バイオマス産業社会ネットワークロゴ
スペーサー
スペーサー
スペーサー
スペーサー

トピックス 木質バイオマス利用をめぐる現状と課題

3 今、木質バイオマスのエネルギー利用促進に必要な方策とは

スペーサー

1. ヨーロッパの木質バイオマス熱政策

日本国内では、FIT施行以降、木質バイオマス発電が急速に普及したが、エネルギー効率、資源の有効活用、気候変動対策、エネルギーコストの面から木質バイオマスは、電気よりも熱利用を優先して考えていくべきである。
 発電の場合、木質バイオマスの持つエネルギーの2、3割しか利用できないが、熱利用の場合は9割以上のエネルギーが利用可能である。エネルギー効率が高い分、CO2削減効果も高い。発電の場合は、化石燃料や他の再生可能エネルギーと比較したコスト優位性が得られにくいが、熱利用の場合はコスト優位性が高い。
 木質バイオマスエネルギーで先行するヨーロッパでも、熱利用を促進する政策誘導が行われている。EUの最終エネルギー消費のうち、16.4%が再生可能エネルギーで、その半分以上が熱で、そのほとんどがバイオマスによるものである。それに対して固体バイオマスの発電は再生可能エネルギー電力の1割程度でしかない。太陽光、風力の発電コストは、海外では3〜6円/kWhと急速に低下している。バイオマスは、ドイツのFIT買取価格も下がってきたが7〜17円/kWhと太陽光、風力と比較すると割高である。

スペーサー
スペーサー
スペーサー

シンポジウム
「今、木質バイオマスのエネルギー利用促進に必要な方策とは」

世界的に木質バイオマスエネルギーの主流は熱利用だが、日本では2000kW未満の木質バイオマス発電においても、熱電併給を行っていないケースが大半である。小規模でも高い利用効率が見込める熱利用だが、日本における木質バイオマスの熱利用は、進展しつつあるものの、まだまだ多くの課題がある。
 森林環境税などが浮上するなか、この木質バイオマスエネルギーの熱利用の現状と課題を整理し、具体的に今後どのような政策や補助制度等が有効か、対策が求められるかについて議論するため、2017年5月12日、NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク主催シンポジウム「今、木質バイオマスのエネルギー利用促進に必要な方策とは」を都内で開催した。
 久木裕(株式会社バイオマスアグリゲーション代表取締役)「ヨーロッパの木質バイオマス熱政策と日本の課題」、菅野明芳(株式会社森のエネルギー研究所取締役営業部長)「日本の木質バイオマス熱利用の現状」、羽里信和(一般社団法人徳島地域エネルギー常務理事)「地域での木質バイオマスボイラー導入の課題」の各講演が行われた。

スペーサー

パネルディスカッションでは、久保山裕史(森林総合研究所林業システム研究室室長)、松原弘直(NPO法人環境エネルギー政策研究所主席研究員)、泊みゆき(NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長)が加わり、司会は相川高信(公益財団法人自然エネルギー財団上級研究員)が務めた。官庁、自治体、企業、大学、NPO、メディアなど約100名が参加した。

スペーサー

本章は、このシンポジウムでの講演内容・資料及び議論を、事務局の責任で再構成したものである。

シンポジウムの様子
スペーサー

  • * 当日の配布資料は、こちらに掲載されている。
スペーサー

一方、バイオマス熱利用はそれほど手厚い支援をしなくても成り立つ。英国では、2011年より、バイオマスだけでなく、太陽熱、地熱、ヒートポンプを対象にRHI(再生可能熱インセンティブ)を導入し、再生可能エネルギー熱利用事業者に熱利用量(供給量)に応じた補助を支払う支援を行っている。固体バイオマスは、家庭用、非家庭用で規模別に支払額が決められており、支援期間はそれぞれ7年間、20年間とされている。補助額は四半期ごとに見直しされる。

スペーサー

RHIが設備導入のインセンティブとして機能し、バイオマス熱利用の普及を後押しした(下図)。四半期ごとに見直しし、あらかじめ定められた支出しきい額を超えた場合には、その区分の補助単価を下げることとしている。それによって各エネルギー種の適切な普及をコントロールしている。補助の財源は、一般会計である。非家庭用バイオマスボイラーの導入件数では、200kW未満の小規模が大半で、2013年から2017年で急速に買取価格は低下している。一定の稼働時間までは割高に、それ以上は安い買取価格を設定している。買取価格の利幅が大きかったことや、もともとほかの方式と比べて設備導入がしやすいことが原因で、固体バイオマス由来の熱エネルギー導入が急速に進み、固体バイオマスの買取価格を抑える方向で調整することとなった。

