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はじめに  発電だけに使っている場合ではない

相当なすったもんだの末、今年度、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)におけるバイオマス発電の温室効果ガス(GHG )排出について検討されることが決まった。関係者の方々の尽力に、厚く感謝する次第である。だが、詳細な検討はこれからであり、課題は山積みである。

全木ペレットなど森林バイオマスのライフサイクルGHG排出量をどう見るかについては、国際的な議論が続いている。どのような森林をどのように伐るかでも異なってくると考えられるが、木材利用の際に出る端材や廃材を燃料とするのとは、意味あいが大きく違う。科学的な知見が蓄積されるまで、大量の森林バイオマスの利用は避けた方が無難であろう。ここ1,2年で次々5万kW、7.5万kW規模の大規模な輸入バイオマスを燃料とするバイオマス発電が稼働し始めるが、むしろ温暖化対策に逆行することが明らかとなった場合、大きな事業リスクが生ずるのではないかと懸念する。

自然エネルギー財団によるポジションペーパーで紹介されているが、IEAのWorld Energy Outlook2019のSustainable Development Scenario( SDS )では、2040年に世界全体で 27.1gCO2 -eq/MJ-Electricityが実現される必要があるとしている【*】。この値をバイオマス発電に当てはめると、利用効率の点から、熱利用もしくは熱電併給でなければ満たすことが難しくなる。バイオマスのGHG排出基準に関しては、こうしたことも念頭に置いて、検討する必要があるのではないか。

GHG排出基準づくりも重要だが、もっとシンプルで効果的な政策がある。カーボンプライシングである。日本でもすでに導入されている温暖化対策税を段階的に引き上げれば、低炭素エネルギーが化石燃料に比較して安価になり、省エネが進み、再生可能エネルギーにシフトしていく。税制中立にして、企業や家庭に税収を還元すれば、経済的負担も軽減できる。

一方、持続可能なバイオマスの資源量には限りがある。電力は、劇的にコストが下がりつつある太陽光や風力に重点を置き、高温が容易に得られるバイオマスは、産業用熱利用に振り向けていくのが妥当ではないか。ヨーロッパでは、熱利用の半分以上が暖房用途であることから地域熱供給が推進されているが、日本の熱需要の半分以上は産業用である。こうした点も踏まえ、日本でも持続可能な社会構築に向けた、熱ロードマップや熱戦略を考えていく必要があろう。

さらに長期的には、バイオマスはバイオマスプラスチックやコークス、あるいは液体輸送燃料としての需要もまかなうことになろう。脱化石燃料のなかで、バイオマスの果たす役割は大きいが、持続可能なバイオマスの利用可能量には限度がある。電力や低熱などは、他の再生可能エネルギーでまかない、バイオマスは、バイオマスでなければ代替が難しい用途に利用を誘導していくべきであろう。

さて、この一年を振り返ると、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資のうねりを大きく感じた。金融機関も、持続可能性の問題により積極的に取り組むようになった。以前は米国で利用されていない木材を木質ペレットに加工し、日本に運んで発電燃料とすることを問題視していなかった金融関係の研究者が、持続可能性の観点から問題がある、と発言するようになった。

コラム②で取り上げたが、舞鶴市のパーム油発電事業を推進していた日立造船へ融資を行っている金融機関に対し、環境団体がダイベストメント(投資撤退)を呼び掛ける文書を送った。企業にとって、持続可能性の問題がある事業を行っていることは、大きなリスクとなったのである。

ところで、1999年にバイオマス産業社会ネットワークが設立されて、20年がたった。持続可能なバイオマス利用の促進を目指して活動してきたが、一つの山を越えると、次の山が現れる、というのが続いてきたというのが実感である。それでも今年も、志を同じくする人々とともに、持続可能な社会の実現を目指して、活動を行っていく所存である。

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<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>

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