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トピックス 持続可能なバイオマス利用に向けて

1 FITバイオマス発電をめぐる制度の変更と課題

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1. FIT制度におけるバイオマス発電の現状と経緯

2012年に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が開始して以来、バイオマス発電の認定量・稼働量は急増した。同制度により2019年12月時点で、計411カ所、221万kWのバイオマス発電所が稼働し、同じく662カ所854万kWが認定されている【*1】。稼働容量の6割強、認定容量の9割弱が主に輸入バイオマスを燃料とする一般木材バイオマスの区分となっている(図1、表1)【*2】

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図1:再生可能エネルギー固定価格買取制度におけるバイオマス発電の稼働・認定状況

図1:再生可能エネルギー固定価格買取制度における
バイオマス発電の稼働・認定状況

出所:資源エネルギー庁資料よりNPO法人バイオマス産業社会ネットワーク作成

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表1:再生可能エネルギー電力固定価格買取制度(FIT)における
バイオマス発電稼働・認定状況

(新規・2019年12月末時点)

出所:資源エネルギー庁 Website【*2】

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2017年に一般木材バイオマス発電の買取価格引き下げ(その後、入札制へ移行)直前の駆け込み認定を受けた案件が、次々、建設・稼働されるようになった。それを受けて、燃料となるPKS(アブラヤシ核殻)や木質ペレットの輸入もそれぞれ2019年に245万トン、161万トン、合計400万トンと一年で1.5倍に増加した(図2)。

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図2:PKSおよびペレット輸入量の推移

図2:PKSおよびペレット輸入量の推移

出所:On-site Report No.406、407他よりNPO法人バイオマス産業社会ネットワーク作成

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2. 2019年度における制度の変更

(1)バイオマス持続可能性ワーキンググループの開催

一般木質バイオマス発電所の稼働が増加するにつれ、大量のバイオマス燃料の調達が必要となった。PKSの日本の港に入った時点でのCIF価格は10円/kg程度だが、木質ペレットは20円/kg近い。当然、安価なPKSに需要が集中するが、PKSはパーム油を搾る際に出る副産物であり、調達可能な量に限度がある。日本への輸入が可能なのは300万トン台ではないかと言われている。そこでバイオマス発電事業者から、FIT制度のバイオマス発電において、新規燃料(大豆油、ナタネ油、クルミやココナツの殻、ジャトロファなど)を認めてほしいとの要望が出された。

また、2018年度の議論で、パーム油は持続可能なパームオイルのための円卓会議(RSPO)認証のIP、SGが求められたが、他の認証制度の適用を求める声もあった。これらの持続可能性をどのように担保するかを議論するため、バイオマス持続可能性ワーキンググループ(WG)が開催されることとなった。

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(2)ワーキンググループでの議論

ワーキングループのメンバーは5名の専門家で、4月から10月まで計5回開催され、11月に中間整理がとりまとめられた【*3】

環境、社会・労働、ガバナンス、食料競合等の観点について、確認手段(対象、主体、時期)の視点も加え、専門的・技術的な検討が行われた。持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)認証をベースに、図3のような持続可能性評価基準が提示された。

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図3:バイオマス持続可能性ワーキンググループ中間整理(概要)

図3:バイオマス持続可能性ワーキンググループ中間整理(概要)

出典:第50回調達価格等算定委員会資料2

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またパーム油に関し、マレーシア持続可能なパーム油(MSPO)、インドネシア持続可能なパーム油(ISPO)といったRSPO以外の認証制度の適用について議論されたが、MSPO、ISPOについては持続可能性の評価基準に関し不十分な項目があるとして、適用を見送られた。パーム油以外のバイオマスも対象とする、持続可能なバイオマスに関する円卓会議(RSB)認証は、適用を認められた。

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(3)ワーキンググループでの議論

さらに、調達価格等算定委員会での議論を踏まえ、事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)2020年4月改定において、以下のように規定された【*4】。(注:ガイドライン本文に下線はない。)

