2022年2月、ロシア軍がウクライナへの侵攻を開始した。連日、街に砲弾が撃ち込まれ、難民となった人々の映像がテレビやインターネットを通じて入ってくる。一日も早い解決を強く願う。
そうした状況は、決して他人事ではない。2006年に発表されたスターン報告で、気候変動は、世界大戦なみの被害をもたらす、と指摘された。日本でも世界でも、台風、洪水、山火事、竜巻、熱波などで多数の死者を出す被害が出ており、今後、ますます悪化すると予想されている。気候変動は、しかるべき対策をすれば、世界大戦規模の被害を避けることができる、もはや選択の余地のない状況だが、まだまだ世界の動きは鈍い。
そうしたなかで注目されるバイオマスだが、これは使えば使うほどよいとは限らないことが明らかになっている。
2021年10月、世界各地で「ビッグ・バイオマスに関する国際行動デー:#BigBadBiomass」として、COP26に向けたアクションが行なわれた【*1】。「大規模(Big)な、悪い(Bad)、バイオマス」とは、FIT等の助成制度による、森林を伐採した木質ペレット等を輸入して使う、大規模なバイオマス発電である。これらは石炭火力以上のCO₂を排出し、生物多様性や地域社会に負の影響をもたらし、気候変動対策に逆行する(トピックス 2)。
日本でもこうした問題への関心が高まり、経済産業省の持続可能性ワーキンググループでバイオマス発電の温室効果ガス(GHG)基準が議論され、導入されることが決まったことは前進である(トピックス 1)。しかし、今回出された目標ではパリ協定の目標を満たすことはできず、森林劣化の扱いがまだ明確でなく、何より既認定案件に対しては努力義務に留まっていることを考えると、まだまだ課題は多い。
国内の間伐材チップを使う場合も、発電のみではGHG排出量が多く、熱電併給や熱利用にシフトすべきことが示唆された。熱利用を行う場合も、バイオマスが再エネでほぼ唯一、実用化された技術で高温を供給できることを考えれば、今後は産業用熱利用からの熱のカスケード利用へと振り向けていくことが重要ではないか(トピックス 3)。
パリ協定目標の達成を目指すなら、できるだけ早く石炭火力の廃止を図る必要がある。その際には、ドイツの脱石炭法のように、補償を伴った閉鎖も俎上に上げられるかもしれない【*2】。日本では、2021年に非効率石炭火力のフェードアウトについて検討が行われたが、非効率石炭火力にバイオマス混焼を行うことで延命を認めるという方針である。輸入木質ペレット等の石炭混焼が、むしろ気候変動対策に逆行することを考えれば、早急な方向転換が必要である【*3】。
そして石炭火力以上にCO₂を排出する大規模輸入木質バイオマス発電も移行リスクを抱え、座礁資産化するおそれがある【*4】。
ところで、2021年11月、バイオマス産業社会ネットワーク研究会第200回にて、記念のシンポジウムを開催した。これまでの多数の方々のご協力に深く感謝するとともに、今後も持続可能なバイオマス利用の促進に向け、活動を続けたい。
<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>