自然エネルギー世界白書2021【*27】によると、バイオエネルギー(バイオマス由来のエネルギー)は、2019年の世界の最終エネルギー需要全体の11.6%、44EJであった。
製紙、食品、木材、セメント産業など産業プロセス熱用の近代バイオエネルギーは2009年から2019年の間に約16%増加し、建築物におけるバイオ熱需要は同期間に7%増加した。
2020年、世界のバイオ燃料生産量は5%減少し、エタノールの生産量は8%減少したが、インドネシア、米国、ブラジルの需要増に対応しバイオディーゼルの生産量はわずかに増加した。バイオマス発電電力の生産量は2020年に6%増加し、中国が主要な生産国となっている。
図13:世界のバイオエネルギー熱利用量(最終用途別)2009年〜2019年【*27】
(仮訳:NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク)
2021年は、木質ペレット産業にとって、その留まることのない急成長を祝福する年になるはずであった。しかし、この産業規模のバイオマス発電のブームは、世界的に組織的な反対運動を引き起こしている。グレタ・トゥーンベリ氏に触発された「未来のための金曜日(Fridays for Future)」運動に参加した欧州の学生たちは、「Europe Beyond Burning【*1】」キャンペーンを展開し、グレタ氏自身もスウェーデンのエネルギー大手バッテンフォール社がオランダに提案している大型バイオマス発電所に反対を表明している【*2】。
また、イギリスで開催された国連気候変動会議(COP26)では、活動家たちが電力大手Draxのバイオマス発電所を気候変動交渉に結びつける活動を「ビッグ・バイオマスに関する国際行動デー【*3】」として行っている。これらの活動は、気候変動対策としての木質バイオマス発電の有効性を疑問視する国際的なネガティブ・メディアの注目を集めた。
欧州委員会は、自身の研究機関であるJRC【*4】を含む世論の強い批判に応えて、7月に再生可能エネルギー指令(RED II)を改正する法案【*5】を作成した。この法案が拘束力を持つためには、欧州議会で可決された後、各国の法律で採択される必要がある。採択は2024年後半になる見込みである。この提案は、電力に限定されない再生可能エネルギー生産の、拘束力のある目標を2030年までに40%に引き上げるものである。
欧州委員会は、農業系バイオマスエネルギーに適用されている制限を木質バイオマス発電にも適用する、持続可能性基準に関する重要な変更を提案した。これには、EU内外の原生林、その他の生物多様性の高い森林、湿地や泥炭地を含む、炭素蓄積量の多い土地からのバイオマス燃料調達を禁止することが含まれる。また、2027年以降は、原則として熱利用などを伴わない、電力共有のみの発電所での木質バイオマスはREDIIから削除されることになる。また、2027年以降は、原則として熱利用などを伴わない、電力共有のみの発電所での木質バイオマスはREDIIから削除されることになる。(石炭に依存している地域やBECCSを試みる発電所については例外を認めている。)
この政策の転換は、レトリックの変化を伴っている。欧州委員会副委員長のフランス・ティメルマンス氏は、「バイオマスをミックスすることは必要だが、それには正しいバイオマスをミックスする必要がある。私は、森林を伐採して焼却炉に入れるというイメージを好まない。それは持続可能ではないし、欺瞞だと感じている」と述べている【*6】。 この提案に対し、30以上の環境団体が、欧州が暖房や電力用に大量の木質バイオマスに頼り続けていることを強く批判している【*7】。
2020年10月、オランダ政府は、そのCO₂排出量と大量の木材の消費を理由に、バイオマス発電と都市暖房用バイオマスへの補助金を段階的に廃止することを発表した【*8】。また、2021年2月には、オランダ議会がバイオマス熱供給施設への補助金廃止を決議【*9】、その影響は計画中の約50施設に及んでいる。
木質ペレット業界は統合され、メーカー1社が市場を支配している。4月に英国の電力大手Drax社がペレット製造会社ピナクル・リニューアブル・エナジーを買収した【*10】。さらに12月には、Drax社の最大のライバルであるブリティッシュコロンビア州のパシフィック・バイオエナジー(住友商事が48%出資)が一部の工場を閉鎖し、Drax社に長期供給契約を売却すると発表した【*11】。また、Drax社は、アジアの成長市場に軸足を移す一環として、東京に営業チームを設置すると発表した【*12】。
米国の環境団体マイティ・アースが2021年12月のレポート【*13】で詳述したように、カナダの原生林や一次林の消失に対する社会的関心が再燃している。2020年、ブリティッシュコロンビア州のホーガン首相は、生態系の健全性を優先した林業の改革を約束した【*14】。原生林技術諮問委員会(Old Growth Technical Advisory Panel)は250万ヘクタールの原生林を保護するよう勧告を出しているものの、これらのリスクの高い森林の保護はこれまで行われていない。このように政府が行動を起こさないことで、大規模な抗議行動や市民的不服従が起こり、これまでに1000人以上の逮捕者が出ている。また、著名な森林生態学者が「林業変革のための科学同盟(Science Alliance for Forestry Transformation)」を結成し、バイオマス目的の森林伐採の一時停止を提言した【*15】。
