エネルギー白書2020によると、日本で2018年度に利用されたバイオマスエネルギーは石油換算1,789万klで2017年度と比較して2.8%の増加であり、一次エネルギー供給量50,949万klに占める割合は3.5%だった【*24】。
林野庁が行った平成30年木質バイオマスエネルギー利用動向調査【*25】によると、平成30年(2018年)にエネルギーとして利用された木質バイオマスの量は、木材チップが930万絶乾トン(前年比106.6%)、木質ペレットが73万トン(前年比195.2%)、薪が5万トン(前年比85.7%)、木粉(おが粉)が37万トン(前年比90.8%)で、木材チップのうち、間伐材・林地残材等に由来するものは274万絶乾トン(前年比104.2%)であった。また、木質バイオマスを利用する発電機の数は290基(前年から26基増)、ボイラーの数は2,064基(前年から6基増)だった。また輸入された燃料用チップは、2017年の134,169絶乾トンから329,234トンと2倍以上増加した。
バイオマス利用量は増加しているが、増加具合は落ち着いている状況にある。
図8:間伐材・林地残材等チップ利用量の推移
出典:木質バイオマスエネルギー利用動向調査等より作成
株式会社矢野経済研究所は2020年4月、バイオマス発電市場、バイオマス熱(蒸気)供給市場、バイオ燃料供給市場を合算した国内バイオマスエネルギー市場規模は、2018年度が4,359億円と推計、2019年度は4,968億円、2021年度は6,160億円の見込みとの調査結果を発表した【*26】。
日本木質バイオマスエネルギー協会は、2020年3月、木質バイオマス燃料の需給動向調査成果報告書、発電用木質バイオマス証明ガイドライン運用実態調査成果報告書、木質バイオマス熱等面的供給実態調査報告書を公表した【*27】。
環境省は、今年度も廃棄物処理施設を地域の「地域エネルギーセンター」として、防災・エネルギー拠点とするため、充電設備、熱交換器等の設置を支援する【*28】。
脱炭素化に関する政策提言や、RE100などの実践支援を行ってきた日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は、日本における再生可能エネルギー拡大に貢献する新たな導入スキームの実現・普及を目指し、「JCLPコーポレートPPA組成プロジェクト」を発足した。海外で進んでいる、電力を使用する企業自ら発電事業に出資することなどを通じて能動的に再エネ調達を行う「(事業参画型)コーポレートPPA」の取り組みを行う【*29】。
経済団体連合会は2020年6月、130以上の企業・団体の参加を得て「チャレンジ・ゼロ」を開始した【*30】。参加企業・団体は、脱炭素社会に向けたイノベーションに挑戦する「チャレンジ・ゼロ宣言」への賛同を表明し、それぞれが挑戦するネット・ゼロエミッション技術の開発や実装・普及、ファイナンスなどを実施する。
2020年4月、JR東日本と東京ガスは、品川開発プロジェクトにおけるエネルギー供給・エネルギーマネジメントを手掛ける新会社「えきまちエナジークリエイト」を設立した。食品廃棄物からの熱エネルギーを給湯用に、燃料電池の廃熱、地中熱、下水熱などの熱エネルギーを地域冷暖房にも使う【*31】。川崎キングスカイフロント東京REIホテルは、新電力アーバンエナジー株式会社の電力メニューを活用し、近隣の食品廃棄物を燃料とする発電所にホテルで出た食品廃棄物を提供し、その電力の使用を始めた【*32】。三菱地所は、JXTGエネルギーと契約し、同社が運営する「丸の内ビル」などでバイオマス発電による電力の供給を受ける【*33】。
気仙沼市、企業、地元基金などの出資による地域電力会社「気仙沼グリーンエナジー」は、2019年10月、市内のバイオマス発電などから電力を調達し、公共施設に再生可能エネルギーなどの電力の供給を開始した【*34】。
秋田県三種町の町営温泉施設に、2020年2月、もみ殻を燃料とするバイオマスボイラーが設置された【*35】。
群馬県中之条町は、民有林の間伐材を町役場や町営施設に設置したチップボイラー燃料として活用する取り組みを始める【*36】。
コマツは、2020年7月、石川県小松市の粟津工場で、地元産木材チップを燃料とするバイオマスボイラーを2台増設し、稼働させた。かが森林組合から購入するチップの年間使用量は5,700tから7,700tに増加する【*37】。
中央競馬の西日本地区における調教拠点である栗東トレーニング・センターでは、2019年11月、使用済みの馬房敷料を燃料とするバイオマス発電プラントの運用を開始した【*38】。蒸気によるスクリュー式発電システムとバイナリー発電機で、発電効率は約12%とのことである。
複数の木質バイオマス発電所を手掛けるタケエイは、2020年5月、タケエイ林業を設立した【*39】。森林の保全管理を行い、燃料材の上流から木質チップの供給までを一貫して可能とする仕組みを構築する。
