2016年の自然エネルギーによる発電設備の年間導入量は、9%増加し、世界全体で161GW(1億6100万kW)、大型水力を含む累積発電設備容量は2,017GWに達した。世界全体の年間発電量に占める自然エネルギーの割合は推計で24.5%に達し、そのうちの2%はバイオマス発電である【*26】。
熱を含む最終エネルギー消費における割合では、引き続きバイオマスが14%と圧倒的なシェアを占めている。そのうち半分以上は伝統的な暖房で、近代的バイオマス利用でも4/3は熱利用である(下図)。2014年末時点のバイオガスの導入数は、中国で4300万、インドで475万、ネパールで30万、ベトナムで18.3万、バングラディシュで3.7万と、アジアの農村部での導入が多くなっている【*27】。
図:世界の最終エネルギー消費におけるバイオマス割合と
部門別の最終消費量におけるバイオマス割合(2014年)
出所:REN21 自然エネルギー世界白書2016
2015年のペレット生産量は、EUが1,420万t、米国が740万t、カナダが190万t、ベトナムが106万t、ロシアが97万t、中国が49万t、世界合計で2,800万tだった【*28】。また、2015年のペレット貿易の状況は下表の通りである。
表:上位国のペレット貿易量(2015年)
輸入(万t) | 輸出(万t) | ||
---|---|---|---|
EU | 1,350 | E U | 709 |
韓国 | 147 | 米国 | 458 |
日本 | 23 | カナダ | 163 |
米国 | 21 | ベトナム | 105 |
カナダ | 3 | ロシア | 93 |
2017年5月、自然エネルギー財団は、世界バイオエネルギー協会(WBA)の年次総会の日本開催にあわせ、東京と長野で2つの国際シンポジウムを開催した【*29】。太陽光、風力発電のコストが劇的に低下するなかで、バイオマスをどう利用していくかが、世界的な課題となっている。エネルギー作物を中心に考えていた欧州でも、林産業の副産物利用に転換し、経済性を経て熱利用を主とするバイオマス利用が拡大したことや、コジェネレーション、熱供給、他のエネルギーや省エネとの組み合わせ、またバイオマスの持続可能性などについて議論された。
バイオ燃料の温室効果ガス(GHG)削減効果に影響を与える間接的土地利用変化(ILUC)をいかに減らすかをめぐる政策論議が未決着のために、EU産業は進むも退くもできない窮状に置かれ、バイオ燃料は生産も消費も低迷を続けていると書いたのは、バイオマス白書2014においてである。その状況は、基本的には今も変わっていない。
ILUCをめぐる論議は2015年の再生可能エネルギー指令改訂(ILUC削減指令)により決着した【*1】。食料作物を原料とするバイオ燃料(第一世代バイオ燃料)が輸送用燃料中に占めるべき比率を減らし(10%→7%)、藻や廃棄物から作られる第二世代バイオ燃料の目標シェアを定め(0.5%)、新設施設で生産されるバイオ燃料は化石燃料に比べてのGHG排出量を60%以上減らさねばならないとするなど、これまでの法的不安定性は解消された(ILUCの計算方法に関するコンセンサスはないが)。
しかし、第二世代バイオ燃料開発が初期段階にある中での第一世代バイオ燃料の制限はバイオ燃料産業を一層の窮地に追い込んだ。「ヨーロッパのバイオ燃市場は今やILUCとして知られる指令によって規制されている。長く待たされた法的明確化が石油価格下落とバイオ燃料消費縮小の中で実現したから、その消費は2014年と15年の間に1.7%減少した」【*2】。農業団体指導者は、「EUのバイオ燃料政策は不安定で、新たな工場立ち上げの雰囲気を作り出していない。新たな先進的バイオ燃料工場を立ち上げる代わりに、既存工場の閉鎖を助けている。先進的バイオ燃料の開発は第一世代バイオ燃料市場の強さに依存している」と批判する【*3】。これがEUバイオ燃料産業の直面する現実だ。お先真っ暗な状況は4年前と変わらない、悪化さえしているのである。
図:EUにおけるバイオ燃料の消費と生産の推移
出所:Eurostat
そんな中、欧州議会がEU市場に入るパームオイル(PO)の単一の認証スキームを導入・とりわけ東南アジアの森林と生物生息地破壊を駆り立てる植物油のバイオ燃料用使用を段階的にやめるべきだと決議した【*4】。それによれば、EUが輸入するPOの46%がバイオ燃料の生産に使われている。決議は森林破壊につながるPOなどの植物油の使用を2020年までに段階的に廃止する措置を講じるよう欧州委員会に要請した。また、持続可能なPO生産を促す様々な自主的認証スキームがあり、消費(利用)者を混乱させているとして、持続可能な方法で生産されたPOだけがEU市場に入ってくるように保証する単一認証スキームも提唱した。
EUは2012年、環境団体が批判してきた持続可能なパームオイル円卓会議(RSPO)が提唱する認証スキームを承認した。以来、EUへのバイオ燃料用POの輸入が急増したという報告がある。業界は使用するPOは認証を受けたもので、何の問題もないと主張してきた。しかし、EU植物油産業団体(FEDIOL)は、欧州議会決議はPOと熱帯雨林破壊に関する確かな情報に基づく広範な議論のきっかけを与えると歓迎している【*5】。他方、これはいずれトウモロコシや大豆から作るバイオ燃料(第一世代バイオ燃料)の全面禁止に発展、環境破壊、人権侵害、食料価格への影響といったバイオ燃料にかかわる懸念が、かつて化石燃料に代わる救世主としてブームを呼んだバイオ燃料を死に追いやると批判する向きもある。欧州議会決議はバイオ燃料産業の健全な発展につながるのか、それともそれを死に追いやるのか、EUバイオ燃料の将来をどう見極めるべきだろうか。
<北林 寿信(農業情報研究所主宰)>