連邦政府には再生可能エネルギーに関する基準がなく、バイオマス発電は一部の州から再生可能エネルギーとして見なされ、補助金が出ている。しかし、それらの補助金にもかかわらず、風力、太陽光、天然ガスの発電量が大幅に増加しているのに対し、バイオマスの発電量は過去10年間で横ばいとなっている。
マサチューセッツ州では、スプリングフィールド市に建設予定の木質バイオマス発電所を巡って10年に及ぶ争いがあったが、「環境正義」地域(人種的マイノリティの比率が高い、低所得地域)から5マイル(約8キロ)以内にバイオマス発電所を新たに建設にあたって州の助成金を受けることを禁止され【*16】、また最低でも60%の効率が要求された【*17】ため、このプロジェクトは消滅した。2022年に提案された州法では、バイオマス事業を納税者による補助金の対象から外すことになっている【*18】。
11月には、バイオマス発電大手のDrax社が、米国内でのCO₂の回収・貯留機能付きバイオマス発電(BECCS)の建設を呼びかけた【*19】。BECCSを建設するためには、連邦政府による新たな補助金制度が必要となると考えられる。
世界トップの木質ペレットメーカーである米国エンビバ社は急速な増産を続けており、2021年には620万トンのペレットを生産した【*20】。日本企業との契約は、2025年には欧州との契約を上回る。その急成長は同時に、地域社会や環境保護団体との対立を深める要因になっている。2021年11月には、最大の公民権団体であるNAACP(全米黒人地位向上協会)が、ペレット製造の即時モラトリアム(延期)と森林被害の調査を政府に求める厳しい決議を発表した【*21】。
図:米国の米国の各電源ごとの年間純発電量の推移
出典 U.S.Energy Information Administration
ベトナムのペレット市場は、再び不正の証拠で揺れ動いている。2021年3月、FSCは、疑わしい認証材が大量に混入している可能性があるとして、ベトナムにおける木質ペレットのサプライチェーンの調査を開始した。12月、FSCは調査の予備的な結果を発表【*22】し、不正確な量と虚偽の主張の証拠があるとしている。ペレット輸出業大手「An Viet Phat」社は、2022年1月にFSC認証を停止された【*23】。
<マイティ・アース日本プロジェクト統括マネージャー ロジャー・スミス>
石炭との混焼が可能で、再生可能エネルギーとして天候に左右されずに発電が可能な木質ペレット燃料は、英国、オランダ(ドイツ)、デンマークを中心に、近年、使用量が急増してきた。2020年より日本においても米国産の木質ペレット燃料の輸入が開始された。これらの国々に大半の木質ペレットを供給しているのは、世界3大木質ペレット製造企業である。2社は北米(米国とカナダ:各第1位と2位)にあり、もう1社(第3位)はリトアニアにある。この3社だけで、既に生産能力が年間1,350万トンを超えており、さらに増加し続けている。需要の急増で、森林残渣や製材廃棄物の利用だけでは原料が足りず、森林を伐採して利用し、その後に植林が行われている。消費者へは、大西洋、太平洋、バルト海と北海を渡り1万トン~3万トンの大型船舶で輸送されている。
木質ペレットは、消費者である発電企業と製造企業にとって2つの共通の利点がある。1つ目は再生可能エネルギーとして長期の安定した補助金が出る事。2つ目は売買金額を定めた長期契約を消費者と生産者が結ぶことで双方の事業が安定する事、である。補助金には電力の固定価格買取制度、英国のCfD、又は燃料のサーチャージが含まれる。消費者である発電企業は(輸入)木質ペレットを使えば使うほど補助金が増し、さらに炭素会計上でも温室効果ガスの削減効果を得る事ができる。欧州では木質ペレットによる発電が「炭素会計の抜け道」と言われて久しい。
木質ペレット
こうした現状から、世界3大木質ペレット製造企業は、全て欧米の大手金融・投資会社が所有し、また、消費量第1位(英国の発電企業)と2位(オランダ・ドイツの発電企業)の企業も国際的な機関投資家がほとんどの株式を所有している。年間800万トン以上を消費する第1位の英国の発電企業は、事業においては赤字だが、補助金とグリーン税制優遇により利益を生み出し、株主に安定した配当金を出し続けている。同社の主要な株主である機関投資家の資産運用合計総額は1500兆円を超えている。
木質ペレット燃料については、2017年 12月6日に世界資源研究所が、欧州再生可能エネルギー指令の改定を前に「インサイダー:エネルギーのために木を燃やすことが気候に害を及ぼす理由」【*1】という特別レポートを上げ、木質バイオマスを再生可能エネルギーと認定するものは、森林残留物や廃棄物に限定するよう提言を行った。さらに2021年1月25日には、欧州委員会が、「EUのエネルギー生産における森林バイオマスの使用」【*2】という公式調査レポートを公表し、その中で植林を伴う森林バイオマスはカーボンニュートラルでなく、生物多様性の観点からも問題がある、と主張し「木質バイオマスは科学の問題ではなく政治の問題」と結論づけている。
電力を消費する一般市民は、(輸入)木質ペレット燃料に支払う燃料サーチャージと税金を介して支払われる補助金が地球環境を保護するためと納得して支払っている。しかし、それらは電力企業や木質ペレット製造企業とその所有投資企業の利益と機関投資家への配当金の原資となってきた経緯がある。輸入木質ペレットには、科学と環境以外の政治と金融資本という「見えざる手」がある事を理解する事も重要であると考えられる。
<NEWSCON Europe (Envipro Holdings)所長 立花 忍>