スペーサー
図:RHIの買取価格と導入数推移(非家庭用)

図:RHIの買取価格と導入数推移(非家庭用)

出所:久木裕資料

スペーサー

ドイツでは、2009年に施行された再生可能エネルギー熱法により、一定規模以上の新築の建物への再生可能エネルギーの利用を義務化し、バイオマスボイラーおよび地域熱供給を通じたバイオマス熱利用の普及を後押ししてきた。2000年から再生可能エネルギー法(EEG)に基づく木質バイオマス電力の買い取りが始まったが、制度設計を見直していく中で、熱電併給(CHP)に対する支援を拡充し、中小規模の熱電併給施設の普及に成功した。CHP法(KWKG)においても木質バイオマスの熱電併給を支援し、売電だけでなく自家発電の取組みにも支援を行い、普及を後押ししている。
 他のヨーロッパ諸国でも、英国を除けば、バイオマス発電の主力はCHPである(下図)。デンマークの地域熱供給白書では、地域熱供給の使用燃料の柔軟性と安定供給、蓄熱の必要性などが強調されている【*18】

スペーサー
図:EUの国別のバイオマス発電の年間発電量

図:EUの国別のバイオマス発電の年間発電量

出所:松原弘直資料

スペーサー

2. 木質バイオマス熱利用の現状

森のエネルギー研究所では、20年近く木質バイオマス事業のコンサルを行っている【*19】
 民間企業の多くは、5年でもとをとれないと設備を導入しない。民間企業が木質ボイラーを導入しない理由としては、経済性の担保を大前提とした上で、設置スペースと情報不足が挙げられる。
 小規模な旅館・民宿では初期投資数百万〜1,000万円規模が「投資可能な上限金額」であり、この範囲で旧型の小型薪ボイラーを燃料費削減のために導入している事例(下図参照)は少なくないが、多くは補助金なしで導入しているため、統計に反映されない。公衆浴場でも新規を含め、廃材等のバイオマスを使っている例は多い。家庭用薪ストーブも、旧型の「時計型薪ストーブ」等を含めた統計は存在しないが、仮に長野県の推計資料等を参考に国内の全世帯における薪ストーブ普及率を1%、平均薪消費量を2㎥/年とすると、100万㎥になる。家庭用小型給湯用薪ボイラーも2万台程度、6万㎥程度の薪消費量と推計され、林野庁の統計値と比較すると、チップ・ペレットの国内統計はそれほど実情と乖離しないが、薪は5万トンという統計(国内の動向参照)に対し、実情の方が2桁多い程度の乖離があると考えられる。

スペーサー
図:小型薪ボイラー導入事例

図:小型薪ボイラー導入事例

出所:菅野明芳資料

スペーサー

木質バイオマスボイラーの導入有望パターンは、比較的低温、通年・負荷変動少であり、これを満たす産業分野のターゲットは、食料品製造業、飲料製造業、繊維産業等である。

スペーサー

木質バイオマス利用機器の費用対効果は、下表の通りである。5,000kW級の発電所1カ所と温泉施設200カ所と一般家庭4万軒程度の木材消費量は、それぞれほぼ同等になる。地域の森林資源からの供給量に見合うのは、どの程度の規模か。雇用の効果は、最も手間のかかる熱利用、薪ストーブ・ボイラ等が最大なのではないかとも考えられる。
 チップ価格が10円/㎏だとA重油換算で、40〜50円/ℓ程度に相当し、ペレット価格が25円/㎏の場合、現状で灯油・A重油と同程度のランニングコストに相当する。