2019年10月、糸満市や企業6社からなる「いとまんバイオエナジー」は、同市浄化センターの下水処理工程で発生するバイオガスによるコジェネレーションの商業運転を開始した。電力はFITで売電し、排熱は株式会社青い海の塩製造工程に活用する【*40】。
ヤンマーエネルギーシステムは、2020年2月、栃木県の思川浄化センター内などに設置した発電設備を順次稼働し、バイオガスを活用したFIT発電事業を本格的に開始した【*41】。エンジンから発生する排熱は、下水処理場の消化槽の加温に使う。こうしたスキームは、他社でも行っている。 2020年7月、NTT東日本とバイオマスリサーチはバイオマス発電事業会社ビオストックを設立した。家畜糞尿によるバイオガス発電を農家が月額制で利用できる事業を展開する【*42】。
テス・エンジニアリングなどは、竹チップ混焼バイオマス温水ボイラー「E-NEシリーズ」を販売開始した【*43】。また、極東開発工業は、木質チップ乾燥コンテナシステム「Kantainer」を2020年2月、発売した【*44】。
以上のように、エネルギーサービス会社による、顧客向けバイオマスエネルギー利用が進展し、もみ殻や竹など、従来使いづらかった資源の利用も行われるようになった。また、セルロースナノファイバーの利用が進み、工業原料として加工した改質リグニンに注目が集まった。
久慈バイオマスエネルギー株式会社は、岩手県北部の久慈市で、木質バイオマス熱供給施設の運営を行っている。
地域の低質材を林家や製材業者から購入、樹皮も利用している。樹皮は従来、搬送・乾燥が困難なことおよび燃焼炉内にクリンカ(固まった灰)が発生しやすく活用が困難とされていたが、それらの課題対策を行い利用にこぎつけた。樹皮は発熱量が木部と遜色なく、安価で事業性にも貢献している。
しいたけ栽培ハウスと木質バイオマス熱供給施設
(写真提供:久慈バイオマスエネルギー株式会社)
木質バイオマスを燃やして温水と蒸気をつくり、蒸気は菌床の殺菌に使い、温水は菌床しいたけ栽培ハウス60棟に供給している。しいたけ栽培には細かな温度管理が必要だが、ハウス空調制御・監視システムも開発し、事業性の確保に大きく役立った。蒸気ボイラー500kW、温水ボイラーが1,200kWで、ボイラーのプラントエンジニアリングは、東芝インフラシステムズが行った(表紙写真)。
排熱で木質チップを乾燥させ、市内の温水利用施設のボイラー向けに供給している。さらなる事業性の改善が課題だが、地域循環型の木質バイオマス熱供給事業の先進事例と言えよう。
バイオマスプラスチックとは、原料として再生可能な有機資源由来の物質を含み、科学的または生物学的に合致することにより得られる高分子材料(日本バイオプラスチック協会の定義)である。バイオマスプラスチックには、生分解性バイオマスプラスチックと非生分解性プラスチックがある。また、バイオ由来と化石燃料由来の原料を混合したプラスチックも商品化されている。
表:バイオマスプラスチックと生分解性の関係
バイオ由来 | バイオ由来×化石燃料由来 | 化石燃料由来 | |
---|---|---|---|
生分解 | ポリ乳酸 PHBH PHA 等 |
バイオベースポリブチレン ポリ乳酸ブレンドPBAT スターチブレンド・ポリエステル樹脂 等 |
ポリ酢酸ビニル PBAT 等 |
非生分解 | バイオPE バイオナイロン 等 |
バイオベースPET バイオベースナイロン バイオベースウレタン |
PE、PP、PET 塩ビ、ナイロン 等 |
資料より再構成【*1】
三井化学SKCポリウレタンでは、非可食である「ひま種子」から得られるひまし油を使ってバイオポリオールを製造、販売している。このバイオポリオールは化石燃料由来のイソシアネートと反応させることによりウレタンフォームを得ることができる。ひま種子生産世界一のインドに年産8,000トンのバイオポリオール工場を建設、自動車のシートクッション、家具用クッションなどが製造されている。またインドでは、持続的なヒマの収穫を可能にするため、適切な農業指導や農業従事者の健康増進と安全確保などに取り組む、Sustainable castor initiativeプロジェクトに参加している【*1】。
近年、世界的に海洋プラスチック対策の問題が浮上し、日本でも2020年7月からレジ袋が有料化するなど、バイオマスプラスチックの市場が拡大している。しかし、バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックはイコールではなく、化石燃料由来の生分解性プラスチックもある。
図:バイオマスプラスチックの生産量と市場規模の推移【*2】
(日本バイオマス製品推進協議会事務局推計資料をもとに農林水産省で作成)
海洋プラスチック対策は、どのようなプラスチック製品が海洋生物に悪影響を及ぼしているのか、その製品を生分解性のものに転換することによって影響が回避できるのかといった点を抑えながら、進める必要があろう。
また、バイオマスがすなわちカーボンニュートラルとは限らず、プラスチック用途においても、持続可能性への配慮が必要である。そうしたなかで、三井化学SKCポリウレタンの取り組みは先進的な取り組みと言えよう。