バイオマスのエネルギー利用においては、発電のみでは利用効率が低く、温暖化対策効果も限られ、安価な廃棄物系バイオマスを除けば、FITのような助成制度がないと経済性を確保することが難しい。また再エネによる発電では、世界的に太陽光、風力の発電コストが劇的に低下しつつある。その一方で、再エネ熱のうち、100℃を超える産業用熱を供給できる再生可能エネルギーは、現状ではバイオマスにほぼ限られており、今後バイオマスのエネルギー利用は、産業用熱主体にシフトしていく必要があると考えられる【*22】。
バイオマス熱の産業用利用では、栃木県で木材加工を営む株式会社トーセンが、2015年より栃木県那珂川町で木質バイオマス熱売り事業を行っている事例がある。ポリテクニク社の4,000kWの木質バイオマスボイラーを導入し、同社が木質チップ1.1万トン/年を供給、ボイラーの運営管理を行い、熱(蒸気)は配管を通じ近隣の軽量気泡コンクリート(ALC)製造工場へ販売している。さらに廃熱をハウス栽培に活用している。導入費用は4億600万円、うち2.5億円を環境省および林野庁の補助金を受けたが、以後は通常の事業として行われている。
図11:那珂川バイオマスの構成【*23】
この事例とFIT制度による2,000kWの未利用木質バイオマス発電を比較すると、発電では約86億円の国民負担と3万トン/年の木質チップを利用するが、発電効率は20%未満と80%程度のボイラー効率に比べ低いため、利用可能なエネルギー量は那珂川バイオマスの場合よりも少ない。経済性および温暖化対策の点から、産業用熱利用の優位性は大きいと考えられる。
2010年、三重県松阪市で間伐材、端材、バーク、建築廃材等を燃料として蒸気を生産、販売する松阪木質バイオマス熱利用協同組合が事業を開始した。システム導入費は13億円(うち林野庁による補助が6億円)で、最大蒸発量18.0t/hの流動層ボイラーを倉敷紡績が施工、年間約3万トンの木質チップを燃やし、蒸気は辻製油の植物油加工工場で利用している。チップ加工のため、ウッドピア木質バイオマス利用協同組合が設立され、1日100トンのチップを製造、関連事業全体で50人の雇用を生んだ。2012年のFIT開始以降、周辺で木質バイオマス発電所の稼働が相次いだことから間伐材が入手困難になり、現在は建設廃材を主な燃料としている。国際情勢などで乱高下する重油価格と異なり、地域の木質チップは価格が安定していることがメリットである。減価償却は12年であり、2022年に償却を終える予定である。また、辻製油では廃熱を使うため、うれし野アグリ事業を立ち上げ、ミニトマトを栽培・販売している【*24】。
工場は熱使用量の負荷変動が少なく、稼働時間が長い(この事例では24時間330日)ことから、石油ボイラーに比べ設備費は高価だが燃料は安価なバイオマスボイラーの用途として適していると考えられる。
伊藤産業は、生産工場・熱利用施設へのバイオマスボイラー導入支援事業を行っている。
同社によると、産業用熱利用では、企業の通常の減価償却年数が3~5年程度であることを踏まえ、安価な建設廃材や、RPF(廃プラ、紙・木質配合固形燃料)等の廃棄物系バイオマスを使うことが多い。
バイオマスボイラーは設備価格が化石燃料ボイラーより8-20倍高額であり、24時間年間300日稼働以上が理想である。バイオマスは化石燃料と比べて燃料の嵩比重が小さいため、燃料受け入れ、貯蔵、搬送設備、ボイラー本体設備のための広い敷地を要する。中型以上では一級ボイラー技士が必要になる。
導入に当たっては、ボイラーの稼働時間、近隣(70km以内)の燃料生産会社の有無、ボイラー設備の設置場所、ボイラー技士、地区の環境規制・協定等を確認する必要がある。燃料では、間伐材等は高価でバイオマス発電との競合がある。建設廃材は安価だが供給に制約がある。廃プラとの混合燃料はCO₂係数があり、温暖化対策が主目的であればそれを考慮する必要がある。木材加工以外の自社で発生した有機系廃棄物を燃やす場合は、焼却炉扱いになる。補助金申請においては、スケジュール管理が重要である【*25】。
表3:日本で稼働している主な産業用バイオマスボイラーの事例と課題等
木質バイオマスによる産業用等熱利用導入ガイドブック等より泊みゆき作成 (画像クリックで拡大)
熱利用では、高温から低温にかけての熱のカスケード利用ができることが望ましい。将来的なバイオマス/廃棄物のエネルギー利用イメージとしては、下図のようなものが考えられる。
工業団地等にバイオマスボイラーを設置し、高温~中温の熱を用いる工場で順に利用し、熱の温度が下がったら温水をハウス暖房や地域熱供給に使う。ここに太陽光や風力発電の余剰電力を熱として加えることで、変動電源の調整機能を持たせることも考えられる。温水は、貯湯タンクを使えば比較的安価に数日間貯めることができる。
あるいは、地域のごみ焼却場の周辺に熱を使う工場を誘致し、同様に高温~低温の熱供給を行う。熱の一部で発電を行って熱電併給とすることも考えられる。また、廃棄物に加えて農作物残さなどの地域の未利用バイオマスも利用することもありうる。
実際に韓国では、2005年から国家エコ・インダストリアル・パーク(EIP)計画により、ごみ処理場の焼却熱を近隣の工場に供給する事業を行っている。温暖化対策としても経済的な面からもメリットがあると考えられる。自治体と地元の企業、大学等を統括する中間組織、地域EIPセンターが意識啓発活動、利害関係者への説明、ノウハウの集約を行った。実施されたプロジェクトの一つ、蔚山市では、焼却場から近隣の化学工場に複数の配管で焼却熱が供給されている【*26】。
図12:バイオマス産業用熱利用のモデル
(泊みゆき作成)