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農作物の収穫に伴って生じるバイオマスの場合には(中略)、主産物、副産物のいずれについても、バイオマス燃料の持続可能性(合法性)を確保し、第三者認証(RSPO2013、RSPO2018又はRSB)により、持続可能性(合法性)が認証された書類の交付を受けること。また、燃料納入時に認証燃料であることを確認し、事業実施期間にわたりその書類を保存するとともに、経済産業大臣の求めに応じて、提出できるようにしておくこと。さらに、(ⅰ)使用しているバイオマス燃料の持続可能性(合法性)を担保している第三者認証スキームの名称、(ⅱ)発電所で使用した認証燃料の量及びその認証燃料固有の識別番号について、自社のホームページ等で情報公開すること。(中略)

主産物について、持続可能性(合法性)が認証された書類の交付(ただし、2018年12月19日までに運転開始している案件であって、2018年2月7日までに発電設備の発注と燃料安定調達契約書等の締結を済ませているものについては、持続可能性(合法性)の確保に関する事業者の自主的取組を行い、取組の内容及び燃料調達元の農園の情報を自社のホームページ等で情報開示することを条件として、2021年3月31日までその確認を猶予する。また、2018年12月19日までに運転開始していない案件については、持続可能性(合法性)の確保に関する事業者の自主的取組を行い、取組の内容及び燃料調達元の農園の情報を自社のホームページ等で情報開示するとともに、持続可能性(合法性)の確認ができるまでは運転開始しないことを条件として、2021年3月31日までその確認を猶予する。)(中略)

現時点でFITの新規認定の対象となる農産物の収穫に伴って生じるバイオマスは、主産物はパーム油、副産物はPKSおよびパームトランクに限る。

これ以外の燃料については、食料競合に関する専門的・技術的な検討を行った上で、その判断のための基準を策定し、当該基準に照らして、食料競合の懸念が認められる燃料については、そのおそれがないことが確認されるまでの間は、FITの対象としない。食料競合の懸念が認められない燃料については、ライフサイクルGHG排出量の論点について専門的・技術的な検討を継続した上で、ライフサイクルGHG排出量を含めた持続可能性基準を満たしたものは、FITの対象とする。

したがって、現時点でFITの新規認定の対象となる燃料以外の燃料を使用とする場合は、専門的・技術的な検討が必要となることから、あらかじめ経済産業省に相談すること。

なお、既に買取りの対象となっている燃料についても、ライフサイクルGHG排出量の論点について専門的・技術的な検討を行うこととされている点に留意が必要である。

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つまり、農産物の収穫に伴って生じる(パーム油、PKS、パームトランク以外の)新規燃料については、専門的・技術的な検討が必要ということになる。

また、PKSについてもRSPO認証等による確認が必要になり、関係者は対応を求められることとなった。

GHG排出削減について終盤まで議論が続いたが、結果として新規燃料、既存燃料のいずれも対象とすることとなり、2020年に詳細な検討が行われることとなった。

また、ごみ処理焼却施設については、コークスを利用するものも2021年以降もFIT制度の新規認定対象とし、2020年以前に認定を受けた案件が容量市場の適用を受ける場合もFITの対象から外さないこととした。

さらに、主産物・副産物を原料とするメタン発酵バイオガス発電は、一般木材等バイオマス発電の区分において取り扱うこととなった。

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バイオマス発電で使われるPKS

バイオマス発電で使われるPKS

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2. エネルギー供給強靭化法が成立

電気事業法やFIT法(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法)などの改正を盛り込んだ「エネルギー供給強靱化法」が2020年6月、成立した。再生可能エネルギーの導入拡大と国民負担の軽減を目指し、太陽光など一部電源を市場連動型の支援制度に移行させ、送配電事業者の収入に上限をかけ、コスト効率化を促す。自然災害に備えるため早急に制度的な手当てが必要なものを除き、2022年4月に施行される見込みである。

FIT法の改正では、これまでFIT制度で支えてきた再生可能エネルギー電源を、競争電源と地域活用電源に大別し、事業用太陽光と風力は競争電源として、FIP(フィード・イン・プレミアム)に移行させる。バイオマスのうち、1万kW未満のものは2022年度に地域活用電源となりうる。