スペーサー

表:木質バイオマス利用機器の費用対効果 〜投資金額と使用する木材の消費量目安〜

スペーサー

3. 経済面の課題をどうクリアするか

経済面の課題をクリアし、バイオマスボイラーの導入推進する手段としては、以下のようなものが考えられる。
 ①ボイラーの出資者を変える(市民出資等で温泉・工場に導入)。②「10年でもとが取れればいい」という企業を探す。③初期投資を極力下げる(機器開発、施工のDIY化・地域分業、補助等を使い100%補助に近づける)。④化石燃料価格を相対的に上げる(環境税等で化石燃料に税金を上げる、または化石燃料価格の高い「離島」で推進)。⑤バイオマスの燃料調達価格を低減する(機械化・無人化で山から安価に搬出加工、またはボランティア集材、支障木・端材利用)。⑥「もとを取る」ために、燃料費削減だけでなく「本業の売り上げを増加」に繋げる(温泉・ホテル:エコツアーによる集客 食品工場・農業ハウス:商品の高付加価値化等)。⑦公共施設へのバイオマスボイラー導入を優先し、実行する。
 バイオマス熱利用の補助金は、通常、民間は1/3補助だが、それだと投資回収が10年以上かかる。経済産業省の主に民間企業向け補助事業、「再生可能エネルギー熱事業支援事業」は、同種の地方公共団体向け補助で対象となっている薪ボイラーが対象外となる差異がある。かつて、民間向けにも林野庁「森林整備加速化・林業再生事業」でほぼ100%の補助が出たことがあり、導入が進んだ。
 また、英国で行われている「社会的インパクト投資」、成功報酬型の助成金なども考えられるのではないか。

スペーサー

4. 地域での木質バイオマスボイラー導入の課題

家庭のエネルギー消費の半分は、暖房・給湯の熱である。
 欧州では、木質ボイラーが、工業デザイン的にも優れ、普通の人が普通に使えるアプライアンス(電化製品)になり、ホームセンターで売られている(表紙写真)。熱需要の増減は、蓄熱タンクのピークシフト機能により、低コストでカバーできる(下図)。

スペーサー
図:蓄熱タンクのピークシフト機能

図:蓄熱タンクのピークシフト機能

出所:羽里信和資料

スペーサー

地域でのボイラー導入の課題と対策としては、①ボイラー輸入価格は比較的安価だが、日本での工事価格が高い。対策としては、継続的に事業協力が可能な配管工事事業者、建築事業者が必要。②有圧ボイラーは指定外国検査機関での検査が必要だが、費用や製造態勢に問題があり、欧州で通常行っている3MPaでの運用が困難なため、無圧開放化するため、回路が複雑化し、耐用年数が短くなる。対策としては、簡易ボイラーの多缶設置、無圧開放技術の適正化、外国検査の規制緩和が考えられる。③小型業務施設や農業施設で最も件数が多いと思われる小型ボイラーで、民間事業者の補助事業がない。再生可能エネルギー熱事業者支援事業では111kWh以上が対象だが、対象の拡充が必要。④原油価格の低迷により、バイオマス化のメリットが低くなっている。熱FIT制度などを検討することも考えられる。
 事例からの反省点としては、乾燥チップの品質安定、配管コストは業者によって大きな差があること、消防当局との連携、消耗品の補充が必要、といったことが挙げられる。
 地域でのバイオマス熱利用の課題の解決策の一つとして、設置者、設置・建設業者、チップ業者、メンテナンス事業者などかかわった全員が利益を得られるしくみ、地域アライアンスの構築が考えられる(下図)【*20】

スペーサー
図:木質バイオマス 地域アライアンス(同盟)

図:木質バイオマス 地域アライアンス(同盟)

出所:前出

スペーサー

徳島地域エネルギー【*21】では、佐那河内村にバイオマスボイラーの導入方法などを学べる、バイオマスラボ併設の再エネ研修施設を運営している。

スペーサー

5. 小規模木質バイオマス発電の経済性

森林総研で、木質バイオマス発電の評価ツールを開発した【*22】。1,999kWで発電のみのモデルA、蒸気供給のモデルB、温水供給のモデルCでシミュレーションした結果、モデルAでは赤字、重油価格70.8円/ℓ相当で熱を販売するモデルBなら黒字、モデルCでは重油価格が48.2円/ℓに下がってもIRR8.3%となった。発電出力2,000kW未満の蒸気タービン発電の発電単独の経済性は低く、熱電併給は経済性を高めるが、熱販売価格が低下すると不利になる。温水利用は経済性が高いが、熱販売策の確保が課題となる。熱導管敷設や施設移転など熱需要の集約に対する助成が求められる。
 重油価格が65円/ℓ以上なら、中規模CHPに高い経済性がある。熱FITの導入では、48.2円/ℓのときには差額を補填し、65円/ℓ以上の時には補填なしとするといったことも考えられる。これとは別に、原油2.8円/ℓの石油石炭税を14円/ℓに引き上げるといったこともありうる。

