の会」が発足し、反対運動を展開している(裏表紙写真参照)。
燃料となる植物油は、アフリカで生産するポンガミア油およびパーム油の予定である。大量の植物油が必要だが、アフリカで短期間に広大な農地に一種類の作物を栽培することには、ランドグラビング(土地収奪)等が生じる懸念がある(コラム②*6 等参照)。
経済産業省は、バイオマス発電の事業計画ガイドラインでRSPO等の認証制度を用いたパーム油の持続可能性基準を定めている。しかし、現在バイオマス持続可能性ワーキンググループで検討しているように、パーム油の生産・加工・流通における温室効果ガス排出量は大きく、天然ガス発電を超える排出量であるとされている。バイオマス白書でも繰り返し指摘しているように、パーム油生産には熱帯林の開発による大量の温室効果ガス排出、労働問題、土地をめぐる紛争、食料との競合など多数の持続可能性に関わる問題が生じており、多くの他の手段のある発電燃料として輸入して用いるのは適切でなく、持続可能性の推進にも逆行しており、事業の早急な見直しが求められる。
2021年2月15日、バイオマス産業社会ネットワークは、農都会議、日本有機資源協会、日本木質バイオマスエネルギー協会、日本サステイナブルコミュニティ協会、日本シュタットベルケネットワークと共同で、「地域型バイオマスフォーラム第2回」を開催した。コマツや兼平製麺所などの産業用バイオマスボイラー導入事例の報告等があり、今後の地域におけるバイオマス熱利用のあり方について、熱心なディスカッションが行われた【*1】。
当日は、再生可能エネルギー熱利用のロードマップ作成等を内容とする、政策提言「バイオマス熱利用の本格的な普及拡大の実現に向けて」も発表された【*2】。