地域一体型の地域活用要件としては、①~③のいずれかを満たすこととされる。

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3. 今後の方向性

FIT制度のバイオマス利用においては、将来的に経済的自立が可能な利用形態への誘導が重要ではないかと考えられる。FIT法の目的である、環境負荷の低減、我が国の国際競争力の強化・産業の振興、地域の活性化に資するバイオマス利用として、より強力に熱電併給や熱利用へのシフトを促すべきではないか【*6】

また、例えば農山漁村再生可能エネルギー法の枠組みを用いつつ小規模案件の未利用材の枠を撤廃すれば、より安価な残材利用の促進が期待される。バイオマスの産業用熱利用の視点も含め、バイオマス利用の総合的な観点からの再検討が求められよう。

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コラム① 2019-2020年に稼働した主なバイオマス発電

2019年後半から2020年前半にかけて稼働した、主なバイオマス発電は下表の通りである。輸入バイオマスを燃料とする7万5千kW規模の大型バイオマス発電所の稼働が始まった。一方、中規模の国産木質バイオマスを燃料とする発電所もいくつかある。横須賀バイオマス発電は、未利用材に加え、剪定枝や建設廃材を燃料としている。愛媛県の大王製紙三島工場では、パルプ製造工程で発生する黒液を燃料とする大規模なバイオマス発電が稼働した。

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表:2019年〜2020年に稼働した主な木質バイオマス発電

都道府県 市町村 事業主体 規模kW 規模【*】 稼働時期 FIT認定 備考
北海道 室蘭市 室蘭バイオマス発電 74,900 74,900 2020. 5 商業運転開始 一般木質 PKS 東燃ゼネラル石油、日揮
青森県 八戸市 MPM王子エコエネルギー 74,950 67,455 2019.11 竣工式 一般木質 輸入木材チップ、PKS、石炭 王子グリーンリソース、三菱製紙
岩手県 大船渡市 大船渡バイオマス発電所 75,000 8,250 2020. 1 営業運転開始 一般木質 PKSほか 太平洋セメント、イーレックス
栃木県 壬生町 エフオン壬生 18,000 2020. 1 商業運転開始 一般木質 国産チップ、廃材
神奈川県 横須賀市 横須賀バイオマス発電 6,800 2019.11 売電開始 一般木質 間伐材、剪定枝、建設廃材等 タケエイ
長野県 東御市 信州ウッドパワー 1,990 2020. 7 売電開始 未利用材 カラマツ、アカマツ、杉3万トン 清水建設
愛知県 半田市 半田バイオマス発電所 50,000 2019.10 営業運転開始 一般木質 木質リサイクルチップ15万t、PKS13万t シーエナジー、フルハシEPO
三重県 四日市市 四日市バイオマス発電所 49,000 2020. 6 営業運転開始 一般木質 木質ペレット15万トン、PKS7万トン 中部電力
滋賀県 栗東市 栗東トレーニング・センター 620 2019.11 運用開始 廃棄物 使用済み敷料が燃料。スクリュー式
京都府 舞鶴市 林ベニヤ産業 6,800 2020. 4 運転開始 一般木質 製材端材、未利用材
和歌山県 上富田町 DSグリーン発電和歌山合同会社 6,800 2020. 6 商業運転開始 未利用材 大和証券グループ大和エナジー・インフラ、グリーンサーマル発電和歌山に運営業務委託
岡山県 新見市 新見バイオマスエナジー 1,990 2020. 3 稼働 一般木質 NDS 間伐材等チップ3万t
広島県 竹原市 電源開発 600,000 60,000? 2020. 6 運転開始 一般木質 竹原火力発電所新1号機 10%バイオマス混焼
広島県 広島市 西風新都バイオマス発電所 7,100 2019.10 営業運転開始 未利用材 未利用材、一般材、建設廃材 太平電業
愛媛県 四国中央市 大王製紙三島工場バイオマス発電 62,920 2020. 7 営業運転開始 廃棄物 黒液
福岡県 豊前市 豊前ニューエナジー 74,950 67,455 2020. 1 営業運転開始 一般木質 PKS、木質ペレット 約30万t/年 九電みらいパワー、イーレックス、九電工
福岡県 筑前町 ふくおか木質バイオマス発電所 5,750 2020. 5 営業運転開始 未利用材 間伐材など未利用木材、製材端材など 九電みらいエナジー
  • *  バイオマス分の発電規模
  • ** 出所:経済産業省Webサイト、プレスリリース、報道記事等よりNPO法人バイオマス産業社会ネットワーク作成
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図は、日本木質バイオマスエネルギー協会の調査による、燃料調達量の内訳である(発電容量把握率47%)。 これまでのところ一般木質バイオマス発電の燃料では、国産針葉樹チップと輸入チップで半分以上となっている。今後は、PKSや輸入木質ペレットが増加すると考えられる。