スペーサー

日本のFIT発電事業は、熱電併給であっても、系統連系、用水、燃料調達、周辺環境の条件で用地選定から入るが、欧州の熱電併給は、施設の計画段階から熱利用を中心に事業を構築する。欧州の蒸気タービンやORCによる熱供給プラントでは、熱負荷に応じて出力調整されている例が多い。
 日本の2000kW未満の小規模発電では、ガス化発電やORC等、海外で熱電併給の実績のある技術を活用した計画が増えているが、熱電併給の優良事例はほとんど見られない。

スペーサー

6. 今、木質バイオマスのエネルギー利用促進に必要な方策とは

まず、バイオマス利用の将来に向けたビジョンを描き、実現に向けた政策シナリオ、制度設計を行い、実行段階では市場動向を見ながら政策誘導・コントロールしていくことが重要だ。何を達成するために、どういった燃料、規模、スタイルの事業をどのくらいどのようにのばしていくのか。バイオマスエネルギーの特性や本質的な意義を踏まえて、どんな普及策を投じていくかは、世界の共通課題である。
 熱利用の全体設計、省エネ基準、断熱、太陽熱、地中熱など他の再エネも含めたグランドデザインを描きつつ制度設計するべきだろう。例えば、ヨーロッパの事例をもとに、日本で熱FITや民間への助成を充実させると、どれぐらいの費用対効果が見込めるかを試算するといったことも有効だろう。発電でFITが大きな効果を上げたように、熱のFITが拡大には有効だろう。財源としては、地球温暖化税や森林環境税が考えられるかもしれない。その場合、限られた予算をどこに使うのが有効か、投資効果を精査して制度設計すべきだ。また、これまでの補助制度で十分カバーされてこなかった分野としては、民間部門への薪ボイラーや小規模ボイラー、薪ストーブやペレットストーブなどへの全国規模での支援などがある。
 日本の再生可能エネルギー熱需要および供給ポテンシャル調査、統計情報、技術・機器情報、情報ガイドブック、発電所の導入事例、発電所の稼働実績、コストデータ、燃料価格等の科学的データの一元管理、事業者がノウハウ・スキルの獲得できる場の整備、専門機関によるコーディネートなどのサポートのプログラムなどが、今後の取り組み課題として挙げられるのではないか【*23】
 また、経済産業省、環境省、農水省、林野庁、総務省等が行っている関連政策の整理と調整も重要である。政策の立案や運用が、再生可能エネルギー熱利用に関する専門知識やノウハウを有する専門家やスタッフが関わって行われること、その人材育成も課題であろう。

スペーサー

民間事業者の中でも、業態によってビジネスモデルの急変により、いつ工場が閉じられその熱需要がなくなるか先が見通しづらい業界(例:食品工場等)、熱需要は急変しないが3年以内の投資回収を求める傾向の強い業界(例:一般に経営状態が悪化しつつある温泉・ホテル業界)と、比較的長いスパンで投資回収年数を考える傾向のある業界(医療・福祉業界)とに分かれる。業界の特徴に合わせたアプローチが考えられる。
 ボイラー導入事業者が長期的なリスクを負うのが障害になっているなら、ESCOようなしくみを公的な助成で行い、事業者のリスク負担を下げることも考えられよう【*24】。提案や調整にかかる費用を公的な助成で賄い、設備費用は使用者が年々の燃料費の節約分で支払い、償却が終われば、所有権が移るといったしくみも考えられる。リース事業もありうる。
 英国の制度では、ボイラーの一定の排ガス性能が補助の条件になっているが、日本のボイラーの規格が整っていないことは問題である。有圧ボイラーの外国検査の規制緩和等の問題もある。

スペーサー

また、住宅の改定省エネ基準が2020年に義務化されるなかで、ペレットストーブが省エネ機器として性能評価を受けることになった。2020年以降に建てられる住宅においては、EN規格(EUの統一規格)をもとに認証を受けたペレットストーブが省エネ型の暖房機器として標準的に取り扱われるようになるため、市場の拡大が期待される。この流れは薪ストーブにも適用される予定で、現在性能評価のための作業が続けられている。なお、これらのストーブで使用される燃料はEN/ISO規格が適用される【*25】。こうした面での取り組みも今後、さらに進めていく必要があろう。

スペーサー
スペーサー

スペーサー
スペーサー
スペーサー

このページのトップに戻る▲

スペーサー
スペーサー