2017年後半は、怒涛のような半年だった。再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)のバイオマス発電の認定容量は1,200万kWに上り、その9割以上が輸入バイオマスを燃料とするもので、さらのその約4割はパーム油発電だった。
是正のための働きかけをしながら、そもそも、何のためのバイオマス利用なのか、その原点について立ち返る必要を痛感した。利用の方法、燃料の種類、利用技術などが多岐にわたるバイオマスの複雑さは、「政策決定者にとって毒」と言われほどである。ゆえに、そうした情報を持つ専門家が政策担当者に適切に伝えるしくみをつくる必要がある。
バイオマス発電にも入札制度が導入されたが、まだ混乱は続いている。特に、日本のFIT制度の残る課題の一つは、温室効果ガス(GHG)基準がないことだが、うまくこれを導入すれば、一挙に多くの問題が解決するだろう。すなわち、利用効率が低いと温室効果ガス排出係数が高くなるため、熱利用が必須となる。熱電併給(コジェネレーション)となれば、熱需要との関係から小型分散型になる。是非、導入を検討すべきである。
さて、2018年7月、地方創生バイオマスサミットが開催され、自治体の首長や各地の実践者から報告があった。そこの場で関係者らと議論するうちに、「木質バイオマス発電の潮目が変わった」と感じた。世界的に太陽光、風力発電のコストが劇的に下がる一方で、未利用木質バイオマス発電はグリッドバリティ(既存の電力コスト)まで下げることが難しい。調整電源などを除けば、無理に社会的支援を行って未利用木質バイオマスで発電する必然性が見えなくなってきたのである。従来から言い尽くされてきたことだが、木材は、プラスチック代替など新たな用途も含めたマテリアル利用を行い、その際の副産物・廃棄物利用としてエネルギー利用があり、そのなかでもコスト競争力が見込める熱を中心に使っていく、という方向である。
地域振興としてバイオマスを捉えると、宮城県南三陸町のバイオガス事業の事例は、非常に興味深かった。生ごみの分別や液肥の利用をきっかけに家庭やコミュニティでの会話が増え、「いのちのつながり」をキーワードに、地域の一人一人の自発的な取組みによって、循環型農業や持続可能な林業、水産業といった地域の再生が始まっている【*1】。バイオマス産業社会ネットワーク設立のきっかけとなった、アマゾン貧困撲滅環境(POEMA)計画を想起した【*2】。(目次ページの写真は、POEMA計画実施地のプライヤ・グランジ村と、南三陸町で地元住民により開催された「ひころマルシェ2018初夏」の様子である。)
地域振興なら、エネルギーの前に、食品や建材などより付加価値の高いものの方が効果的である。竹の利用も、チップでは1kgあたり10円程度だが、メンマ、シナチクの材料となる乾燥タケノコなら3,500円である。山村振興では、直接支払いと公共交通網整備によるスイスの例も参考になる【*3】。
ここのところ、暴力的な猛暑や甚大な水害が生じている。『スターン報告』で「地球温暖化を放置すれば世界大戦なみの被害が出る」と指摘されたが、日本での危機意識はまだ低い。持続可能な開発目標(SDGs)やESG投資といった取り組みとともに、温暖化対策としてバイオマス利用を行うためには、トータルでのライフサイクルアセスメント(LCA)に基づき、科学的な知見も必須となってくる。
こうした点に注意しつつ、今後も持続可能なバイオマス利用を目指して活動を続けたいと考える。
<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>