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図:日本の発電種類ごとの温室効果ガス排出

図:木質バイオマス発電所の燃料調達量内訳【*】

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コラム② パーム油発電をめぐる状況

前述した通り、2019年度、経済産業省はバイオマス持続可能性ワーキンググループ(WG)を開催し、FITのパーム油発電について、詳細な持続可能性に関わる規定を定めた。パーム油発電事業者は、2021年4月より、RSPO認証またはRSB認証の加工・流通において非認証油と区分けされたパーム油の調達を求められる。

また、「事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)」には、「当該バイオマスが食用に供されないことの証明ができるよう考慮すること」とあり、食用となるオレイン成分を含むパーム原油(CPO)は、FIT制度の支援適用外になると考えられる。

さらに、2020年度のWGで、既存燃料を含むバイオマス燃料の温室効果ガス(GHG)排出について議論されることとなり、これまでの研究結果からパーム油のGHG排出量が化石燃料以上であることを考えると、パーム油が持続可能なバイオマス燃料として認められる可能性は低く、パーム油発電をめぐる事業環境はさらに厳しくなるものと考えられる。

2017年から1,760kWのパーム油発電が稼働している京都府福知山市では、発電設備が住宅地に密接しており(写真)、付近の住民が騒音や悪臭による深刻な健康被害を被っている。改善に向けて、住民は粘り強い運動を続けている。

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京都府福知山市のパーム油発電設備

京都府福知山市のパーム油発電設備

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2020年6月、京都府舞鶴市で計画されていた65,590kWのパーム油発電事業が白紙撤回された。舞鶴市のパーム油発電事業建設予定地周辺の住民は、隣接する福知山市の事例で住民が受けた被害を知り、「舞鶴西地区環境を考える会」を組織した。舞鶴市のパーム油発電建設予定地も住宅地に近接しており(目次写真)、住民の危機感が募った。

同会は、建設予定地周辺の喜多地区の全戸193戸を対象にアンケート調査を行い、188戸から回答、建設反対がほぼ全回答を占めた。

同パーム油発電事業の投資会社、カナダのAMPエナジー社は、11,000人の反対署名などを受け、地元住民の強い反対のあるプロジェクトの困難さを指摘、同社のエゼキエル会長は「今後、当社及び当社グループはパーム油を燃料とする発電事業の検討は行なわない」と述べ、2020年4月にプロジェクトから撤退した。

また、「舞鶴西地区環境を考える会」を支援する環境団体は、パーム油発電事業を推進する日立造船に融資する金融機関に対し、同社へのダイベストメント(投資撤退)を呼び掛ける文書を送付した*。ESG投資が拡大するなか、大きなインパクトがあったと推察される。2020年6月の同社の株主総会においてもパーム油発電事業についての質問が出、経営者側は今後パーム油発電事業を行わない旨を明言した。

宮城県角田市に完成した4.1万kWのH.I.S.SUPER電力のパーム油発電は、稼働が遅れている模様である。

パーム油発電に関しては、マスメディアの報道も多数行われ、社会的関心が高まった。

そもそもパーム油発電は、FIT制度において対象とすべきではなかったと考えられる。FIT制度が、FIT法の目的に沿った運用がなされるよう、今後のさらなる改善が求められよう。

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